怪物はどこにでも

「どうだった僕の活躍は?いつも以上にヒーローしてたんじゃない?」

「っきゅ。とってもカッコよかったっきゅ。勝てるかどうか悩む必要なんてないくらいには圧倒的だったっきゅ。やっぱりブラックローズはビビりすぎだっきゅ」

「せめて慎重とか思慮深いって言ってよ」


 植物と成り果てた『ワンダラー』からの戦利品である魔石を探しながら、もきゅと今回の戦闘に関しての感想戦をする。

 真化という成長を遂げた『ワンダラー』相手に初めはどうなるかと思ったが、結果だけ見れば大勝利で間違いないだろう。もし次にアイツが現れたとしても、今度はもっと素早く処理できる自信だってある。

 そんな僕の様子を見て、自分は最初から分かってましたよと言わんばかりに自慢げに語るもきゅだが、君だって真化した『ワンダラー』の危険性は憂いてただろうに。調子の良い事だ。


「それで、真化した『ワンダラー』と戦ってみてどうだったっきゅ?ほとんど子供扱いだったし大した事なかったっきゅ?」

「まぁ、自分が思ってる以上に僕が規格外って事は理解したよ。普通の『ワンダラー』じゃ戦闘なんてならないくらい瞬殺だから中々実感がなかったけど、あんな怪物相手でも結果だけ見れば圧勝だったしね。周りへの被害を考えなければ、だけど」


 周囲の状況を見るが、『ワンダラー』が派手に暴れてくれたせいで崩壊してしまった道路や街灯などの他に、僕との戦闘によって被害が拡大してしまったものもある。建造物自体の倒壊はないものの、ほとんど身体能力のみを使ったせいでありまだまだ魔法の力は抑えてこれなのだから、全力なんて一生出してられないだろう。

 僕だって出来るだけ被害を出さないように頑張っているのだから、もっと建物さんサイドも頑張って欲しいところだ。


「今更過ぎるっきゅ。他の魔法少女達が戦ってる所だって見てるんだから、自分がどれだけ非常識な存在なのかもっと自覚を持つべきっきゅ」

「いや、分かってはいたんだけどさ。慢心するのは良くないし、そもそも街中で強すぎる魔法は使えないからあんまり関係ないかなって。まぁでも、リスクをあんまり考えずに戦えるってことは理解できたよ」


 ヒーロータイムのおかげで、豪速で飛んでくる車などを殴り壊してもまったくの無傷でいられるのも確認できたのは大きい。

 痛いのは嫌だし、とにかく安全を重視して攻撃面よりも防御面を重視した考えの魔法だったが、思惑通りにいって安心できたし、ムテキのヒーローって感じで爽快感もあった。素晴らしい魔法を産み出してしまったものだ。

 後は攻撃魔法をなんとかしたいところだが、正直僕の考える必殺技は大体敵が爆散するイメージしか沸かず、それを制御できない力で吹っ飛ばしたらどうなるかなんて考えるまでもない。間違いなく『ワンダラー』以上の怪物の出来上がりだろう。

 一応純粋な攻撃魔法をイメージして作り上げ、実験として海の上で軽く試し打ちをしてみた事もあるのだが、水分が一瞬で蒸発してえらい事になったので使い物にならなかった。ヒーローの魔法キックは焦土を作り上げることが可能だ。

 そういった事も加味すると、今の所は周りに被害の及ばない浄化魔法やドレインで着実に削り切るのが安パイな気がする。『ワンダラー』の養分から黒薔薇が咲いて綺麗だしね。


「とりあえずはこれからも安心して戦えそうで良かったよ。敗北を知るにはまだ早いって事だね」

「まだまだ自己評価が低すぎるけど、自信が付いたのは良いことっきゅ。これからはもっともっと挑戦して活躍するっきゅ!」

「機会があればね。おっ、魔石はっけーん」


 絡まった蔦の中からようやくと魔石を発見することが出来た。普通の『ワンダラー』が落とす物よりもより神秘的な光を内包するそれは、如何にも特別感に溢れている。

 まぁ、こんなものを拾っても僕自身は箪笥の肥やしにしかならず、使う気などはサラサラにないのだが、他の魔法少女達にとっては大事な物だろうし協力関係にあったクォーツにさっさと渡してしまう事にする。彼女ならきっと、この石も活用してくれることだろう。


