第九十七癖『剣士が集いし、森の奥』

「よく聞け、お前ら。今回の戦いは本気でヤバい戦いになる。もしかすれば死人だって出る可能性も否定出来ねぇ。覚悟は決めておけよ。いいな!?」

「はい! 覚悟は出来てます!」

「私もです! フラット倒すまで死ねませんです!」


 決戦当日。目的地までの移動中、ホールに集まる八人の剣士は心盛さんの言葉を聞かされていた。

 軍隊かよ、ってツッコみたくなるくらいの大声で言ってくるが別に不満は無い。


 何せ相手は七人の闇の剣士。その内二人は悪癖円卓マリス・サークルで、その片方はディザストなんだ。

 本当に誰かが死ぬ可能性がある以上、ここまで強く言われても当然としか言えないな。


「いよいよですね……」

「よし、じゃあ改めて確認。私たちは増援の雑魚を狩って心盛先輩や閃理さんらの戦いに邪魔が入らないようにする。私たちが出来ることをするって感じね」


 もう何十分もしない内に本番……俺たち聖癖剣士が剣士としての任務をこなす時が来る。

 それに備え、俺たちはそれぞれ与えられた役割の再確認中だ。


 今し方口頭で言った通り凍原と日向、そしてメルの三人は悪癖円卓マリス・サークルではない闇の剣士を倒す役割についている。


 いくら上位剣士でも悪癖円卓マリス・サークルを相手にしながら他の剣士を複数人相手取るのは厳しい。

 それを未然に防ぐために増援の剣士を何とか足止め、あるいは撃破するのがあいつらの役割だ。


「孕川、朝鳥、二人は姿消してメルたちのSupportサポート。ヤバくなったら逃げル。Ok?」

「わ、分かった! しっかりサポート、ヤバくなったら逃げる。しっかりサポート、ヤバくなったら逃げる……」

「初めての実践……。すごい、ドキドキしてて怖いのに、何でかワクワクもしてる。こんな気持ち、初めてかも」


 そしてサポート組。朝鳥さんと孕川さんは直接戦わない代わりに補助や回復を担当する。


 相手が七人で来る以上、戦いが長期戦になる可能性が考えられる。そのため二人には俺たちの近くで補助の役割を担ってもらう。


 俗に言う縁の下の力持ち。新人の二人にはこれだけでも十分大仕事だ。

 そして──俺たちの役割についても触れられる。


「……最後に聞くが、本当にやるんだな? 焔衣はディザストと。温温はフラットに挑むってのは」

「はい。こればっかりはどうしても俺がやらないとダメなんです」

「右に同じくです。私の家族の仇、私が取りますです。最悪刺し違えてでも、です」


 雑魚狩りや補助の役割に回る下位剣士の中で、俺たちは違う戦いをする。

 俺は先日閃理にも言った通り、ディザストに戦いを挑むのだ。


 この件に関しては昨日、心盛さんに説明をしたら当然の如く胸ぐらを掴まれ、もの凄い剣幕で止められるほど反対された。


 だが俺にはどうしてもディザストに訊かねばならないことがある。だから説得のつもりで心盛さんに全てを告白したら、驚いた顔をされた上で悲しい表情までされ、ようやく認めてくれたんだ。


