理想の隠れ家

 銀行強盗事件を解決した後、アリスのお誘いを受けて彼女のお仲間達に会うことにした。

 お仲間というからには魔法少女だろうし、エンプレスから教えられていた他の野良の魔法少女達に会えるかもしれないと思ったからだ。

 魔法少女の姿そのままだと周りから注目を浴びてしまうので、変装用に備えていた厚手のコートと深く被れる帽子を着用し、髪は三つ編みに纏めた後服の中に仕舞ってメガネを着ける。少し前を歩いているアリスも変身を解いており、特徴的だった金髪のツインテールは失われ、肩程までの長さに変わっている。

 これでどこからどうみても、魔法少女とは無縁なただの女の子二人組になったはずなのだが、そんな状態でも道行く人々の注目を結構集めてしまう。

 アリスは結構な高身長であり、かつ西洋人的な見た目をしている為、そういった意味でも奇異の視線を送る者もおり、僕は言ってしまえば『作り物の完璧な身体』を持っており、尚且つかなり低身長だ。組み合わせとしては中々に珍しく、容姿的にも色んな人々を魅了してしまうのは仕方ないのかもしれない。


「ねぇ、もきゅ。アリスの仲間達ってどんな子達なんだろうね。僕と同じ境遇の子達って言ってたけど、絶対何か勘違いしてるよね?もし本当に僕と同じ境遇の子がいるなら見てみたいくらいだよ」


 男から女の子になり、魔法少女として日夜活動をしているという人物がいるのなら、それこそお仲間として会ってみたいところだ。そして女の子同士では出来ないような馬鹿話に花を咲かせてみたい。

 最近では女の子としての会話も少しは出来るようになったと思うが、男としてバカみたいな事や話をしていた時期が懐かしく思えてしまう。そういった意味ではもきゅの存在は唯一無二であり、非常にありがたいものなのだが、胸の内を曝け出しあえる同業者も欲しいと欲深くなっている。


「まぁブラックローズは端から見たら、家無し親無しの魔法少女と思われてもおかしくないくらい、活動量が異常っきゅ。アリスは外の国から逃亡してきたっていってたから、多分それと共感でもしてるんだと思うっきゅ。同じ境遇って言うくらいだから、他の子達はそういった、ワケアリの子達だと予想するっきゅ」

「勝手に共感を覚えられて、勝手に失望されたりしたらやなんだけどなぁ・・・」

「なら、本人に聞いてみるといいっきゅ。どういうつもりで招待したのかって。案ずるよりもなんとやらっきゅ」


 身長差が激しい為に歩幅が合わず、それに気が付かずどんどんと前を歩き続けるアリスをもきゅが指差すと、こちらの様子を窺う為に振り返る。姿を消している為に見られているはずのないもきゅだが、アリスが振り返ると同時に僕の後ろ髪に隠れるように潜り込む。くすぐったいのであんまり深く潜らないで欲しい。

 こちらへと視線を寄越したアリスは自身の歩くペースが速い事に気づいたのか、歩幅を合わせるようにゆっくりと地を踏みしめて横へと並ぶ。


「ごめんなさい、貴女の歩幅を考えてなかったわね。失敗しちゃったわ」

「まぁ、大丈夫だよ。いざとなれば走って追いつくし」

「それをさせること自体、お姉さん失格だと思うのよ」


 君は僕の姉じゃないだろう、という言葉を飲み込む。なんというか、どいつもこいつもお姉さん主張が激しすぎやしないだろうか。

 もしかしたら僕の実際の年齢が高いせいでおかしく聞こえているだけで、今時の普通の子供達は年上は姉と慕い、年下は妹として扱うのかもしれない。いや、絶対そんなことはないと思うが。


「それにしても、貴女小さいわよね。変身中はあんまり容姿は関係ないとはいえ、実際はいくつなの?」

「秘密」

「変身をいつまでも解かないのも、本当の姿は秘密ってことかしら?」

「そう、秘密」

「そう・・・。まぁ、野良の魔法少女であればそれくらい警戒するのが丁度いいのかもしれないわね。欲を言えば少しくらい心を開いて貰いたいところだけど」

「残念だけど、僕は秘密主義で通ってるんだ。君よりも付き合いの長いエンプレスだって、僕の姿は知らないからね」

「やっぱり、委員会や連盟の仲間って訳ではないのね」


 そういわれると、僕の立ち位置は中々にややこしいかもしれない。

 野良の魔法少女として好き勝手しているが、委員会とも連盟とも通じている。なんかどこかのスパイみたいな感じだな。上司はいないけど。


「そういえば、貴女。手の方は大丈夫なの?銃弾を掴んでいるようにも見えたけど、魔法の発現は見られなかったし・・・。魔法少女の身体は普通の人とは違うとはいえ、危険よ?」


 話を変えるように、アリスが僕の手をジロジロ見ながら質問してくる。

 しかし銃弾を受けた時は少々の痛みはあったが、そんなものはすぐに収まっているし、勿論陶器の様な素肌を傷つけている事もない。


「全く問題ないよ。僕の身体は人一倍に頑丈なんだ」

「頑丈ってレベルの話じゃないと思うんだけど・・・。もし痛むようなら、治療の魔法も少しなら出来るわよ?」

「大丈夫大丈夫」

「強要はしないけど、あんまり無理はしないでね・・・?」


 手を振って無事をしっかりとアピールしてあげれば、取り合えず目立った傷はないと理解してくれたのかそれ以上は追求してこない。

 敵に対しては中々に容赦ない姿を見せていたが、歩幅を合わせたりこうして傷の心配をしたりと、やはり根は優しい子なのだろう。






 銀行から電車で駅をいくつか通り越した後、開発区からギリギリ外れた地域へと移動した。

 そこは大きな建物から小さな建物まで混在しており、開発区と比べていささか雑多気味になっている。

 アリスの先導の下、ビルの入り組んだ路地裏をいくつか進むと、アリスが一つの建物の前で立ち止まって指を指す。


「さぁ、到着したわ。ここが私達のアジトよ。結構いい所でしょう?」


 大きな窓ガラスと、レンガで積まれた花壇が特徴の横広の建物がそこにはあった。

 外から中を覗き込むと、カウンターと椅子や、大きめのテーブルがいくつか置かれており、看板こそないものの何かのお店だと言われても納得できそうな作りになっている。


「なんていうか、喫茶店っぽいね?それともバーなのかな?」

「バーを買い取って改造したところって言ってたわ。まぁ立地的に人が多く訪れる場所でもないし、経営している訳でもないんだけどね。だからこそ、隠れるにしては打ってつけの場所よ」


 外の国からやってきた彼女がどうやって家に住む事になったのだろうかと考えていたが、どうやらそれはお見通しだったらしく、わざわざ買い取ったという事まで説明をしてくれた。伝聞口調という事は実際にそれをしたのは別の人物だという事だろう。

 しかし、喫茶店やバーをアジトとしているのか・・・。秘密基地にしたい場所ランキングの中でも五指に入るくらいの人気スポットだろう。羨ましい。


 僕が次に秘密基地を作るならこういったお店タイプのもいいななんて考えていると、アリスは勝手知ったる自分の庭だろう足取りで玄関まで近づき、ノックもせずに扉を開ける。扉に付いている鈴がチリンと鳴り響き、来訪者の存在が室内へと知らされる。

 その音を聞いて気づいたのか、カウンターに座っていた一人の女性が振り返り、こちらへと視線を向けてくる。歳は二十台中盤から後半くらいだろうか。魔法少女達ばかりを見てきた身としてはかなり珍しい、大人の女性といってよい人物がそこにはいた。

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