第百二十八癖『異質な犯行、不明瞭な心』
パトカーに揺られて数分、思いの外早く次の現場へと到着する。
そこは市内のマンションのようで、すでに複数もの警察車両が入り口を包囲。人の行き来を制限しているようだ。
「やはりここか……」
「閃理、ここ知ってるの?」
「ああ。お前がここに来る前に
下車して早々閃理が反応を示す。
俺がいない間にもうすでに犯人の所在地特定まで進めていたとは。流石はマスター直属、有能さが光る。
このマンションが
「もしその通りであれば内部にまだ犯人がいる可能性が考えられますね。慎重に行きましょう」
同じ車両に乗っていた廻警部も警戒を強めている。
何十回とも思ったことだが相手は死を操る権能。一切の油断は禁物だ。
残りのメンバーも揃ったところで中へと入る。
マンションの玄関口には複数の警察官がいて、その内の一人がこっちに気付いてやって来た。
「お待ちしておりました。廻警部、突然お呼び出してしまい申し訳ありません」
「いいえ、お気になさらず。丁度近くにいたのでむしろ好都合です」
ふくよかな腹回りをした中年の警察官。何やら廻警部とはお知り合いの模様。
周囲の状況から察するに地元の警察官ってところか。すでに面識があってもおかしい話でも無いな。
「ご紹介します。こちらは捜査第一課の妻夫木警部です。先ほどの店舗の捜査も担当しております」
「妻夫木です。あなた方が例の協力組織から派遣されたという方々ですね。本件の捜査にご協力をしてくれるとのことで。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……!」
そう紹介され、俺たちに向けて丁寧に挨拶をしてくれる妻夫木警部。
なんとも律儀な人だ。こっちもつられて丁寧に挨拶を返してしまう。
それはそうと聖癖剣に関する情報規制が厳しいらしい警察業界で働いているにも関わらず、俺たちの存在は多少なりとも知っているらしい。
流石に警部の座につくとそれなりの情報を知る権限があるようだ。新たな知見を得たな。
そんなこんなで本題へ移る。事件現場はここの四階。妻夫木警部先導の下、階段を登って目的の階層へ行く。
「うぉっ!? あぁびっくりした、この人たちが次の被害者?」
「どうやらそのようだな」
階段を登って最初に視界へ映ったのは──厳つい顔の男!
結構コワモテな顔をしてるのも相まってついビビってしまった。
いけねぇ、あくまでもこの人は被害者であり、驚いたりしたら失礼だよな。反省。
ちょうど階段の踊り場にうつ伏せの状態で倒れており、階段を上がってきた人の視界に入るよう狙ってやったかの様な構図だ。
階段を登り切ることで現場の全容が見え始める。
四階の踊り場に相当する現場には他にも主婦らしき女性と若い男性が一人ずつ倒れており、計三人が被害に遭っているようだ。
ふむ……刑事物の登場人物を気取るわけでは無いにしろ、まるでここを通り過ぎようとしたら死んだみたいな感じに見える。
被害者にも外傷らしい外傷は無いように見えるけど、一つ違和感がある。それは──
「な、何か殺されたにしてはかなり幸せそうな顔に見えるんだけど……気のせい?」
俺が気付いた違和感。それは被害者の表情である。
ドラマで見る被害者は目を見開いてたりとか、苦しみの表情みたいな苦悶の顔を浮かべているイメージがある。
でも今の被害者たちがしている表情は大きく違う。
まるで良い夢を見ながら眠っているかのような穏やかさで、正直なところ不気味だ。
病院で処置中の犠牲者には布が掛けられていたけど、その下は全員こんな顔してたのかな……?
