醜い依存と傷口
シラタマイチカ
醜い依存と傷口
依存と傷口
どこで狂ったのかわからない。
自分は最低なやつだなと思う
でも、それが俺八坂朔夜なんだからもう仕方がない。
◇◇◇◇◇
最初は何がきっかけだったかな。
もう…わからない
普通に触れるだけだと安心が出来なくなってしまった。
「町子、今日男に話しかけられてたろ?」
俺はベルトでキツく縛った
町子を後ろから抱きしめ身体を好き勝手に弄る
「あれは、道を聞かれてただけです…」
小さな声で町子は答える。
青白い身体は強張り震えている
「嘘。町子困ってたろ?」
背後から柔らかい頬にキスをして
町子の形の良い胸に鋭い爪を立てる
白い胸には何箇所も古傷や痣が痛々しく浮かび上がっていた
全部俺がつけた痕。
愛した回数、証拠。
「ねえ、町子は誰の所有物?」
もう何回聞いたかわからない質問。
ただ俺が安心するためだけのくだらない質問。
これを聞くと町子は困った表情を浮かべ
曖昧に笑う
鋭い爪先をわざと胸に刺し血が滲み出す頃
小さな口を開く。
「八坂朔様です」
痛みから声が震えている
様と呼ばせるのは立場を理解させるため
俺の所有物だと理解させる為
「そうだね、町子は俺の。ずっと俺の」
朔が町子の治っていない生々しい傷だらけの首筋を舐めると微かに痛さからか声が漏れる
「好きだよ。愛してる」
囁いた後いつもの様に背後から
首筋に鋭い歯を立て噛み付く。
じわりと口内に血の鉄の様な味が広がる
「痛っ…」
何度も噛みながら音を立て血を舐めとる
ぢゅる…ぢゅ…ズッ…
静かな部屋に、俺が血を啜る音だけが響く。
啜るたび町子の華奢な身体はピクリと跳ねる
俺が何かをする事によって反応する素直な身体が好きだ。
なんで美味しく感じるかなんてわからないけれど
血を啜る事が自分には必要になっている
所詮自分は化け物なんだと実感する
「脚広げて、触れない」
言われたまま町子の細く白い脚が開かれると
太ももから
手を這わせ町子の秘部を乱暴に弄る
「あっ…さっくん…」
身を捩らせ逃げる町子に思い切り噛みつき大人しくさせる
「朔だろ今は。さっくんって呼ぶなよこんな時に」
そう言って指を深い部分に滑り込ませ執拗に弄り動かすとすぐに濡れて指を伝ってくるほどまでになった
「ここ?へぇ…」
目を瞑り下唇を噛み、恥ずかしいのか声を出さないように耐えている。
「声聞かせてよ」
耳を甘噛みして囁くとぴくりと身体が跳ねる
反応が面白くて夢中になり指を中で激しく動かしつづけるとようやく口を開いた
「それ、いや、やだ…ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
言葉と同時に町子は指で果て、
ぐったりとした。
虚な町子の
身体からベルトを外しベッドに寝かせた。
傷口から流れた血で汚れた町子を見て興奮して覆い被さり、
首筋にも胸にも噛み付く
自分の所有物だと残さなければとゆっくり圧をかけ
強く
「いたい…さく…さま…いたいよ」
耐えきれず泣き出す町子が可愛くて愛くて
もっとしたいと思った。
前は笑っていてほしい、涙なんか流さないで欲しい。俺が守るんだと思っていた筈なのに
今や苦痛に歪む表情や苦しむ姿が見たくて堪らない
胸から流れ出た血を舐め取り、痛みに苦しむ町子の唇にキスをした
「痛かった?ごめんね町子」
「町子がマゾならよかったのにね」
町子は首を傾げる
流れ出る綺麗な涙をそっと指で拭ったのちに
