学園一美少女の2人は、一匹狼の俺のことが好きすぎる

夕霧蒼

1

『私、楓の事がずっと好きだったの。付き合ってください』


 俺の名前は月詠楓つくよみかえで。友達がいない一匹狼だ。

 1週間前に幼馴染の横川沙月よこかわさつきに告られたのだが保留にしていた。


 理由としては簡単だ。一匹狼として孤立している俺が学園一の美少女と謳われる沙月と付き合うことで、周りの評判が下がると思い少し時間を貰っていたのだが———


『私ね…転校してきて月詠くんの事を初めて見かけた時から、ずっと気になってたの。だから、私と付き合ってほしい…』


 孤立している俺の所に、もう1人の学園一の美少女として有名になっている有坂朱莉ありさかあかりが来ていた。


「待ってくれ。俺なんか友達のいないただの影の薄い一匹狼だぞ」


「知ってるよ。でもね、影で努力しながら学校生活を楽しんでる月詠くんの事を目で追いかけてしまうの」


「努力なんてしてないし、影薄くて周りから相手されてないだけだよ」


「そんな事はない。先生のお手伝いとか他の人達が遅れて来てるのに先に準備を終わらせたりしてるよね?」


 確かに先生のお手伝いや移動授業の時に早めに来て授業で使う道具を用意してた。

 それを見てる人がいたとは…


「私じゃ、ダメかな?」


「ダメではないけど…」


 実際、断る理由がないのは確かだ。彼女はミルクティーベージュの髪色に服の上からでもわかるふくよかな胸にスラリとしたスタイル。俺の好みとしては、どストライクであったが幼馴染の件があるために…


「実は幼馴染の沙月からも告白されていてそれを保留にしてる所なんだ」


「だから、嬉しいけど告白の返事はできない」


「あー、私と一緒に二大美少女の1人と言われている沙月さんですか」


「沙月さんも確かに可愛いですが、彼女は私より胸もないし身長も低いおまけに髪色なんて面白みがない黒髪」


「あ…有坂さん…急にどうしたの?」


 沙月の話を出した途端に、有坂さんの口調が急に力強くなった気がする。


「あら、ごめんなさい。沙月さんは私と同じ地位にいるからちょっと気になっていましたの」


「そしたら、私の好きな人まで同じってなったら負けず嫌いが発揮してしまいました」


「あっ…いや、大丈夫だけど。だから、有坂さんの告白には答えられない」


「そうですか。とりあえず、沙月さんと話して来ますわ」


 うん?沙月と話す?なにを?告白の件をか?

 それってかなりやばくないか…?


