魔法少女達のお茶会
「ようこそ。来てくれて嬉しいわ、ブラックローズ」
魔法少女学校の上階にある一室。魔法少女連盟の盟主であるエンプレスが普段使いするその場所では、ささやかなお茶会が開かれていた。
丸いテーブルとそれを囲うように揃えられた椅子。
可愛い刺繍が縫われたテーブルクロスに、花が活けられた花瓶。
3組に分けられた食器にお菓子の山。
「会」と表現する程大きくなく、豪華さや派手さとは無縁なモノではあるが、テーブルの上に広げられたお茶菓子の数々は子供達が見れば宝の山に相違なく、否が応でも期待に胸膨らませるものではあろう。
まぁ僕は子供じゃないから過剰な反応などしないが、歓迎されているという事実がここまで体現されていれば、口元が弧を描くのも不思議ではないはずだ。
「こんにちは、エンプレス。招待頂き感謝するよ」
先程までこの会の為に準備をしていたのだろう。魔法少女服の上からエプロン姿に身を包み、椅子の元へと案内をしてくれるエンプレスに挨拶をする。
普段の姿からは想像が付かなかったが、こうした家庭的な姿も中々に似合っているな。
もしかして、このお菓子類や前に用意されたものも彼女が手作りしたのだろうか。そうだとしたらかなりの腕前だと言えよう。
「えぇ、こんにちは。こちらこそ、断られるんじゃないかとそわそわしてたから本当に嬉しいわ。貴女ってあまり人と関わらないみたいだし、猫みたいに気まぐれなとこもあるって評判だし」
「どこからの評価か分からないけど、そんな僕に招待を送るなんて中々にいいセンスしてるよね。僕が言うのもなんだけど、君の言う通りあまり人付き合いのいい方じゃないのは確かだからね。だけど、連盟主なんて立場にいる人が野良の魔法少女と密会してるなんて、中々にスキャンダルだと思うけどいいのかい?まぁ今更だろうけど」
「今は盟主としてじゃなく、ただのお友達としての関係だからいいのよ。それに盟主なんて面倒な立場になると、こうした息抜きにすら招待できる面子が限られてきちゃうのよ。他の魔法少女の子達は私の事を見るだけで委縮してしまうし」
「そりゃ会社の社長から招待されるようなものだから、お茶会どころじゃなくなるだろうね」
圧倒的に上の立場の、しかも外見や雰囲気が如何にも天上人といった人物から招待をされても、楽しんで過ごす事が出来る人間がどれほどいるだろうか。
ただでさえ他の子達よりも大人びて見える彼女だ。年頃の女の子など、そそくさと逃げの体制に入るのが目に見える。
その自覚は彼女にもあるらしく、悩ましそうに溜め息交じりに呟いている。
「とはいえ、同年代の子とあんまり話が合わないのもあるから、立場がどうとかは一概には言えないんだけどね。そういった意味でも、貴女みたいに体裁を気にする必要のない子は貴重だし、ありがたいとも思ってるの。貴女は一人で活動している子だけど考えなしに動いている訳じゃなさそうだし、結構話せる人だとも思ってるから」
「そりゃ・・・過分な評価を頂き光栄だね」
「ふふふ。そういった言葉の言い回しも何処で覚えてくるのかしらね?ほんと、同じ年頃の子とは思えないわ」
「少なくともそれに関しては僕の台詞だと思うなぁ・・・」
見た目だけで年齢を判断できない場合、外見ではなく内面でどの程度かを判断するのは当然だろう。
それに則って考えてみたらどうだろう。
片や世界を守っている魔法少女のトップであり、この世界の為に尽力を尽くしている事が知られる少女。
片や立場も何もなく、自由気ままに動き回る一介のヒーロー。
誰がどう見たって、大人びているのはどちらかであるかと問われれば論ずるまでもないだろう。
「そう思わない?」