脚の間に入り町子の中に自分自身を滑り込ませる
「ねぇ、町子の中あつくて、気持ちいい」
ゆっくりと出し入れしながら心地良さを堪能していると町子が顔を隠しているのが気になった
「町子は…俺が中に居るのわかる?生だと町子も気持ちいい?」
顔を覆っていた手を無理やり剥ぎ取り
顔を覗き込んだ
兄さんには必ず避妊しろと言われてた。
でももう、我慢ができなかった。
「朔さま、だめ、だめだよ… 、 」
生と聞いて酷く慌てる町子の
首を両手で絞め黙らせ
そのまま自分だけの快楽に忠実に腰を何度も激しく打ちつけた。
俺を受け入れる苦しみに歪む顔を見て更に熱を帯び
わざと身体の一番奥で果て、中に全て吐き出した。
肩で息をしながら町子の首を絞めていた
手を緩めると町子は泣きながら咳き込んだ
「なぁ、なんで出したらダメなの?愛してるのに」
苦しそうな町子の顔を覗き込む。
町子はびくっとした。
「町子は俺の事嫌なの?、俺に全部くれるって言ったじゃん」
「俺働いてるし…出来ても責任取るし…」
町子の頬に触れる。
俺は知ってる、町子は俺が悲しそうな顔をすると
慌てることを。
「町子は…全部さっくんのよ。あの日さっくんに全部あげたもん…好きだもん」
力なく震える手を俺に向かって伸ばす
諦めた様に死んだ目で俺のために無理やり笑う
町子の気持ちが無意識に《どこ》に傾きつつあるかも本当は気づいていた。
俺の兄が町子を想っている事も気付いていた。
だから気付かせない様に…考える余裕を与えない様に
身体に傷を沢山付け壊したいと思った
傷だらけにしてボロボロにしたらどこにも行けないし、きっとだれにも身体を見せられないし
相手にもされない。
「ずっと逃がさない、全部俺のもの俺だけの物だよ」
そのまま再び、無理やりに近い形で
身体を重ねた。
俺の醜い心も身体も何もかもを受け止めて
欲しくて愛して欲しくて堪らなくて
ただ、身体を求めるしか
傷付けるしか出来なくなった。
◇◇◇◇
最初は兄さんがいない時だけ町子を求めた。
バレたら、最中を見られたら殺されると思ったから。
リンチなんか何回も喰らいたい訳がない。
兄さんもあの性格だから
俺がいない間に俺への嫌がらせで町子に手を出していると思ってたけど、
町子が懐いていたり
町子の傷だらけの身体を見たらすぐボコボコにされる筈だし本当に出してないんだなと分かり意外だった
昔女遊び激しかったみたいなのに。
以前やまちゃんとその双子の兄宗一に
「女遊び激しい奴が明らかに好きな女に手を出さないってなんなんだろう」
と尋ねたことがあった。
俺にはわからなかった、好きなら出す筈だと思っていた
顔を見合わせた双子はキョトンとして
「そんなの…本当に好きなんでしょう、好きすぎて手出せないのよきっと」
「嫌われたくない程好きとかだよなきっと」
2人の言葉は俺の心に棘の様に刺さり
それはずっと抜けなかった。
足元から崩れ暗い穴に落ちた様な気すらした。
俺が知ってる兄は
めちゃくちゃな奴で、偉そうで
すぐ暴力を振るう嫌なやつで
俺に嫌がらせばかりするけど
でも強くてかっこよかった。
大罪を犯していても大嫌いで大好きな俺の自慢だった兄みたいになりたかった。
しかし、
町子に…町子から見た兄さんはどんな感じ?と
出来心で聞いた事がある。
「お兄さん?優しくて、知的で…繊細な人たまに面白くて」
あの子はクスクスッと笑いながらそう答えた。
その瞬間あの人は町子の前ではそうなんだなと
イライラした。ネコ被りやがってと無性に腹が立った
兄さんが縋っていた彼女の遺体を葬儀にだして
からは目に見えて町子と距離が近くなっていた。
兄さんが町子を俺たちの家に招き入れたのは
嫌がらせをする為だと思って居たけど
取る為だったのかもしれないとすら最近は思い始めた――。
俺は兄さんが優しく笑う顔なんか一度も見た事なかった。なのに最近はいつも笑っていて気持ち悪さを覚えた
兄としてでは無く一人の男として町子の側に居る
好かれるために
わかりやすくて反吐が出た
兄は自分の名前を嫌がっていたのに
いきなり町子に名前で呼ばせる様になった。
俺は町子に「兄さんの名前の漢字わかる?」
と聞いた。偽名の秋夜ならセーフだった、婚約者には秋夜と教えていたみたいだし
…でも町子は
「終わるに夜でしょ?夜明けって感じの名前だよね」
と答えた。
本名を知ってるのは家族か昔からの付き合いの高崎さんか家族ぐるみの付き合いだったやまちゃんくらいしか知らない。
これが多いのか少ないのかはわからないけど
常時取られるかもしれない不安が俺を悩ませた
町子は知らないといえ…
兄さんの動画も小説も書籍も全部を好きで
それは、外見が好きよりタチが悪いなと思ってる
内面が好き理解できているってことじゃん
町子が好きな作家の正体が兄だとバレたら
取られたら終わりだと確信して居た
俺にはあの本を読む時の頬を赤らめた顔や新刊を手にした時の本当の笑顔を向けてくれた事がない。
好きが憎しみに変わりそうで怖かった
俺は不安を消す様に
町子をいびる町子のバイト先の女
町子に道を聞いたサラリーマン
町子に気がある同級生
町子にセクハラする体育教師
町子をナンパした男
声かけたスカウトマンやホスト
みんなハンマーで殴り殺すか
切り殺した。
兄から頼まれた
死体処理のバイトのついでに処分をした
そして勝手に町子の為に何かをしているつもりになっていた。
人を殺しているだけなのに
俺にとって町子以外の命は軽かった。
幼い頃たった1度あった時からずっと…ひたすら
愛し続けた。
近づくために費やした時間の方が長い程の長い時間
想い続けた。
町子以外に大切な命なんかある訳がないんだ
ぼーっと考え事をしながら深夜
町子のバイトが終わるのを喫茶ルノアールで待っているとたまたま自分のライブに来る女性に声をかけられた
「あれ、朔夜くん?びっくりしたー!今日ライヴだっけ?それがバイトかなんか?店どこ?」
派手なわかりやすい女
メンバーに彼女がいることバレるなと言われていたのでミーティング帰りに一休みと嘘をついた
勝手に女は俺の前の席に座りコーヒーを頼む
「あのメンバーでもう決まりなの?次いつだっけ…行くからね!朔夜くん名前以外わからないからこんなとこに居てびっくりしたー!」
「私朔夜くん良いなって思ってたから運命かも」
テメェみたいなクソビッチと運命?殺すぞ
なんてお客さんに
言えないからヘラヘラ笑って流した
女はやたら俺の手に触れてくる。
汚いしやめてほしかった
俺に触って良いのは汚れてない町子だけなのに。
しばらく話していると入り口に町子が来たのが見えた
どうしようと迷っていると
ちょうど女のスマホに着信が来て「アフターの待ち合わせがあるから行くね!」と俺に連絡先を渡し
俺の分の伝票を持ち、またね!と
客の元に向かった
気づいてないフリをして
町子に連絡をしたら
「店内は沢山人が居たからお外」と言われ通話を切られた
その声は力なく…おれの好みの声だった
期待した。弱った声が加虐心を刺激した
店を出て階段を駆け降りると
目が死んだ町子が座り込んでいた
ゾクゾクした。
高揚しているのがバレない様に話しかける
「ごめんね…町子」
肩を叩いた瞬間町子の黒くて大きな目から涙が溢れた
「さっくん…あのお姉さんだあれ…なんで
町子のさっくんに触ってたの…」
死んだ目
震える細い身体
青ざめた顔
「町子には関係ない人だよ帰ろう?今日肌寒いし…」
そう言って手を引っ張ると町子は手を振り解き俺から逃げた。
逃げたことにはイラッとしたが
すぐに捕まえられたから良しとした
「町子どうしたの?怒るよ。せっかく待ってたのに」
人の顔色を気にする町子の性格を知っているからこそ
わざと呆れた様な態度を取る
「女の人と楽しそうに話してたもん!」
「いや!いや!いやだ!いやだ!」
「ゆるさない!いやだ!!ぜったい!いやだ!」
町子は座り込み初めて聞いた叫びに似た声を上げた
思った以上に目立ち、流石にやばいと思った。
無理やり暴れる町子を抱えて一番近いホテルに入った
エレベーター内でも暴れるから少しだけ脅したら
大人しくなった
なんて言ったかは秘密にしておく。
部屋に入り町子を乱暴にベッドに投げた
「町子、あんな声出したらダメじゃんどうしたの?」
起きあがろうとする町子を再び突き飛ばして
寝かせ、動けない様に上に覆い被さった
「だって、他の女の人と手握ったり…楽しそうにしてた…」
「あれだれ?だれ?町子はいやだ!」
町子は死んだ目で泣きじゃくる
「なんでぇ…あの女の人こわいよ…」
「行かないで他の人のとこはいやだ」
「やだよ…」
泣きながら取り乱している
最高だった。
愛されてるのが伝わってきた
幸福な時間
しばらく眺めていると過呼吸をおこしたから
町子に無理やり
口付けをして処置をした。
しばらくして
虚になりただ苦しそうに息をして寝そべる町子の服を一枚一枚脱がせる
「過呼吸まで起こして…ほらきついだろ?下着とって…」
冷静な振りをするけど内心今すぐこの町子を捩じ伏せたくてめちゃくちゃにしたくてたまらなかった
この状態が人形みたいで堪らなく愛しく
情欲を掻き立てる
暫くするとゆっくり口を開き視線を俺へ向ける
「さっくんは町子の。」
「ハイハイ、俺は町子のだよ」
わざと興味なさそうにベッドから降りて
町子の服をクローゼットにしまった
「さっくん。」
「さっくん。」
俺のことを呼ぶが無視をした
町子はベッドから降りたが
力なく床にペタリと座った
「さっくん離れたら嫌だ…」
「怖い…」
「ひとりはいやだよ…」
町子は幼い子供みたいにただ泣きじゃくった。
手際が悪いと思うだろ?違うこれは儀式だ。
全部を壊すための。
「なんで怖いの?」
俺はわざとベッドに座り町子を表情無く見下ろした
「さっくんが他の人といてこわいの」
震え俺を見上げる町子を見てそろそろ動こうと
思った。
「町子が悪い子だったら他の女の子優先するけど…町子がいい子なら他に行かない」
この時俺はどんな醜い顔をしていたのだろう
16の女の子に何を言ってるんだとほんの少しの良心が傷んだ気がした
「町子、いい子にする。なんでもするいい子にする…」
泣きながら俺の脚に縋る様子が堪らなかった。
良心なんか捨てようと思った
どうせ、自分は人では無い。
都市伝説の、妖怪…化け物だ。
自分だけの物になるなら
何でもする
ぺたりと床に座る町子は怯えていた。
