第21話 悔恨
唖然とする私の目の前でテンタクルが悔しそうに地団駄を踏んでいる!?
な……何が起きたの!?
私はVRゴーグルを外し、さっきまで殺意を抱く程に憎んでいた(←大袈裟)兄貴を見た。
兄貴はドヤ顔で「『見取り稽古』……先生や中山道さんの優れた『動き』を見て、お前の身体に奇跡が起きたのさ」と言った。
それを聞いて先生が「ほお〜〜! さすが私の生徒! 遥くんも妹さんの『変化』に気付いたんじゃな!」と、満足気に仰り、兄貴が大きく頷いた。
……? 私の『変化』!?
「そうだ。 遥くん、もう一度例のものを流してくれたまえ!」
「はい!」
先生の指示を受け、兄貴がスマホを操作すると、さっきの軽快な太鼓のリズムが流れ出した。
心地良いリズムが耳から脳、そして全身を駆け巡る。
身体が軽くなったような、自然に身体が動いてしまうような……
……!
そうか!
……今、やっと気が付いた!
神事『
更に気持ちを落ち着けて五感全てを研ぎ澄ますと、例のスライムはビートに合わせて出現するし、両腕の『ネオンスティック』の軌道上に自ら飛び込んでいた。 その上、ご丁寧にコントローラーが振動して、動かすべき手まで教えてくれていた!
それを気付かせてくれた先生と中山道さんには、本当に頭が上がらない!
私は目の前にドヤ顔で突っ立っている兄貴を押し退け……
「こんな時間にお邪魔してご迷惑をおかけしましたが、お陰様で希望が見えました! ありがとうございます!」と心からのお礼を述べた。
「……まあ、イージーモードで当たり判定ガバガバ設定だけどね」
……ムッ💢 兄貴め!
それを聞いた中山道さんが「イージーモード!? 本番に間に合います? 私で良ければ、何かお手伝いしますよ?」……と言ってくれた。
もう! 兄貴が余計な事を言うから、中山道さんに心配かけちゃったじゃん!
……とは言え……
全く手応えが無ければいっそ清々しく撤退できるが、イージーモードだろうが何かがバガバガ(←誤)だろうがミッションをクリア出来たからには、意地でも諦めたくない!
こうなったら恥も外聞も無い! 私はその場に正座して「ご迷惑をおかけした上に厚かましいですが、私、どうしても勝ちたいです! どうか、どうか、お稽古をお願い致しますっ!」と、頭を床に擦り付けて懇願した。
『ガッ!』
……?
……あ……兄貴……!
横目で見ると、兄貴が土下座していた。 そして……
「こいつが自ら『勝ちたい』って言ったのは生まれて初めてです! 俺からもお願いします! どうかこいつに指導してやって下さい!」と頼み込んでくれている。
先生が嬉しそうに「そうか! 妹さんは、初めて『勝ちたい』と思ったか! 善き哉善き哉!」と仰った。
……先生は明日から亡くなった奥様の何十回忌に行かれるそうで、その間、道場を自由に使って良い……と言って下さった。
中山道さんはお近くにお勤めだそうで、私の時間に合わせて下さると言う。
私たちはお二方にもう一度お礼を言って帰路についた。
……車内で兄貴がハンドルを握り、不敵な笑顔を浮かべながら言った。
「……中山道さんの技術と俺のゲームスキルがあれば、この闘い……きっと勝てるぜ」
……お兄ちゃん……
……はっ!
兄貴をちょっぴり『カッコいい』って思ってしまったっ!
く! 悔しいぃ〜〜〜!
はい! 『はるか』です! 新米臨床検査技師の奮闘記 コンロード @com-load
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。はい! 『はるか』です! 新米臨床検査技師の奮闘記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます