二度見するレベルの・ロマンティック・くまさん

「この世界自体が物語だってそう言うんですか……?」

「本来であればそれは答えようのない問いだ。そうかも知れないし、そうでないかもしれない。少なくともこの世界で生まれた者にはそれは理解できないはずだよ。だからこその世界だ。でも、それを物語だと観測できる者さえいればそれはそうでなくなる」


 つとむさんの言葉に、どう言葉を返していいのか検討もつかない。ただひとつわかるのはとてつもなくスケールの大きい話をしているということだ。それがもっと前向きな話ならロマンティックとでも表現したのかもしれないが。突きつけられているのは二度見するレベルの壮大な相手との邂逅だ。


「その言い方って。観測者がいるってことですよね。少なくともこの世界を上から見れる、もしくは見たことがある人がいるってことに聞こえますけど」


 かえではどこか直感的と言うか、こちらが一生懸命思考を巡らせているところに野生の勘で話を進めてしまうくせがあるようだ。でも言っていることは正しいように聞こえる。そしてそこまで聞くとそれが誰なのかたすくにも理解できた。


「これも状況からの推測でしか過ぎないし、本人にその自覚はないから確実にそうだとは言い切れない。でも、たしかにその欠片はあたりに散らばっているし、その力の欠片は君たちの助けにもなったはずだ」


 ちらりとおいしそうにご飯を頬張る隆司りゅうじくんに全員の視線が集まる。当の本人はくまさんのようにほっぺを丸くして、キョトンとしている。


「隆司は突然ここに現れたんだ、どこからともなく。最初は物語から出てきたんだと思った。でも、それも様子がおかしかったんだ。該当する話はこの店にはなかったし、なにより力の大きさが桁違いだった。それを隠すために子どもの姿をしているというのも観察していて気がついたのもある」


 それは隆司くんの力をコピーした佑も理解できた。その大きさがドラゴンに由来するものだと思っていたのだけれど。そうでない可能性もあるというのだ。


「まあ、でもそれだけだよ。世界は安定に向け、淘汰を始める。それは予定調和であり、その戦いの鍵を握るのが隆司だと思っている。だからこそ拐われてしまったわけだし、これからも狙われ続ける。それに世界からも……具体的にはどうなるかはわからないし、そこに佑の秘密も関連してくるかもしれない」

「僕の秘密?」

「隆司の力をコピーしたのもそうだけど、コピーするという能力自体が特殊なんだ。だから実はひとつ仮定してみたるんだ。佑もこの世界、それこそこの世界で生まれた物語でもすらない。なんならより上位の世界からきた可能性があるって」


 その言葉は衝撃よりも実感がわかないというのが本音だ。


「まあ。そんなの関係ないですよ」


 それはきっと、この世界に馴染みきってしまっているからだ。物語であるからと言って、その実感は薄れかけている。


九重佑ここのえたすくはここの世界の住人です。元になった人もきっといる。その人を探し出すためにもこれからもここで協力し続けますよ。それが帰ってきて自信を持って言えることです」


 なんとなくだけど勉さんがにやけた気がした。いつも仏頂面の彼にしてはとても珍しい。


「なーに言ってんだか。今度いきなり消えたりなかんかしたら承知しないんだから。ねえ」


 楓が氷姫ひめに問いかける。この世界で出会った人たちもたくさんいる。その人達と過ごした日々が物語なわけないのだ。


 それはこれからもきっとおんなじだ。

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連続三題噺小説 for オリジナルTRPG『トワイライトストーリー』 霜月かつろう @shimotuki_katuro

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