技術の発展にリスクは付き物です

「『魔法少女』と『ワンダラー』の関係は大体わかってもらえたとおもうっきゅ」

「『妖精』との関係もよくわかったよ」


 お腹が空いたので注文したピザでも食べながら話の続きをすることにした。宅配に来てくれた兄ちゃんからピザを受け取るとき、笑顔で感謝をしたら顔を赤らめていたのが非常に印象的だった。

 まぁこんな美少女と対面してしまったら恥ずかしくなってしまう気持ちもわかる。


「定期的に鏡に向かってるのはなんなのっきゅ・・・」

「いや、ピザ食べてる姿も可愛いなって」

「あ、そう・・・。それはよかったっきゅ・・・」


 いくらヒーローになったとはいえ、世界の裏側みたいなあまりにも壮大な話を詰め込まれても僕の頭では整理しきれないので、開き直って楽しむのが一番だと思う。

 苦悩するヒーローも嫌いじゃないが、まぁ僕の性には合わないし程々に緩くやっていきたい所存だ。

 だからこうして女の子の身体を楽しんでいるのだって大事なことなのだ。


「なのだ」

「もきゅが思った通り君は魔法少女としての才能は世界一っきゅ。そのままお仕事のほうも頑張ってくれると助かるっきゅ。ピザおいしいっきゅ」


 もきゅが残りのピザを平らげながらお褒めの言葉をくれる。お前ピザとか食えるんか。


「もきゅもきゅもきゅ。それじゃ魔法少女としてのお仕事の話をするっきゅ。さっきも言ったけど君は野良の魔法少女として活動してもらうっきゅ。つまりは他の魔法少女とはちょっと違うお仕事を任せるつもりっきゅ。先に裏事情を話したのもその一環っきゅ」

「魔法少女学校ってのに通わなくていいのか?」

「問題ないっきゅ。というより魔法少女学校は政府公認のものだから野良の魔法少女が入れる場所じゃないっきゅ。それに魔法少女学校で学ぶことは、魔法やモラル以外のことだと一般的な小学校から中学校レベルに合せられてるっきゅ。今更小中学生に交じって授業でも受けるつもりっきゅ?」


 小中学生って・・・。そりゃ魔法『少女』というくらいならそんなものか。確かにそれくらいの年齢の子が魔法なんて魅力的なものを手に入れてしまったら、もしかしたらタガが外てしまう子も出てくるかもしれないな。


「ついでに言うと男から女になった魔法少女もいないから学校に通っても肩身が狭いっきゅ」

「あっ、はい」


 そりゃ僕と同じような子はいないっていってたけど。


「僕の他に野良の魔法少女っていないの?」

「今はいないっきゅ。『ワンダラー』が大量発生したときに妖精総出で魔法少女を生み出したけど、その子たちはみんな組織に所属するように促したっきゅ。だから今いる魔法少女は君を除いてみんな国の管理下にいるっきゅ。ただ、これから魔法少女になる子の中には、組織に所属しない野良の魔法少女が絶対増えるっきゅ」

「そっか。じゃあそのうち野良の魔法少女同士で協力したりすることもあるのかな」


 国に所属するヒーロー達と国に所属しないヒーロー達の対立や協力、いいね。


「いや、基本的に『ブラックローズ』は野良の魔法少女を痛めつける役目になってもらうっきゅ」

「は?」


 なんだそれ。小中学生を痛めつけろとか悪役以外の何物でもないぞ。


「別に意地悪でいってるわけじゃなくて真面目な話っきゅ。野良の魔法少女になるってことは基本的に政府の管理下からも外れ、魔法少女学校に通う意思がない、要するに不良みたいなものっきゅ。魔法少女『ブラックローズ』はそんな不良にお灸を据えるダークヒーロー的存在になるっきゅ」


 いや僕はダークじゃなくてホワイトなヒーローだが?見た目は黒めだけど。


「魔法少女にはそれぞれ妖精がついてるんでしょ。それなら魔法少女になった時点で通わせるようにすればいいとおもうけど」

「もきゅがこれを言うのは恥なんだけど、妖精は基本的に自由っきゅ。面白いと思ったら平気で野良にさせるような不良ばっかっきゅ。最低限、魔法を悪用されないためにも、力づくでなんとかできる存在が必要っきゅ」

「妖精役に立たねぇな」


 確かに『ワンダラー』を倒すことのできる『魔法少女』がモラル度外視に暴れまわったら、その被害は洒落にならないものだろう。国が対処しようにも魔法に対応できるかは不明だし、魔法少女同士で争わせるわけにもいかない。そう考えると僕の役目は意外と重要なのかもしれない。


「とはいっても言葉で解決できるならそれで問題ないっきゅ。野良であること自体が問題というよりは、あまりにも好き勝手に暴れまわられると『ワンダラー』よりも脅威になるっきゅ。考えた上で野良でいるのなら、それは歓迎すべきことっきゅ。だからあくまで抑止力としてブラックローズの役目は必要って話っきゅ。そしてそれが君に任せたい仕事の一つっきゅ」

「怪物以外に力を振るうのはなんか気が引けるね」

「貧乏くじを引かせるようで悪いけど、これは誰かがやらないといけないことっきゅ。ただ、組織に所属する魔法少女がそういったことをするには、ルールも整備されてないし、国ごとの連携もできてないしで、まだまだ土壌が完成するまで時間がかかるっきゅ。ブラックローズはそんなしがらみに縛られない謎の魔法少女をやってもらうっきゅ」


