第九十八癖『俺はお前を、知っている』

 残りの剣士たちを退治するべく、草木をかき分けて第三のフィールドへと急ぐ俺たち。


 次の場所には何の剣士が待っているんだろうか。そして誰が相手をするのか……何にも分からないせいでずっと緊張しっぱなしだ。


「閃理、次までどれくらいだ?」

「もう間もなくです。そこにも剣士はいますが……」


 先導者の閃理によれば、次の場所へは徐々に近付いているらしい。だが、言葉は途中で途切れてしまう。

 どうしたんだ? そんな言い辛そうにして……。


「焔衣、覚悟はしておけ。次は恐らく……」

「……そ、そっか。分かった。俺の番が来たってことな……」


 ああ、そうか。ついにその時が来たってわけか。

 次の場所で待ち構えている剣士。公言はしていないけど、その人物は高い確率でディザストのようだ。


 ならここまで言い辛そうにするのもわけないか。閃理も俺とあいつの因縁を知っているのだから。

 もしかすると今日でその因縁に決着がつくかもしれない可能性が少なからずある。


 戦いの結末がどうなるかなんて理明わからせも俺も……きっとあいつも分からない。


「森を抜けるぞ。準備はいいな」

「……うん。行こう」


 うっ、もうそんなに近くまで来てしまっていたか。

 今の俺は良くも悪くも様々な感情がごちゃ混ぜ状態になっていて、それのせいなのか心臓の鼓動が爆速で高鳴っている。


 でも、とにかく今は目の前のことに集中だ。戦いはもう目の前に迫ってるんだから。


「気をつけろよ。生きて戻れよな」

「全部終わたら一番いい温泉用意しますです。だから、負けないでください」

「ありがとうございます。心盛さんも温温さんも、フラットになんか負けないでくださいよ」


 と、ここで俺の応援をしてくれる二人とは別行動になる。心盛さん&温温さんペアは俺たちをここに残し、次の場所へと行くのだ。


 理明わからせの先導で二人はフラットの下へ。

 その背を見送りながら、俺と閃理はディザストのところへ行く。


 実を言うと俺一人でディザストと戦うわけじゃない。閃理が側で待機することになっている。


 やっぱりどうしても俺一人じゃ心配だからだってさ。その代わり、最悪な事態になるまで手出しはしないし姿も見せないそうだけど。


「すぅ────はぁ──……。よし、じゃあ行ってくる。もしもの時はお願い!」

「ああ、行ってこい。気張っていけよ」


 いよいよだ。後ろには閃理がいるし、きっと大丈夫なはず。さぁ、行くぜ!

 大きく深呼吸してから前のと同じく森を切り開いて作られた第三のフィールドに俺は乗り出す。




「……ん? おっと、何だここ。すっげぇ綺麗に整えられてんじゃん」


 ふむ……? テンタクルの場所とは違い、倒木は綺麗に整えられていて雑多な雰囲気がない。

 木片も折れた枝も散らかっておらず、地面だって見えてるし、何ならその地面も整地されている。


 こっちの方がまさしく伐採場って感じだな。もしかして暇だったから整えたとか?

 何か変な感じ。でもまだディザストの姿は見えないから歩いて進んでいく。


 しばらく歩いていくと、この積まれた木が迷路のようになっていることに気付く。そんなに複雑では無さそうだけどちょっと面倒だな。


「……これ、もしかして木の上を進んだ方が早いんじゃないか?」


 我ながら無粋極まりない考えだなぁ……。でも真正面から迷路に挑むほど俺は頭が良くないから、そうさせてもらうけど。


 大量の丸太を積み重ねて作られている木の壁をジャンプ! 二、三メートルはあろう高さも一発で登り切った。


 一見するとロープとかで補強してるわけでもないただ積んでるだけの不安定そうな足場なのかと思えば意外にも安定している。この上を走っても問題無さそうだ。


「待ってろ、ディザスト。今日こそはその顔拝んでやる────って、えっ。何!?」


 丸太の壁の上で意気込んだその瞬間、ゴゴゴゴゴ……と地震が発生。丈夫な足場が音を立てて揺れ始めたんだ。


 こりゃまた一体何事!? おいおい、これマズいタイプの地震…………なのか?

