第百九癖『学ぶは剣、光と闇の相違』
「皆さん、昼食はしっかりと摂りましたでしょうか? それでは午後の部を始めます。二度目も元気に挨拶をしましょう。さん、はい」
「よろしくお願いしまーす」
ということで午後の講習がスタート。全員が席に座って始まりの挨拶をする。
午前では剣の接し方について学んだ。次は何を教えてくれるのだろうか?
「午後の講習は聖癖剣の雑学などといった有用な知識をお教えします。こちらもしっかりとお聞きくださいね」
「雑学……?」
その言葉に一瞬きょとんとする俺たち。剣に関連する雑学とはいえ、そんな話をするとでも言うのか?
何だかよく分からないけどメイディさんほどの人が教えてくれる雑学なら大丈夫か、という気持ちで話に耳を傾けていく。
「まず始めに闇側についての雑学です。闇の聖癖剣士について気になることと言えば──はい、午前の授業から一度もペンを動かしていない瑞着響様、お答えください」
「えっ、あたし!? ってかノート取ってないのバレてるし~!?」
次の指名で選ばれたのは響。しかもどうやら午前の授業内容を取って無かったのを見透かされている。
めんどい気持ちは分かるけどメイディさんの前でサボるのは後が怖いぞ。後で凍原に見せてもらえよな。
それはそうと問題? の回答を迫られる響。
闇の剣士に対して気になることねぇ。個人の意見で良いのであれば、強いて言うとよく分からない聖癖から権能の内容を推察することだろうか?
たまに予想を超えてくる権能の使い手と会うからな。俺ならそこが気になると言うけど。
行動班と比べ戦闘経験は少ないであろう支部所属の響が出す答えとは。
「う──ん……何だろ。敵はどうあっても敵で倒したらそれで終わりだからなぁ。すんません。分かんないでーす」
「なるほど。しかし気にしないくらいの図太さを持っているのも一つの強さです……が、ノートの書き取りを怠ったペナルティでマイナス5ポイントです」
「ひど!?」
悩んだ末に
ああ、響が地獄に一歩近付いてしまった。俺も減点食らわないようきちんとノートに書いておこう……。
それはそうとこの質問の答えは何だろうな?
気になることはたくさんあるけど、どれも正解に見えてそうじゃない気がするんだが……。
「では答え合わせ……と言いますが、実はこの問いに正解はありません。回答次第で何を教えるのかを決める予定でしたが、ある意味予想を裏切られましたので私が決めさせていただきますね」
「えー……、そういう意図があるならちゃんと言ってよぉ……」
あー、響の奴やっちまったな。メイディさんの思惑を悪い意味で裏切ってしまっていたようだ。
闇側の雑学で何を教えるのかを生徒自身に決めてもらうというやり方をするつもりが、早々に出鼻を挫かれてしまったらしい。
後になってから教えるメイディさんもメイディさんだが、きちんと答えない響が一番悪いなこれは。
「そうですね……。皆様は闇側が所有する聖癖剣の本質は
「うん? 闇の剣が……?」
少しだけ悩む素振りを見せてからメイディさんは授業の内容を決定する。
どうやら敵側の聖癖剣についての模様。本質は同じとはどういうことだ?
だが言われて見れば俺たちの剣と闇側の剣、違いらしい違いは無いように思える。
実際聖癖章は闇側の剣が由来でも問題なく使えてるし、本質は同じという言葉もあながち間違いじゃないのかも……?
