聖魔兄妹つとに物語るなり
松本裕弐
始まりの物語り
語り部『我』とふたりの兄妹
第1話 プロローグ
「まったくもぅ、どうしてこうなったのかしら?」
そんな彼女の
それもそうであろう、いち面を覆う広大な雲海の中から差す、
§ § §
『
そんな『
煌めく星々たちと
『
そして新しき『
藍き星のその中のひとつにまるで吸い込まれるように落ちていく。まさに瞬きの
『
その『
『
それは、小高い丘の更にひとつ飛び出した大きな石の上に、ひとりの少女が仁王立ちしていた。そして、そこにまさに今にも飛びかからんと、その周りを数頭の魔物が様子を伺いながらぐるぐると周りを取り囲んでいる場面であった。
「あと六匹か……そろそろ、あたいも
ふ~っと大きく息を吐いて彼女は自らに気合いを入れ直した。
其れと同時に傍らの一番大きな体格の魔物に、右手に握っていた長剣を一文字に薙ぎ入れるようにして、彼女は意を決して飛びかかっていった。
魔物の牙と彼女が手に持つ
周囲が一転真っ赤に染まり、魔物達がすべて一瞬にして灰と化して舞い上がる。それにより、その場の視界が瞬く間に闇に遮られた。それらの灰が、いつしか巻き起こった風で吹き流され、再び視界が確保されると先程まで魔物達が居た場所にひとりの青年が立って居るのが見えた。そして、その場には魔物の姿は影も形も残されてはいなかったのである。
「リアムお兄様……
その彼に対して血塗れの少女が口を尖らせながら、見た目の年齢の割にいたくふくよかな胸の前で大仰に腕を組んで文句を垂れている。立ち位置で彼女の方が高い位置になるので、その踏ん反り返った態度が幼い見かけに似合わずやけに大袈裟に見えた。
「……す、済まなかった遅くなってしまってリアっち、あっ!
そんなヴァレリアにリアムお兄様と呼ばれた青年が物腰も柔らかくも遠慮がちに応える。ともすれば、他人行儀そうにも見えるその応対は彼の素なのだろうとは思うのであるが。
そんな彼も目の前のあられもない姿のヴァレリアを目に留めると、瞬間、『あ――っ』と目を円くするが、そこは兄の尊厳か、さりげなく視線をスッと逸らせていた。その上で左の掌で自分の顔を覆いながら、空いた右手で彼が纏っていた
「ヴァレリアっ、何て格好をしているんですか……それを羽織っていてください! さあ、早く!」
「あ~っ!」
リアムの言葉でヴァレリアやっと自分の半裸姿に、今更ながら気が付いたようである。
兄から投げつけられた
そして一言、リアムに投げかけた言葉が……その時、いったい彼女は何を思っていたのであろうかとは思うが……。
「……
と、
そして伏して顔は見えないが、たぶん真っ赤であろう事は、
無論、そう問われたリアム側も未だ赤面しながら目を逸らしているが。まあ、そんな態度では見ていないとは嘘でも言えないだろうが、はたまた正直に見たとも口が裂けても言えない状況であることは確かであろう。
「…………」
沈黙は金なり、押し黙ったリアムの態度に『ハ~ッ』と深い溜息を付きながらもトポトポとゆっくり彼に近づく。辿り着いた彼の胸元で、その頼もしき胸板を可愛らしい握りこぶしでポコポコと軽く叩き始めるヴァレリアであったが、口から紡いだ言葉は何故か……。
「で、ど、どう⁉ か、感想というか……ぃゃ⁉」
————あ、あたい、いま何を……口走ったの? なんてことを聞いているのかしら?
混沌とした精神状態の中、噛みまくりながらもヴァレリアの
「えっ、き、綺麗ですよ、もの凄く。なんて言いますか、
————は~ぁ、自分はいま何をぶちまけたのか?
同じくこっちも錯乱した精神状態の中、リアムも自らに問い掛ける。
『
ふたりしてテンパった調子の双方の心の声が素直に『
彼女からの予想外の問いに、思わず素で即答しまってから彼は、はたと気付いたようだ……が、もう既に遅かった。いきり立ったヴァレリアの
「
顔を真っ赤に染め上げながらも壮烈な怒号をひと言残しつつ、瞬時に踵を返すと、地面に突っ伏しているリアムをそこにひとり残して、ヴァレリアは疾風の如く立ち去っていったのであった。
「何とも、もの凄く痛かったですね……手加減無しでしたしヴァレリアは、おもいっきり殴ってきましたね。しかしまあ、しくじりました。は~ぁ、どうしましょうか~ぁ? 今日の晩飯当番だけでこれ……許してくれるでしょうかね……なぁ、妹よ?」
その場にドカッと胡座をかきながら、己の打たれた頬を擦って溜息交じりにリアムが愚痴を零していた。そんな声に応えてくれる者は無論そこには誰もいなく、無情な風だけが痛んだ彼の左の頬を優しく撫でていく。まあ、『
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