悪の組織の幹部が実は元味方なのは有名な話
結局、僕は魔法少女ブラックローズとして、もしくは一般人ローズとして活動することとなった。
せざるを得なかったとも言うことができるが、まぁ愚痴っても仕方のないことである。
戻すことはできないと言われてしまったらそれまでだし、そもそも過去を改変したとか理解しようとするだけ無駄だろう。
魔法とはそういうものである、無理やりにでもそう納得しておくことにする。
女の子としての人生を歩むことについては、あまりにも複雑すぎる心境だが、新しい人生を歩むのだと自分に言い聞かせることにした。名前が『ローズ』とだけしかないのは日本人的にどうにかならんのかと思ったりもしたが。
最大の障害である僕の身分も、魔法によって改変され保証されているようだし、ここまで来たら楽しむほうが大事だろう。
「こうなったら仕方ないし、ヒーローとしての仕事を頑張るとするよ。うん、不承不承だけど。」
「いや、そんなにノリノリで言われても説得力がないっきゅ・・・」
鏡に向かって自身の姿を確認しながらもきゅへと決意を露にする。
よくよく考えたら、自分がどんな姿にかわったのかしっかりと見ていなかったので今こうして確認をしているが、なかなかどうして悪くない。
顔はどうみたって可愛い。長いまつげでぱっちりとした眼は紫の瞳と相まってミステリアスな印象を与えるし、色素の薄い肌に映えるピンクの唇は、笑うことで無邪気さをアピールする武器となるだろう。
黒と紫で構成された全身は、ヒーローといよりはどちらかといえば悪役らしさがありそうだが、幻のシックスマンとして登場する味方が白や黒がパーソナルカラーであることは珍しくない。
鏡の前で色々なポーズや表情を確かめながら、どの角度が一番かっこよく見えるかを確かめる。
鏡の中の少女も満足げな表情でこちらを見返してくる。
魔法少女作品に造詣はまったく深くないが、これを期に勉強するのも悪くないだろう。
「それで、魔法少女はどんなことをすればいいんだい?化け物退治はもちろんするんだろ?」
「あぁ、うん。君が意外と切り替えが早いのはもきゅとしては嬉しいことっきゅ。とりあえず、魔法少女としての役目と、世界が今どんな感じになってるか説明するから鏡じゃなくてこっち見て欲しいっきゅ」
もきゅがじーっとした眼でこちらを手招きしてくる。
もう少し眺めていたかったが、これから時間なんて山ほどできるだろう。
近くのソファへ腰を降ろし、割れた机の上で佇むまんじゅうへと目を向ける。
「色々聞きたいことはあるだろうけど、まず現状の説明からさせて欲しいっきゅ。知っての通り、今世界では君たち人類がいうところの『ワンダラー』が暴れており、それに対抗するための存在として僕らが生み出している『魔法少女』がいるっきゅ。君、ローズの仕事は『ワンダラー』の討伐はもちろん、少し特殊な事も手伝ってもらいたいっきゅ」
「少し特殊な事?」
「きゅ。まず『ワンダラー』が何かって話をするっきゅ。『ワンダラー』は君たち人類の『不満』や『悪意』といったマイナスの感情が集まって産まれた怪物っきゅ。あまりに強い負の感情だから、近づけば気分が悪くなったり、触れるだけで正気を失ってしまったりするっきゅ」
なるほど。負の感情の集合体が怪物の正体だと。まぁありがちな展開だろう。
「君には色々と事情を知ってもらいたいから先にぶっちゃけちゃうけど、実は『ワンダラー』が産まれたのはもきゅ達『妖精』のせいだっきゅ」
「は?」
魔法少女を生み出している妖精がワンダラーを産んでいる?なんの冗談だ?