「
「死に際の表情は笑顔以外認めない、ということか。何やら上辺だけ取り繕うとする姑息さを感じるね」
疑問に答える閃理。曰くそんな噂が
それって要は殺した人の表情を強制的に変えてるってこと? うわぁ、なんて悪質なおまけなんだ。
死者の尊厳まで侵害するなんて禁忌に相応しい最悪さだ。そりゃ封印もされるわな。
「閃理さん。先ほどこのマンションに犯人はいると仰っていましたね」
「はい。ショップに残留している権能の痕跡からここと
そんな被害者たちに向けて黙祷をしていると、廻警部が
現在の犯人の潜伏先はこのマンション内であることが判明しているが、肝心の誰がとかまでは特定出来ていなさそうだ。
当然犯人は閃理のことなど知る由も無いはずなので、通常の方法で居場所を割り出すのは難しい。
その点を鑑みて、これから行うこととは──
「捜査員の皆さんには申し訳ありませんが目を閉じるか、あるいは一度この場から離れるようお願いします。これから特権課の機密に関わる方法で犯人の特定を行いますので」
そう、
俺が席を外していた間にやっていたであろう光照探索をここでもう一度行うつもりらしい。
他の警察官を追っ払ってでも
マンション中の部屋を一つ一つ聞き込みに行く時間と余裕が無い以上、これが一番効率の良い方法に違いない。
「分かりました。では我々は五階にて待機をしますので、終わりましたらお呼びください」
「ご協力感謝します」
突然の指示にも関わらず妻夫木警部は随分とあっさり承諾。
なんつーか意外。だってドラマとかではそう簡単に要求を飲んでくれないってのが定石のはずなのだが。
やはりリアルとフィクションは違うんだなぁと感じつつ、警察官は上の階へ移動し、四階の踊り場は剣士関係者だけとなった。
【聖癖開示・『メスガキ』! 煌めく聖癖!】
「では始めます。
人目を払い除けてからの聖癖開示。犯人の所在地の次は部屋の場所を見つけ出す。
本当にマンションに住んでいるかはさておき、敵さんも不運だな。
情報を読み取る権能を持つ閃理があるお陰で大した労力もかけずに見つかってしまうのだから。
ま、そう易々とお縄についてはくれるとは思わないけれど。
「読めた。こちらです」
「剣士の皆さんは着いてきてください。アルヴィナさんも先頭へ」
早くも居場所の特定を完了し、早速その部屋へと進み始める。
「偶然か否か、犯人はここ四階に部屋を借りている住人で、今現在も部屋の中にいるようです」
「なるほど……しかし不可解です。ショップを強盗した際は逃走したにも関わらず、今回は事件現場から離れることなく帰宅した……。通常であれば最初と同じく現場から離れるはずなのですが、犯人の意図が分かりません」
移動中に犯人の行動について考察を始める廻警部。
うむ、言われてみれば確かに変だよな。便乗する形にはなるが俺も同意見だ。
だって自宅のすぐ側で人を殺したのにそのまま直帰しただなんて、一体どういう精神状態ならそんなことが出来るのか甚だ疑問である。
人が犯罪をした直後にすることなんて大体二択に絞られる。証拠の隠滅か逃走の二つだ。
多くの人はその状況に陥った時、その場から逃げる選択を取るはず。俺だってそっちを選ぶと思う。
でも犯人が選んだのはは帰宅。これはあまりにも不自然。
警察の捜査の手から逃げ切ろうとする意思がまるで感じられない。
こう言うのも犯人には悪いがまるでサイコパス。何を考えてそうしているのか全く見当が付かなくて怖いまである。
「着きました。ここが犯人の部屋です」
そうこう考えていたら目的の場所へ到着。わりとすぐ側にあったな。
部屋の番号は404室。この中に……犯人が、
ちょっと不安っていうか、何かドキドキしてきた。
殺人経験の有無があるかどうか分からない不明瞭がある闇の剣士とは違い、今回はマジモンの殺人鬼が相手。その事実に緊張するのもわけないことだ。
「聞き込み捜査をするには警官が二名以上で行う決まりがありますので、念のため閃理さんにご同行をお願いします。他の方々はなるべく気付かれないよう静かにお願いします」
「分かりました」
廻警部は聞き込みを装って犯人に接触するらしい。
一緒に聞き込みをする相方に閃理が選出される。もしものために連れてきたアルヴィナさんでないのは、やはり外国人だからというのが大きいんだろうな。
それはそれとして、言われた通り残りの剣士たちは集団でいるのが悟られないよう息を潜めて待機。
準備を整えたら廻警部が犯人宅の扉を叩く。
「すみません、どなたかいらっしゃいますでしょうか?」
トントン、と丁寧なノックからの挨拶。
女性にしては低めのハスキーボイスだった廻警部の声も、今はどこか柔らかな印象を受ける物になっている。
そんな体裁良く整えた挨拶に相手はどう返す?