 やっぱりパーソナルカラーは黒とか白枠のヒーローか。

 あまり縛られたくないし自由に動き回れるのは正直助かる。


「他には何もすることないの?」

「いや、もちろん怪物退治もしてもらうっきゅ。ブラックローズの魔法力は他の魔法少女と比べても規格外っきゅ。だから普段は抑止力として影にいてもらうけど、あまりにも強大な『ワンダラー』が現れたときには頑張ってもらうから期待するといいっきゅ」

「規格外といわれても全然自覚がないんだけど」

「生まれた時から女だったという書き換えが可能なくらいには規格外っきゅ。あれはもきゅが手伝って魔法を発動させたけど、基本的には君の才能があってこそできたものっきゅ。ここまで完璧に発動できるとは予想以上だったけどっきゅ」


 改めて聞くと魔法という技術の異常さに呆れるが、もし完璧に発動されなかったら一体どうなってたんだ・・・。


「あともう一つとても重要なお仕事があるっきゅ。基本的にはそれらがブラックローズのお仕事で、それさえこなしてもらえれば後は自由にしてもらって構わないっきゅ」

「重要なお仕事?」

「まぁそれは実際にやってもらったほうがいいから後々説明するっきゅ。それよりそろそろ魔法がどんなものか試してみたくないっきゅ?」

「試したい!」


 試したくないわけがない。ずっと楽しみでうずうずしてたくらいだ。


「まず魔法とはどんなものなのかを説明するからよく聞くっきゅ」

「はい、先生!」

「魔法は簡単に言うと『魔法力』というエネルギーを使って『物事を改変する技術』っきゅ。君が女の子になったのも、男としての記録がなくなってるのも、すべて魔法で改変したからっきゅ」

「魔法って万能なんだね」


 過去を改変できる技術なんてやりたい放題できちゃいそうだ。ゲームとかだったら弱体化間違いなしだろう。


「そうとも言えるし違うとも言えるっきゅ。さっきも言ったけど魔法を使うには魔法力が必要っきゅ。当然改変する規模によって、必要になる魔法力は増えていくっきゅ。万能と言えるくらいの魔法力を用意するのは非現実的っきゅ」

「過去を改変できる時点で万能に近い気がするけど」

「それくらい君の魔法力は異常で非現実的なものだと自覚して欲しいっきゅ。普通の魔法少女がそんな無茶したら、魔法力の足りない代償に一瞬で存在自体消し飛ぶっきゅ」

「それ僕の存在が消し飛ぶ可能性があったってことじゃ・・・」


 なんてことしてるんだこのまんじゅう。そもそも魔法力が異常と言われても比較対象がいなきゃどれくらいもわからんし自覚なんてできないわ。


「そんなことにはならないように調整してたから安心してほしいっきゅ。まぁようするに魔法は、魔法力があれば色々できる便利な技術くらいに思っておいてくれればいいっきゅ。ただ魔法力が足りないまま無茶な魔法を使おうとすると、代償が必要になって最悪存在が消滅するから、用法容量をきちんと守って利用するのが大事っきゅ」

「なんかそれだけ聞くとめちゃめちゃ危険じゃない?」

「『ワンダラー』に対抗できる力が危険じゃないわけがないっきゅ。君たちにも身近な包丁や車だって、使い方次第では簡単に凶器に生まれ変わるっきゅ。だからそういった間違いが起こらないようにするためにも魔法少女学校で学ぶ必要があるっきゅ」


 使い方を間違えれば最悪消滅するなんて爆薬レベルの危険物だと思うが、まぁそこらへんはお偉いさん方々がなんとかしてくれるだろう。僕が気にしたって仕方ない。


「魔法が使い方によって危険なものってことは理解してもらえたと思うっきゅ。特にローズ、君の魔法力はそれこそ万能に近い力を持っているっきゅ。存在が消滅する心配よりも、改変しようと思えばなんとでもできちゃうことを心配したほうがいいっきゅ」

「なんで僕だけその『魔法力』が多いのさ。そもそも魔法力って何で決まるの?」

「そこらへんはもきゅ達でもわからないっきゅ。魔法力自体は誰でも持っているものだけどそれぞれ個人差があって、それを魔法として発現できるのは何度確認しても少女だけだったっきゅ。どれくらい魔法力があるかはもきゅ達が大体を見ることができるんだけど、何を基準にして決まってるのか、どうやって成長させればいいのか詳しい事はわかってないっきゅ」


 なんだかわからないことばっかだな。いつか暴走し始めたりしないか?


「そういった便利でもあり危険でもあり、まだまだ発展途上のものであるということを念頭に置いたうえで、魔法を使ってもらうっきゅ」

「分かった。それでそれで、どうやれば使えるの?」

「まずは変身したいと願うっきゅ。そしてその時に戦うための力を願うっきゅ。そうすることで魔法を使うための魔法武器マジカルウェポンを生み出すことができるっきゅ」

「よし。」


 変身シーンは大事だ。魔法少女に限らずヒーローといえばまず変身、これは間違いないだろう。

 一度は変身したが、あの時はパニックながらだったのでノーカン。

 深呼吸をしてポーズを決めながら、戦う力を願って気合を入れて叫ぶ。


「変身!」


 身体が光に包まれ、瞬間的に魔法少女服へと着替えが完了する。

 そんな満足のいく変身を決めた僕の前に、重厚な存在感の放つジェラルミンケースらしきものがゴトりと落ちてきた。

 

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