第3話と第4話の間のお話し

お茶

つまみ食い

『茶露』は戸棚の中にあるそいつを見た。




 食には、あまり興味がない。

 目の前にあれば、食べる。

 それだけだ。


 私は中学生で、親に養われている身なので当然だと思う。


 でも今日は少し、いつもとは様子が違う…


 今、学校から帰って部屋着に着替えてきたところなのだけども。


 茶の間の戸棚に、珍しい食べ物がある。


 (世間的には珍しくないのだろうけど、家で見かけることは滅多にない。)

 せっかくなので写真を撮ってチャッター(SNS)に投稿しようかな。食べ物の画像は反応がいいのだ。


 それを見た時に気持ちがふわっとした。


 何故なら、それは今日ちょうど学校で話題になっていた食べ物だからだ。

 つまり、とってもタイムリーなのだ。


 こんな所にあるということは、つまり食べてもいいということでよろしいか。

 小さな紙袋に包まれたそいつを手に取る。

 冷めているけど甘ーい匂いがする。


 待てよ。と冷蔵庫から牛乳を取り出して、その辺にあったコップにそそぐ。

 いただきます。




 さてさて、

 学校で話題になっていたと言っても、私はその会話に参加していたわけではない。

 勝手に聞こえてきただけだ。


 私は猫也に関する情報なら、一度聞いたら忘れない自信がある。


 ぱくっ


 うん。美味しい。

 私はこれ、好きなんだけどね…





 猫也は、アップルパイが苦手なんだって!


 生のりんごとか、りんごジュースはいいけど、煮たりんごはダメなんだって。


 猫也にしては珍しく熱弁していた。

 私は精一杯何も聞こえないフリをしていたけど。可愛い過ぎてつらい。


 もう、今後一生『アップルパイ』という単語を見聞きするたびに猫也のことを思い出すことに決まってしまったのだ。


 そんなことを考えながら、べとついた指先をくわえて舐める。

 気づいたらパイの屑が、けっこう落ちてる。

 きれいにしなくちゃ。




 そうだ。これをテーマにして詩を書こう。

 こういう時は『アップルパイ』とか『りんご』といった単語を使わずにどこまで表現できるか、というのに挑むのが茶露なりの詩作だ。


 携帯電話が ピコン と鳴り、

 チャッター(SNSアプリ)から通知が来た。


『ちゃとら』がまた、私の書いた詩に曲をつけてアップしている!


 片手にアップルパイを持ったまま、再生する。

 私の詩は大体短くて、曲をつけても短い曲が出来上がるのですぐに聞き終わるのだ。


 このウクレレみたいな音がちょうどいい。


 …うーん。

 美味しいけど、もういいや。


 半分は冷蔵庫に入れて置くことにする。

 ごちそうさまでした。


 パタン。

 (冷蔵庫が閉まる音)

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第3話と第4話の間のお話し お茶 @yuichanhokkaido

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