4話 新たな目標
「あれはいったい、何だったのかしら…?」
「姫様、もう何度目ですか…?」
それから一週間後。アリエッタはまたもや分厚い教科書の上で、突っ伏していた。
あれからベルを入れて五人、森を出て、孤児院に着いた。すると外では、安堵で膝から崩れ落ちたキング委員長と、年長組二人を含む子ども達が泣きじゃくりながら出迎えてくれた。
「ルカ、今までごめんね…。これからは一緒に遊ぼう。」
「!うん、…あと僕だって、皆に石投げて、ごめんなさい。…ゲルダ姉ちゃんも。」
「うぅっ…、大丈夫よ。無事に帰って来て、良かったぁ…。」
お互い頭を下げ、子ども達は抱き合いながらわぁわぁ泣いていた。良かった…。
その様子を安心して見ていると、ベルが、チョンチョン、と肩に爪を叩いた。
「あんた、ひょっとして、あん時の嬢ちゃんかい?だったら、これ、あの路地裏で落ちてたぜ。」
「え…?」
両手を出してそれを受け取ると、何とそれは、あの時無くした純白の巻き貝のイヤリングだった。驚いて顔を上げると、ベルは優しく微笑み、ローブのフードを目深に被り直し、
「じゃあな。もう、落とすんじゃねぇぞ!」
と言い、森の方へ足を向けた。アリエッタはその背中に、お礼を言う為、大声を掛ける。
「あのー、今回も助けてくれて、ありがとう!クラウドさんにもよろしくー!!」
するとベルは、背中を向けたまま手を振り、そのまま森の中へ去って行った。
その様子を見ていたキング院長は、子ども達に聞こえないように、アリエッタに尋ねた。
「あの…、姫様。あの方はどちら様でいらっしゃいますか?」
するとアリエッタは振り返り、笑顔でこう、答えた。
「とても親切な、"森の魔術師の助手さん"、ですよ。」
―帰還後、早速夕食時に父君と母君にこの事を全て話した。二人はいつものように、楽しく、時にはハラハラしながらアリエッタの話を聞いていた。しかし、クラウドの名前が出ると、
「…そうかぁ。アイツ、元気にしてるんだな…。」
と、どちらも懐かしそうに、優しい笑みを浮かべるのだ。二人にクラウドの事を聞こうとしたのだが、―
「いつもは腹が立つ程、傲慢で高飛車な大臣達が、この時ばかりは食器類を落とし、皆、震え上がってましたね…。…っ、あれは笑いを見物でした…っふふっ。」
いついかなる時も、冷静沈着で優秀であるリレイだが、実は彼女、元々は平民出身なのである。常日頃、平民を馬鹿にしている貴族・大臣達に心底腹を立てていたのだが、今回の事については、気持ちがスカッとしたのかもしれない。その証拠に、あの時も口元を隠し、笑いを堪えていたのをおぼえている。
ともあれ、今回の事でアリエッタは、自分の欠点と目標を見つける事が出来た。自分は、知らない事が沢山あり過ぎる。クラウド達の事にしても、言い伝えの魔導師とは全然違う。大臣達の怯え様、何が"裏"がある。あと、自分はまだ未熟、だという事。大切な者達を守る為には、まだまだ力が足りない。なので、
「絶対、冒険者になってやるんだから!」
「目標を持つのは素晴らしい事です。しかし、実践も大事ですが、知識も大事ですよ!」
「うっ…。」
自分はこの国が好きだ。だから、皆が幸せになる方法を探す為、こうして、数々の文献を調べ直しているのだ。もちろん、旅の必要スキルたる算術や語学等も忘れない。
世界を冒険すれば、もしかしたら色々な出会いや、問題解決のヒントたる、知らない知識が見つかるかもしれない。
"コンコン。"
部屋のノックがしたので、入るよう促す。すると、爽やかな笑顔のアランが、剣を持って現れた。
「姫様、次の武術の時間、今回も負けませんからね!」
「…お手柔らかにですよ。アラン!」
張り切るアランを諌めるリレイに苦笑し、アリエッタは机の引き出しにしまっていた、一枚の絵を広げた。
ルカはあれから、孤児院に大分慣れ始め、他の子とも仲良く遊ぶようになっていた。表情も明るくなり、頭も良いので、今は読み書きや計算が苦手な子を教えたりしている。将来は教師になるんだそうだ。
「良し!頑張るぞ!!」
"彼らの為にも冒険者になって、この国をもっと良い国にする。"そう、改めて自分に誓いながら、気合を入れ、アリエッタは賑やかにしている、リレイとアランの元へ向かうのだった。
―fin―
王族聖女と魔導仕掛けの熊〜原曲:『森のくまさん』を異世界風にアレンジ〜 かるかん大福 @0n7ky0-k0-
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