魔法少女は友達が少ない(当社比)

 明らかに部屋のレイアウトには合わない銀色の輝きと、これでもかと存在感を放つこの箱は、僕の記憶が正しければジェラルミンケースとかいう奴だろう。

 中を開けたら札束でも詰まっていそうなイメージがあるが、僕の武器は財力とかそういう話じゃないよな・・・?こちとら庶民どころか貧乏人だぞ。

 恐る恐るケースのロックを外しゆっくりと開けると、そこに入っていたのはお金ではなく、武器といって相応しいだろう剣と銃の見た目をしたものと、何に使うかわからないメダルとカードが複数枚、いつの時代だよと言いたくなるような折り畳み式の携帯が一つ入っていた。


「これが、僕の魔法武器?」

「そうみたいっきゅ。大体の魔法少女は杖だったり本だったりアクセサリーだったり、もう少し可愛らしいものなんだけど、ローズのはもう正真正銘武器って感じのばっかっきゅ」

「いや武器を生みだしたんだから問題ないでしょ」


 むしろ本とかアクセサリーのほうが武器としてどうかと思うんだが、魔法少女ってそんなものなのか?


「魔法を使うのに本来の形や用途は関係ないっきゅ。あくまでその人が魔法を使いやすい形に具現化するっきゅ。例えば本であればページ毎に魔法があって、特定のページを開いたり特定の文言を言葉にすることで、安全に、間違いなく魔法を発動できるっきゅ。魔法武器を持って決められた行動をしないと魔法は発現しないようになってるから、魔法武器は魔法を発動させるためだけじゃなく、セーフティの役目もしてるっきゅ」

「まぁ確かに、意図しない魔法を使ったり暴発したりすると大変だろうしね」

「そういうことっきゅ。魔法の発現、指向性、安全性を備えてるのが魔法武器と覚えておくといいっきゅ。あ、本来なら武器がないと魔法は使えないけど、ローズは想いの力が強すぎると意図しない魔法が発現しちゃうかもしれないから気を付けてっきゅ」

「気を付けてってセーフティはどこいったんだよ」

「仕方ないっきゅ。過去を改変できるレベルの力にセーフティかけようが、それ自体が改変されちゃうっきゅ。だからローズは、変身中は魔法を使おうとして強く願うのはやめたほうがいいっきゅ。ぶっちゃけ、武器として使うにしても素の魔法力が高すぎるから魔法武器とかおまけみたいなものっきゅ」


 おまけって・・・。せっかくのヒーローっぽいポイントなのに・・・。というか僕ってかなり危険人物じゃないのかこれ。


「とりあえず魔法武器を持ってほしいっきゅ。そして使う魔法を定義して欲しいっきゅ。例えば銃を持って「引き金を引くことで銃口の先のものは修復される」と思いながらそこの壊れた机に試してみるといいっきゅ」


 まだよくわかっていないので、言われたままに銃を取り出して壊れた机に銃口を向ける。

 鉄の塊のような見た目をしながらも意外にも軽いその拳銃は、小さくなってしまった手のひらでも軽く握れるくらいフィットする。

 引き金を引けば修復される、そう思いながら引き金を引くと『カチッ』という軽い音と共に、まるで時間が巻き戻るかのように、壊れた机が約1時間前の元気な姿を取り戻した。


「おぉー!すごい!」

「問題なさそうっきゅね。これでその銃は「引き金を引くことで銃口の先のものは修復される魔法」を使える魔法武器になったっきゅ。魔法名を定義してその名前を呼びながらじゃないと発現しないようにすれば、より細かく複数の魔法を使えるようにもできるっきゅ。基本的な魔法少女はこうやって魔法の定義していくことで、間違った魔法が発動しないようにしていくっきゅ。仮に魔法力が足りなくなるような規模の大きな魔法を設定しても、魔法武器を使用してれば先に自壊するようになってるから、一気に魔法力をつぎ込まない限りは安心設計っきゅ。まぁローズには関係ない話ではあるっきゅ」