「もしかして、闇側が所有する聖癖剣の聖癖の呼び声が違うのも関係しているのですか?」
「ご名答です。凍原青音様、しっかりと相手を見ていますね。プラス30ポイントの贈呈です」
ここで凍原が手を上げて疑問を投げかける。その返答はまさかの大正解。
現状最高得点を与えられた凍原。あいつが一番地獄から遠い剣士となってしまった。
それはそうと聖癖の呼び声か。言われてみればあっちとこっちじゃ違うよな。
俺ら光側は『聖癖』と出るのに対し闇の剣は『悪癖』と変換されている。これじゃ本当なら“悪癖剣”と呼ぶべきだろう。
それに【
もしかして所有先が違うと変わるのか? そんな都合の良い性質が剣に宿ってるとは思えないけど。
「闇の聖癖剣使いが所有する聖癖剣も本質はこちらの剣と全く同じです。しかし、とある人物に手を加えられたことで、剣に僅かながら変化が生じてしまっているのです」
訊ねて欲しいことを当てられたのか、ちょっとだけ声の調子が上がっているメイディさん。
つらつらと教えてくれる話の中で気になる人物の存在が浮上する。
聖癖剣に手を加えた人物……? 何かめちゃくちゃ怪しい奴が出てきたな。まぁまず敵側の存在であることに代わりは無さそうだが。
ちょっとだけざわつく会議室。知っても良いのか良くないことなのか、恐る恐る凍原がそれを訊ねる。
「何者かが、ですか? それは一体……?」
「その人物とは──闇の聖癖剣使いの長。
その発言に会場の雰囲気が少しだけ張りつめた。
まさかここで──敵の大ボス、大将の存在が現れるとは……!
闇の聖癖剣使いを総括するボスと呼ばれる人物。その存在は闇の剣士の発言から時々耳にしている。
俺たち光の聖癖剣協会にマスター・ソードマンがいるように、向こうにも指導者はきちんといるようだ。
しかし聖癖剣の性質を変化させるとは……。もしや鍛冶師とかそういう類いの人なのかな?
ここはちょっと本職に訊いてみるか。
「純騎、剣の性質の変化って鍛冶師は出来るの?」
「い、いや。僕も初めて知りました。そもそも新造や修繕は出来ても、既存の剣の性質を変更することは不可能なはず……」
「マジで? 普通は出来ないことを向こうはやってんのかよ……!?」
おおっとぉ、まさかの情報がもたらされた。本職曰く、性質の変化は本来あり得ないことらしい。
鍛冶師でも出来ないことを闇側の長は出来るって、それズルくね? 一体何者なんだ。
「ご主人様と鍛冶田様の会話の通りです。聖癖剣は基本的に性質が変化することはありません。
ですが闇側の長……以降は闇のマスターと呼びましょう。彼は聖癖剣の精神部へと干渉し、性質を変化させる技術を得ております。聖癖の呼び声が違うのは勿論、闇の剣にすることで性能を強制的に向上させるのです」
結構声を抑え気味にしてたけど、地獄耳のメイディさんには筒抜けだったようだ。
説明によれば闇のマスターは特殊な技能で剣に干渉する力を持つらしい。如何なる物事にも例外って物はあるんだな。
その力を用いて剣を改造し、悪癖と名乗らせているということか。なるほど、道理で
「剣の性能を無理矢理向上させる、ですか。何というかリスクがありそうですね」
「そうね。改造同然のことをしてノーリスクって言うのも考えにくいし、何かしらの代償みたいなのもあるかもしれないわね」
「あ、あの……。午前の授業でも言っていた剣との相思相愛は向こうではどうなっているんでしょうか……?」
流石に剣への改造という技術が気になるのか、ちらほらと推測する声が挙がり始める。
そんな中で真視が恐る恐る手を挙げて、メイディさんに質問を飛ばした。
「四ツ目様、良い着眼点です。10ポイントを差し上げましょう。午前の授業でもお教えしました禁忌の三原則は闇側にも存在します──が、決定的に違う部分があります。それが我々と向こうの大きな違いです」
真視も追加点を貰ったことで徐々に地獄行きと回避組との差が出てくる講習会。
ちょっとだけ感じ始める焦りの気持ちを抑えつつ、話をしっかりと聞き入れていく。
今の疑問の答え。それは前の講習で習った概念自体は闇の聖癖剣使いにもあるらしいとのこと。
剣とは相思相愛でいると強くなれる。この点はこっちと同じらしいが、そこから先の話を何故かすぐに教えてくれない。
光と闇の決定的な違いとは? どちらの聖癖剣も本質は同じであると言っていたが、それでも違うと言い切れる要素とはなんだ?