平和な世界にいきなり現れた知らない女の存在がここまで一瞬で壊すんだなとゾクゾクした
「じゃあ…キスして。俺に誓って一生俺のものだって安心させてよ」
町子はゆっくり立ち上がり俺の膝の上に座り
涙の味がするキスをした。
「足りない」
何回もキスをしたあと
わざと町子に質問をした
「俺の何処が好きなの?俺なんていいとこないでしょ?…町子は兄さんみたいな人が好きなんじゃないの?」
膝の上から下ろしてベッドに
押し倒し身体を弄るも視線は町子から離さなかった
「なんでそんなこと言うの?…町子はさっくんが好きなのに…さっくんは優しくてこんな価値がない町子と居てくれて…さっくんはかっこいいし…さっくんとずっと居たいし…人じゃ無くてもいいと思うくらい好き初めて、体に触ってもらいたいと思ったのも。好きって思ったのもさっくんだけ…」
町子の言葉を、青白い身体に舌を這わせながら聞いていた――。
「俺町子の事傷つけちゃうよ。噛まないと不安になるし町子の血舐めるの好きだし青痣で飾りたくて痛い事してしまうよ?優しくないだろ…。兄さんとか他の人のがいいんじゃないの?」
「こんなふうに」と町子の胸にゆっくり噛み付く。
痛みを感じる様に
その瞬間身体は小さく跳ね声が漏れる
少しだけ変化があった。
乳首や胸、首を噛んだり噛んだまま引っ張っても
痛くても濡れる様になっていた
(身体が覚えたんだな…痛くても身体は学習するのか)
「大丈夫…気にせず沢山してください、町子に痛いの沢山してください。さっくんが安心するならお役に立ちたいです…役に立つから捨てないでください」
死んだ目で笑う顔がたまらなく好きで
ここまで言わせてやっと満たされた気がした
「町子愛してるよ、可愛い全部好き。愛してる」
指を濡れた体内に滑り込ませ中を弄る
「町子は?…俺のこと好き?」
町子は泣きそうな表情を浮かべ
「…愛してます。」と言った
町子を抱きながら
町子が昔実家で受けてきた
事がチラチラと頭をよぎった
クリスマスを冷たい廊下で過ごし
お祝いをしているのを洗い物をしながら眺めたり
養父母や親族に叩かれるたび、追い出されるたび泣いて
「役に立ちますごめんなさい、捨てないでください」
すがりつき、泣きながら言っていた言葉
俺は、またこの言葉が出るまでこの子の心を砕いてしまった
でもこれが俺の理想だった。
不安になるよりは不安がない方がいいし、
やっと町子が手に入った気がした。
やっと自分だけの物になったと
俺は…しあわせな気持ちになった
傷だらけの体も、砕けた心も
全部俺の物。
◇◇◇◇
2人っきり以外の時は
極力前と同じように振る舞った。
町子の事が大好きで堪らない世話を焼きたい朔
町子も俺が普通だと今までとは
少し違うけど、
だいたい変わらなかった。
兄さんが町子に多少近づいても心に余裕が生まれたからかイライラする回数が減った
「さっくん16時だけど時間大丈夫?」
今日はライブに出る日。
俺が出る日は
兄さんが落ち着きが無いし
なんなら一応美容師の資格をとっていたからか
髪の毛のセットまでしてくれる
これは本当に助かった。
町子は彼女とは言えないからメンバー以外には妹と紹介した
「町子行くぞ」
「はーい!あっ!!シュウさん、夕飯肉じゃがが鍋にあります!お味噌汁今日はにんじんと大根です!」
「いいねー!いただくね」
兄は嬉しそうだ。
町子は兄さんに手を振り俺についてくる
もうこれくらいじゃイライラしなくなった
