第二話 チョコチップクッキー入りのバニラアイス
僕が祖父の家に来て数日が経った。
本屋がないことを除けば、思ったよりも悪くない村だった。
祖父の家の裏は川に面していて、夕日が綺麗に見える静かな場所にあり、静寂は永遠とも思えるほどの時間を運んできた。
夜中になると、この村には誰も住んでいないように思えた。
それでも昼間は不思議と人通りがあって、向かいの家に住むおばさんは、犬の散歩に出かける度に窓越しに目を合わせると、心地よく挨拶してくれた。
でも何故かその声を聞くたびに、僕は少し悲しくなった。
☆
今日は祖父は僕がこの前まで住んでいた家を片付けに行く。
一緒に行くか聞かれたけれど、首を横に振り、「ここにいる」と答えた。
誰もいないあの家に戻る勇気はない。
「今日もクロのところに行くのか?」
祖父の問いに、今度は首を縦に振った。
☆
この村には駅と家以外には、森、川、湖、そしてアイスクリーム店しかない。
村の端にある家の庭には、仲良くなったクロという名の白いふわふわの毛の中型犬が走り回っている。
僕はこの家をラベンダーハウスと名付けた。
壁がラベンダーのような紫色をしているのだ。
ラベンダーハウスのおじいさんは僕の祖父の幼馴染だった。
僕がでクロに「元気?」と挨拶をして頭をなでていると、家の中からおじいさんが出てきて、優しく微笑み、僕を晩御飯に誘ってきた。
「一人より二人って言うだろ」
僕が頷くと、「じゃあ、五時に来てくれ」と言って、クロを連れて家の中に入っていった。
☆
表通りに出ると、アイスクリーム店が見えてきた。
カラフルな店の屋根は虹色で、まるでおもちゃのお店のようだ。
小さい頃からアイスはいつもチョコチップクッキーの入ったバニラアイスクリームと決めている僕は、カウンターを覗くとよくがっかりする。
しかし、幸運なことにこの店は『当店のお勧め! チョコチップクッキーバニラ』と書かれた札ついた容器が、冷凍庫の真ん中に常に入っていた。
無事にお目当ての品を手に入れた僕は、アイスのカップを片手に坂道を下っていった。
夏の日差しが痛い。
公園の木陰にベンチを見つけたので休憩することにした。
ベンチに座って空を見上げると妙に雲が低くて、天に手が届きそうだった。
あの日の空は、あんなに高かったのに。
『あの日』っていつのことだっけ?
物思いに耽っていると、引っ越してきた日に車から見えた湖に行きたくなった。
☆
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