全員の目線がメイディさんに集まるのを確認してから、その真実を告げる。
「闇側の剣には干渉の影響か『性癖の拒絶』の部分に欠落が見られます。そのため、一度剣士を辞めてしまった者には二度と心を開きません。要するに──剣との繋がりを断たれた者はその剣の使い手に復帰することが叶わなくなるのです」
少しだけ悲しそうな表情をしながらメイディさんが教えてくれた。
そりゃデメリットが存在しないわけないよな。
光側の剣とは違う点。それは一度でも剣士で無くなった者は二度と剣士に戻れないということらしい。
性能の上昇と引き替えに闇側の剣が得てしまった物はかなり重いと言える。
ましてや本来剣が想定していない改造を施されているんだ。このくらいのリスクはあって当然だろう。
「一度でも剣との繋がりを断たれると剣士に戻れなくなる……ですか。では闇側にとって『封印』の権能はかなり脅威的な相手ということになりますね」
「あ、そっか。舞々子さんの一番強い技は確か、剣と剣士の繋がりを強制的に断つんだったっけ……?」
この話を聞いて第二班所属の凍原と幻狼の二人が、当班のリーダーである舞々子さんの権能に隠された真の力に納得する様子を見せる。
ふわふわと浮かぶ二班との合同訓練の思い出。
本気の技の撃ち合いで押し負けてしまい、気付けば夢の世界みたいな空間にいた記憶を思い出す。
この
それは剣と剣士の“繋がり”ごと封じることで一時的にだが剣士でいられなくさせてしまうというもの。
現に敵の攻撃で封印状態にされてしまった閃理の
つまり俺も一度剣士を辞めてしまったも同然の状況になっていたわけだ。
思えば
色々と思い出して話が逸れたけど、要は闇の剣士は強さと引き替えに常に瀬戸際の状態でいるわけだ。
性癖の変化という根源的な脅威の他に外的要因による強制引退という危険もあるってことだな。
うむ、やっぱり心盛さんじゃなく舞々子さんが日本一強いって言われる理由が改めて分かった気がする。
「その他はこちらと変わりません。聖癖の呼び声の変化、能力の強制上昇、復帰不可のリスクの三つが主な相違点というわけですね。テストに出ますので、しっかりとノートに書き写してくださいね?」
最後のまとめで釘をさされ、敵側の聖癖剣の説明は終わる。
剣に博識なメイディさん。まさか敵側の情報もあるとは、一体どこでそんな知識を得ているのやら。
マスターとも親しいんだから、きっと賢神とやらも知り合いだろうけど……どうなんだろうな。
全員がノートに学んだ内容を書き写すのを待つ間、俺はお茶を飲んで他のみんなを待つ。
一応言うけど俺はきちんと書いたぜ? だから余裕を持ってるわけだ。
勉強の成績はアレでも書き写しくらいなら大丈夫。これでもマメなんだ、俺って男は。
他の皆が書き取り終えたのを見計らって、次の授業へ移行する。
「さて……ではもう一度皆様が何を学びたいかをお聞きしましょう。知りたいことがありましたら、挙手でお願いします」
リベンジと言わんばかりに再度授業内容の募集をかけるメイディさん。
訊きたいことを聞けるチャンスだが、いざ何でも答えますと言われるとすぐには思い浮かばず。
さっき思った聖癖から権能を推測する方法とかも訊いてみたいけど、基本千差万別な存在である聖癖剣の性能を看破するなんて実際に体験してみるまで分かるわけないよな。
ううむ、俺の疑問は自己解決してしまった。何か良い質問がないかを考えていると、最初の質問者が声を上げた。
「はい。一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「何なりとどうぞ。鍛冶田様」
ここで真っ先に手を挙げたのは純騎。流石鍛冶師、何でも可という質問に乗じて知りたいことを知るつもりのようだ。
本職鍛冶師の人間が訊ねることなら、何か面白い話を聞くことが出来るかも。さぁ、どんな質問をするというのか。
「始まりの聖癖剣士は他の聖癖剣の権能を自在に行使することが可能だという噂を耳にしたことがあるんですけど、それは本当のことなんですか?」
「えっ、なにその話!?」
え、そうなの!? 俺初耳だけどそんな噂!?
始まりの聖癖剣士はそんなことが出来るのか? もしそうだとしたら、それちょっとズルくないか!?
ただでさえ他の剣士に比べ異常に強いという優位性を持つのに、その上で自分の剣以外の剣を使えるとかチートも極まれりだぞ。
この質問、始まりの聖癖剣士はどう返す? 嘘か真か、あるいは──?
「結論を言いますと事実です。私は私自身でもある
「なっ!? マジなんですかその話!?」
なんと、その答えはまさかの真実! 伝説の存在についた根も葉もない噂じゃないのかよ!
