星屑のキミ -The Story of the Stardust Guardian-

青山 立

第一話 突然の引越し

 夏。


 妙につんとする匂いが鼻につく。

 列車内の独特な匂いが。


 目を覚ますと僕は、列車の中にいた。

 一瞬、なぜここにいるのかわからなかった。


 どうもこの頃、よく記憶が飛ぶ。


 そうだ、数時間前、母方の祖父の家に向かうために、この列車に乗ったんだ。


 突然、光の反射かそれとも陽の光に目が眩んだのか、白い影が車窓の外に見えた気がした。

 そういえば、小さい頃には、風に揺れるカーテンのような白い影をよく見た。


 流れる景色を目で追っていると、いつしか車内の匂いが薄れて、僕は眠りに落ちた。


 どこからかタイヤの擦れたような匂いがした。


 また、記憶が飛ぶ。


 現実って前からこんな風に、流れていたっけ。


 急に不安になる。

 胃が縮こまるように、痛い。


 太陽がオレンジ色に輝きながら大きさを増して、地平線に沈んでいく。

 僕にはその火の塊が、まるで地上に落ちてくるかのように感じた。

 不安だった。不吉だった。


 地平線を見つめているうちに、僕は再び眠りに落ちた。


 目が覚めると陽は完全に落ちていた。


 急がないと手遅れになる。

 ふと、不安な気持ちに襲われた。

 もし遅れたら母さんに何て言えばいい?

 いや、一体何を考えてるんだ。

 もう母さんは、何も言わない。


 祖父と駅で会う以外には、誰とも約束なんてない。


 引越しの準備はスムーズに進んだ。

 片付けなきゃならないものが山ほどあったのに、いつの間にか片付いていた。


 きっと僕が部屋にこもっている間に——母さんの歳の離れた兄だったかな?——あの無口な人が片付けてくれたんだろう。


 叔父さんには昨日初めて会った。

 生まれてからずっと疎遠だった叔父さんの顔を、僕はまだ、ちゃんと覚えてもいない。



 ☆



【星屑のキミ -The Story of the Stardust Guardian-】



 引越しの準備をしている間も、僕は現実と夢の狭間で浮遊していた。


 空に消えてしまいたかった。


 自分という存在が、無限の景色を通り越し、地球の裏側まで流されてしまったような、気味の悪い感情を腹の底に溜め込んだような気持ちになっていた。


 目が覚めると、朝になっていた。

 夜行列車に乗っていたんだ。

 手に握っていた切符を見ると、目的地の村の名前と同じ駅名が印刷されていた。


EVEAHNイブアーン


 駅に着くと、祖父が車で迎えにきてくれていた。

 助手席に乗り込むと、車は静かに走り出した。


 祖父と会うのは久しぶりだったから、僕は何を話せばいいかわからず、窓の外を流れる景色を眺めていた。


 駅からクネクネと続く一本道は、森の中を突っ切るように伸びている。


 木々の向こう側に光の粒が見えた。

 湖の水に光が反射している。


 その湖のほとりに僕と同い年くらいの女の子が立っているのが見えた。



 ☆

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