新宿行きの快速に乗り、町子も一緒に荷物を持ち
手伝ってくれている。
「さっくん、今日は何組でるの?」
「外ではお兄ちゃん」
俺に訂正され町子はハッとする
「ごめんなさい…」
落ち込む町子の頭を撫でて大丈夫だよと笑いかけた。
えへへーと笑う顔が可愛らしくて頬をつんつんとした
縋り付く姿も好きだけど、やっぱり普通の町子も
好きだ。
改札を出て、待ち合わせに向かい会場入りをする
町子はサンリオに行くから開演時間に
入るねと言い残し周りの人に頭を下げ外に出た
「妹さん中学生くらい?礼儀正しいですよね」
「仲良いですねー」
と箱のスタッフに声をかけられて
「高校生なんですよー一人で家置いとくのも心配なんで」と笑って誤魔化した
今日のライヴは少し大切で、
今後はセッションじゃなくて
「このままのメンバーでバンドとしてやっていきます」
と客に伝える為のライヴだから今後の動員を考えると失敗はできないしいつもよりピリピリとして居た。
機材チェックらメイクやらしている間にスマホを気にするが町子から連絡が無くイライラとしていた。
「朔ちゃん、サンリオすぐ近くじゃん大丈夫だって」
「そうだって、31が目の前にあるしアイス食ってんじゃね?」
仲間達が必死に俺の機嫌取りをしようとしてきた
少し考えたのち、深呼吸して
「そうだな、気にしすぎだよな」と
気にしてないふりをした。
そう…ふりだけ。
ギターや機材の最終確認をしていると町子から連絡が来た。
授業で使うペンをキキララかマイメロか悩んでいた事、俺たちの飲み物を買いに行ってくれていた事、俺とお揃いのものを買いたくて迷っていて遅くなった事とごめんなさい最後に会場入るね下手の横か後ろにいますね!とか長文で色々書いてあって
これ書いていて遅くなったのかーと顔が綻んだ。
俺の機嫌が良くなったのを見てメンバーも安心したようだった。
「すみません、もう大丈夫です」
いつからこいつら俺を気にしたりするようになったんだっけ?わからないな。
開演して、しばらくして自分たちの番が来た。
さあ…やるぞ…
町子にかっこいい姿を見せる為に
暗転したステージへと向かった
◇◇◇◇
私黒澤町子はvivienneの香水と
タバコの匂いが混じったライヴハウスがあまり好きにはなれなくて
でも彼氏の…さっくんのライヴを見るために
仕方なく音の渦にのまれないといけなくて
くらげみたいに会場を漂っていた。
ステージの上にさっくんがあらわれて…
さっくん達を目当てにしている人はみんな
黄色い悲鳴をあげるけれど、
私はメイクをしたさっくんは好きになれなくて
頭の中で暗記している愛しい物語の文字達をただ、なぞる。
バンドに興味がないから
コピー曲は、わからないけど
1曲だけあるオリジナル曲は詩が
秋月先生みたいでちょっとだけ好きだなって
その曲だけは聴くようにしている。
さっくんに痛めつけられた傷が痛くて
頭もズキズキとして…
そのせいか
私は照明と音に酔ってしまった。
隅でうずくまっていると声をかけられて
顔を上げると
先程…さっくん達の前のステージで歌を歌っていた人が居た
「あれ?君…朔夜くんの妹?」
妹って言葉にムッとしたが仕方がない。
「はい…」
「どうしたの?」
しゃがみ込み目線を合わせて話しかけてきた。
「…なんだか気分が悪くて痛み止めも水もなくて」
それはいけないと、歌を歌っていた人は
何処かに行きロキソニンと冷たい水を持ってきてくれた。
「これ飲みなよライヴハウス苦手?