もう何度目かも分からないどよめきが会議室に響く。その噂を今日まで知らなかった俺だけど、流石に驚くぞ。
剣が権能を使わせてくれるには形はどうあれ剣士になる必要がある。
でも剣は一人につき一本が絶対。仮剣士状態でも一人で多くの剣を行使することは不可能なんだ。
まさか、始まりの聖癖剣士は剣との契約を自由に取っ替え引っ替え出来るってことなのか!?
あるいは自分自身が剣だからそういうのはノーカンってわけ? 他にもっと別な理由が?
謎だ。色々予想は浮かぶけど、どれも正しそうで間違ってるかも……。ううむ、よう分からん!
「では実際にお見せしましょう。これが私が個人で所有する聖癖剣──」
ざわめく俺たちを余所に、メイディさんは次元収納を司る黒い渦の中からある物を取り出す。
ぬぅっと出てくる白い長物。それを取り出しきった瞬間自己紹介さながら聖癖の呼び声が鳴った。
【
人妻!? 今人妻って鳴らなかったか!?
よりによってその性癖なのかよ……。なんかやや犯罪臭が香る性癖だ。
「ねぇ、今何て鳴った? 私人妻って聞こえたんだけど」
「お、同じく……。いや、小馬鹿にしてるわけじゃないんですけど、なんというか意外っていうか……」
「メイド職の人が人妻って、なんかすごい……こう、同人誌の匂いがする」
「全部聞こえてますよ。今密語をした方々はマイナス50点です」
俺と同じ考えをしていた奴らは他にもいたらしい。だが口に出してしまったのが運の尽きのようだ。
日向、朝鳥さん、孕川さんの三人は驚愕の点数を叩き出して地獄行き最下位ランカーに躍り出る。
これにはたまらず撃沈する他ないわな。うーん、俺が言うのも何だがご愁傷様です。
にしてもメイディさん、自分のもう一つの剣が人妻の聖癖だってことを気にしているのかな。
「挽回のチャンスはテストで行いますので、しっかりと講習を聞いてくださいね? では、続けます」
真っ白に燃え尽き、静かに絶望している三人はさておき
「この聖癖剣、
どうやらいきなり実践へと移るみたいだ。剣の力を使って自身の特権を証明するらしい。
しかし『探知』か。名前だけ聞くとこれといった派手さのない地味な権能だ。
でも何か前に閃理から似たような剣の話を教えてもらっていたような……。
【聖癖開示・『人妻』! 導く聖癖!】
聖癖開示が発動した。
探知、探知ねぇ……あぁ、そういえば。
俺がまだ行動班になって間もない最初の頃、閃理に俺の過去を話した時にさり気なく訊いていたな。
特定の人物を探し出せる能力──これに対し閃理はそれに近い権能を宿した剣は存在していたと言った。
けど今の行方は知れないと残念にしていた記憶を思い出す。
──まさかメイディさんの剣がそれなのか?
そしてものの十数秒の沈黙を経て、その剣の力を俺たちに見せつけてくれる!
「……読めました。支部長様の現在地は支部長室にて事務作業中です。封田様は百瀬様と一緒に運動場の隠し部屋にいるようです。心盛様はトレーニングルームでリハビリをしており、閃理様は──どうやらここへ向かっているようです」
「えっ、もしかして上位剣士の人たちの居場所を特定したの!?」
メイディさんは支部内にいる上位剣士+αの居場所を特定してしまった。
それにただ居場所を当てるだけじゃなく今していることまで看破するなんて……!