 確かに揺れているけど、これ本当に地震か? ふと疑問に思ってしまう。


 だって……この揺れ、何か変だもん。俺が足場にしている丸太は揺れているのに

 端から聞けばびっくりするくらい当然のことを口走っているんだろう。でもそういう動いてるじゃない。


 正確には──んだ。自らの意思を持っているかのように!

 そして、俺の疑問は次の瞬間、最悪に最も近付く形で答えを出現させてしまう!


「う、おおお!? 丸太の塊が動き出してる……ッ!」


 この異常現象によって俺は丸太の上から落下。それによってダメージを受けることは無かったが、それよりも驚くべき光景を目の当たりに。


 丸太の壁はうねって動いているんだ。まるで動物……蛇か何かに似た動き方で。


 ある一定の方向へとぐにゃぐにゃと蠢きながら移動すること数秒。木の壁……もとい、木の化け物はとぐろを巻いてその正体を露わにする。


「蛇……違う、これは木のドラゴンか!」


 こいつぁ……驚いたな。いや、相手はディザストなんだしこういう芸当だって出来るだろう。

 化け物の正体、それは身体が丸太で構成された推定十何メートルはくだらない長躯を持つ蛇型の龍!


 この伐採場の木はおそらく、災害さいがいの力によって変貌させた物に違いない。そうじゃなきゃあの化け物の存在にどう説明つけろってんだよ。


 そして俺に向かってぶわああぁ~っと咆哮するドラゴン。

 顔の厳つさに対し、吐いた音は猛烈な風で木の葉を撫でたかのような感じなのは意外だった。


「へっ、でも失敗だったな。俺が『炎熱』の権能を持つ剣士だってこと、忘れてねぇか?」


 こんな巨大な相手にちょっとだけビビりつつも、内心少しだけ良かったと思ってる。

 何故なら属性として考えれば俺が有利だからだ。可燃物で構成された相手なら炎の通りは良いはず。


 大丈夫! 支部の時に相手した龍もこんな感じの骨格だったし、大きさが違うだけだ。何とかなる!

 ちらっと目を配ったら右手側に閃理が見えた。今にも加勢しに来そうだが、まだその時じゃない。


 首を小さく横に振って俺が一人でやることをジェスチャー。すると、あっちも軽く頷いてくれた。

 意志は伝わったな。この数ヶ月間の訓練、ここで見せる時だ!


「……行くぞ」


 自ら合図を言葉にすると俺は走る。剣を構え、樹龍に向かって特攻をかけた。

 俺の行動にきちんと反応。あの長い尻尾を振るい、進行する俺を薙ぎ払わんとする。


 でも甘い。まだ丸太の束に擬態してた時にジャンプで乗り越えられる程度の高さしかないことは把握している。この程度なら簡単だ。


 予想に違わずちょっと高めにジャンプしたらあっけなく回避。空振りの隙を逃さず本体へ攻め入るぜ!