「話の最後に落とすのはやめてよ。とりあえず使いたい魔法を定義して魔法武器に設定していけばいいんだね」

「そうっきゅ。さっきは『ローズだと想いの力が強すぎると意図しない魔法が発現しちゃうかもしれない』っていったけど、きちんと定義して流れに逆らわなければ、それに従って魔法は応えてくれるはずっきゅ。そういった意味ではローズにとってかなり重要なものだからサボらずにやってほしいっきゅ」

「サボらないよ!!」


 僕を一体何だと思ってるんだろうか。色々な魔法が使えると思えば楽しい作業以外の何物でもない。

 とりあえず全ての武器をケースから取り出してしっかりと確認をする。

 まずは先ほども使った銃だ。拳銃と呼ばれるだろう形とサイズで厚みは薄く、グリップにはマガジンが入っている。マガジンを取り出すが銃弾が一発しか入ってないしそれ以上入れられそうもない。

 ジェラルミンケースをよくみると銃がはまっていた下に様々な色の銃弾が入れられていた。

 多分最初に入っていた弾には「引き金を引くことで銃口の先のものは修復される魔法」が込められているんだろう。

 つまりは入れた銃弾に応じて魔法を変えることができるんだろう。わかる。

 

 次ははこの剣だ。

 剣身は短く、片手でも扱えそうなサイズで、剣身と柄を繋ぐ部分に円形のくぼみがついている。

 剣はまぁ武器としてわかりやすいものだろう。斬ってよし、突いてよし。シンプルに武器として連想されるものの中ではスタンダードなものだろう。むしろ魔法を使うための道具とは思えない。

 ふと思いついてメダルを取り出し、円形のくぼみの部分に合せてみるとぴったりはまる。

 つまりは入れたメダルに応じて魔法を変えることができるんだろう、わかるわかる。


 こう考えてくと意外とどれも使い方がわかりそうだ。

 携帯は番号によって魔法を設定できそうだし、カードも1枚1枚設定すればよさそうだ。

 どうしてこのラインナップに変身ベルトがないんだろう・・・。携帯もカードもベルトに差し込んで使うものじゃないのか・・・。


「あ、携帯は魔法武器としても使えないこともないけど、大体の魔法少女は普通の携帯とか便利アイテムとして使ってるっきゅ。というか折り畳み式って初めて見たっきゅ。若い子はみんなスマートでパネルをタッチするタイプっきゅ」

「これ普通に携帯なのか・・・。いや僕だってこんな古いタイプは初めて触るんだけど・・・タッチパネルじゃないと使い方わからないよ」


 折り畳み式の携帯なんて、僕らの世代だと骨董品というかロマンというか、要するに一般的じゃない。

 携帯をパカッと開いて数字をてきとーに打ち込んでみると、画面には入力された数字が表示される。

 電話としてならなんとか使えそうだな。


「魔法少女同士で連絡を取るときはこれを使って欲しいっきゅ。使用者以外には使えないから防犯目的は勿論、魔法少女専用の掲示板だったりSNSだったりヘルプだったり、色々充実してるっきゅ。まぁローズは野良の魔法少女だからそんなに活用することはないかもしれないけど」


 当たり前だけど野良の魔法少女の肩身狭いな。ヒーローって少年漫画が如く、『友情、努力、勝利』みたいなものをイメージしてたけど、もうすでに『友情』の線は消えてしまった気がする。それどころかもきゅの言い方からして、他の魔法少女と比べて『努力』の部分も中々に怪しい。『勝利、勝利、勝利』なんてブラック企業が掲げるスローガンみたいなヒーロー生活は送りたくないんだが。


「大体の説明はしたけど分からないことがあったら色々聞いてほしいっきゅ。もしどんな魔法を入れればいいか迷ったらこの本を読むといいっきゅ」


 もきゅが何やら分厚い本を渡してくる。なんだこれ、『楽しい魔法の使い方 初級編』?