「あの…沙月と話をするって何をですか?」


「話といったら告白の件に決まってるでしょ!」


 ですよねー。告白は受けたけど返事はしてないからまだ大丈夫な方だけど、沙月にバレたら何されるか…


「有坂さん、それを伝えるのはやめましょ?」


「ごめんなさい。いくら月詠くんでもこの件に関しては譲れないわ」


 そう言って俺のことを振り払い、沙月の元へと走って行った。


***


 俺が有坂さんに追いついた時にはもう沙月とのバトルが始まっていた。


「沙月さん、あなたに聞きたいことがあるの」


「なんですか?学園一の美少女有坂さん」


「あら、沙月さんだって学園一の美少女でしょ?」


「有坂さんにそう言ってもらい光栄です」


「それで話とはなんでしょうか?」


 周りの人たちは驚いたに違いない。この2人は滅多にあいまみえないから学園の美少女同士、何を話しているのかと。


「月詠くんについてよ」


 周りの反応がさっきよりも大きくなっていた。それもそのはずだ、有坂さんの口から一匹狼の俺の名前が出てくるなんて万が一にも考えられないからだ。


「楓がどうかしましたか?」


「沙月さんは月詠くんのことが好きで告白したらしいわね」


「な、なぜそれを…」


「月詠くんから聞いたからね。それと保留にしたことも」


「あの口軽男め〜!!」


 今出て行くのやだな…沙月凄い怒ってるし…


「それで沙月さんには月詠くんの事を諦めてほしいの」


「私が諦める事で有坂さんにはどーゆうメリットがあるのですか?」


「そうね、メリットと言えば私が月詠くんと付き合えることかしら」


 その言葉に野次馬の人達が「有坂さんが一匹狼野郎と付き合うだって!?」と騒ぎ出した。


 一方、楓の方はその言葉を聞いた途端———


「貴方なんかに、楓は渡さない!!」


 と叫んで有坂さんを威嚇していた。


「なら、月詠くんに聞きましょう」


「そこにいるのでしょ、月詠くん?こっちに来て」


 有坂さんにバレてたのか…周りも一斉にこっちを見てきたし、行くしかないか。


「沙月・有坂さん、一旦落ち着こ?」


「「落ち着ける訳がないでしょ!!」」


 沙月と有坂さんが同時に言ってきた。


「楓!どーゆうこと?私の告白を保留にしておいて、有坂さんの告白は受けたの?」


「受けてない!断った!!ね、有坂さん?」


「えぇ、確かに断られたわ。沙月さんの事があるからと」


「でも思ったの、沙月さんの告白がなければ私にもチャンスがあると。だから諦めて?」


「私は絶対に諦めない!!楓も何か言ってよ!!」


「俺が言える事はただ一つ。どちらとも付き合えない」


 そう答えると周りから「信じられない」「サイテー」「頭おかしいんじゃないの?」などの言葉が聞こえてきた。


「わかったわ。じゃあ、こうしましょう」


「5日間お試しなんてどうかしら?」


「「お試し?」」


「条件付きだけど1日ごとに私と沙月さんが月詠くんと2人きりでお出かけして、お試し期間の最終日になる金曜日にどっちか選んでもらうの。どうかしら?」


「私は別にいいけど。有坂さんには負ける気しないから!!」


「沙月さんならそう言ってくれると思ってたわ」


 あれ?俺の意見無しにどんどん話進んでるんだけど、これで俺に話を振られたら断れる雰囲気じゃないですよねー?


「月詠くんもそれでいいよね?」


 うん。やっぱり断る雰囲気にもならないし、もはや強制ですねこれは。


「わかりました。それでいいですけど、どっちも選ばないって選択肢もありでいいですか?」


「もう、仕方がないわね。それでもいいけど、その後もアプローチはするから覚悟しといてね」


「有坂さんには負けない。もし選ばれなくてもアプローチして奪い返してやる!!」


「それじゃあ、条件を言うわね」


 有坂さんは条件について話し始めた。


「1.自分の担当の日以外は月詠くんに関わるのはメールも含めて禁止」


「2.他の日に何があったのかについて聞くのも禁止」


「3.月詠くんはこの期間の間は少しでもいいから反応して欲しい」


「4.沙月と有坂は終わった事をお互いにメールで教え合う」


 以上が出された条件なんだけど、「少しでもいいから反応して欲しい?」とはなんだ?


「有坂さん、反応欲しいってどーゆう事ですか?」


「我慢されて無反応だったらつまらないでしょ?」


 我慢して無反応とかはないでしょ…だって、美少女2人からのアプローチだぞ。そんなのこの学園の男子全員が望んでる事に違いない。


「わかりました」


「よろしい。他の皆さんも今日の事は忘れるように」


 俺たちは踵を返して長い1日が終わったのだが、俺にとっては来週から長い1週間が始まる事に気持ちが落ち込んででいた。


———————————————————————

—月曜日—


 今日から1週間、お試し期間が始まる。

 月曜・水曜と火曜・木曜の組み合わせでどちらが担当するかじゃんけんで決めていた。そして、初日を勝ち取ったのは有坂さんだった。


「嬉しいですわ!お試し期間の初日から月詠くんな会えるなんて!!」


「ほんと嬉しそうですね…俺は体が重いですよ」


「月詠くん、条件忘れたのですか?」


「少しでも反応するですよね」


「そうです!さっきの態度は酷過ぎましたわよ」


「ごめん。有坂さん、俺も今日は楽しむよ」


「その調子です!」


 有坂さんにここまで言われたら俺も気分を上げて楽しむしかないな!よし、嫌なことは全て忘れよう。


「それで…今日なんですが、ゲームセンターって所に行ってみたいのです」


「ゲームセンター?有坂さんがそんな事言うなんて珍しいね」


「実は一度も行った事ないのです」


 お嬢様説が出てたけどほんとにお嬢様だったのか?聞いたら悪いかな…でも気になる——


「有坂さんってもしかしてお嬢様なの…?」


「あら?そんなに怖がらなくてもいいわよ。そうね、お嬢様って言ったらお嬢様かしら」


「どーゆうこと?」


「確かに家はお金持ちだけど立派な御屋敷には住んでないわ。でも、お嬢様みたいに過保護に育てられたから寄り道はあまりできなかったしゲームセンターなんて禁止だったの」


「えっ?ゲームセンター禁止なら今日もダメなのでは」


「実は親にこの事を伝えたら許可が出たのでいけるのです!」


「えっ…親に伝えってお試し期間のこ…と?」


「えぇ、親は泣きながら喜んでくれたし頑張りなさいと応援されました」


「そこは怒られる所じゃないのか?」


「私の両親は変わってますので」


 いやいや、変わってますのでウフフじゃありませんよ!!!

