第九十二癖『学びて教え、波乱の息吹』
「恐らく皆様がお考えになっているかと思われますが、この模擬試合はただ剣の加護無しでの戦いを確認するだけではありません。私が知りたいことというのは、どういった戦法をするのかの確認なのです」
「戦法?」
メイディさんの言葉に全員の首は傾げられた。勿論意味が分からないというわけじゃないが。
つまりあれだ。読んで字の如く個人の戦い方を見たかったってことだろ。
聖癖剣士に限らず全ての戦う者にとって戦い方というのは基本千差万別。
全く同じ戦い方をする人はごく僅かだし、知りたくなるのも分からないわけじゃない。
「ではここで先ほどの模擬試合のMVPを発表します。あくまでも私個人の主観による判断になりますので、あまり間に受けなくても結構ですので」
今度は試合のMVP発表に移ると宣言。ちょいと唐突だがこの言葉に俺たちの背筋は思わず伸びる。
単純に考えて始まりの聖癖剣士の目線から見て、一番好成績な剣士ってことになるわけだ。
それを嫌だとは誰も思わないだろう。選ばれるのは誰か……じっくりと名前が呼ばれるのを待つ。
「……煙温汽様、そして狐野幻狼様。お二人が模擬戦のMVPとなります」
「おお! 私、選ばれました。嬉しいです!」
「僕がMVP!? や、やった……!」
発表結果、それは温温さんと幻狼の二名だった。
うっそー……。温温さんはまぁ上位剣士一歩手前な上に響に勝ったからいいとして、試合が無効にされた幻狼が選出されるのは意外過ぎた。
この判定に難癖をつけるわけじゃないが……どういう判断基準で選ばれたんだ? そこ、かなり気になるんだが。
「はいはーい! 質問良いですかー? どうしてその二人がMVP? どんな基準?」
そうこう疑問に思っていたら、響がほぼ俺と全く同じ考えをメイディさんに臆さずぶつけにいった。
やっぱ気になるよなぁ。何故に二人が選ばれたのか、その理由が。
「それをお答えする前に一つ、私から皆様へご質問させていただきます。剣士として──戦う際に気を付けなければいけないこととは何でしょう? 向かって左から順にMVP以外の方はお答えください」
この答えを出す前にメイディさんは俺たちへ質問返しをしてきた。
剣士として戦う時に気を付けること? そりゃあ……剣士だし、ある程度決まってないか?
「えーっと、普通に単純な実力? あとどれくらい真摯に向き合うかとか?」
「怠れないという意味だとやはり日頃の整備点検とかでは……?」
「あたしケンティーと同じー。やっぱ強さは大事っしょ」
「それを言うなら正々堂々さも同じかと。プライドやモチベーションの維持も不可欠です」
「自分自身の得意を深く知ることだと思います! 長所を伸ばせば短所もある程度カバー出来ますし」
「え、なんだろ……。聖癖剣士としてなら剣の理解とか?」
それぞれが質問に対する意見を口にしていく。
俺の答えは強さと真摯さ。騎士道とかに則るつもりは無いにせよ、常に死が隣りにあるんだからふざけた戦いはありえないよな。
他の皆もごもっともな意見ばかり。整備や正々堂々さ、長所に剣の理解もよく分かる。この選択肢の中には一つくらい正解はあるだろう。
一通り出揃ったタイミングでメイディさんからの答え合わせだ。
「皆様のお考えは素晴らしいものばかりですが、残念ながらどれも正解ではありません」
「えっ!? マジすか?」
何だと!? どれも不正解とな? おいおい、どれも真っ当な意見ばっかりだと思うけど?
これらは全て剣士になってから学んだこと。なのに違うって、それじゃあ正解は何なんだ?
恐らく他の全員も俺と同じことを思ってるに違いない。そして質問の回答がなされる。
「私個人の見解にはなりますが、戦いにおいて最も大切なことは如何なる手段を用いても必ず勝利すること……であると考えております」
「如何なる手段……って、つまり手段を選ばないってことですか!?」
メイディさんの考え。それはまさかの正々堂々さとは随分とかけ離れているものだった。
どんな手段を選んでも最後には勝てればいいって、それ中々外道なのでは? 内容によっては真摯さの欠片もないやり方になるんだが?