 着地からのダッシュ。俺の剣は激しく燃えながら存在感を敵にこれでもかと見せつける。


「食ぅーらえッ!」


 まずはただの通常攻撃から。相手も相手だから気持ち大きめな炎の塊を飛ばして牽制の初撃。


 これも剣士として学んだことの一つ。未知の相手と戦う時、いきなり攻めるんじゃなく牽制で様子を伺うことが大事だと閃理は教えてくれた。


 試合開始直後は大体牽制から始まる俺のスタイルはそれが起因している。様子を見てから攻めか守りかを見極めるんだ。


 そして俺の牽制攻撃はヒット。気持ち強めに撃ったおかげか焦げ目を木肌につけることに成功した。

 ただ──肝心のダメージになっているかは怪しいところ。樹龍は何の反応も見せていない。


「効いてない? でも雨龍はダメージ受けたら苦しんだし、他のも同じ反応を見せるはず。単に痛覚みたいなのが無いだけなのか?」


 ディザストの生み出す龍は限りなく生物に近い生態を持っていることは把握している。

 読み込んだ聖癖によって個体差はあるだろうけど、基本テンプレートからは逸脱しないはずだ。


 もしかすればもっと単純に威力が足りないだけなのかも。そうであって欲しいと願いつつ、俺は聖癖章をリードする。



【聖癖リード・『ツンデレ』『日焼け』! 聖癖二種! 聖癖混合撃!】



 読み込ませるのは俺と日向の聖癖章。焔神えんじんの炎熱と炎陽えんようの光熱。この二つを掛け合わせることでさらに強い攻撃が出来るはず。

 攻撃を承認し、そして放つ。技名は──そうだな。



焔魔炎陽攻えんまえんようこう!」



 浮かんだネーミングと技を紐付けさせながら発動。

 およそ三種類の火に関連する属性を宿した一撃は真っ直ぐ樹龍に向かっていく。


 だがその攻撃は戻っていた尻尾によって防がれてしまう。もっとも──その尻尾は熱にやられて砕け、木片になってしまったがな。


 これには防御に走った樹龍も悲鳴のような声を上げた。やはり痛覚みたいな感覚はある。無敵の相手じゃない!


「いける! もう一度同じ技を──うぉっとぉ!? いやいってぇ!」


 早くも大きなダメージを与えることに成功し、俺は再び同じ攻撃を仕掛けようとした。


 しかし相手もただではやられない。砕けた破片を俺めがけて飛ばすだけでなく、さらに自切して尻尾その物をぶつけてくる!


 これはさすがに予想外。何とかデカいのはかわせたけど、木片までは避けきれなかった。

 ぬぬぬ……こんなことで俺は倒れないけど、ちょっと痛かったぞ。


 ちなみに飛んできた尻尾は龍化の支配から解放されたのかただの丸太になってその辺に転がっている。障害物も増えちまった。


 それにしても自分の尻尾を切り落とすとは……やっぱりドラゴンっては虫類なのか?


「とはいえ自分から身体を小さくしたのは失敗だぜ。何せ弱点を見せたようなもんだしな」


 ふふふ、樹龍は愚かにも致命的な弱点を俺に見せてしまったのだ。


 自切とは本来自分の身体を削って外敵から身を守る行為。本家トカゲは切った尻尾が再び生えてくるけど樹龍の場合は違う。


 見れば尻尾の残り部分から余分な材木を削って形を整え、シュッとした形状に整形し直した。

 つまり自切した尻尾の分&形を整えるために削った分の木材の消費していることになる。


 これを繰り返せば奴の身体は次第になくなっていき、自滅に追いやることが出来る……はず。


 勿論そう上手く行くとは思わないが──作戦としては悪くない。最低でも戦いやすい大きさにまで出来れば上々な出来だ。


「となればやるしかないよなぁ!」


 時間もかかるだろうけど背に腹は変えられない。俺はさっきのコンボをリードし、もう一度放つ。


 二回目は若干外してしまい自切させるほどのダメージを負わせられないまま終わる。ま、そう上手くは行かないか。


 それに向こうの攻撃だって動きが読めるものばかりじゃない。


 尻尾の払い、噛みつき、突進……身体を使った攻撃以外にも、小石や枝葉の混じった強風のブレス攻撃だってしてくる。


 正直言って強敵……! 甘く見て挑んだつもりはないけど、やっぱ戦いってそう上手くはいかないな!


「でも! 俺だってこんなとこで負けられねぇ。さっさと退かないと燃やすぞ!」



【聖癖暴露・対陽剣焔神ツンデレけんえんじん! 聖なる焔が全ての邪悪を焼き払う!】



 俺がここにいるのはディザストと会うためだ。こんなデカブツと戦うためじゃない。

 折角用意してもらって悪いけど、そんな長々とは付き合ってられない。一気にカタをつける!


「焔魔天変!」


 必殺の一撃! 赤と青の焔が混じり合い、樹の身体を燃やし尽くす。

 大風に扇られる木々の葉音のような鳴き声を上げ、灼熱地獄に苦しむ樹龍。でもまだ倒れなさそうだ。


 それなら──もう一発だ。俺はすぐさま追撃に移る。



【聖癖開示・『ツンデレ』! 熱する聖癖!】



焔魔旋風えんませんぷう!」


 これは新技だ。要約すると威力が若干落ちて自動追尾が無くなった代わりに持続時間を大幅に増やした焔魔追炎召といったところ。


 火に油を注ぐ──いや、炎をぶち込むが如き所業。聖癖の追加熱を食らえ!


