第2話 パント村の兄妹
なるほど彼等は
ヴァレリアは
そしてリアムの方はと言えば、髪の色が若干ヴァレリアより銀色が濃いと言う程度で、ほぼ似通っており、それ以外の目鼻立ちも妹と同様、精悍であった。まさに美形、そのまま女装してみればヴァレリアの姉と言っても確かに通るかも知れないくらい、男としては綺麗な顔立ちと言えよう。ただふたりの眼の色だけは特徴が異なっており、ヴァレリアは
彼等はこの近くのパントと呼ばれる村で、ふたりだけで慎ましく暮らしているとの事。そして
パント村はベッレルモ公国に於いて寂れた辺境地域の村のひとつであった。当世この世界でも、ご多分に漏れず若者は華やかな街に憧れ、其れなりに収入が見込める仕事を求め、村を飛び出しては聖都とかその周辺の賑やかな町へと移っていくのが常であった。その為、村に残っているのは年寄りか、はたまた華やかな街での生活に疲れた人々、はては不幸にも夫を失い街に身寄りが無くなった妻、あるいは没落して貴族の旦那様に捨てられた第二・第三夫人等であり、彼女等がこの村の実家を頼って出戻ってくるのであった。しかも皆、多かれ少なかれ幾人かの幼子を連れた母の立場が多かった様である。
そんな
リアムは冒険者としてその所属する
リアムがこの村に来たのは二年程前になるがパント村で大きな魔物災害が起き、その教訓として村長が
赴任後、一ヶ月もするとすっかり村に溶け込んだふたりには、何かにつけて村人が世話焼きに訪れる様になっていた。今日もそんな一日であったようだ。
「モリーさん、そんなにいいよって言うか……こんなに野菜を貰ったら逆に悪くって……モリーさんのところだって必要でしょう? お子さんも多いし」
そう言って申し訳なさそうに応対しているヴァレリアの所にはひとりの村の農夫が訪れていた。
今日は緑黄色野菜がたんまり取れたから、豊作だったからと言ってヴァレリアのところに村の農家代表と言う事で、モリーが荷車一杯の野菜を持って訪れていた。彼は村の農夫のひとりで年齢的にはまだ若いものの、村の農夫達の取り纏め役的な立場のお兄さんであった。日々の力仕事で引き締められた身体に健康的に日焼けした肌が特徴の彼は、その陽気な性格がヴァレリアにはとても好ましく受け止められていた様だった。彼には三人の子がいたが、その末っ子のヨチヨチ歩きの男の子がヴァレリアにとても懐いていて、彼女も良くモリー家にお呼ばれしていたのである。
「いいってことよ、リアちゃん」気の合う村人の間ではヴァレリアのことを『リアちゃん』と親愛を持って呼んでいた。
「いつもうちの婆さんや息子達の傷や病を
そう言う風に言って貰えるとヴァレリアも心証的には気が晴れるが、そうは言ってもである。
「でもこんなに、しかもモリーさんのところで取れたものでない物も入っているじゃないですか。これってご無理なさったのではないですか、私達の為に……それじゃあまりにも申し訳なくって……」
ヴァレリアがそんな風に気兼ねしている気持ちを吐露しながら、モリーの後ろをパタパタと追いかけ回している間に、彼はさっさと荷車から全ての野菜をおろして、ヴァレリアの家の台所に其れを運び終わっていた、そして彼女の
「そっちの野菜はガブの所からで、あっちのはジック、そしてこっちのはトッドの所からだ、俺が運びに行くと知ってな皆が持ってきたんだよ、おまえんとこの其れってリアちゃんに持って行くんだろうって、じゃぁ是もねって頼まれたんだよ俺は。まあ、奴らも同じように感謝してたからねリアちゃんに、だからみんな有難く貰ってくれるかな」
「えっ~と、そう言うことであれば……有難く頂きます、皆さんにも宜しくお伝え下さい。後でお礼に改めて伺いますからと」
「お礼の方はいいって事よ、逆にこっちが恐縮してしまうってさ。田舎の持ちつ持たれつって事だけど、リアちゃんのお陰で皆を元気にしてもらってこっちの方がほんと感謝しているんだぜ、いつもありがとな」
こんな風な遣り取りがヴァレリアの所では日常的に起こっていた。それだけ皆に愛されているふたりだったが……。
「それはそうと……あれはほっといて良いのか?、愛しき兄を想う妹としてはさぁ」
そう言いながらモリーは目線でヴァレリアの事を促した。
§ § §
モリーは今日、彼のひとつ上の姉のブリタを一緒に連れてきていた。
モリー曰く、姉が実家で
そのブリタは十八歳になる前にこの村を捨てて聖都テポルトリで一旗揚げると言って出ていった娘だった。
村一番の才色兼備と言われた彼女は聖都で苦学の末、ベッレルモ公国侯爵のベリス・アナタイト侯のところに行儀見習いとして奉公に入ることが叶って、遂には村一番の出世頭と言われていたのだ。けれど丁度、今から一年ほど前にそのテポルトリから突然、舞い戻ってきて、そして実家で生んだひとり娘を育てているはずである。そんな彼女の娘の実父の素性については村の誰も知らないらしい。
モリーに言われてハッとしてヴァレリアが振り返ると、そこにはリアムの腕を自分のその豊艶に突き出した
「リアムってば、
そう言いつつブリタはその
「ブリタさん、おっ、お兄様から離れて貰えますか、お兄様は間に合ってますからそう言うの❣ ……あたいひとりで……」
最後の方は俯き顔を赤らめ声音も尻すぼみになったが、何とか言い切りつつもヴァレリアはリアムとブリタの間に自分の身体を滑り込ませるようにして割って入った。と、兄の顔を覗き込んで頬を膨らませる。
「お兄様もそんな
プンプンとしたリア爆弾はリアムを巻き込んで今にも炸裂しそうだった。
「リアちゃん、お姉さんは
ブリタの最後の
モリーは空になった荷車にブリタを乗せてヴァレリアの家から家路を急いでいた。彼の今日の野良仕事は是からが佳境である。
「ブリタ
「ヴァレリアの事を見ているとなんだかもどかしいのよね、あの
「あぁ、ヴァレリアはほんとにリアムの事が好きだよな……はぁ、おい何てことを弟に対して口走っているの。あっ、て言うことは姉貴のお腹からおぎゃんと出てきたヘエルは本当にベリス侯の?」
ブリタが吐き出した謎のお伽噺と最後に何気なく付け加えられた彼女の本音にビックリしながらも、モリーはじっと彼女の顔を見つめてそう呟いた。が、それをもさらりと聞き流してブリタは話しを続ける。
「ああでも
「は~ぁ、姉貴よ。俺のさっきの感動を返してくれ!」
ふたりの噛み合っているのだか、いないのだかいまいち訳の分からない会話を乗せた荷車は
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