 あの心盛さんが引き下がるくらいの因縁が俺と奴の間にある。

 俺がディザストに訊かないといけないことは、それほどまでに心苦しい内容を孕んでいるんだ。


 温温さんについては前に聞いたのと同様。家族と家業の仇を取るのが動機になる。俺とは違い上級剣士一歩手前だからか大げさに止められはしなかったけど。


「全員、いるか?」

「あ、閃理。戻ってきたってことは……」

「ああ。目的地に到着した。まぁ徒歩での移動もあるがな」


 すると、このタイミングで九人目の剣士がホールに戻ってくる。

 目的地までの運転を担当していた閃理。この人が戻ってきたということは、つまりそういうことになる。


「よーし。それじゃ、全員円陣組むぞ」

「部活かな?」

「ゲン担ぎって言え! おーし、全員生きて帰るのが最低限の目標だ。もし死んだらぶっ殺すからな!」

「り、理不尽!」


 出発の時だ。心盛さんの号令で俺たち九人の剣士は言われたとおり円陣を組む。

 朝鳥さんのツッコミに失笑しつつ、少しばかり緊張がほぐれてから改めて気持ちを整える。


 でも本当のことを言うとあんまり自信がなかったりしている。

 何しろ俺の相手はあのディザスト。また格上を相手にすることが全く怖くないわけがない。


 本来ならぶん殴られても文句は言えない無謀極まりない挑戦。でも、それを認めてくれた心盛さんと閃理のためにも敗北だけは絶対に回避してみせる。


「よし、では向かうぞ」


 その言葉に従い、俺たちは移動拠点から出た。

 現在地は温泉街から外れた森の中。ちょうど街から見えていた山の麓だ。その奥へと俺たちは行く。


 何故こんな森の中を進むのかというと、今日の早朝に決戦の舞台がどこなのかを知らせる手紙が律儀にも移動拠点の前に置いてあったんだ。


 それによると、この山の麓には戦いに向いた空き地みたいなのがあるらしい。そこが指定された決戦の舞台というわけだ。


 路地裏、霧中の崖際、廃ビル屋内……これまで何度か不良環境で戦ってきたことのある俺だが、大自然の中は初めてのフィールド。


 やはり木々が茂る場所での戦いはちょっと怖い。不意打ちとかしやすそうだもんなぁ……。


「もうすぐ到着する。気を引き締めていけ。朝鳥と孕川はここで姿を消しておくんだ」

「は、はい!」

「えーっと、どれだったっけ……?」


 と、ここで急に立ち止まる閃理。曰く目的地まで近いらしい。

 そう聞くとまたさらに緊張してくるな。大丈夫大丈夫、初めてじゃないんだしきっと何とかなるはず。



【聖癖リード・『目隠れ』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】



「ど、どうですか? 私たちのこと見えてますか?」

「ああ、目視じゃばっちり認識出来ねぇ。あと怪しまれないように足音も殺していけよ」


 サポート組は予定通り『目隠れ聖癖章』の力で認識不可状態に。しかしこれだけでは不十分で、心盛さんの言うとおり気配も抑えなければ即行バレてしまう。


 あくまでも消せるのは姿だけ。そこだけは忘れず気をつけて忍んでほしいところ。

 ここで俺は深呼吸。森の空気は少しだけ緊張を和らげてくれる……気がする。


 十分に木々の匂いを堪能し終えたら、頭が少しだけすっきりした感じ。気のせいかもだけど、さっきまでよりかはだいぶマシになった。


 もう少し進むと木々の隙間の奥に開けた空間があることに気付く。あそこが決戦の舞台か。

 言うまでもないが剣舞を取得している組は舞を終えており、朝鳥さんによるバフ掛けも済んでいる。


 聖癖章だって忘れ物が無いかしっかり確認済み。特に俺は念入りに準備と再確認を繰り返していた。


「では、行くぞ!」

「うん! 全員で勝つ!」

「GoGo!」

「次こそヘマしないんだからっ!」

「今度は私たちの番です!」

「はっはっは、威勢だけは取り戻しやがって」

「フラット、絶対ここで倒すです!」

「朝鳥さん、お互い見えない状態ではぐれるのは危ないので手繋ぎません?」

「さ、賛成~……! どこかな、ここかな?」


 閃理のかけ声で戦闘組は威勢良くフィールドへ踏み出す。さぁ、戦いの火蓋は切って落とされた!

 そして、舞台となる空間がどんな場所なのかを目の当たりにする。


 一目見て頭に思い浮かんだのは伐採場。本来この場所に生えていたであろう木々が無造作に薙ぎ倒されており、無理矢理スペースを広げられていることが分かる。


 まさか元々あった自然を破壊して作り出したのか?

 この短期間でこれを用意する力、侮れないな。ってか無許可の森林破壊は場合によっては犯罪だぞ。


「全員、下から来るぞ。その場から離れろ!」

「えっ……!?」


 すると突然、閃理がこの場にいた全員に退避を指示。あまりにも唐突で訳が分からなかったが、閃理の言葉に嘘はない。


 とにかく回避。その場から直ちに移動した瞬間……がいきなり地面から現れた!


「んなっ……何だありゃあ!?」


 心盛さんの太い悲鳴。そう驚いても仕方ないよな。

 何せ突然出現したのは緑色をした巨大な蔓……いや、うねうねと蠢いているからただの植物じゃない。まさかこれは────



「うーっわ、初撃をかわすとかマジ? あーもういきなり調子狂うなぁ。そういうの勘弁なんだけど」



 すると、どこからか聞き慣れない声。やや気怠げな女声で今の攻撃を外したのを悔しんでいる。

 何か口調が響にも通ずる軽さがあるな。もしかして……ギャルってやつか?


 しかし、その声を気にする余裕は今の俺たちには無い。敵の声を無視して先に行こうとすると、さらなる変化が大地に起きる。



「逃げられるとでも思ってんの? 悪いけど逃がさないってのぉ!」



 またも敵の声が聞こえたかと思えば、今度はさっきの蠢く巨大な蔓がどんどん数を増やしていく!

 あっという間に俺たちを包囲。退路を断たれてしまった。


「これ、何なんだよ!? ぐねぐね動いてて気持ち悪ぃ……」

「こいつは……『触手』か。焔衣、以前お前も使ったことがあるだろう。『触手聖癖章』を生み出した剣による攻撃だ」


 え……、あ、そういえばラピットと戦う際にそんな聖癖章を使ったような覚えがあるような無いような。

 つまり今回の敵は触手の聖癖を宿した剣、ってこと!? んなアブノーマルな……。


 敵の権能を暴く間も攻撃は続く。何十本も生える触手が俺たちに向かってそのしなやかな蔓を叩きつけてきた。


 ぬぐぐ、何という猛打。これは回避出来ないだろう……少し前の俺ならな。



【聖癖リード・『ツンデレ』『巨乳化』! 聖癖二種・解釈一致! 聖癖接続撃!】



「全員伏せろ! 焔魔重媒斬えんまじゅうばいざん!!」


 俺が発動させた接続撃により巨大な炎の剣が出現。それにより触手の群を一瞬で焼き払った。

 さっきまで活きの良い動きをしていた蔓の触手はあっという間に焦げてなくなってしまう。


 ふふふ、かわせないのなら強行突破に限る。それに植物ってんなら炎にはそんなに強くないだろうよ。俺を相手に蔓を使ったのは失策だったな。



「うそっ……!? あんだけあった蔓が一瞬で……」



「どこで高見の見物してんのかは知らねぇけど、さっさと姿を現せ! 逃げて隠れて剣士名乗ってんの恥ずかしくないのかよ!」

「……お前、意外と皮肉屋なんだな」


 またもやどこかで敵の声。まったく、こいつはどこにいやがるんだ。

 つい大声で姿を見せるよう叫ぶ。ま、そう簡単に応じてくれるわけないよな。


 隣で心盛さんに変な目で俺のことを見られているけど無視! 直そうにも直らなさそうだもん、この癖。



「……結構言うじゃん。はっ、なら見せてやるってのよ。その代わりに見ても驚かないでよね。あーしの姿を!」



 おっと。俺の挑発に乗ったのか、敵がようやく姿を見せてくれるようだ。

 するとどういうわけか急に地面が揺れ始める。このタイミングで地震……なわけないよな。


 そしてドカァッと薙ぎ倒された木々を吹き飛ばしてが出現。それを見た俺たちは、さっきの蔓の比じゃないくらいにゾッとする。


「うおおおお!? なんですかあれは!?」

「で、でっか……!? あれ、何メートルあんの?」

Octopusタコ……!」


 これには流石に驚くなというのは無理があるだろ。

 何せ出てきたのは巨大な! 自然のど真ん中に異常な大きさの海産物が突如として出現したのだ!


 よく見るとタコの眉間部分には身体を複数の触手で巨体に固定している女性の剣士がいる! あれがこの触手を生み出す張本人か!



触手剣蛸攻しょくしゅけんたこぜめ!】



「驚くなって言ったっしょ!? あーしは悪癖円卓マリス・サークル第四剣士『這背スティール』さんとこの所属で“触指の聖癖剣士”の『蛸攻テンタクル』! ここであんたら全員絡め捕って、ゲームオーバーにさせてやるっての!」



 うわぁーお、こいつぁ初っぱなから権能かつ性癖的に想像以上の剣士をお出ししてきたな。


 テンタクルの剣もククリナイフ型で刃部全体がタコの触手を剣に落とし込んだようなデザインとなっている。中々攻めた造形じゃん?


 巨大な身体を持つ相手はマッディ&メタリカ戦以来。でもあの時は泥とおまけの鋼で構成された身体だったけど、今回はまさかのタコ。性質が全く異なる相手だ。


 ううむ、これはどう戦うのがベストだ? ああもう、こういう時こそ封印で全部解決出来る舞々子さんを連れてくれば良かった……。


「メルが相手すル。全員、先行ってテ」

「いいのか? いくらお前でもアレを一人で相手にするのは危険だぞ」

「それでしたら私も残ります。頭足類は平気ですので、お力になれるかと」


 するとここでメルと凍原があのタコを相手にすると志願。おいおい、いいのかよ。


 いくらタコが平気らしい二人でも、巨体という優勢さまで覆せるのか? 敵の実力もあんまり分からないのに。


No problem問題ない。青音と一緒、なら負けなイ」

「分かった。ではあの剣士の相手は任せる。俺たちは先に行くぞ」


 とまぁぐだぐだ考えてもいたずらに時間が減るだけだし、そもそも相手も待ってはくれない。

 些細な時間のロスがミスに繋がるわけだから、ここは大人しく二人に任せることに決まった。


 しかし次に行くとは言うけど、この開けた土地にあるのは折れた木々と巨大なタコだけだ。他の道なんかどこにも……。


「どうやら東に進んだ先にもここと同じ切り開いた空間がある。そこに次の剣士がいるようだ」

「あ、次々と攻略してって最後にフラット戦、っていう感じなのか」


 そういうことね。ならメルたちを置いて次に進むのも道理。迷ってる暇は無いから早速行くぞ。

 スタコラサッサと東側にある次のステージへ走る俺たち。それに気付いたテンタクルは勿論見逃さない。


「逃がすか!」


「あなたの相手は──」

It's us私たちだ!」


 俺たちが向かう進行方向に向かって巨大な触手を伸ばそうとしてくるテンタクル。だが、それは当然二人の光の剣士によって防がれた。


 稲妻の衝撃と氷の防壁。この二つが俺たちを触手から守ってくれている。

 恩に着るぜ二人とも! そういうわけで俺らは木々を通り抜けて次の場所へ。


 獣道を走り、次のステージが見え始めた。その瞬間である。


「全員止まれ!」

「え、今度はな──ぶふぇっ!?」

「キャッ!? え、ええ何? 何かにぶつかったんだけど!?」


 今度は閃理の言葉が俺たちの行動に待ったをかけた。だが俺と日向は止まりきれず、急ブレーキをかけるも突然何かにぶつかって尻餅を突いてしまう。


 一体何事!? 今何にぶつかった? 本当に何も分かんないんだけど?


「これは……透明な壁? 見えない壁がここにありますです」

「嘘っ、じゃあどうやって進むの? もしかしてどこまでも続いてるわけじゃないわよね?」


 温温さんは恐れることなく俺たちが激突した場所を触って確認。


 するとパントマイムのように手は途中でぴたりと止まり、水面に触れた時みたく黒い波紋が壁を走る。ちょっぴり幻想的。


 でも同時にこれ以上の進行を許さないことも示しているわけだ。

 透明な壁……それが目の前に展開されている。触らないと波紋は生まれないしマジで何も見えん。


 俺も改めて前方に手を出してみると、確かに堅い何かがそこにあるようだった。それにほんのり暖かい。


「どうやら二つ目の場所を中心にドーム状となって形成されているな。破壊も一筋縄ではいかんようだ」

「マジかよ。じゃあどうすんだ? 迂回するしかねぇのかな」


 安心と信頼の理明わからせ情報によればそういうことのようだ。

 つまり防御系の権能ってことなのかな? 破壊も無理ってんなら遠回りして次に向かうしか方法は──


「お待ちしておりました、光の剣士の皆様」


「……!? 誰の声?」

「結界の奥からだな。次の敵、といったところか」


 またも突然知らぬ声が俺たちを歓迎する旨の言葉を吐き出した。

 何というか中性的な声だな。いや、そんなことを気にしてる場合じゃない。敵が近くに来るぞ!


