エピローグ
これで僕の役目は終わったよ、猫。僕は持ってきタオルで少年の猫を包み、そしてリュックに納める。先ほどまでいた少年は、最期の後悔をなくし、少年の猫と共に天へと昇って行った。
猫が僕の脚に絡みつき、撫でてほめろと言っているようだ。僕はしゃがんで、少しだけ撫でてやる。
「今回もよくやったよ。本当、猫状態の君には助けられてばっかりだ。さて、あとはお母さんたちへ報告だね」
僕は撫でるのを止め、再び歩き出す。猫は文句も言わず、僕の足元についてきた。
少年の思い出の散歩道を戻り、少年の家まで歩く。中から出て来たお母さんはひどく疲れていた。目元を見ると、随分泣いたように見える。恐らく、少年が大切にしていた猫までもがいなくなってしまい、不安で押しつぶされそうになっていたのだろう。僕は促されて玄関まで入り、リュックから少年の猫を出す。安らかに寝ている少年の猫をみて、お母さんはまた静かに泣き始めた。そのそばを、少年のお兄さんがやってきて、傍に座っていた。少し落ち着いた時に、少年の猫が首にしていたミサンガをお母さんに手渡す。どうやら、そのミサンガは少年が手編みをしたものらしい。今までは猫に、そしてこれからは家族のもとで少年のぬくもりを残していくのだろう。僕は本当の最後を終え、少年から言われたことを伝えた。当然、少年からの伝言ですとはいわずに。そして、お母さん、お兄ちゃんからお礼を言われながら玄関から出ていった。外では猫が待っていた。
「さあ、帰ろうか。僕たちの家に」
そう呟き、猫は短くにゃあとなく。僕はその返事を聞いた時、ふと猫がしっぽに隠し持っている彼岸花に気づいた。いつのまに持ってきたのか気づかなかった。僕はせっかくなので歩いて帰ろうと思い、自分の事務所へ向けて歩き始め、その帰路の間に、猫に話した。
「彼岸花の花言葉を知ってるかい? 『悲しき思い出』という言葉が一つにあるんだ。それって、一目で見たらマイナスなイメージのように見えると思う。でもね。僕はそう思わないんだ。今日の出来事で改めて気づいたよ。悲しき思い出があったとしても、結局、思い出ってそれだけじゃ終わらないんだ。悲しい思い出に連なるように、いろんな思い出もある。楽しい思い出だってあるんだ」
猫は返事もしない。ただ、とぼとぼと、僕の隣を歩いているだけだった。事務所に帰ってくると、雪が夜ご飯の支度をしていた。
「あれ、珍しいね。雪が料理をするなんて」
「あら、失礼な探偵さん。口が開けないように凍らせてやろうかしら」
「血の気の多い美人は困るね」
「はいはい。……それで、上手く見送ってきたの? あの少年君」
「うん。無事に母星に帰ったよ。もうこの世に残してきた未練はないと思う。将来やりたかった悔いはあるだろうけどね」
「そう。それじゃあ、あのジュースも適量だったわけね」
「そう、そうなんだよ。本当、今回はベストな分量だったよ。流石、適当に入れる雪様は本番に強いんだから、信頼置けちゃうよね」
「ほめてるのか分からないから、褒められてることにしとく。それじゃあ、そろそろご飯にしましょう。猫も疲れただろうし……あれ、猫?」
先ほどまで足元にいた猫は、いつのまにかいなくなっていた。もしやと思い、少年と猫が話していた部屋を覗くと、ソファに座る猫がいた。恐らく、今回は彼女なりに色々と思う出来事だったのだろうと、雪とアイコンタクトをして、静かにドアを閉めた。
「でも、驚いたわ。まさかこの時期にあの子が来るなんて」
「いや、この時期だからこそだったんだよ。ちょうど2か月前の、夏の初めに悲劇があったから。むしろ来るべくしてきたんだよ」
9月の後半、お彼岸の時期。その時に彼は戻ってきた。夏の終わり、彼が残した最期の探し物を求めて。
僕は雪と別れて屋上のテラスへと上がる。夜は快晴、雲一つない空は、星に還った魂を迎え入れようと、見通しをよくしてくれているように見えた。刹那、大小2つの流れ星が、仲良く揃って流れたような、そんな気がした。
君の最期の探し物 後藤 悠慈 @yuji4633
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます