第12話 リアム捜索班結成⁈

 メルの不可視化魔法インビジリティの恩恵度合いが良く分かった話ではあった。それならばと三人一緒に不可視化魔法インビジリティを掛けて貰ってメルの魔法限界を確認したい事情もあったが、レクシシュの言う様にこの部屋にはその三人しか居ない。依って効果の確認者が居ない今は不可視化インビジリティの意味も無いので、メルにはヴァレリアにだけ魔法を掛けさせ、不可視化インビジリティの効果確認をレクシシュにお願いする事にした。ヴァレリアとしても魔法の経験と言う事で中々貴重な体験をした模様である。しかもレクシシュ達はさっきまで全裸状態での不可視化インビジリティで有ったが、ヴァレリアの場合は着衣状態であった。それでも不可視化インビジリティが可能である事も確認出来き、今後の使い勝手に大いに役だったようではある。

「やっぱり、便利な魔法ね。あたいも覚えたいな……何となく……あれだよね」

 そんな感想をいだきながら、ヴァレリアはメルに掛けられていた時の魔法のことわり魔力マナ流れと言うか、そんな感覚をしみじみと思い浮かべていた。

 それはさて置き、レクシシュ達の情報で他に有益な情報が無いのかがまだ良く分からないヴァレリアではあった。無論、気になっているリアム絡みの話しの事である。

「ところでふたりとも、いつからここに居たのかしら……不可視化インビジリティで?」

 その質問に答えたのはメルであった。

 ――――ご主人様が家に入られた時、扉が開いている間に、後ろについて一緒にそっと這入りました、ごめんなさい。無論、その時点でどなた様かが居るとも居ないともその時は私には分かりませんでしたが。

「そうなんし、わちきはてっきりリアムが居ると思ってたなん。匂いからしてそう考えていたでありんす」

「じゃあ、二人ともお兄様リアムの事をこの部屋で観てた訳では無いのね」

 ふたりの話にがっくりと肩を落とすヴァレリアであったが、ふと気付いた事があったようである。

「じゃ~ぁさあ、あたいがここに来るまで、どこに居たの、あなた達は?」

 その質問にはレクシシュが口を開いた。

「あちきらは丁度、この家の先の森に居たでありんす。なんせあの森は魔物の匂いが濃いでござりんすか。あちきの舎弟の大魔狼犬ガルムをそこに置いてきたでありんす、魔物は魔物の森に隠すのが一番でござりんすから」

 いまいち内容が飲み込めないでいたヴァレリアではあったが、話しの流れで素直に頷くことにしたようである。

 ――――まあ、魔物は魔物の森にって言うのは分かるけれど、レクシシュにはまだお仲間が居るのね。大魔狼犬ガルムってどんな魔物なのかしら?

 薬草については人一倍、詳しいヴァレリアであったが、魔物の事となるとお兄様リアム任せの日頃の知識不足が図らずも露呈したとこと言えよう。それはこの際置いておいてヴァレリアは話しを続ける。

「そうなのね、レクシシュさんもお兄様リアムは見ていないかったと言う事なのね」

「そうでござりんす……でもあれ丁度、森に向かうところでこちらに歩いてきていた人間達を追い越してきたでありんすな。確か三人連れだったと記憶しておりんす。メルも見てたざんすかぇ?」

 ――――レクシシュ様、わらわは残念ながら見ておりませんでした。大魔狼犬ガルム様の御御足おみあしがあまりに早すぎて、レクシシュ様に抱かれたまま俯いておりましたゆえに。

 と、メルが申し訳なさそうに念話でふたりに告げてくる。

「そうなんしか、それは済まん事したなんしなぁ」

 ――――えっ! こっちに向かってきていた人がいたって言う事。それって誰なのかしら?

 レクシシュの話題で思わぬ事柄が出てきたようである。ヴァレリアは思わず眉根を寄せる様にして考え込み始めると……。

「ねえ、その人達のことをもっと詳しく思い出せる? レクシシュさん」

 そして喰い付くようにヴァレリアはレクシシュに詰めより始めた

「そう言われんしてもなぁ、あちきもチラッと見ただけざんすから――詳しくは……あっ、そう言われてみればなんし、二人は騎士風の男だったでありんすぇ、もうひとりは頭巾フードを深々と被っていたなんし、それ故に良く見えなんした」

 ヴァレリアの突然の勢いに思わず引き攣った表情を顔に貼り付け、慄くようにその身を引きながらも小首を傾げては思い出すようにしてレクシシュは答えていた。

「騎士風の男――しかもふたりも?」

 ヴァレリアはレクシシュの言葉を繰り返すように呟く。

「ヴァレリアさんは、そやつ等の事が気になるざんすか?」

 レクシシュの問い掛けにヴァレリアは自分の疑問をそのまま投げかけた。

「だって、こんな辺鄙な村に来る騎士なんて今まで見た事が無いし、しかも村はずれのあたい達の家の方に来る理由なんて――早々あると思えないわ。その人達とリアムお兄様の居なく無った時が一緒なんて、偶然とは思えないわ⁉」

 声を絞り出すような呻き声とも取れる声音でヴァレリアがさらに話しを加えてくる。

「家の前の道筋に騎士が履く半長靴ブーツの足跡の様な物も残っていたし、もしかしたらって思うわよ。しかもさっきレクシシュさんも食べたでしょう、あの料理を。お兄様があれを作るのはあたいの機嫌を取りたい時と決まっていたわ。それを作ったばかりで居なくなる理由なんて普通じゃ無いわ」

「そうなんしか。じゃあ、分かったでありんす」

「えっ! 何か方法があるの?」

「その者達とすれ違った場所まで戻って匂いを辿るでありんす」

「匂いを辿るって? 出来るの?」

「あちきらを誰だと思っているざんすか。妖精兎メル妖精猫レクシシュでありんす。獣人妖精族の嗅覚なら容易い事なんし」

 レクシシュの強い言葉に思わずヴァレリアはレクシシュの瞳を見詰めて己の希望を見いだし始めた。そして、レクシシュの手を握りながらこうべを垂れて誠心誠意お願いし始めた。

「レクシシュさん、協力してくれますか。お兄様を探す為に」

「ようござんす。わちきも主さまの兄者リアムに会いたいんすから」

 ――――ご主人様、わらわも微力ながらご協力致します。

 ヴァレリアの願いにふたりが揃って快く聞き入れをしてくれた。出会ったばかりの三人が一致団結してリアム捜索班結成と相成ったようである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖魔兄妹つとに物語るなり 松本裕弐 @matsu2041

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