 そして、進行方向の先から誰かが歩いてやってくるのが見えた。俺たちは当然臨戦態勢に。


「お初にお目にかかります。私は悪癖円卓マリス・サークル第二剣士“忘却オミット”様直属、『障壁の聖癖剣士』の“望護モナカ”と申します。以後、お見知り置きを」


 木々の間を通り抜けて現れたのは……黒い修道服の剣士。俺が知ってるシスターのイメージに違わず、セルフ恋人繋ぎみたいなあの手の組み方をしている。


 まさかシスターが敵の剣士にいるなんて……。外面だけならば普通に良い人に見えるけど。


「敵が直々にお迎えに来るなんて、ずいぶん余裕そうね」

「はい。私は争いを好みませんがフラット様の指示に背くことは致しません。ここで足止めをさせていただきます。そのためにここまで足を運んだのですから」



修導剣望護しゅうどうけんぼうご!】



 とはいえ敵であることに変わりはないよな。モナカっていう名前の剣士は俺たちをここで止めるつもりのようだ。


 そして見えない壁越しにモナカは自分の剣を取り出す。何かを仕掛けに来たか……?


 十字架を彷彿とさせるシンプルな造形。だが刀身は闇のように黒く、神聖さなんか一つも感じさせない。モナカはその剣で聖癖開示を発動させる。


「懺悔の時です。ここで──朽ち果てなさい」



【悪癖開示・『シスター』! 祈りし悪癖!】



 開示攻撃を発動させた望護ぼうごの切っ先を壁に当てたその瞬間、見えなかった壁は一瞬にして真っ黒に染まってしまう。


 それだけじゃない。この技がどのような結果を招くのかを閃理はキャッチしていた。


「お前たち、早くここから離れるぞ!」

「また急にどうしたの!? 今度は何が……」

「このままでは奴の結界に幽閉されてしまう。そうなったら二度と出られなくなるぞ!」


 え、なん……何ソレ!? 急がないと黒い結界の中に閉じ込められるんじゃ急がない理由はないよな!

 俺たちは閃理の言葉に従い、慌てて先導する方向へと向かう。


 後ろをちらっと確認すると、黒い結界が徐々に範囲を広げて俺たちのいる場所を覆い尽くそうとしているのが見えた。


 あの堅い結界の中に閉じこめられたが最後、脱出方法は無い。なら予定が多少狂っても仕方がないか。


「あっ……!?」


 だがここで思わぬハプニングが発生してしまう。日向が木に足を取られて転んでしまったのだ!

 これにより五人の中であいつが殿に。そして、障壁はすぐそこまで迫ってきた。


「日向! くっ、今助け──」

「ダメだ。今は諦めろ。ここでお前までやられるわけにはいかない!」

「そうよ。私のことはいいから先に行け! こっち来んな!」


 俺は咄嗟に救出へ向かおうと方向転換しようとしたが、それを止められてしまう。そして日向からも制止をかけられた。


 閃理は決断し、そして日向は覚悟を決めたんだ。仲間を一人身代わりしてに俺たちが進むことにしたのを。


 くっそぉ……まさかここであいつを犠牲にするなんて思わなかった。でも、閃理の言うとおり俺はここで脱落するわけにはいかない。


 全部終わったら必ず助けに行くことを心の中で約束する。それまで生きててくれよな、日向!


「日向、これを使え!」


 去り際、閃理は懐から二つの聖癖章を逃げ遅れた日向に向かって投げつける。

 見事な投擲で覆い被さりつつある結界の中に入り、そして黒い壁が完全に日向を隠してしまう。


 何の聖癖章を渡したのかは分からないが、閃理のことだ。きっと状況を打破出来る強力な物の可能性がある。


 それならば心配はないはす。メイディさんに褒められる程度には強い日向ならきっと使いこなして敵を倒してくれるだろう。そう信じておく。




 そして残った俺たち四人はそれ以上振り向くことなく大きく迂回して次の場所へ──

 もう三人も減ってしまった。これで残りの敵はおよそ五人。こっちの人数を上回ってしまった。


 予定通りではあるけど些かペースが早い。不安がないわけではないが、きっと大丈夫。

 凍原やメル、日向も敵の剣士を何とかしてくれるはず。きっと負けはしないだろう。


 俺たちは俺たちの戦いに集中する。悪癖円卓マリス・サークルを何とか出来れば、この戦いだって終われるはずだからな……!

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