 樹龍は暴れ回って炎を消そうともがく。燃える身体の一部分は焼け落ちると火のついた丸太となって辺りに散らばっていく。


 途中でそれや樹龍の尻尾とかにぶつかりそうになったけど、これもまたジャンプして回避。

 もう無駄だ。樹龍の身体はすでに炎が燃えるために必要なエネルギーになっている。観念して灰になれ!


 次第に動きが鈍くなる樹龍。もう少し……だけどまだ戦う気のようだ。

 全身が炎に包まれ、身体が焼け落ちてしまいながらも俺に顔を向けている。


「最後の抵抗でもするのか。なら、俺もとどめを刺してやるってのがせめてもの優しさだよな」


 燃え尽きる前に俺に一発入れたいという気持ちは何となく伝わった。それに答えて俺も真っ向から挑んでやる。


 聖癖で造られた存在とはいえ生物に限りなく近いんだ。炎の苦しみにいつまでも囚われているのも可哀想だからな。


 俺は剣を構えた。この一撃であいつを楽にさせてやる。

 そして間髪入れずに樹龍は俺に突進攻撃を仕掛ける。身体を崩壊させながら、最後の攻撃を繰り出す。


「その心意義や良しだぜ! 俺も一瞬だけ本気の一撃を見舞ってやる!」


 焔神えんじんを振るい、大きな斬撃波を樹龍の顔面に向けて撃ち放つ! 白い一閃は奴の頭を貫通して身体を通り抜けた。


 その瞬間、樹龍の頭部は縦に避けて文字通り分断。奴の攻撃は俺に届くことなく倒れる。

 亡骸は龍化の呪縛から解き放たれ、大量の焦げた材木に還元。辺りに散らばった。


「──勝った。結構な相手だったけど、何とか勝てたな……」


 俺の勝利……でいいんだな? うおお、遂に一人で誰の力も借りずに巨大な相手に勝つことが出来た!

 これまでの訓練で培ってきたことがようやく実を結んだな。ちょっと感激……してる暇はないか。


 軽く息を整えていたら、向こうの方向から何者かがやってくるのが見えた。

 その姿を見て、誰なのかを一瞬で察する。遂に来たな……!