やっぱり地味さは否めないけどかなり凄い力だぞ。
これがあればディザストが龍美だってことをもっと早く知れたかもしれない。
「講習中失礼する!」
ここでガララっと戸を開ける音が聞こえる。本当に閃理が講習へと乱入……もとい訪ねて来た。
権能の効力、ガチじゃん。本当に閃理が来るのを当てるとは怖さを通り越してもはや笑えてくるぜ。
「
「はい。ですが元よりこれは私の剣ですので、失われていた……というのは語弊ではありますが」
訪問理由も案の定と言ったところ。
しかし今の会話、少し違和感があるな。どういうことかと言うとメイディさんの返答にそれはある。
「あの、その剣はメイディさんの物なのに未登録ってどういうことなんですか……?」
俺が気になったのはそこだ。剣の正式な所有者がメイディさんなら、閃理は
俺たち行動班の任務である剣士のスカウトに用いられる
それが『正式な所有者がいない剣の名前を教えてくれない』という物だ。
どういうことか説明すると、要は剣士候補が持つ剣の銘を
正式に聖癖剣士の所有物となることで初めて
だから俺たちはこれまで出会ってきた剣士候補たちの剣の銘を把握してなかったんだ。閃理が剣の銘に詳しいのもこれの影響である。
んで、この法則に今回の件を当てはめると、メイディさんが所有するもう一つの剣【
「そー言われてみれば確かニ。閃理、どゆこト?」
「ああ、それはだな──」
「お待ちください閃理様。この講習会は私が催した場。わざわざ来ていただいて上でお手を煩わせるようなことをさせるわけにはいきません。私自身がご説明致しますので」
俺と同じ考えに至ったんだろう、メルの疑問が閃理に向けられ、それに答えようとした瞬間──メイディさんから制止がかかる。
どうやらその理由を自分で説明したいらしい。
こうして見るとメイディさんって、結構大人げないとこもあるんだなぁ……。支部長の説得の件からだいぶ本性が見え隠れしてたけど。
「ご主人様の言うように
「契約の概念が無い、ってマジで言ってるんですか!?」
「始まりの聖癖剣士、ズルすぎじゃん! ほんと何ソレぇ……?」
閃理に代わりメイディさんからの回答は、一般剣士とのあまりにも広い格差を知らしめる真実であった。
俺が予想した始まりの聖癖剣士は剣との契約を自由に変更出来るわけでなく、そもそも契約という概念が無いから出来る芸当だってことなのか。
「一応デメリットとして常時剣士候補を探し続けている状態ですので、発見次第戦闘中でも構わず飛んで行ったり、真の使い手と比べやや性能が劣るなどがありますが、それらは全て
ここまでくるとすげぇを通り越して最早ヤベェだ。デメリットも帳消しに出来るってそれ無欠じゃん。
メイディさん他五名の始まりの聖癖剣士、剣士のカテゴリとしても異常過ぎる。
「……ではここで少し休憩を挟みましょう。その後、テストを開始します。内容はしっかり勉強をしていれば簡単に解ける問題ばかりですので、くれぐれも赤点未満の点数にはならないようにしましょう」
そう言い残してメイディさんは十分間のブレークタイムを設け、この会議室を一旦後にする。
ついに来るか、講習会最大の壁が! マイナス点数組にとって最後の挽回のチャンスが巡ってきたな。
「閃理! メイディさんの出す問題用紙の中身分かる!?」
「無茶を言うな。いくら
「そ、そこを何とか~! これで挽回出来ないと地獄に送られてしまうんですぅ~……!」
そして途端に閃理へ泣きつくマイナス点数組。
挙動は完全にテスト前なのに勉強してない学生のそれだ。こういうのは俺も学生時代に覚えがある。
余裕こくつもりはないけど、俺にとっちゃあ数学や英語の勉強を受けるよりマシだ。聖癖剣の勉強はむしろ好きなくらいだし。
だからこそ俺は焦らない。落ち着いて復習をしつつ、メイディさんの帰りを待つぜ。
休憩時間はあっと言う間に過ぎていき、会議室を出た閃理と入れ替わるように講師が戻ってくる。
「それでは皆様、席にお戻りください。これよりテストを始めます。用紙を配りますので、内容を先んじて確認してしまわないよう心がけてください」
ということで最大の難所、テストの始まりだ。
ここで落とせば誰であっても地獄行きが確定。マイナス点数組にとっては最後の挽回のチャンス。
各剣士の座る机の上に裏向きで置かれる数枚の紙。
この感じも久々だ……と、懐かしむよりも今は気を引き締めてテストに臨むべきだな。
「ではこれより三十分間の時間を設けます。カンニングをなさった方、他不正と見なされる行為をした場合は点数に関係なく修行へ同行していただきます。それでは────始め!」
一斉に紙をめくる音が会議室に鳴る。さぁ、緊張の三十分間の始まりだ。
俺の勉強はどこまで通用するのか──それを確かめてやるぜ!
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