これには流石にざわつく俺たち。何せそんなことをしたらある意味闇の剣士と同じになってしまうのではないのか……? そう懸念しているからだろう。
「先ほども申し上げました通り、こちらが正々堂々とした戦い方をしても相手が同じように戦ってくれるとは限りません。卑怯な手を使われて負けるくらいならこちらも相応のやり方で勝つ。それが真の剣士です。
余計な真摯さや正々堂々とした振る舞いを戦場に持ち込んだことで死んでいった者たちを私は何百人と見ていますので」
「ヒェッ……」
せ、説得力~~! 齢500の人が言うと怖いくらいシャレにならないんだけどォ!?
しかし話す内容もド正論だ。魚心あれば水心なんて言葉があるけど、それが闇の剣士相手にまで適応されるはずないもんな。
悔しいが何も言い返せねぇ。言葉の重みもそうだが、まだまだ剣士として青い俺たちには考えもつかなかった考えに舌を巻かざるを得ない。
「はーい、質問。メイディさんの言いたいことは分かりましたけど、それが温温と幻狼のMVPに繋がるんですかね。そもそも私の試合は無効なのに」
と、ここで質問者が現れる。それは日向だ。
そういえばこれ、MVPに選ばれる理由を聞くための問いだったな。本題に軌道修正してくれたみたい。
黄組の試合が無効になった件も確かに気になる。それらも踏まえてきっちりと説明してもらいたいところだ。
「MVPに選ばれたお二人の共通点……それは『剣以外の方法による攻撃を行った』、です」
「……そういえば確かに二人とも搦め手を使っていましたね」
ついに明かされたMVPの基準。それはどうやら試合中に搦め手を使用したという点らしい。
言われてみれば温温さんは足払いを。幻狼はタックルをかましている。
どちらも怯ませることに成功しているし、さっきの話を鑑みるとメイディさん的に高得点を貰えてもおかしくはないよな。
なるほど、卑怯な手だと思っていたが本番じゃそれも一つの作戦になる。悔しいが納得の選出理由だな。
「はっきりと申し上げます。弱い剣士ほど剣のみを使った戦い方に固執します。権能についても同じ事。これらだけに頼ってばかりで真の剣士になれるなど思わないことです」
「う゛っ」
「そんなっ……!?」
「っべー、ド正論過ぎじゃん……」
「もう少しこう、手心と言いますか……」
うぐおおおおっ……! その言葉、禁止カードだって!
この言葉にここにいるほぼ全ての剣士に図星が刺さった。当然俺もその内の一人。
弱い奴ほど剣と権能に拘る……。ちょっと言葉に容赦が無さ過ぎでは?
でも言われてみればこれまで俺が戦ってきた闇の剣士の戦い方を思い返すと心当たりが多い。
ディザストと初めて戦った時、あいつは燃える剣を掴んで止めた。支部の戦いでも地面を剣で抉って目潰しなどをしている。
ラピットはあえて人の多い場所を戦場に選んで俺に本気を出させないようにして、キャンドルは一般人を剣士に仕立て、マッディとメタリカは人質を取るなどしていた。
クラウディは体術や関節技を駆使して俺を長時間拘束したし、ウィスプは聖癖暴露の回避に自分の剣をわざと手放すという離れ技から、そのまま不意打ちのラビットパンチ&膝蹴り。
思い返せば思い返すほど敵は正々堂々さとはかけ離れた──メイディさんの言葉にすれば、戦場に立つ者の戦い方をしていることに気付く。
そ、そうか……俺たちに無くて敵にある強さの違いってそこだったのか。なんかちょっと悔しい。
「『一に拘らず二に頼らず、三を知りて四となる』。これが弱さから脱却するための教訓になります」
「それって誰の言葉なんですか?」
「恥ずかしながら私の言葉です。これまで剣を教授してきた剣士全員に教えております。ご自身の教訓とするか、はたまた聞き流すかはお任せ致しますので」
ここで何やら格言っぽい言葉がメイディさんの口から飛び出してきた。
どうやら本人が考えた教訓の模様。過去、メイディさんから剣を教えてもらった人々はこの教えに従っているらしい。
ふむふむ、言いたいことは何となく分かるぞ。
さっきまでしていた話の流れからして、一が剣で二が権能。これはつまり戦いにおいて重要な物事を順番に示しているんだ。
三……それが今回の話の起点となっている搦め手ということか。
これらの要素を取り込んでようやく四……そう、聖癖剣士として振る舞えるのだと表しているわけだ。
「では最後に私の主観ではありますが各組の戦い方について一言申し上げます」
ここで一旦話を切り上げて、遂に模擬試合の結果について触れ始める。
正直結果は分かってるけども、始まりの聖癖剣士の言葉だからな。多少なりアドバイスを貰えるかも?
「まずは白組から。率直に申し上げますが勝敗を付けるのも勿体ないほどの残念な試合でした」
「やっぱり──!?」
「あうう……」
そりゃそうですよね!? MVPも取れないどころか俺自身も驚かざるを得ない酷い戦いだったし。
異論なんて出す方がおかしいわな。真視共々残念無念な気分だ。
「四ツ目様はあがり症とお聞きしています。一種の不安障害とはいえ、戦いに支障が出る程とは私自身も予想していませんでした。もはや剣士云々の問題ではないようです」
「ふ、ふふふふぁい……! 気を付けまひゅ……」
「ご主人様は相手に合わせると言えば言い方としては肯定的ですが、逆に言うと相手に気を使い過ぎて手を抜いてしまっています。優しさは時に自らを傷付ける刃になることを留意してください」
「厳しいなぁ。善処しまーす……」
俺は優しさ故の手抜きと真視はあがり症による試合の影響について強く指摘される。
マジでオブラートの欠片も無い意見をズバッと言ってくれるぜ。ありがたいことだけどな。
「次に緑組です。四組の中では最も素晴らしい戦いでした。攻めや防御、搦め手の使用。そして真摯さ……どれを取っても文句はありません」
「やったじゃん! あたしたちのペアが一番だって!」
「
響と温温さんのペアが模擬試合の中で一番良かったらしい。まぁそれについても異論はない。
白組と紫組が時間切れまで長々と続いていたのは減点対象のはず。開始から約五分前後で決着を付けたんだから評価が高くて当然だ。
「次に紫組です。正直な所低評価も好評価もし辛い普遍的な内容と言わざるを得ません。勿論お二方の得意とするやり方を禁じたためにあのような結果となったことは理解しておりますが、もう少し攻守のやり取りを意識するよう心に留めておいてください」
「はい、留意すべき箇所は把握しております。ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
凍原と輝井のペアは案の定普通過ぎて善し悪しを付けるに困るという評価だった。
思った通りの内容で逆に安心するまである。優等生は模範通りになり過ぎるのも良くないよな。
さて、これで三組分の評価は出たな。残るは一つ……謎の無効試合となった黄組の番だ。
「最後は黄組になりますが、単刀直入に申し上げますと試合自体は緑組に次いで素晴らしかったです。ただ一点、不正があったことを除けばですが」
「ふ、不正……? どういうことですか!?」
な、何と黄組に不正とな!? そりゃあ一体どういうことだ?
これには日向も困惑を隠せない。メイディさんともあろう人の前で不正だもんな。そんな怖いもの知らずなことをあいつがするわけ無いし。
ふーむ、でも不正って何のことだろうな。試合そのものに変な所は無かった。精々幻狼の成長ぶりに驚いたことくらいだが……。
「不正をしたのは狐野様、貴方です」
「ぼ、僕がですか……っ!?」
「ウェッ!? な、え、マジで!?」
おいおい嘘だろ幻狼! 流石に間違いであって欲しいんだけど?
少々意地が悪い日向ならまだしも、凍原と同じ優等生タイプの幻狼が不正行為をしたなんて信じられない。一体何をしたってんだ……?
「紫組の試合が終わる直前まで周囲に聖癖の力を感じ取っておりました。狐野様、試合開始前に幻影を使い姿を偽装し、その上で剣舞をしましたね?」
「うっ!? ど、どうしてそのことを……!?」
な、ななな何と! 幻狼の奴、幻影を使ってバレない間に剣舞を積んでたのか!?
これには当人もたじたじになっている。あの様子、そして言葉からして事実なんだろうな。
「身体の動かし方が剣舞を行った後に酷似していたことに気付いたため、もしやと思っておりましたが案の定でした。ご主人様以外に剣舞を修得している方はいないと思い込み、説明を省いた私の落ち度に他なりません」
淡々と説明がなされていく。どうやら幻狼の不正を見抜いた判断材料は剣舞を積んだ後の動きらしい。
剣舞をした後、目に見えて動きが変わることは分かってるけど、特有の動きがあることは知らなかった。
ちなみに余談だがこのレッスンが始まる前の段階で俺は剣舞を禁止されていた。
公平さを保つのが理由らしいが、流石に幻狼も剣舞が出来ることまでは予想がつかなかったようだ。
とはいえ伊達にばあちゃんのメイドをしてなかっただけはある。恐らくこの中で一番剣舞に精通しているのは俺ではなくメイディさんなのだろう。
「ご、ごめんなさい。日向さんは強いからやっておくべきだと思って……」
「判断自体は何も間違えてはいませんよ。強い相手には相応の準備をして挑む……むしろ相手を甘く見ない点は素晴らしいです。今回は条件が悪かっただけですので、どうか気を落とさないでください」
万全な体制を整えたつもりが不正行為をしてしまっていたという事実。
この罪悪感に苛まれてるのか、幻狼は泣きながら謝罪をする。
だがメイディさんはそれに怒るどころか判断としては正しいのだと褒めてくれた。
身体面で勝てない相手に挑む時はきちんとした準備は必須。仮に俺がメイディさんの立場なら同じことを言っているかもしれない。
まぁ、何であれ俺の懸念する状態に幻狼が至ってないと分かっただけでも安心だ。
もしこれで本当にやってなかったら完全敗北。先代に顔合わせ出来ないことになっていただろう。
「ってか幻狼。あんたあの剣舞踊れんの?」
「はい、以前に焔衣さんから教えてもらいました」
「一応私も出来ます。中々難しいですよ」
「マジで!? ケンティー、あたしにも教えてよ!」
「抜け駆けはズルいですよ! 焔衣さん、自分にも教えてください!」
「あ、うう。わ、私も……」
「私にも教えてくださーい!」
幻狼と凍原が剣舞を踊れると暴露したとあらば、こうなるのは必然よな。
昨日の時点でほぼ世界中の剣士の前で行い、そして効力もたった今実証された。教えて欲しいと思わない方がおかしいか。
わちゃわちゃとし始める広場。響と輝井は当然として、真視と温温さんも乗り気である。
でもどうしようか。別に教えること自体はやぶさかじゃないけど、面倒な上に気がかりなんだよ。
あの時も少しだけ悩んだけど、先代的にこれは他の人に教えて良いものなのか分からないんだ。
そもそも剣舞は誰にも継承させないまま終わらせた秘伝中の秘伝。何故そうしたのかについてはきっと相応の理由があるはずだし……。
「め、メイディさん。剣舞って沢山の人に教えてもいいものなんですかね……?」
「よろしいかと思います。焔巫女様は人に物を教えるのが恐ろしく不得意でしたので、剣舞を継承させなかったというより出来なかったというのが正しいかと」
「そうなの!?」
な、何と──ここでまさかの事実が発覚。
俺のばあちゃん、もとい先代炎熱の聖癖剣士は人に物を教えられない人間だったのだという。
おいおい、家事が無理な人だとは前に教えてもらってたけど不器用にも程があるだろ。戦うこと以外の何もかもが苦手か?
最強の剣士と呼ばれた程の強さの代償がちょっと多過ぎる。マジでどうやって人生を全うしたんだ……?
「ではこの後の予定を変更しまして、剣舞の修得教室とします。剣舞の修得者が増えるのも焔巫女様はお喜びになるでしょう」
「やったー! これで強くなれるってことでしょ? 先代様々じゃん!」
「ですね! 覚えられるかはさておきですけど」
「マジで……? 先代炎熱の聖癖剣士の技術を得られるって貴重過ぎる体験じゃない?」
模擬戦の次は座学を予定していたらしいが、急遽予定を変えてダンスレッスンとなった。
メイディさん的にもご教授OKなのは良いとして、その場合の先生ってもしかして俺?
うわぁ、マジかよ。これはこれで全然良くないんだが。俺への責任が重い。
期待の眼差しを向ける非修得勢。やめてくれ……ばあちゃんの不器用さを訝った手前、俺も教えるのは得意ってわけじゃないんだから。
ううむ、ちょろっと後悔。やれやれ、逃れられない運命だと思って取り組むしかないな。
やれやれ系主人公を気取るつもりはないが、一肌脱いでやりますかぁ……!
そう思った矢先、支部拠点のある方向から誰かが小走りでやってくるのが見えた。
あの背丈から察するに……閃理か? 運動場の方で孕川さんの指導をしてたはずだが。
「全員いるか?」
「どうしたの閃理? まだ昼じゃないんだけど」
「ああ、ちょっとな。第三班からの緊急連絡だ」
拠点からここまで距離があるにも関わらず息一つ切らしていないのは流石上位剣士といったところ。
そんなことはさておいて、何やら緊急の連絡が入ってきた模様。それは三班からのようだ。
行動部隊第三班……筋骨隆々の女剣士である心盛増魅さんとそこへ編成された元OLの朝鳥強香さんの二名で構成される班。そこから連絡とは一体何用だ?