そもそも反応してくれるのか? 緊張の一幕だ。
「はーい」
「……! で、出た!」
「しっ。静かに」
ノックを鳴らしてから数十秒経って、ようやく家主が返答をしてくれる。声から察するに女性か。
この人が犯人であることはすでに読めている。
果たして一番警戒すべき相手である警察を前にしてどう反応をするのか。
ガチャリと扉が開くが、運悪く開閉する向きが俺たちを遮る方向に開いたため犯人の姿は拝めなかった。
「こんにちは。私は警察署の者です。お時間がおありでしたら調査にご協力ください」
「はぁ、私でよければ」
「ありがとうございます。ではまず氏名と生年月日などを教えていただけますでしょうか?」
こっちからは姿が見えないものの、出てきた犯人に臆することなく廻警部の捜査が展開される。
怖い物しらずなのか堂々と名前とかの個人情報を聞きに行ってる。大丈夫かそれ? 怪しまれない?
俺、龍美誘拐の件で一回だけ警察から取り調べみたいなことをされた経験はあるけど、覚えてる限りだとそこまで事細かく聞かれなかったけどなぁ……。
「こういうのは巡回連絡と言い、地域の実態を把握するための活動だ。本当なら地域課の警官がする事だが、特権課の権利でどうにでもなるだろう」
「特権課すげぇな……」
ふとした疑問は隣に座る絵之本さんがひそひそと解説してくれた。
そういうこともするのね、流石は国家組織。そして他課の活動を自由に出来る特権課もすげぇわ。
「
シームレスに名前などを聞き出すと、またさらに個人情報を引き出しにいく廻警部。
一体どこからどこまでが地域課の仕事としてやっているのか、端から見てるだけでもドキドキする。
そんな様子を見ていると、相手にも変化が。
「家族……構成?」
「はい。配偶者などがいらっしゃるのでしたら、そちらの方のお名前もお願いしま────」
ふいにぽつりと呟いた。聞き取りづらい小声だったが、確かに家族構成と言ったと思う。
間近でそれを聞いている廻警部は質問を聞き返したのだと思ったに違いない。でも淡々と説明をする中、急にその言葉が止まる。
何だ、何が起こった? 少し離れた位置にいる俺たちだが、耳を澄ますと何かが聞こえてくる。
「うぅ、ぐすっ……。うううぅ……」
「な、どうされました……!?」
聞こえてきたのは──すすり泣く声!
まさかだが犯人……我妻あやめは泣いたのか!? この状況で!?
この予想出来ない事態に巡警部も流石に驚いている様子。そりゃ急に泣かれたら誰だってそうもなるわ。
一体何故泣く? 本当に何があったっていうんだ。
「すみません。家族……旦那とかは、いません……」
「そ、そうですか。それは失礼しました」
ぼろぼろと泣きながらだが、廻警部の問いかけに対しきちんと受け答えする我妻あやめ。
何か悲しいことでもあったのか? 推定犯人とはいえ可哀想な気持ちになるな。
家族構成と旦那。この二つの言葉はきっとあの人の地雷に違いない。
もしかして離婚したばっかりだったり? この線もあり得なくはなさそうだけど、如何せん今考える事じゃ無いよな。
「ご存じかと思われますが、つい先ほどこのマンション内でトラブルが発生しました。そこでお伺いしたいのですが本日の午後15時から18時までの間、我妻さんはどこで何をされていたのか教えていただけますでしょうか?」
やや引っかかりを感じるワードについて考えていると、向こうではすでに次の質問へと移っていた。
事件が発生したとされている時間帯のアリバイの有無を確認している模様。
流石に事件内容は言えないからぼかしてはいるけど、心当たりがあるなら何かしらのアクションは起こすはず。
だって推定犯人なんだからな。目の前にピンポイントで警察が来ただけでも尻尾を出しそうだが、その結末は果たしてどうなる?