「魔法少女学校で渡される教科書みたいな物っきゅ。魔法少女になった子は最初にこの本を読んで、自分の適正や扱える魔法を学んでいくっきゅ。ローズにはあまり必要ないかもしれないけど、安全な魔法がどんなものか例題があるから、流しでもいいから読むといいっきゅ」

「いや教科書っていうならかなり大事なものなんじゃないの?僕はこれでも新しい機械とか買ったらまず説明書を読むタイプだよ?」

「ローズに適正も扱えない魔法もないっきゅ。『モノの修復させる魔法』を簡単に発現させた時点でこの教科書の8割くらいは役に立たないっきゅ。まぁ気になるなら読んでみるといいっきゅ」


 8割は役に立たないと言われてしまった本を渡されたわけだが、勿論僕は読むことにした。

 なんといえばいいのだろうか、ゲームをやる前に読む説明書だったり、データの詰まった攻略本だったり、そんなワクワクするような気持ちで本を開く。






 魔法とは魔法力を使って物事を改変する技術である。

 魔法とは扱いを間違えれば危険なものである。

 魔法とは万能のものではない。


 もきゅが僕に話してくれたような魔法に関しての説明から始まり、どんな魔法に適正があるかの調べ方や魔法力の扱い方、魔法の難易度だったり安全な魔法の例など、魔法のマニュアルとでも言うべき本になっていた。

 魔法の適正というのは魔法少女ごと得意な属性みたいなものがあるようだ。

 火の魔法だったり水の魔法だったり、魔法少女としてイメージしやすいものから、硬くなる魔法とか驚かす魔法など個人ごとに多種多様らしい。

 適正以外の魔法は使えないというわけではないが、難易度が高くなるほど制御しにくくなることから、魔法少女はまず適正のある魔法から伸ばしていく。

 魔法の難易度とはどこまで改変を及ばせるかで決まるみたいで、例えば自身に影響を与える魔法はそこまで難易度が高くないが、モノを対象にすれば難易度が上がり、距離が開けばさらに難しくなり、他人に直接影響を与える魔法は超高難易度らしい。

 じゃあ男から女にする魔法は難易度低いんじゃねって思ったんだけど、身体の構造を完全に書き換えるような魔法は難しい上に危険が多いらしい。おいこらまんじゅう。

 とにかく魔法というのは『何をどの程度改変するか』という、対象と規模によって難易度が決まるらしい。

 そう考えると、過去から現在までの男であった事実を女であったと改変するのはどれだけの難易度になるのか見当もつかないし、それが可能だから僕は難易度も適正も考えるだけ無駄らしい。

 というか「引き金を引くことで銃口の先のものは修復される」なんてあまりにも杜撰過ぎる魔法だと、普通は発動自体しないらしい。


 読めば読むほど普通の魔法少女とは違うという疎外感になんとなく寂しくなりながら、比較的安全そうな魔法を設定していく。とはいえ怪物を退治する為の魔法なので絶対に安全であるという保障はないらしい。


「魔法って難しいね」

「これでも簡単で安全になったほうっきゅ。でもリスクを100%なくすなんてこと簡単にはできないっきゅ。だからもし『ワンダラー』と相対しても、あまり被害を気にして魔法の使用を躊躇っちゃだめっきゅ。魔法少女の中にはそういった被害を気にしすぎちゃって、戦えなくなっちゃう繊細な子もいたっきゅ」


 そりゃ自分の使った魔法で建物とか破壊したり、人を傷付けてしまったら、気にしないなんて難しいだろう。もし僕がそういった状況に陥ったら躊躇わずヒーローを続けていられるだろうか・・・。


「まぁ、ローズはそういったことも気にしないくらい自己中心的なヒーローに憧れていたから、あまり心配はしてないっきゅ」

「僕への評価低くない?」


 図太さはヒーローの素質だ、と褒められたが嬉しくない。

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