薬さっき自分用に薬局で買ったやつで…えっと水は自販機。気にしないで気分良くなるといいね」
迷ったけど頭の痛さに負けて錠剤と水を受け取り飲み込んだ
冷たい水がとても気持ちいい――。
「水、気持ちいいよね」
「はい!ひんやりです!」
つい、つられて笑ってしまった。
「笑ったら可愛いじゃん!自分はSilvaのユキト
次もお兄ちゃんと同じイベントに出るんだわ、何歳?」
「町子です、16歳…もうすぐ17です」
「若いっ!俺は22おっさんやな俺!」
と照れ笑いをしていた。
ユキトさんと特に意味もなく世間話をした。
誰かに似てる気がするんだよなーって考えたけど、暗くてわからないや。
ステージの上だと拡声器で叫んでいたり軍人みたいな服で怖い人だと思ったけどいい人かもしれない。
それに水と薬のおかげかさっきより気分は良くなった気がした
さっくんの写真を何枚か撮ったりしていると
ユキトさんは小さく切った紙をくれた
「暇なときになんか連絡しといでよ」
そう言って夏の太陽みたいに爽やかに気持ちよく笑った。
「俺、最後お前の兄ちゃんにサプライズ仕掛けに行くから行くわ!じゃあな!」
と慌ただしく旅立っていった。
まだ若干フラフラする頭を持ち上げさっくんのステージを背伸びして眺めた
また軍服を着込みさっくんにおめでとー!と拡声器で叫びながらタンバリンを鳴らしステージに乗り込んで来たユキトを見て思い出した。少しシュウさんに似ている気がしたからだ。かっこいいなと思った。
今日は待ち時間そこまで暇ではなかったなって
思えた。
この時迄は。
さっくんがステージからはけた後
箱のスタッフさんが呼びにきた。
楽屋に行くと怒ったさっくんが立っていた
「さっくん?」
私が近寄るとさっくんは肩を掴んで揺すってきた
「なんでユキトと話してたの?なぁ!町子」
「ステージから見えて、気になって気になって気になって」
さっくんは怒りで目を見開き爪を噛み震えていた
周りのメンバーさんもその様子に青ざめていた。
「あれは、頭痛くてしゃがんでたら、朔夜の妹だよねって水と薬持ってきてくれて…あとはさっくんにサプライズするってお話をしただけ…会場に酔って吐きそうだったからお水たすかった…」
私の言葉の後メンバーさん達が
「なるほどね!朔の妹だから助けてくれたんだー!」
とか必死にさっくんを宥めようとしてくれた
さっくんは少し俯いた後、
私を壁に押し付けいきなり人前で唇を重ねてきた
恥ずかしくて抵抗したら舌や唇を噛まれ、
周りから「ひっ」て聞こえたりした。
息ができないくらい激しくキスをされ
私の口から垂れた唾液や血を綺麗に舐め取ったあと
「これで許してあげる、もう他の男と話すなよ」
といって呼びにきたスタッフさんに連れられメンバーの人とステージに戻った。
恥ずかしくて泣きそうになった
これからチェキやらなんやらがあるらしくて
私は楽屋待機になった。
30分くらいしてさっくん達が戻ってきた。
みんなさっくんに気を遣っているみたいだった
打ち上げは近所の焼き鳥屋さんで夕飯って話にまとまって、他のバンドの人も来ることになった。
それなりの人数で歩いていると
さっくんがいきなり立ち止まった
私も立ち止まりさっくんの顔を覗き込んだ
「さっきの…ごめんな。体調悪かったのに心配より嫉妬して…最近俺だめだな…」
と泣きそうな顔をしていた。
「町子が心配かけたのがいけなかったの、ごめんなさい…」
お互い謝って、
二人で手を繋いで打ち上げに向かった
帰宅してからはしばらくぶりに噛んだりされず
ただ最初の頃みたいに求めてくれた。
ずっと、痛くなかったらいいのにと
こっそり神様にお祈りした。
その翌日、明け方に
ユキトさんが何故か祖師谷の駅前の…
路上で上半身、下半身が綺麗に真っ二つにされ顔面が酷く潰され死んでいたのが
ニュースになっていて私は顔が引き攣った。
「あれ?ニュースになったんだなぁ…放置しなきゃよかった」
さっくんが無表情で呟いた一言がたまたま聞こえ
町子は誰がやったかを理解してしまった。
「町子?どうしたの?」
朔は微笑み、町子を抱きしめたがその顔は笑って居なかった。
醜い依存と傷口 シラタマイチカ @shiratama612
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