「15時頃……私は家に帰ってきたところです。そこからずっと家の中にいました」
犯人──いや、ここはあえて我妻さんと敬称付きで呼ぼう。
我妻さんの供述は3時以降は家の中で過ごしていたとのこと。
未婚の30歳がド平日の昼間から家にいるのはちょっと違和感にも思えるがこの時点じゃ怪しいところはない。今は在宅ワーク系の職業も多い時代しな。
問題はこの供述が嘘か否かということ。その真偽は廻警部の隣に立つ剣士が見定めてくれるだろう。
「……では今回はこの辺りで失礼します。調査のご協力、ありがとうございました」
他にいくつかの質問などをした後、廻警部による巡回連絡を装った調査は終わりを迎えた。
だが二人が我妻さんへ一礼をして、俺たちのいる方向へ戻ろうとしたその時のこと。
「あ、あの……」
「どうかされましたか?」
不意に呼び止められ、廻警部の足は止まる。
初めてとなる犯人側からのアクション。外野の俺たちもつい身構える。一体何をするつもりだ……?
「あ……。いえ、ごめんなさい。やっぱり何でもありません。お仕事頑張ってください」
「……そうですか。お気遣いありがとうございます。それでは失礼します」
だが呼び止めたられたものの何を話す訳でもなく、仕事を労る言葉をかけられただけで終わった。
何だ……? 何か後ろめたいっていうか、言葉が詰まるような話でもあったのかな? 今のはちょっと不自然に思える。
最後の最後にめちゃくちゃ気になる動きを見せたものの、慎重に行動している故かあえて触れることはせずに二人は帰ってきた。
ということで俺たちも移動。妻夫木警部らには現場へ戻ってもらい、逆に俺たちは五階で今回のことについて先んじて話を聞く。
さぁ、あの場で分かった真実がどんな物なのか聞いてみようじゃんか。
「それで、どうだった? 何か分かったかしら?」
「結論から言うと部屋の奥から未登録の聖癖剣の存在を
「マジか。本当に犯人だったのか……」
聞き込み調査の結果を剣士全員に共有。
流石は
十聖剣の名に恥じない性能っぷりだ。もう後は捕まえるだけになってしまったな。
まぁ……その捕まえるってのが一番難しいんだろうけど。
「犯人云々については元々分かりきっていたことだ。
ここで質問を投げかけるのは絵之本さん。剣への信頼あってのことだがちょっと失礼じゃないか、その言い方?
それはともかくこの人の主張は我妻さんの涙の理由が知りたいというもの。うむ、正直それは俺も同じく思ってる。
聞き込み中に恫喝したわけではないし──まぁ廻警部の顔はちょっと怖いけど──、そもそも泣き出したのは家族構成を聞かれたからによるもの。
とにかく普通じゃないっていうのは離れていても分かったくらいだ。多分精神面が不安定なんだろうけど、気になるのもわけないことだ。
「それについても判明している。単に地雷を踏んだだけなのだが、どうやら犯行動機にも多少なり関係しているようだ」
「犯行動機……?」
だが絵之本さんが興味だけで訊ねたこの問い、閃理の読みによれば犯行動機に繋がっているとのこと。
これまたマジで!? いやまぁ些細なことが犯人逮捕に繋がる展開はよくドラマで見るけど、そういうのってリアルでも起きることなのか?