「どうして、君がいるんだ……!?」



「よぉ、ディザスト。一ヶ月ぶりだな。会いたかったぜ」



 因縁にしてライバル、そして目標。この第三フィールドの主である“龍の聖癖剣士”サマの出現だ。

 俺の戦いはここからが本番。言葉で解決出来るか、剣を交えるかは俺の話術にかかっている。


 当然ヘマする気はねぇ。ここで俺は暴かなければならないからな。

 奴の──ディザストの正体を。呪いによって従わされている剣士の素顔に迫らなければ。


「僕の見立てだと最初は上位剣士のどちらかが来るはずだった。なのに何故……」

「勿論最初はめちゃくちゃ反対されたぜ。暴力振るわれる一歩手前くらいにはな」


 俺が相手として現れたことはディザスト自身予期していなかったことのようだ。


 さしづめ全部の剣士を倒してから俺と戦うつもりだったんだろう。ふふふ、でもそう上手くはいかせないぜ。


「……そうか。大変だな」

「お互い様、の間違いだろ?」


 余裕っぽさをかましつつ小さく笑う。ディザストからの反応は無い……というか分からなかったが、否定も肯定もされなかったことは分かった。


 さて、無駄話はこれくらいでいいだろう。そろそろ本題に入ろうか。


「ディザスト、どうして俺がここにいるのか──その理由が分かるか?」

「……いや」


 やっとこさ本題へ。俺の問いにディザストは答えられなかった。

 おそらくは俺の目的……いや、正確に言えば考えを知らないんだ。


 だから俺が自ら挑んで来た理由を見つけられないんだろう。ここにいる目的……それを話す。


「正解はあんたに用事があるからだ。だから心盛さんを説得してまでしてここにいる。聞きたいことが山ほどあるもんでな」

「……聞きたいこと?」

「ああ。だから戦う前に答えてくれるか? あんまり長くならないようにするからさ」


 俺の言葉にディザストの鎧がカチャリと音を立てた。

 それが動揺なのかどうかは知らないけど、とにかく言ってみるべきだろう。臆さず言うぜ。


「あんたの身体にかかってる『呪い』って何なんだ? まずそれが何か聞きたい。どうしてかけられてるんだ?」


 最初の質問は呪いについてだ。クラウディといざこざしてる時に何度も聞いたそのワード。


 だが実を言うとこれの答えはすでに出ている。遡ること一ヶ月前、支部襲撃の件を終えた後、俺は閃理にそのことを訊ねていた。





「ねぇ、閃理。ディザストの『呪い』って何?」

「唐突だな。何かあったのか?」

「あー、うん。ちょっとね」


 それは例の件から二日目の夜のこと。家事をする合間に居合わせていた閃理に訊いたんだ。

 今の問いに閃理は少しだけ言い辛そうに黙った後、お茶を一口啜ってから答えてくれる。


「闇の聖癖剣使いは戒めなどを目的にとある剣の力で剣士に呪いをかけることがあるらしい。本来は裏切りなどを目論んだ者にするのだが例外があってな。最凶の聖癖剣【龍喚剣災害りゅうかんけんさいがい】を扱う剣士には離反の意思の有無に関わらず呪いをかけるんだ」


 有識者はそう語る。闇の聖癖剣使いの呪いとはそういう物らしい。

 本来は戒め……つまりお仕置きに使う物なんだ。必ずしもそれ用ってことでもないようだけど。


「うーむ、戒め用なのはいいとして、それじゃあどうして龍の聖癖剣士に呪いをかけるの?」

災害さいがいは数ある聖癖剣の中で最も至高の領域に近い剣とされている。それを奪われてしまうのを敵は恐れているんだ。剣士本人さえも信用しないほどにな」


 な、なるほど。至高の領域ね。そりゃ手放したくないと思って当然だな。


 ちなみにこれはもう少し後になってから知ったことだが、この『至高の領域』ってのは始まりの聖癖剣と同等っていう意味を込めての発言だった模様。


 つまり【龍喚剣災害りゅうかんけんさいがい】は現存する聖癖剣の中で最も始まりの聖癖剣に近いってことになる。そうだとすればマジの至高じゃん。


 そんな物の剣士に選ばれたディザストは逆に組織から信用されてないってことらしい。

 裏切られたら即座に強力無比な敵が増えるってこになるもんな。そう考えると分からないでもない。


「そっか……。ありがとう、閃理。ちょっとだけ疑問が解決した」

「それは何よりだ。……ところで焔衣、どうしてそんな話を────」





 相談はあともう少し続くけど今はここで割愛。

 俺の問いにディザストはどう答えるのか。じっくりと待つ。


「……君に関係ない。あの時の発言を気にしているのなら忘れてくれ。闇の剣士にならない以上は知っても無駄だ。させるつもりも無いけど」


 やはり簡単には教えてくれないか。でも、その返しは予想通り。

 俺の言葉は続く。おそらく──この返答は奴に効くはず。


「いいや、悪いけど関係あるんだ。もしかすれば俺のがその呪いにかかってる可能性が出てきたもんでな。解決策があれば知りたいんだ」

「…………!?」


 そう言い放った瞬間、ディザストの身体が大きくよろめいた。今、明らかに動揺したな?


 この反応を見て、俺は内心で確信してしまう。

 正直悔しいし、悲しい、ちょっと怒りさえもこみ上げてきたけど、それ以上に感じる感情もある。


 でも感傷的になっている暇は無い。確定的とはいえ裏が取れてない以上はまだ油断出来ない。

 ディザストの返答、そして俺の言葉はまだ続く。


「ち、違う。君の親友はそんなものに囚われていない。彼はただの人間。そんな人物に組織は呪いなんかかけない」

「ならあんたが動揺する理由にはならないよな。何か俺に──とてつもなくヤバいをついてるよな、ディザスト」

「…………ッ! 違う、君の考えは全部デタラメだ。これ以上馬鹿なことを言わないでくれ……!」


 さっきよりも動揺する素振りが強くなっているな。

 もし……ディザストが予想している人物なのであればあともう一押しといったところか。俺だって苦しいけど、容赦はしてやらねぇ。


 大きく息を吸ってから俺は前に一歩足を踏み出すと、それに反応するようにディザストは半歩後退りする。


 逃げるな。あんたには説明責任ってモンが生まれちまってるんだ。これをどうにかしないと俺との因縁なんて一生解消出来やしねぇ。


 そしてついにディザストにとどめの一言を──言い放つ。




「あんたは────……、神崎龍美なのか?」

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