「一応いっておくけど『妖精』って呼び方はもきゅ達が付けた名称じゃないっきゅ。魔法少女にした子達が僕らにそう名付けただけっきゅ。流石に自分から言い出したりはしてないっきゅ、恥ずかしいっきゅ」
「いや聞きたいとこはそこじゃねぇよ」
魔法少女の相方が妖精であることに今更疑問を覚えたりなどしない。当然すぎてスルーしてたわ。
「『妖精』が『ワンダラー』を産みだしたってどういうことだ?マッチポンプでもしてるのか?」
「結果的にはそうなってしまってるっきゅ。でも初めはそんなつもりはまったくなかったっきゅ。言ってしまえば、ちょっとした事故が起きてしまったから火消しとして『魔法少女』を提供してるって感じっきゅ」
「なんか嫌な例えだな・・・」
ちょっとした事故で怪物を産みだすってこいつらは一体何をやらかしたんだ。というかこれ以上僕のヒーロー像を壊さないで欲しいんだが。
「僕達『妖精』は、本来君たち人類が生み出している『不満』や『悪意』を糧にして生活してるっきゅ。人類が生み出したマイナスの感情を僕達が食べて軽減する、いわば良き隣人ってやつっきゅ」
さっきの話を聞いたあとに良き隣人って言われてもな・・・。そもそもいままで存在自体知らなかったし。
「その良き隣人がなんで『ワンダラー』なんて怪物を産みだしたんだ?」
「さっきもいったけどもきゅ達にとってマイナスの感情は糧、つまり生きていくのに必要不可欠なものっきゅ。それは食事という意味だけじゃなくてすべての物事に使える超便利なエネルギーみたいなものっきゅ。僕達が与えることのできる魔法も、元々はそのエネルギーから研究された産物っきゅ。生きていく上では十分なくらいのエネルギーは集まってたんだけど、更なる発展のためにもっと効率の良い方法はないかって考えたとき、画期的な方法が提案されたっきゅ」
「なんだか嫌な予感がしてきたんだけど」
「そうだ、養殖しようって」
やばい事言い出したぞこいつ。やっぱ邪悪はこいつらなんじゃ・・・。
「勘違いして欲しくないんだけど、あくまで悪い感情を集めてそれを成長させエネルギーとして活用しようとしただけで、人類の皆様から新しく負のエネルギーを出してもらおうとかそんなことはしてないっきゅよ?」
「当然でしょ。そうじゃなかったら僕が滅ぼすから安心するといいよ」
「嘘じゃないからやめて欲しいっきゅ!話を続けるけど負のエネルギーを集めて成長させた結果養殖は成功したっきゅ。これでエネルギー問題は解決、未来の発展は間違いないものになるはずだったっきゅ。ただまぁ、調子に乗りすぎたっきゅ。養殖に成功したならもっと成長させればもっともっと効率がよくなるのでは、と持てる技術の限りを尽くした結果・・・」
「化け物が産まれた、と。言っちゃなんだけど失敗するべくしてしたって感じだね」
「面目ないっきゅ。一つのことに集中したら後先考えられなくなるのがもきゅ達の悪い癖っきゅ。とにかく、そうやって成長した怪物が『ワンダラー』で、それを討伐してもらうために『魔法少女』にお願いしてるっきゅ」
なんというか、やっぱりマッチポンプでは?とおもってしまう。まぁ悪気があったわけではないみたいだし、あまり責めるつもりもないけど。
「とりあえず事情は分かったよ。僕としてはヒーローになれたしとやかく言うつもりはないしね。それより、結局『ワンダラー』って何匹産まれたの?あと何匹討伐されてるの?」
「えっと・・・たくさん」
「え・・・数えきれないくらい産み出しちゃったの?」
そうなると魔法少女としての仕事もたくさんありそうだ。
「違うっきゅ。本当なら産み出した『ワンダラー』は1匹だけだったっきゅ。でもその・・・もきゅ達『妖精』の中からもっと『ワンダラー』を産みだすべきだって言う者も現れて・・・」
「離反者が出て『ワンダラー』が常に産み出されてるってわけね」
「そういうことっきゅ・・・」
研究者が実験を続けたくていままでの組織を離反し、悪の組織を発足する。なるほどわかりやすい。
「じゃあ大本を叩かないと『ワンダラー』はこの先ずっと現れるんだ」