「
「結婚詐欺ねぇ……。それが犯行動機がどう繋がるのかしら?」
読み取った情報の説明がされる。我妻さんの背景にちょっと驚いたけど、内容自体はシンプルというか、典型的な被害内容に思える。
こういうのって途中で気付かないものなのかなぁとは思うんだけど、実際はそうでもないんだろう。
詐欺する側が巧妙だと手遅れになってから気付くとかなんだろうな。恐ろしいぜ。
して、結婚詐欺に遭ったことが何故この事件に繋がったのか。頼才さんは真意を問う。
「被害者の一人に厳つい顔の男がいただろう? 奴は事件が起きる直前に我妻あやめの部屋へ押し入り返済の催促をしていたらしい」
「催促……ってことは、つまり取り立て屋ってこと?」
「ああ。しかも闇金融の取り立て屋だ。恐らく警察のデータを調べればこの男について多少なり分かることがあるかもしれないな」
話に持ち上がるのはまさかの事件被害者。あの顔が厳つい男の存在が浮上する。
よもや被害者の一人が取り立て屋だとは思わなかった。まぁ顔つきからしてヤの付く自由業と関わり持ってそうとは内心思ってたいけれども。
曰く元婚約者の詐欺師に騙されて多額の借金を背負ってしまった我妻さん。
あの男も借りた金融の内の一つから遣わされたんだろう。流石に高利子高負担の闇金から借りるなんて馬鹿なこと……。
「男は連れと一緒に返済の催促に来て、その後権能により殺害されたんだ。そのもう一人はマンションの反対側の階段にいる、そうでしょう?」
「はい。閃理さんの仰るとおり、反対側に一人被害者が倒れているそうです」
閃理の推理が光る。読み取った情報から被害者がもう一人いることを言い当てた。
つまり我妻さんは剣の権能を使って取り立て屋の二人を殺したってわけか。しつこい催促に限界を向かえてしまったんだろう。
確かに借金返済に追われていたのなら、精神が消耗していてもおかしくはない。
去り際の廻警部へ話かけようとしたのもSOSのサインだったのかもな。まぁだからと言って殺しまでしたのは過剰な行動に変わりは無いんだけど。
だがここで一つ気になる点が思い浮かぶ。
それはどうやって我妻さんは取り立て屋たちを殺害出来たのかだ。
確か聞き込みの際にあの人は家から一歩も出ていないと供述していた。
それが事実ならどうやって部屋から離れた位置にある踊り場に遺体を遺棄出来たのか……不可解だな。
「はーい、質問。我妻さんはどうやって犯人を階段の踊り場まで運んだの? 家から出てないって嘘だったの?」
「いや、あの供述は紛れもない真実だ。犯行予想時刻の間に外出は一切していない。だが殺害出来た理由は恐らく『
「
疑問は解消するべきだろう。推理の矛盾とも言える部分を訊ねてみたら、予想もしなかった謎のワードが飛び出る。
「
「あー……? んー、確かに何かあったような……」
横に立っていた絵之本さんが代わって説明してくれた。俺は昨日見たばかりの画像資料を思い出してみる。
言われてみれば確かにスカート状の鍔が捲れた状態の画像には青い花束のような装飾が付いていたような……これがそうなのか?
「資料によるとあの青い花弁には即死の効果があるだけでなく、フラワーシャワーの如く放出することも出来るらしい。これが前回の暴走時に大量の犠牲者を出した直接的な要因になったと言われている」
流石に剣の美しさに興味を持っているだけのことはある。絵之本さん、目標にかなり詳しいな。
ふむ、つまり
ってか前回の被害を出した直接的な要因ってそれマジで言ってるの?
そんな危険な物体をいつでも出せるってマズいんじゃ……?
「殺害方法は訪問してきた取り立て屋に向かって技を放ったんだろう。花弁から逃げた先……踊り場付近で力尽きたと考えられる。この手口で先ほどのショップの件も含めた二十人超の被害を生み出したはずだ」
「ヤバすぎだろそれ……!?」
一歩も家から出ていないという証言は真実だったのに取り立て屋を殺害出来たのは、
そういえば廻警部は現場には
その痕跡とやらが仮に青薔薇だとすると、状況的にそれは消えずに残留し続ける物であり、残る二人の犠牲者たちはそれに触れてしまったのかも。
いや、そもそも最初の事件であるドレスショップの内装の壊れ加減、あれってもしかして店内で薔薇を放出したからああなったんじゃないか?
