思想は賛否両論
「見なよもきゅ。今日の魔法少女の話題は僕の事で持ちっきりだよ。やっぱり真化した『ワンダラー』の話題性はすごいね」
初の真化した『ワンダラー』の討伐から翌日の事。
色んな疲労を感じながらも、一体どんな感じのニュースになっているのかと気になってテレビの前に座っていると、予想通り昨日の事が報道されていた。
真化した『ワンダラー』自体はクォーツによる討伐事例などがあるものの、あそこまで大きな被害が建物などに出たのは初めての事であるので、人類の敵対者の危険性をより多くの人に知らしめる必要性があると判断した結果だろう。どのニュース番組に回してもその話題で持ち切りである。
勿論、それだけが理由ではないのだが。
「正義の味方としてどうなのかっていう意見から、その責任を押し付けるのはどうなのかっていう反論まで、当然だけど賛否両論って感じだね」
目の前で報道されているニュースでは僕の格好良く可憐な姿が映し出され、それと同時に昨日の発言が取り上げられている。
『魔法少女は正義のヒーローではあるが、誰かを助ける義務を持つものではない』
普通の女の子が魔法少女として戦っている姿を知る身からすれば、あまりにも当然すぎる答えではあるのだが、特別な力を持たない人々からすればそうも言ってられないものなのだろう。コメンテーターが『力を持つ者の義務』などの話をしたり、それに対して委員会の人が説明をするなどして盛り上がりを見せている。ネット上でも魔法少女の在り方に対して様々な物議を醸しだしており、しばらくはこれについての話が冷め止むことはないだろう。
特に僕は委員会に所属していない正体不明の魔法少女ということも公表されたので、それについてもかなりの反響があるようだ。
僕こと魔法少女ブラックローズは目撃情報こそあるものの、今までは戦っている姿が目撃されているだけであり、声も分からなければ他の魔法少女のように友好的な面も見せない、正に正体不明といった魔法少女という扱いだった。
それでも、魔法少女自体が一般の人からすれば未知の存在であり、そこまで注目をされることはなかったのだが、今回の件で僕が魔法少女委員会からしても謎である事が語られ、最早人間であるかすら不明であると締めくくられている。
「いや。人間辞めたつもりはないんだけど」
口が寂しいので棒アイスを口に咥えながら眺めていたのだが、トンデモ理論が飛び出して思わずテレビに突っ込みを入れてしまう。
確かに魔法少女の力は人外と言っても過言ではないが、それにしてもその評価はどうなんだろうか。
「そう言っておいた方が委員会としても都合がいいんじゃないっきゅ?力を持つ魔法少女が野放しになってるなんて、あんまり大きな声では言えないはずっきゅ。それならいっそ完全に未知の存在だとしたほうが、色々と濁しやすいんだと思うっきゅ」
「理屈は分かるけど、そうはいっても野良の魔法少女は僕以外だっているしなんだかなー。アイリスだって委員会や連盟に所属している訳でもないし、他にも所属してない子はいるでしょ」
「ブラックローズみたいに大きく活動している訳じゃないから、目立ってないし言及される訳がないっきゅ。あれだけ沢山『ワンダラー』を倒しているのに一切の情報が出ないブラックローズの扱いに、多分委員会も困ってるんだと思うっきゅ」
「活躍してるヒーローの定めって感じがするねー。そう考えれば、それはそれでアリかな」
今回の事件、一部のニュースでは悪意のある切り抜き方をされており、まるで僕を悪者に仕立て上げるかの如く編集をされていたが、まともな放送機関や、匿名の人がフリーの動画サイトに端から録画したものを投稿するなどしたことによりすぐにバレたようで、ある意味そちらも大盛り上がりしている。
しかし今回の件によって、少なくとも、ヒーローに対してどういった扱いをするのがいいのか、考えてくれる人は増えるだろう。
未だ魔法少女の扱いについて定まってはいないものの、こうしたことにより、ブラックローズの名前はある意味で有名なものとなった。
「もきゅが看板落としたのはやりすぎたかもしれないっきゅ。余計な事したっきゅ?」
「何言ってるのさ。あれくらいでちょうどいいんだよ。むしろもきゅが動かなかったら僕がやってたんだから、気にする必要はないよ」
落ちてきた看板から人々を守る姿は、一番の議論の点となっていた。
勿論、最終的には誰も傷つかないように助けた訳なのだが、直前まで動かず見守っていたのは端から見ても明らかである。それに、あそこまで崩れた場所での事故であれば不自然さはないものの、余りにもタイミングが良すぎるということで、心ない人々には自作自演とか酷い風評被害を受けていた。
まぁ、マッチポンプだから当たらずとも遠からずなんだけど。
「人間なんて楽を覚えたらすぐに次の楽を求める生き物なんだよ。助けられる事が当たり前になったら、今度は助けられてる事すら考えなくなるんだから。ヒーローが誰かを助けるのは当たり前なんて考えは、絶対に許しちゃいけないんだよ」
世の中には災害の防衛策に予算を費やす事を馬鹿らしいと言い切る人間が多くいるのだ。実際に被害を受けないと理解できない人間なんて世の中にごまんといる事など、推して知るべきだ。だからこそ、僕はいままで被害を0にする事は極力考えないようにしているし、全力で現場に向かうことをしないようにもしている。
誰もが求める完璧をこなして結果的に馬鹿を見るのは、骨を折って助けた側なのだから。
「まぁ、力を持っている者が誰かを助けるのは当たり前って考えを一番強く持ってるのがヒーロー自身っていうのが、一番の問題ではあると思うんだけどね」
エンプレスやガーネットは色んな人の悪い部分も考えた上で行動をしている節はあるが、クォーツやサファイアなんかは性善説でも信じていそうなくらいには盲目的だ。自身を犠牲にしてでもという想いが顕著である。
出来る事ならこのニュースを見て、少しくらいは僕の考えを見習って欲しいものだ。あんまり感化されてもそれはそれで問題だろうから程々にだが。
「人間は色々と複雑っきゅね」
「そりゃ自由奔放な妖精に比べたらね。人は支え合って生きているっていうのが一般的だから、どうしてもこういった思想とはぶつかることになるよ。面倒だよねー」
「支え合うのと丸投げにするのじゃ大分違うとは思うっきゅ・・・」
「相手に仕事を押し付けるのに、『支え合う』って便利な言葉が使われるんだよ」
「人間の言葉は難しいっきゅ・・・」
正体不明の魔法少女ブラックローズは正義なのか悪なのか。
二つに一つなんて簡単に結論付けられる訳のない議論が、いつまでもテレビから流れ続ける。
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