「正直いってそうとはいえないんだっきゅ。知っての通り『ワンダラー』は今や世界中で沢山確認されてるっきゅ。でも、こんな広範囲にこんなペースで産み出されている時点で、もきゅが知ってるやり方とは最早違うものと考えてるっきゅ。最悪、自動的に『ワンダラー』が産み出されるようになってるかもしれないっきゅ」
想像以上にやばいことをしでかしてくれたらしい。やっぱりこの『妖精』達は滅ぼしたほうが世のため人のためになるんじゃないか?まぁ僕としては活躍の場が増えるのはありがたいことではあるのだが。
「そうなると魔法少女は大忙しだね。学校にいったりとかお仕事にいったりとかできなくなっちゃうんじゃない?」
「学校に関しては『魔法少女学校』を作ったっきゅ。もちろん魔法少女にはきちんとお給金だって出るっきゅ」
「『魔法少女学校』とはまたベタな・・・。というかお給金はどっから出てるんだよ。やだよ僕、怪しいお金受け取って捕まるのは」
「『魔法少女学校』に関してはいまはおいておくっきゅ。ローズは野良の魔法少女だからしばらくは気にする必要はないっきゅ。いまはそういうものがあるとだけ思って欲しいっきゅ。お給金に関しては足がつかないものを用意してるから気にしないでいいっきゅ」
「足がつかないって不安になるようなこと言わないでよ。まぁ給料が出るなら有難くもらうけどさ・・・。それより野良の魔法少女?ってどういう意味?」
「野良っていうのはどこにも所属をしてないって意味っきゅ。魔法少女は君を除いてみんな年端もいかない女の子っきゅ。若気の至りで魔法少女としての正体を明かしてしまったり、魔法の力を悪用されたら『ワンダラー』以上の災害になること間違いないっきゅ。そういった間違いが起こらないため、もしくは起きたときに対応するために魔法少女を管理する組織を国が作り上げてるっきゅ。基本的にはもきゅ達の問題というより国それぞれの問題だからあんまり関与してるわけじゃないけど、『魔法少女学校』は各国ともきゅ達『妖精』との共同だし、お給金だったりもそこから出てるっきゅ」
「組織ねぇ・・・。そりゃここまで被害が大きくなれば国も動き出してるか。よくまぁ、元凶の『妖精』と手を組めたって感じだけど」
「あ、言い忘れてたっきゅ。その話は内緒でお願いするっきゅ」
「は?」
もきゅは気まずそうに眼を逸らしながら言う。
「ローズには裏話をしちゃったけど、実はもきゅ達が原因だって話はだれにもしてないっきゅ。あくまでもきゅ達は『悪い怪物をやっつける魔法少女を生み出すことのできる精霊』だっきゅ」
「えぇ・・・それはあまりにも無責任すぎない・・・?」
「そうはいっても『ワンダラー』を産み出した時も『妖精』の大半は「すごいものができた」としか思ってなかったし、いま魔法少女を生み出してるのだって「強い者」に「強い者」をぶつけたいっていう好奇心からだし、少女限定にしてるのも騙しやすくて都合がいいからっきゅ」
「ろくなもんじゃねぇな『妖精』」
最初に『妖精』って名前を付けた子には悪いが、さっさと『妖精』から『悪魔』に名前を変えたほうがいいと思う。良き隣人とかいってたのはなんなんだ。
「『妖精』はそれくらい自分勝手な存在だって思って欲しいっきゅ。だから『ワンダラー』なんて存在が産まれたし、このまま人類が滅亡するのは後味悪いよねって感じでいまに至るっきゅ」
「人類の命軽いなぁ・・・。お偉いさんには聞かせられない話だよ・・・」
とはいえこいつら妖精がいないと魔法少女が生まれず、ワンダラーに対抗する手段がないのも事実だ。もしかしたら、そのうち人類だけでなんとかできるようにもなるかもしれないが、今それを考えるのは楽観がすぎるだろう。
やっぱマッチポンプじゃんか。
話を聞いちゃったからには仕方ない。こいつらが道を外したら僕が責任もって処理することにしよう。僕の中のヒーローもそうすべきだと言っている。
こういった使命を背負ってヒーローは成長していくんだ。
「あの、妄想に浸ってるとこ申し訳ないけど説明はまだ終わってないっきゅ・・・」
「もきゅ。僕に手を汚させないでね」
「恐ろしいこと言わないでほしいっきゅ・・・」
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