店内をメチャクチャにするほどの威力があり、さらに即死攻撃付きともなれば短時間で従業員を全員殺害出来た理由も説明出来る。
ここまで考えて気付いたけど、これ最初に想像してたヤバさを凌駕してないか……!?
第一に日本に来た時点でビルを破壊してるわけだし、これ存在そのものが厄じゃん。
「
「ジェッ!?」
「正しく禁忌の聖癖剣、ってとこね」
やべぇ……やべぇよ。
歴史の一部に隠したって、つまり形を変えて世界史の本に載ってるかもってレベルってことだろ!?
本当に表舞台に出かかってる大事件だったんだな、前回の暴走。二度目とかマジで起こせないじゃん。
しかし閃理、探偵みたいに次々と推理を披露してるけど、これほぼ全部
口に出してはいけないツッコミは野暮だからしないが。
「犯行動機などについては概ね理解しました。ですが私には一つ、気になる点があります。聞いていただけますでしょうか?」
「勿論です。一体何を感じられたのでしょうか?」
閃理の名推理を一通り聞き終えたところで廻警部が新たに話題を振る。
何か違和感を覚えるようなことでもあったんだろうか、全員が固唾を飲んで聞く。
「はい。警察官の勘というわけではありませんが、我妻あやめさん……あの方にはどこか異質さを感じました」
「異質さ……? 急に泣いたことですか?」
曰く当人を前にした時に変な感じがした模様。
確かに急に泣き始めたり、去り際の一幕など、少なくとも普通では無さそうではあった。
どこか情緒不安定とも言うべきか……背景にあることも含め、違和感は確かにある。
「いえ、それとはまた別に雰囲気が異常だと私は感じました」
しかし廻警部の感じた違和感とは俺の考えている物とはまた別であるらしい。
となると、やっぱり見た目にあるのか? 運悪く俺は姿を拝めなかったばかりに、容姿に関しては何も情報を得ていない。
我妻あやめさん、どんな人なんだ。変な雰囲気とは一体……?
「具体的には──あの方は最初、笑顔だったんです。とても幸せそうな雰囲気をしておりました」
「笑顔……?」
だがその口から出た言葉は予想したものとは一切かすりもしないものだった。
あの人が最初に浮かべていたのは──笑顔。そのワードに俺たちは驚愕する。
「それ本当なの?」
「ああ、それも事実だ。彼女は最初に扉を開けた際に笑顔で対応してきている。勿論
ついさっき
結婚詐欺に遭い、多額の借金を抱えてしまった人が笑顔で聴取に対応するなんてあり得るのか? それも直前まで取り立て屋にいびられていた人がだぞ?
なるほど、廻警部が異常と思えたのにも納得がいく。ただの情緒不安定というわけではなさそうだ。
薄々思っていた我妻さんサイコパス説も謎に現実味を帯びてきたな。
その辺りの真相もいつか明らかになる時が来るのやら。そこは神のみぞ知る、ってやつだろう。
「ひとまず本日の捜査はこれで終了にしようと思います。目標には監視を付けてしばらく様子を見ることにします」
「分かりました。有事の際はまたお呼びください」
どうやら今回の共同捜査はここでお開きとのこと。
今日やったことを復習すると、二つの事件現場に行き、被害者の蘇生作業をして犯人との接触までを行った。
一応捜査は進んだとは言えるのかな?
新たに四人の犠牲者こそ出てしまっているが、少なくとも悪い結果にはなっていないはず。
後はどうやってこれ以上の被害を出さずに犯人を捕らえられるかを決めなければなるまい。
犯人の特定は出来ても接触するタイミングを誤れば再び犠牲を出してしまう以上、警察も剣士も下手に動けないのが現状。
慎重に行動しないと時代齟齬のジェノサイドが現代日本に発生しかねないくせに、どちらかが先に動かないと事態はいつまで経っても進展しない。
なんて厄介な状況だ。この辺は協会と警察で話し合って今後を決める必要がある。まだまだ緊張は緩められないな。
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