 有坂さんも変わってると思います、遺伝ですかね。


「わかった。じゃあ、ゲームセンター行こ!」


 俺と有坂さんはゲームセンターに向かった。

 着いたら有坂さんはクレーンゲームに目を輝かせていた。


「この機械はなんですの?」


「これはクレーンゲームと言ってお金を入れたらここのボタンを押しながら動かして景品を取るんだけどなかなか難しいんだよ」


「なるほど…やってみますね」


 そう言うと、有坂さんは慣れない手つきながらも的確に動かしていき一発で景品を取った。


「月詠くん!取れました!」


「天才ですか?えっ、なんで簡単に取ってるの?」


「簡単でしたわよ?」


「俺がやるとお金をどんどん吸い取られるのに」


「これは月詠くんにあげますね」


 有坂さんが取った景品をくれたのは嬉しいんだけどこれ普通男が女にやることだよね。


「月詠くん、プリクラと言うものがあります!」


「プリクラは写真撮る機械だよ」


「撮りましょう!」


「そうだな」


 俺はプリクラに入るなり有坂さんと一緒に設定をして4枚の写真を撮った。


「はい!こちらは月詠くんの分ですね」


「ありがとう」


「私も思い出ができました!まだ時間ありますが今日はここまでにしましょう。水曜日はクレープに行きましょう!」


「そうだな、クレープ楽しみにしてるよ」


「あと、最後にできれば…朱莉と呼んでください」


 不意打ちの名前で呼んでくださいはやめろ!!

 一瞬、ドキドキしただろ。


「あ、あぁ…朱莉」


「ありがとうございます月詠くん!」


「明日は会えないので水曜日もよろしくお願いします!!」


 有坂さんはそう言うとスタスタと家に帰って行った。


 初日でこれだけの体力を使うのかよ…残り4日かなりきついぞ…


—火曜日—


「かえでー!!!お待たせ!」


「いや、俺も今来たところだから」


「どこ行こうか?」


「そうだねー、映画でも行こうっか!」


「そんなのでいいの?」


「いいの!私は楓と映画を見たいから」


「それでいいなら俺もいいけど」


「よし!映画へ出発進行!」


 相変わらず学校と俺の前とだと全然雰囲気違うな。

 学校では学園一だか俺の前だと小学生かって言うくらい子供ぽくなる。


「楓、いま私のこと子供って思ったでしょ?」


「超能力者ですか…?」


「楓の事はなんでもお見通しなのだ」


 沙月には敵わないな。

 そして、俺たちは映画館へと着いた。


「何の映画みるんだ?」


「この新作アニメのやつ!」


「おぉーちょっと気になってたやつだ」


「楓もなの!?それじゃあ、早く見よ!」


「だな!」


 意見が一致した俺たちは、早速チケットを買い鑑賞した。


「あー、面白かった!まさかあそこであんな展開になるとは」


「んね!予想外すぎたよ」


「これはもう一回TVアニメの方を見直さないと」


「じゃあさ、木曜日は鑑賞会にしよ!」


「まあ、沙月がその日もそれでいいなら俺もいいけど」


「それじゃあ決まりだね!」


「楓、明日は条件のせいで会えないけど木曜日楽しみにしてるね」


 有坂さんもだけど沙月も帰る時はほんと早いなと思った。


—水曜日—


「ウフフ!やっと水曜日になりましたわ」


「有坂さん、機嫌が良いね!」


「だって、クレープですよ!クレープ!」


 そんなにクレープ食べるの楽しみだったのか。


「では、行きましょうか」


「そうだな」


 着いたのは有名クレープ屋さん。


「ここは有名なクレープ屋さんで結構美味しいよ」


「そうなのですね!」


 おぉ、目をキラキラ輝かせてメニューを選んでいる。


「決めました!このチョコバナナクレープにします」


「いいね!俺もそれ好きなんだよ」


「まぁ!同じ物を好きなんて運命ですわね」


「それは飛躍しすぎ」


 と、冗談なのか本気なのかわからないけど注文をして受け取った有坂さんはクレープを美味しそうに食べていた。

 やっぱりここのチョコバナナクレープは美味しいなーまた来よ。


「月詠くんのおかげで楽しい2日間になりました!」


「楽しめて貰えてよかったよ」


「金曜日、私の名前呼んでもらえるの待ってますから」


 それは今は何も言えない。無言で俺は有坂さんを見送った。


—木曜日—


「楓の家に来るの久しぶりだな〜」


「ほんと久しぶりに来たな。色々と忙しかったしな」


「だね〜、それより早くアニメ見よ!」


「そうだな、準備するから待ってて」


 俺はアニメのDVDを用意してテレビをつけて準備を終えた。


「お菓子の準備できました!」


「いつの間にお菓子を…まあいいか」


「そうそう、細かい事は気にしない気にしない」


「それではアニメスタート!」


 沙月はノリノリにアニメを見て、俺は映画で見た事を思い出しながら振り返りをしていた。


 アニメを見ていたから時間があっという間に経っていて帰宅時間になっていた。


「楽しかったー!このアニメ面白いね」


「俺のオススメだから是非家でもう一回見てほしい」


「楓がそーいうなら見てあげても良いかなー!」


「それじゃあ!また明日ね!」


 明日はいよいよ決断の日。

 もう既に、色々と考え過ぎて疲れていた…


—金曜日—


「さぁ!運命の時が来ました!!」


「月詠くん、選んでもらいましょう」


「楓、私しかいないよね?」


「月詠くん、またあの楽しい時間を過ごしましょう」


「俺は…」


「月詠くん!!」「楓!!」


「「どっちを選んでくれるんですか」」


 結局、学園一の美少女と過ごした事で2人を振る事なんて俺にできるわけがない。


 どちらかなんて選べないよ!!!!!

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