第6話 第五の素


「えぇ、勿論ですとも」


 さも当然かの様に言い放ったキクロープス。第五の素全て使える人物は大変稀有で、そんなぽんぽんといて良い存在じゃない。というか僕自身弟子以外に見た事がなかった。

 最悪だ。第五の素全て使えるということは、全ての魔術に対処できるという事を指す。躱すとかそういう話じゃなくて、真っ向から防ぐ事が出来る。光が闇と共存する様に、一方がもう一方を消すのではなく、硬直状態にする。それが出来るだけで魔術を用いた戦いでは有利になる。一つの素で同時に別な魔術を使う事は出来ないからだ。

 第五の素全てという事は、一つの素で硬直状態にし、残りの四つで攻撃する事が出来る。どうだい、こうやって聞けばどれだけ全て使える事が脅威であるかが分かるだろう。


「……あら、そろそろお時間ですわね」


「待て、キクロープス!」


「そんな熱烈に求められても困りますわ。サナトラ様を迎え入れる準備がまだ整っておりませんので」


 拘束がなくなり、キクロープスが徐々に光に包まれる。逃げるつもりだ。

 だが、最優先は弟子の安全。僕がきっとキクロープスを詰めれば、キクロープスは直ぐに殺すだろう。さっきも迷いなく土の棘で貫こうとしたぐらいだし。てか僕に当てずに刺そうとするの器用すぎない?僕には無理なんだけど。

 出来れば捕まえておきたかったが、キクロープスが第五の素全て使えると分かった今は別だ。圧倒的に準備が足りない。僕は今初めて彼女に魔術を教えた事を後悔しているよ。

 眠る弟子を傍目に、眩くなるキクロープスに目を向けた。


「それでは、また伺いますわ」


「二度とこないで欲しいね」


「サナトラ様のいけずぅ!」


 そしてキクロープスの姿は消えた。依代となっていた少女の姿もない。まだ利用価値があるという事だろう。

 急に静かになったシェルク洞窟で、聞こえてくる弟子の寝息。全くこの子は……

 でもまぁ何とか乗り切れてよかった。正直魔術師との対決になるとは思ってなかったから、特に準備もしていなかったんだ。あれでキクロープスが本気だったら、きっとエマを守りきれなかっただろう。

 さて、エマをそろそろ起こそうかな。僕の姿を見たのを覚えていない事を祈ろう。折角サプライズにしようと思ったのに……こんな最初で見られるとは思わなかったよ。

 そういえばだけど、エマが頼まれたというあの少女。薬草をとってきて欲しいと言ってたらしいが、あれは嘘だ。というか僕に魔術使ってきた少女じゃない?なんて言ってたっけ……そうだ、キャリルだ。キクロープスの弟子の。

 街でキャリルに出会った時点で、もうエマは罠に引っ掛かっていたのだろう。洞窟へと誘い、そして殺す。向こうの誤算はエマが忘れ物をした所為で、僕がついてきた事かな。エマの忘れ物に感謝するべきか否か。

 ……疲れたな。とりあえず無事でよかった。うん、それが良い。


「えへへ……」


「全くこの子は」


 それじゃあ僕は姿を消そうかな。ただ、これからも見守らないといけない事になってしまった。いつキクロープスの魔の手が伸びるかは分からないしね。僕だって死地に送ろうと思って旅に出したわけじゃない。

 はぁ、暫くは休めそうにないな。弟子を送り出してゆっくりと休めると思ったのにな。

 でもまぁいいか。いつか弟子が僕の顔を見れるぐらいの魔術師になるまで見守る事にしよう。


「ほら、いつまで寝てるんだい?僕の馬鹿弟子?」





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お疲れ魔術師は休みたい 玄武 水滉 @kurotakemikou112

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