「三班が
「んな……!? そ、それ本当ですか!?」
この話に一番強く反応を示すのは当然温温さんだ。隣にいた俺を押しのけて閃理の言葉を再確認する。
因縁の相手の出現──それを温温さんはどれほど心待ちにしていたかは分からない。でもある程度の予想はつく。
敵は世界各国を移動し続ける存在。このチャンス、逃すわけにはいかないだろうからな。
「ついに……この時が来ましたです! 閃理さん、私をそこへ連れててください!」
「勿論だ。だが相手は強いぞ。心配するわけではないが他に同行する者を集めたい。この中同行を志願する者は他にいないか?」
やはりやる気の温温さん。閃理はこの人をフラットに会わせる気であるようだが、たった一人だけにするつもりはないらしい。
この中で……フラット戦に同行する剣士を探している模様。ここに支部剣士の半分近くがいるんだし当然だな。
「うーん、相手は
「普通の闇の剣士はともかく、上位剣士級相手に束でかかっても勝てるビジョンがありませんよぉ」
「格上を相手にすれば確実な成長を見込めるとはいえ、それで命を落としては元も子もない、ですよね……」
だが剣士たちの反応は微妙そうである。特に仲良し三人組はすでに戦意喪失気味だ。
おいおい、気持ちは分かるが支部の一件を経たんだからやる気だけでも見せようぜ。
「勿論強制はしない。お前たちの言うとおり
「うう……。ぐっ、ダメだ。やっぱり不安過ぎる。せめて剣舞を覚えるくらいの時間が欲しかった……」
閃理の言葉に触発され、いざ勇気を振り絞ろうとする響。だがやはり現状じゃどうしようも無い不安感を感じている模様。
そりゃあそうだよなぁ……。相手は雲の上レベルの格上、さらに剣舞は修得前ときたもんだ。そういう考えになってしまうのも致し方がない。
それに響はモデルを兼業している身。そのため身体に傷を付いてはいけないんだ。
フラットを相手にするのなら程度はどうあれ怪我は必至。必然的に候補からは外れるだろう。
「私は行くわ。これでも始まりの聖癖剣士に力を褒められてるんだから、
「同意します。格上を相手取る経験は多い方が良いので。私も同行させてください」
「ぼ、僕は……うっ。い、行き……いや、す、すみません。やっぱりまだ……」
日向と凍原は同行の意志を示した。
しかし幻狼は一瞬勇気を見せるも辞退。いや、だからと言って責めることはしないけど。
幻影の権能があれば戦うのが楽になるのは明白なんだけど、
剣士になっても怖いもんは怖い。そういった感情はそうそう簡単に覆せるものじゃないよな。
「そうか。では日向、凍原、温温、そして焔衣。俺とメル、孕川の七人が応援に向かう。メイディさん、お願いしてもいいですか?」
「お任せください。場所をお教えいただければお連れ致しますので」
よぉーし、参加する剣士はこれで全員出揃ったな。
孕川さんがいるのはちょっと意外だが、貴重な回復枠だから選抜されたんだろ──って、いや待て!?
「……え、ちょっと待って。俺行くって一度も言ってないんだけど!?」
おいおいおいおい! あまりにもさりげなく編成されてたから一瞬気付かなかったが、俺も行くのかよ!
「当然だろう?
「拒否権は!? 俺に拒否権はないの!?」
選抜理由はやっぱり
確かに状況も状況だし、そう我が儘も言ってられないが個人の意見を尊重して欲しいんだが?
「とにかく、フラットは強力な相手だ。仮にも六位、ウィスプとは同格以上と思っていい。改めて聞くが覚悟はいいな?」
「はい!」
「勿論です」
「実家と家族の仇です。容赦しませんです!」
「俺の拒否権~……」
出発前の再確認。俺以外はそれぞれ覚悟を決めているようだ。
マジで行くみたいだし、もう腹をくくるしかないみたい。あーもう何でこんなことに……。
閃理から場所を教えてもらうメイディさん。案の定行ったことがある場所らしく、すぐにでも行けるようにしておくとのこと。
「一時間後に出発する。聖癖章なり装備なりの準備はしておけ。それと焔衣と温温の剣は工房にあるそうだ。忘れるなよ」
緊急連絡のはずだけどすぐには行かないらしい。
余裕を持った準備時間を設けているあたり、そこまで早急に解決したい問題でもないのかな?
なんであれ昨日純騎に剣を預けているから回収に向かう時間があるのは助かる。余裕があるとはいえ早めに済ませないとな。
個人的に少し納得いかない部分もあるけど──まぁ今はいいだろう。
それじゃ、
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