学園ラブコメメーカー

砂漠の使徒

ラブコメの秘密

 春。

 それは出会いの季節。

 そして、私にとっても緊張の時期だ。

 なぜなら、私は学園ラブコメメーカーだから。


――――――――――――――――――――


「あっ、消しゴム拾ってくれてありがとう」


「ふんっ」


 教室では、こうした男女のやり取りを見ることができる。

 ご存知のように、こういった場面で素直に「どういたしまして」と言わないような女の子は。

 ラブコメのヒロインだ。

 どう考えても、性格に難ありな女の子は。

 ラブコメのヒロインだ。

 偶然にも、そんな女の子と隣り合わせてしまった男の子は、彼女を変人として認定する……ことはない。

 なぜなら、ラブコメの主人公だから。

 仮に変人だと思っても、いずれくっつく。

 なぜなら、ラブコメの主人公だから。

 どうしても女の子に惹かれるのさ。

 ニュートンだって、ラブコメの男女を見て、万有引力を発見したんだ。


 現実はそんなに甘くない?

 ああ、そうとも。

 だからこそ、私がいる。

 学園ラブコメメーカーのな。


――――――――――――――――――――


「まあ、普通」


 男はどうだっていい。

 男はな。

 平凡なやつだろうが、少々訳ありだろうが。

 むしろ問題を抱えている方が、いいスパイスになるかな。

 まあ、それより女の子だ。


「こいつはいい」


 両親は至って普通みたいだが。

 彼女の性格がだいぶだな。

 今まで付き合った男は、全員ノイローゼになって、別れてる。

 理由は、ストーカー。

 彼女の。

 愛が重すぎるんだな〜。

 私は、大歓迎だが。

 なにかと多感な思春期の中高生には、きついだろうな。


 そんな彼女と隣の席になるのは……。

 おっと、言い忘れていた。

 男にも、一つだけ条件がある。

 それは、とびきり鈍感であること。

 たいてい女の子がどぎついから、それに耐えるためだな。

 あと、すぐ相思相愛になったら、面白くないだろ?


「校長、これが今年度のラブコメ予定者です」


 先ほど選んだ男女が隣の席になるように、報告する。


「ご苦労だった」


 これで、とりあえず一段落。

 新学期の前にやる仕事は終わった。


 これから数年間、私は彼らを観察する。

 学校では、担任の教師として。

 必要とあらば、ファミレスの店員やプールの監視員になることもある。

 なぜかって?

 それは、私が学園ラブコメメーカーだからだ。


――――――――――――――――――――


「僕、君のことが」


「……」


「好きです!」


 よし、よく言った。

 告白といった一大イベントも終了し、私の肩の荷も降り……。


「ウソだ!」


 ……なに?


「私、あなたが他の女と歩いてるの見たもん!」


 ……なにごとにもトラブルはつきものだ。

 そうだろ?

 今回の反省点はなんだ。

 思い返そう。


 他の女……。

 あ〜、あれか。


 あのとき私は、期末テストの採点で頭が回ってなかった。

 だから、偶然にもそこらを歩いていた彼と別の女に仕事を頼んでしまった。

 結果として、このザマだ。

 早く救急車を呼ばないと、手遅れになる。


 諸君、世の中のラブコメには、こうした事故を防ぐ数多の人々の努力が隠されているのだよ。

 一歩間違えば、バイオレンスだ。

 ラブコメメーカーなくして、ラブコメなし。

 それを噛み締めながら、キュンキュンしてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園ラブコメメーカー 砂漠の使徒 @461kuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