名前も知らない君と僕

あおいろ

第1話

その日は朝から雨だった。傘がなくても大丈夫なぐらいの中途半端な雨。

僕はその中を久しぶりの登校のため走っていた。別に遅刻しないように走っているのではない。生物部として育てている植物が昨日まで来ていた台風にやられていないか不安で走っているのだ。この前来たやつにも負けず劣らずの台風。

きっと今日黙祷する時間があるんだろうななどと考えながら、学校に着く。

すぐさま中庭の花壇を確認しに行く


「良かった、飛ばされてない」

と心の中でで胸を撫で下ろす。あっちはどうかな、と思いながらもう一つの屋上の花壇を見に行く。屋上の花壇は僕しか存在を把握しておらず1人で育てているので愛情も深い。階段を駆け上がり、息を上げながら屋上の花壇を見る


「そんな、僕が育てていた植物達が」

植物は全て枯れていた。僕が手塩にかけて育てていたトマトもほうれん草も。僕は少し泣きそうになりながら教室に行こうとした。その時だった。上から女の子の元気な声が聞こえた。


「何してるの?」

こんな悲しそうにしているのに、空気読めよと少し苛立ちながらその方向を向いた。そこには160センチぐらいの女の子が座っていた。


「なんだよ、人が悲しんでる時に」

言いながら少し睨む。


「ごめん、ごめん何してるのか疑問に思っちゃって」

彼女は悪びれもなくそう言う。


「台風のせいで大事に育ててた植物が消えたんだよ」見て分からないのかと思いながら聞かれたので答える。


「てか君、なんでこんな朝早くからここにいるの?」

当然のことに気づいた。今は朝の6時半、普通なら一部の先生以外誰もいない。


「なんででしょう?」

彼女はニコニコしながらそう僕に聞いてくる。


「分かるわけないだろ、忘れ物か?」

適当に答える。


「違うよ、てことで罰ゲーム」


「は?」

彼女は何を言ってるんだ。


「私、体が弱くて、今までは大丈夫だったんだけど明日から入院しなきゃいけないんだ。」


「それは大変だ。それで?」

僕は展開が急すぎて本当か分からずでその続きを聞こうとする。


「健康祈願のお参りに行きたいんだけど、誰も許してくれなかったから勝手に行こうって」


「一人で行けばいいじゃん」


「でもそれで倒れでもしたらたら、面倒じゃん、だから誰か連れてこうと思ったんだ」

なんとなく罰ゲームの内容がわかったので先に嫌だという意思を伝える


「友達連れてけばいいじゃん、俺なんかより」


「私友達いないもん」


「なんかごめん」


「謝んないでよ惨めになっちゃう、てかそういうことで私は君と行きたいんだ。」


「やだよ、君が誰かも分かんないし」

そうしていたら予鈴がなった。もう少しで授業が始まってしまう。


「ごめん、頑張って他の人探してねバイバイ。」そういって階段を降りる。後ろから声が聞こえた。


「放課後待ってるからね」


不穏だなと思いながら逃げるように屋上を去った。この調子じゃ何をされるか分かんない。放課後になった。一応彼女に見つかんないようにホームルームが終わったら最速で走り校門までたどり着く。流石に大丈夫だろと思いながら小走りで帰ろうとする。その時だった。


「ようやく来たね、早く行こー」


「え?なんでいるの」軽い恐怖を感じる。


「そんなのどうだっていいじゃん、約束だからね」そんなことを話しているうちに用事がないであろう生徒が昇降口から出てくる。


「ほらみんなの目を集めないうちに行こうよ。」彼女はそう言いながら僕の手を掴み引っ張っていく。強、引き剥がせずに、僕は彼女に引っ張られ駆け出していく。走っているうちにバス停に着く。気づいたら雨は止んでいた。僕と彼女はそのバスに乗り込みそのバスは走り出す。


「ねえ、君は誰な、」と言いかけたとこで彼女に止められた。


「バスの中だと静かにしなきゃ」

自分がうるさいことに気づき黙る。無言の時間が続く。その間彼女がずっと窓の外の遠いとこを見ていたのが印象的だった。そんなに面白い景色でもないのに。そのうちにバスが夕礼町に着く。


「さあ行こう、行きたいとこがあるんだよね」

そう言われ、僕は夕礼町に繰り出した。夕礼町は江戸時代に作られた街並みが今でも残っているということが売りの老若男女に人気の観光街だ。特に町の中央にある、とても古い神社は神秘的だとしてテレビでもよく取り上げられている。


