対価(後編)

ミチルはカケルから、誕生日プレゼントを受け取ると

嬉しそうにプレゼントを抱きしめた。


「ねぇ、早く開けてよ」

カケルがキラキラした目で、ミチルを見ていると

ミチルはカケルの顔を見て


「まだ開けないの~ぉ」

ともったいぶった態度を見せ付けた。


「あっ、そうだったね」

「誕生日プレゼントをだす時は動画を取るんだったね」


「そうだよ、カケル忘れちゃ駄目だよ」

ミチルは頬を膨らませながら、

カケルの事を見上げている。


早速、カケルはカメラの準備をすると


「ミチル、準備できたよ」


「ちゃんと撮れてる?」


「ばっちし、可愛いミチルが撮れてるよ」

「録画始めるね」


慣れた手つきで、カメラを操作し

カケルは、ミチルの傍に駆け寄っていった。


「さぁ、ミチル、プレゼントを見せて!!」


包装を綺麗に外していくミチル

そして、箱を開けるとそこには・・・

ミチルのほしがっていた物が入っていた。


「なかなか、良いのが見つからなくて、やっと見つけたんだよ」

「ねぇ見て、取っ手のところには俺たちの名前が入っているんだよ」


ミチルがプレゼントを手にとって見ると、

そこには・・・


月 ミチル

月 カケル

永遠の愛を込めて


と刻印されていた。


涙目になりながらミチルは

「カケル、ありがとう、すごく嬉しいよ」

「うん」


時刻は誕生日15分前


「カケル、そこに座って」

「うん」

プレゼントを渡して満足げなカケルをイスに座らせた。

ミチルは、


「もう一つ、プレゼントがほしいなぁ」

甘え声でカケルにおねだりするミチル


「うん、いいよ。言ってみて」

「ハグして、キスしてほしいなぁ」


「うん」

カケルはミチルを膝の上に乗せると

ミチルを抱擁し、優しく口付けをする。


「愛してるよカケル」

「俺も愛してるよミチル」


「うん」

小さく頷く、ミチル。


その瞬間、カケルは全力でミチルを抱きしめた。


「あっ・・・うぅ、あぁぁっ」

声にならない声をだすカケルに


優しくミチルが囁く

「大好きだよカケル、カケルの為なら何でもきるよ」

「でもね、私、後、10分で死んじゃうの」

「私がいなくなったら、カケルは生きていけないでしょ」


そういい終わると

カケルに二度目の激痛が走った。

「あっ・・・あぉうおぉ・・・あっっっ」


カケルの顔は真っ赤になり、

必死に血を頭に送ろうと血管が脈を打っている。

全身の力が抜けミチルに寄りかからないと、

床に崩れ落ちそうな状態になり、肩で息をし始めていた。


ミチルの手には先ほど、送られたプレゼントが手にされている。

そのプレゼントはカケルの血で赤黒くなり、

室内の光で鈍く光っている。


刃渡り30センチの

愛しい妻へのメッセージが込められた包丁


「カケルを一人にしないよ、こんなに愛してるんだから・・・」

ミチルが言うと、カケルはそれに答えるように頷く、


「私の事愛してる?」


「あ・・・愛・・・ゴホッ・・・愛し・・・て・・・る・・よ・・・・・・・ミ、チ、ル」

必死に血泡を吹き出しながら、声を絞りだしたカケルに

「私もカケルの事、愛してるよ」

涙を流しながらそう答えるミチル。


誕生日を迎えた0時、

静まり返るリビングの床は、カケルの血で染まっていた。


その床に倒れこんでいる二人。

二人は互いを抱擁する形で、視線を外さないまま

涅槃(ねはん)の旅に出たのである。


リビングでは、カメラだけが、彼らを静かに見守り続けている。


END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪魔様との契約 夢幻成人 @mugenseijin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