「一応私に向けられている評価自体は分かってるつもりよ・・・。だから、あんまりこういう姿を見せるのもどうかと思ってしまうのよ。威厳なんて欠片もないし、普段のイメージから考えれば可笑しいでしょ?」
「そうかな?」
可愛らしいピンクの花柄がプリントされたエプロンの裾を掴んでひらひらとさせながら困ったように笑うエンプレスは、確かに普段のイメージからすれば想像も出来ない姿ではあったが、魔法少女の年齢から考えれば相応の少女の姿をしていると言えよう。
「確かにいつもの姿とは違うけど、今の家庭的な姿も可愛くて、とても似合ってると思うよ?」
「・・・だったら、嬉しいわ。ありがとう」
僕の言葉を聞いたエンプレスは顔を少し赤く染めて目を逸らす。
彼女の立場であれば普段はこういった姿を見せることがないくらい肩肘を張っている事は想像に難くなく、きっとこうして評される事も中々ないのだろう。上辺だけのおべっかは多そうだが。
「もう・・・。貴女もいつもの黒い魔法少女服もいいけど、今日の格好は一段と可愛らしいわよ」
微笑ましい気持ちで照れている様子のエンプレスを眺めていると、その照れを隠すかのように目を鋭く細めた彼女がこちらへと反撃をしてくる。まぁそれが効くと思い込んでいるのは彼女だけだ。
「でしょ?まぁ精一杯おめかししてきたんだから当然だけどね」
腰に両手を当てて胸を逸らし、自慢の格好を彼女に見せつけてあげる。
彼女の言う通り今日の僕の格好は普段の紫黒の衣装ではなく、それとは真逆の白をメインとしたツーピースだ。赤いリボンが目立つブラウスと、足元近くまで丈のあるスカートを組み合わせであり、勿論フリルは目一杯に装飾されている。
いつもは流しっぱなしにしている髪も今日は片側にしっかりと纏め、ウェーブも少し掛けて少々大人っぽく見えるようにしている。
化粧はどうやればいいのか全然分かってないので顔はすっぴんだが、薄いピンクでマニキュアしたり、リップを塗ったり、簡単な部分から少しずつ学び所々アクセントを付けてみたりしている。
今日の僕は、普段の数倍は美少女度が増したと言っていいだろう。
「貴女はいつも自信満々ね・・・。羨ましいくらいだわ・・・」
「何言ってるのさ。君だって美少女度でいったら負けず劣らずだろ?」
僕の姿は魔法で作られた、いわば紛い物の様なものだが、彼女の姿は元々の容姿を基準としている為、そういった意味では魔法少女の姿でなくてもアイドル性の高い容姿をしていると予想が付く。
普通の女の子なら嫉妬する子すら現れそうだ。
「別に自分の容姿に自身がないって言ってるわけじゃないけど・・・。他人を評価するにも、自分を評価するにも、そこまではっきりと言える子は早々いないと思うわよ。恥ずかし気もなくそう言えるのはきっと才能なんでしょうね」
「事実だからね。それに、人を褒める言葉はきちんと声に出すようにしてるんだ。そっちのほうがヒーローっぽいでしょ?」
「良い事だとは思うけど、あんまり口を軽くしすぎるとそのままナンパな子にならないか心配だわ。男を篭絡する悪女でも目指しているのかしら?」
「誰がそんなもの目指すか!誉め言葉なんだから素直に受け取りなよ!」
「ふふ。ごめんなさいね」
口に手を当ててクスクスと笑っているのを見るに、ただ軽口を叩いているだけなのだろう。彼女の事はまだまだ詳しいとは言えないが、少なくとも悪戯好きな面がある事は理解できる。
「さぁ、とりあえず立ち話も程々にして、続きはお茶をしながらにしましょ。私、お菓子作りには自身があるから、きっと気に入って貰えると思うわ」
「そうさせてもらうね。前に頂いたお菓子もおいしかったから楽しみだよ」
彼女が先導してテーブルに案内するのに着いていき、促されるままに椅子へと着席する。
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