「ほらほら、あそこあそこ」、彼女はそう言いながら、その神社を指さした。なんだ、人を誘うぐらいだからどんなとこに行くかと思ったのに。


そういえばこの町には来たことあるけどこの神社にはまだ行ったことないな、そう思いながら神社の鳥居を潜る。入った途端空気が変わった。寒い。神社の敷地内には多くの木が生い茂っているが、それだけではない寒さ。体を縮こませながら彼女の後について参道を歩く。手水舎で手を洗い拝殿でお参りをする。


「これで終わり?」


「そんなわけないじゃん、着いてきて」

そう言いながら彼女は本堂の横を通り過ぎていった。


「え、どこまで行くの?」


「まあまあ、着いてきて」

彼女は本殿の横すらもを通り過ぎて裏の鎮守の森へと続く門のとこに着いた。

「ここに入るの?」


「そう、ここに用があるの」


「どうやって入るの鍵かかってるよ」


「任せて、鍵持ってる」


「え?ここ来るのははじめてじゃないの?」


「まあまあ、そんなのどうだっていいじゃん」彼女は言葉をはぐらかし鍵を開けた。鎮守の森は参道よりも木が生えていてまだ5時だというのに薄暗く寒かった。


「ここに何しに来たの」


「一言で言えば清算かな」


「罪でも犯したの?」


「そういうわけでもないんだけど」といいながら奥に進む。そうすると奥の方に一際大きい木を見つけた。


「あれが、目的」


「お祈りをするの?」


「そうそう、いっしょにしてくれない?」


「分かった」僕たちは手を合わせ木に祈る。


僕は彼女の病気が治るように祈った。そしたらあれ意識が朦朧としてきた。


「ごめんね、少し騙して」朦朧とした意識の中で彼女の声が聞こえる。その意味を考える前に意識がなくなる。次に気づいた時、僕は夢の中にいるような感覚がした。深い海の中で一人浮いているような感覚、自分の体が自分のものじゃないような感じ。そういえば彼女はどこにいるんだろう。そうわずかに残った意識を使い考える。周りを探そうとするが体が動かない。

なんとか動かそうとしているうちに目の前に魂みたいなものが浮かんできた。それは僕の周りをぷかぷか浮かんでいたが、そのうちに真っ直ぐにどこかを目指して進んでいった。僕は無意識にそれに着いて行った。どのくらい進んだか分からなくなってきたその時、前に大きな大きな門が見えてきた。

気づいたら他にも魂が集まっている。その後ろを人型の白いものがついて行ってる。好き勝手に通ればいいと思うのだが、丁寧に魂達は列を作り一つ一つ門を抜けていく。

だんだん門に近づいていくと門の前に人みたいなのが立っていることに気づいた。それは魂に着いていこうと門を抜けようとする人型の物を止めていた。人型のものは諦めると魂に手を振りそのまま消えていった。そして、ついに僕らの番になった。

魂は門を何の問題もなく通り抜ける。僕は行けないと直感で分かるのに無意識に体が通過しようとする。そしたら、門番に止められた。やはり無理なんだと分かり何故か悲しくなる。

門の向こうで魂が手を振ったような気がした。僕も手を振りかえす。魂はそのまま先へ進み見えなくなった。そしたら体が消え始めた。戻れるんだと思った。

次に気づいたら僕は神社の鳥居の横で座っていた。空はもう暗くなりスマホを見ると7時だった。そして彼女はもういなくなってた。

非現実的な出来事にボーッとしているとポケットに手紙が入っているのに気づいた。開いてみると見たこともないのに彼女の字だと分かるもので書かれていた。


名前も知らない君へ


今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとう。今君は混乱してるよね。このことについて私は説明する義務がある。なんとなく分かってるかもだけど私は病気なんかじゃない。

この前の台風で死んだ君と同じ学校の一年生なんだ。そして今日は私の四十九日なの。そして、私も死んでから知ったんだけど人がしっかり成仏するためにはその四十九日にあそこに、生きている人と行かなければいけないんだ。そうしないと悪霊になっちゃうらしい。だけど私今日が来るまでそのこと忘れててさ、どうしようかなって屋上で考えている時に君が来たんだ。その時君しかいない!って思ったね。今日のことは不思議な不思議な夏の体験だとして忘れて、明日からまた普段の日常を送ってほしい。私のことも忘れても構わない。けれどこれだけは言わせて、本当にありがとう。元気でね。



「そういうことか」

僕はその手紙を読み終わりそれをしまうと、本殿の方を向いて合掌し祈った。そして、立ち上がり歩き出した。少し上を向きながら、暗い暗い空を見ながら。

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