純喫茶『人色』

文月 いろは

純喫茶『人色』

 空は藍色に包まれて、『月』がべる夜の世界になっている。

『こんな日は彼と夜空を見たいものね。』

 店の窓から外を見ながら私──古神こがみ火菜ひなはコーヒーを飲む。

「ついに明日ね火菜ちゃん!」

 私はそうねぇ。と相槌を打つ。

 明日九月十五日私は結婚する。

 相手は偶然にも私と同じ苗字の『古神こがみ桜都はると』さん。

「本当にここでよかったの?もっとちゃんと式場取ればよかったんじゃ。」

 彼女はこの店のマスター『華彩かさい京香きょうか』。

 店で式を上げるのを不安に思っているのだろうか。

「いいのよ。式場予約しても雨で台無しになるでしょ。」

 と答えると、京香は確かに〜と頷いた。

 私と彼は共に『妖怪 化け狐』

 と言う種族だ。

 先に断っておくが悪い妖怪では無い。

 私も彼も人間の世界で生きていくことを決めた者同士だ。

 本当は人間の殿方と添い遂げたかったが、彼に惚れてしまったのだ仕方がない。

 私たち狐が結婚するときは必ず雨が降る。

 これは妖怪が持つ『』の一つで、世間一般では『』と呼ばれる現象だ。

 狐の嫁入りの特徴は雨は降っているが、晴れていること。

 元来私たち狐は『鬼火』を操る者だが、結婚の時は異能が変わるらしい。

 それも狐だけ。

 全く面倒な種族だ。

「明日の準備したいから今日はもう帰りな。もう夜だよ?」

 はいはいと返事をして、お代を置いて店を出る。


 翌日──

 私は純白の花嫁衣装に袖を通して鏡を見る。

『この円盤に映る美しい人間は本当に私?』

 自分も驚くほど綺麗に化粧をされていた。

 新郎を待っていると、新郎よりも先に『彼女』が入ってきた。

「火菜ちゃん!すっごい綺麗になってる。私が貰っちゃおうかしら。」

「冗談はやめて。桜都さんは?」

 早く会いたくてうずうずしている私は京香に聞いてみると。

「後ろにいるよ。」

 と爽やかでよく通る声が聞こえた。

「桜都さん!どうですか・・・?」

 と聞いてみると

「とっても綺麗だね」

 と目を逸らして顔を赤らめながら答えてくれた。

「はいはい。イチャつかないの」

 と言う京香の声で我に返る。

「みんな待ってるよ二人ともお面つけて。始めるよ」


 夫婦は狐の面をつけて人々の前に二人で出ていく。

 そこには人や人ならざる者など沢山の『人』がいた。

 夫婦は面を取ってから窓の外を見る。

 夫婦は異能が発動したのを確認して、互いにをした。

 それを見守る皆はそれぞれのカバンから一輪の花を取り出し、一斉に上へ投げた。

 その花たちは綺麗に花弁かべんを散らして店をいろどる。


 雨は止み、また綺麗な月が顔を出した。

 窓の前には二匹の狐。

 二匹のつがい真丸まんまるな月の浮かぶ夜空を見上げていた。

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純喫茶『人色』 文月 いろは @Iroha_Fumituki

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