「よし。さっさとクォーツにこれを渡して帰宅しよう。『ワンダラー』が消滅した事で野次馬が集まってきても面倒だし」

「いつも思うけど、目立ちたいなら『ワンダラー』を倒した後に少しだけ残ってみたらどうっきゅ?きっと感謝する人たちだって現れるっきゅ」

「一部の人はきっと助けてくれたヒーローとして見てくれるだろうけど、大体は事故現場見たさの野次馬達でしょ。僕は活躍したいのと純粋な感謝が欲しいだけで、そういった人たちに絡まれたい訳でも面白おかしく見世物にされたい訳でもないの」

「わがまますぎるっきゅ・・・」


 うっさい。あんまり人と関わるのが得意じゃない性分なんだから仕方ないだろ。自己中心的な考えを説教したいのなら魔法少女にする所からでもやり直してくれ。





「――――――ではないのでしょうか?」

「――――困ります・・・」

「――――――じゃないんですか?」


 魔石を渡すために遠くから支援してくれていたはずのクォーツの姿を捜していると、その当人と何やらカメラやらマイクを持った数人が話しているのが見える。

 仰々しい機材を見るにテレビ関係者だろうと判断でき、ヒーローインタビューでもしているのかと思ったのだが、それにしてはクォーツには困惑や怯えが見えるし、取材している側にも遠慮がないというか図々しさが見える。

 周りにいる警察の方々も止めようとはしているもののあまり強く出られておらず、それを意に介さずにクォーツへと詰め寄る姿は餌に群がるハイエナのようだ。表面上は皆笑顔を張り付けているのが逆に不気味まである。


「もう僕帰りたくなってきたよ」

「クォーツ困ってるっきゅよ?見捨てるっきゅ?」

「人聞き悪い事言わないでよ・・・言ってみただけだよ。はぁ・・・めんどうだなーやだなー・・・」


 明らかに悪意を持った人間に近づくなど、面倒以外の何物でもないだろう。アレらは確実に面白おかしさを求めている野次馬側の人間だ。

 しかし、クォーツにアレを任せて帰るのは流石に気が引ける。まだまだ子供である彼女にとってああいった手合いは対処しがたいものだろうし、敵とも認定しにくいために手出しができないだろうし。


「仕方ないね。僕が大人の対応を見せてあげようか」

「大丈夫っきゅ?逆にこじれないっきゅ?」

「こじれようがなんだろうが周りの大人達も頼りにならないみたいだし、ヒーローがいい様にされ続けるよりはマシだよ」


 こういう時くらい、大人が矢面に立つべきだろう。

 脚に力を入れて大きく跳び上がり、クォーツと取材班の真ん中へ分断するようにと飛び込むと、僕に気づいた人達が驚いて一歩ずつ後ずさりスペースを開けてくれる。

 思いっきり目立つように着地した為、一瞬で喧騒が止み静寂が訪れる。

 中々に気まずい空気の中、いきなりの乱入者である僕にまじまじと視線を向けられるのを感じるが、まずはそちらは無視してクォーツの方へと向き直る。

 暗い表情をしている彼女はどうやら中々に面白くない言葉を投げかけられたらしく、『ワンダラー』と対峙している時の気迫が見る影もないくらい弱々しくなっている。

 魔法少女という力を持った存在とはいえ、実態はただの少女だ。にも拘らず、大の大人が寄ってたかって何を言ったのやら。


「ブラックローズさん・・・あの、えっと・・・わたし・・・」

「クォーツ。君はもう帰って休みなよ。委員会の人たちも君を捜してるよ」

「で、でも・・・」

「でもじゃないよ。こんなに震えてるのに、この程度の些事に頑張る事なんてないよ」


 何やら俯きながら躊躇っているようだが、この場に彼女がいるのはよろしくないだろう。今も背中には、叩けば鳴るお気に入りの玩具を取り上げられて不服そうな『コドモ達』の視線が痛いほど刺さっている。

 ただでさえ空気の悪い場所だが、これからもっと悪くなるだろうし、早いとこ退場願おう。


「はいはい、そこの人も。ぼさっと見てないでさっさと連れてって。この場に彼女がいるのは相応しくないのは分かるでしょ」


 警官にクォーツを預けてさっさと向こうへ行くようにとジェスチャーする。

 初めは怒涛の展開に混乱していたようだが、弱り切ってしまったクォーツの対応が一番先だと判断してくれたのか了承し、そのまま遠くへと連れて行ってくれる。

 後に残ったのは、紫黒が光に反射するミステリアスな宇宙一可愛い魔法少女と、新しい玩具を見つけてどう料理しようかと思案している獣たちだ。

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