第23話 エピローグ

「よし。これで完全復活だな」

 無許可製造宇宙船『スネーク2号』内部のラボにて。三か月の月日をかけて『ハッピートリガー』『マッドドリル』『リビドーキャノン』の修復が完了した。

 はっきり申し上げて凄まじいほどの借金大魔王になりはててしまったが、気にしてはならない。金なんてなくても意外とどうにかなるものだ。

「ご主人様―!」

 ちょうどそのとき、もう一人復活を遂げたメイドロボが部屋に入ってきた。

 ダイヤモンド・カイとの闘いの直後は後遺症のためか調子が悪そうなときもあったが、カギをかけているラボの扉をこじ開けることができるようになっちゃったくらいだから、これはもう必要以上に完全復活を遂げたと見て間違いないであろう。

 彼女はなにやら手にもった紙をひらひらさせている。

「ねー見てよコレー。記念に印刷して見たんだけど」

「おお。俺も出世したもんだな。以前の十倍か」

 彼女がもってきてくれたのは俺の指名手配書だった。

「ダイヤモンド・カイとの闘いが評価されたかな?」

「あとコレも」

「おお。アレックスとブイにも」

「このアレックスの写真けっこうよくとれてない?」

「ああ。かわいいよ」

「やったー☆」

 そういって俺に抱きついてきた。気のせいかあのダイヤモンド・カイとの闘い以降、こういうスキンシップが増えたような気がする。

「それに比べて。俺ってこんなにブサイクだったっけか?」

「ご主人様の顔大好きだけど、客観的にみたらブッサイク☆だよ」

「かたじけねえなそいつは」

「そうだいざとなったらご主人様を銀河警察につきだしてお金稼ごうっと」

「やりかねなくて怖いわ。あっでもアレックスが賞金もらって、そのあとで脱獄して稼ぐっていうのはありだな」

 そんなことを話しているとブイがやってきた。

 俺に抱きついているアレックスを見てぷくっと頬を膨らませる。

「あんまりいちゃいちゃしないで!」

 そういってアレックスを無理やり引き剥がす。

 ブイのほうでも最近アレックスに対してぜんぜん遠慮がなくなってきた。

 これはよいことだと思う。

「なんでだめなのー☆ 理由をちゃんと一から十まで説明して欲しいなー☆」

「そ、それは……」

「羨ましいんだったらブイちゃんもご主人様に日常的に抱きつき散らかしていいよ☆」

「な、なに言ってるの!? 私はただ……」

「――! おいそんなことより!」

 俺はブイが持っている小さな冊子のようなものを指さした。

「それはもしかして!」

「うん。描いてみたの。ストーリーマンガ二十ページ」

「読ませてくれ!」

「あーアレックスもー」

「ダメだ! 俺が先だ!」

 俺は汚さないように気を付けながらゆっくりとページをめくった。

「――――――――――――!」


 読み終わった原稿をブイに返した。

 俺はなにも言葉が出てこずにしばし沈黙してしまった。

「あの……やっぱりダメだったかな!」

「バカ野郎! そんなわけあるか!」

 思わず怒鳴ってしまう。

 あまりの権幕にブイはなにも悪くないのに謝った。

 そしてしばらくの後、ダムが決壊したかのごとく俺の口から言葉が溢れた。

「これはすごいぞ……やっぱりおまえは天才だ! このマンガに出てくる女の子たち二人は間違いなくお互いに恋をしている。だがそれをはっきりと示す言葉や行動はひとつもない。それでいて間違いなくそこにある恋心だけは伝わってくる! この心地よさをなんと例えればいいのだろう。この心にしみわたるようなうるおいは間違いなく人類に必要な新しい栄養成分だ!」

 またもオタク特有の凄まじい早口でまくしたててしまった。

 顔を上げてブイを見ると――

「なっ!? おい! なにも泣くことはないだろうが!」

 ブイはそれを聞いて目をこすりながら笑った。

「そうだよね。おかしいよね。でも勝手に涙が出てきちゃったの。だってずっと誰にも読んでもらえなかったから」

 こすってもこすってもブイの目からはとめどなく涙があふれる。

 俺は意を決して涙を拭く彼女の肩を優しく抱いた。

 アレックスはニカっと笑って、ブイには見えないように親指を立てた。

「――よし! そしたらアレックス! こいつを印刷してくれ! とりあえず五〇〇〇部! 超特急でな!」

「はいよー☆ 例の『オタク種つけ作戦』のスタートだね!」

「素晴らしい作戦なんだけど名前はもうちょっとなんとかならなかったのかなあ?」


 ――それから三日後。

 目的地である第一銀河の『群惑星トライガイア』の大気圏に到着した。

 われわれ三人はコクピットの中にいた。

 宇宙船のコズミックビュー用の窓からは赤、黄色、緑の三つの惑星が見えた。

「キレイだね」とブイが目を輝かせる。

「全銀河でももっとも栄えているところのひとつだからな」

 本当はキミのほうがキレイだよなどと言いたかったのだが、ちょっと今の俺にはまだ難しかった。

「こっちの準備もOKだよー☆」

 アレックスは印刷したマンガ五千冊をガラガラと台車に乗せて運んできた。

「よし! ではさっそく始めよう!」

 俺はこのときのために搭載した『オタク種つけ作戦専用・紙類長距離発射用ミサイルポッド』にブイのマンガをセットする。

「よしじゃあいくぞ! ブイ! ボタンはおまえが押すか!?」

「うん!」

 ブイがボタンカバーをぶっ壊し、発射ボタンを押した。

 すると。スネーク2号の舌がグニューっと伸び、そこから凄まじい勢いでマンガが発射され始めた。

「よし成功だ!」

「す、すごい勢い」

「キレイだなー」

 俺たちの目的は種をまくことだ。このマンガたちを拾って読んだ誰かの心にオタクの芽が生まれる。そんなことを願って。

「よーし! もうすぐ全弾発射終了だ!」

「あっ――!」

 アレックスが手をポンと叩いた。

「どうした?」

「全部打っちゃった。原本も」

 ええええええっ! という俺とブイの声が重なる。

 発射をキャンセルするボタンを押したが遅かった。

「アレックスウウウウウ!」

「ごめんなさーい音声が認識できませーん☆」

「さ、サルペン! どうするの!?」

「どうするって! 拾いにいくしかねえだろ! 急げーーー!」

 スネーク二号は宇宙空間を切り裂くように急発進した。

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キミは宇宙で最後の薄い本を描く しゃけ @syake663300

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