詩「秋に溺れる」
有原野分
秋に溺れる
水滴の飛び交っていた
松の木の枝が折れていた
だから強さは脆いのだ
薪に火をつける
パチパチと弾けて
鳴って
虫のように舞い上がって
風に揺られて
音は消えていった
それは海の音だ
孤独の中にこそ強さがある
枕元で
水の跳ねる音が聞こえた
遠い日の
母の背中を見つめていた夜
洗い物をする手が震えて
手の中から何かがこぼれ落ちて
私はそれを布団の中からただ眺めていた
台所の時計の秒針が止まった
父の茶碗が
空中に
浮かんでいる
「早く落ちて
早く割れてしまえばいいのに」
と
願った瞬間
秒針が進んだ
ふと
枕元で
水の音が聞こえた
焚き火のような
爆ぜる音だった
私はもう
逃げない
お風呂上がりに
冷たい海を想像して
私は喉を鳴らした
虫の声が聞こえる
宵越しのベランダから
長い釣り糸の竿を静かに垂らして
今夜は何が釣れるのだろうか
と
例えなにもかからなくとも
ただそれをじっと待つような
肌で秋の飛沫を浴びるような
私はその景色の中にただ溺れていきたいだけ
なのだ
詩「秋に溺れる」 有原野分 @yujiarihara
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