第八十二癖『交渉の行方、恐るべき手段の行使』
俺たち第一班の現在の使命。それは接触に成功した始まりの聖癖剣士を連れて支部へ戻ることだ。
始まりの聖癖剣士──それは剣であり剣士でもある世界の守護者たる半永久的存在。組織が長年探し求めている剣士たちの総称である。
その一人と言うのがかつて俺の祖父家に仕え、今日まで新剣士の孕川命徒の祖母である産方さんの下で働いていたメイド、メイディ・サーベリアさん。
まさか昔から慕っていた人が、あろうことか剣士であるだけでなく、人間を辞めていた存在だとは思わないだろう。
そんなメイディさんは先代炎熱の聖癖剣士──『焔巫女』こと俺のばあちゃんから直々に、
それ故か産方さんの下を離れたメイディさんは俺に仕えることで事実上焔衣家に回帰したことになる。
衝撃の事実と正体、そして逸話に真実……。俺はそれに戸惑ったり驚いたりしているばっかりだったな。
一言でまとめると、第一班は始まりの聖癖剣士の勧誘に実質成功した……ということだ。
んで、ここからが本題。以上の経緯をレポートに書いたら、案の定帰還命令が出されたわけ。
まぁメイディさん本人も支部長と直接話をつけたいそうだから、それはそれで問題は無いんだけど。
とまぁ、前置きはこんなものでいいだろう。何故こんなことを回想したのかと言うと────
【それでは車を発進させてください】
「う、うむ……」
いつも通りドライバーを担当する閃理。助手席に座る俺に、剣形態のメイディさんが
どういう状況か──と問われれば、今から移動をするというのが正しいんじゃないか?
聖癖の呼び声が発進の指示を出すと、言われた通りアクセルを踏んで車は動き始める。
森とも呼んでも過言ではないほどの茂った木々の間を走っていくと、突如として進行方向に開かれる時空の穴。
車一台を簡単に飲み込めるほどの大きさのゲートに第一班の移動拠点は怯むことなく突っ込んで行く。
白い世界を抜けると感じるぞわっとした感覚。
その一瞬で片田舎の集落からおよそ一ヶ月前にも足を踏み入れた広大な敷地へと景色は変貌していた。
「ううむ、疑っていたわけではないが、まさか片道半日以上はくだらない距離が本当に一瞬で到着するとはな……」
【勿論です。『異次元』の権能は万能ですので】
これには情報として知ってはいても体験するのは初めてである閃理も驚かされるばかり。
そりゃあ俺らは使命を遂行するために日本全国を行き来する。
一人が運転している間に、残った二人が訓練するようスケジュールが組まれているのだが、基本的に運転を担当する閃理だって毎日の訓練は欠かさない。
よほど急がない限りは一日の移動にかけられる時間は二~三時間が限界。他にも信号に渋滞、工事による道路封鎖に加え買い物等の寄り道……。
車を移動手段に使っている以上、どうしても避けられない事象は様々ある。
故に産方さん家に行くだけでも一週間弱はかかっている。何とも不便なことよ。
しかし、メイディさんがいればそれらを権能一つで全部ショートカット出来るってわけだ。
ガソリン消費も最小限に抑えられるし、煽り運転や事故とは無縁に。おまけに時間も大幅に短縮。
マジで良いことづくめ。この人がいれば、もはや今までの運転には戻れないんじゃないか?
まぁ閃理がそんな軟弱な考えに傾倒するとは思わないけど、それでもこの便利さに心震えたに違いない。
そのまま進むこと数分。相変わらず広い敷地内の奥に、無骨なコンクリートの建物が見えた。
【しばらく行かない間に日本支部も新しい建物になっていますね。当然と言えばそうなのですが、もうかつての面影が残っていないのは少し寂しいです】
目的地に近付いていくにつれ、メイディさんはどことなく寂しそうな声で数十年ぶりとなるであろう支部の変貌ぶりに驚いている。
しかも今は包丁メーカーのビルが敷地に建っているわけだし、そういう観点から見ても大きな変化を遂げているわけだ。
仲が良かった俺のばあちゃん……焔衣カエとの思い出の地であろう日本支部の変貌ぶりには堪えるものがあるんだろうな。
「ふむ、メルが支部に連絡を入れたようだ。想定よりも随分早い到着だからか、まだ二班がいるらしい」
「あ、まだいたんだ。ってことは孕川さんいるじゃん」
復習がてら思い出そう。詳細は省くが一班と二班は巡り巡った縁に導かれ、偶然にも同じ地域に住む二人の剣士候補の下を訪れた。
それは【
孕川さんのスカウトは二班の任務だったから、支部に連れて行ったのはあっち。
だから今、支部には舞々子さんらと孕川さんがいるってわけだ。
【孕川……? もしやその方は命徒様のことでしょうか? だとすれば驚きました。彼女も剣士になったのですね】
「うん。孕川さんがたまたまメイディさんと面識があったって言うから産方さん家に来たんです。あの人がいなかったら多分メイディさんと俺は出会えてなかったはず」
そう、俺たちがメイディさんの下に訪れたのは、孕川さんの存在があるからだ。
あの人が俺の作ったお菓子の味とメイディさんのお菓子と同じだと気付いたから今がある。
今になって思うとよく分かったもんだ。味なんて意識してても違いなんて分かりづらいだろうに。
一方でメイディさんは剣の姿故に表情は読み取れない。しかし、やっぱり孕川さんが剣士になったことは若干の驚きを見せている模様。
そりゃあ一時期一緒に住んでいた雇い主の孫娘が剣士になったという事実。
いくら始まりの聖癖剣士と言えども誰が剣士に選ばれるかの予想は出来ないようだ。
【ふふ、では後で感謝しなければなりませんね。私とご主人様が再会する切っ掛けを作った恩人ですから】
全くその通りである。もしメイディさんと面識が無かったら、俺は多分日向の舎弟になるところだったろうしな。そういう意味でも感謝感謝だ。
そんなこんな話をしている内に車は支部拠点へと到着。前回同様地下駐車場に駐車して、俺たち五人は下車する。
……んだけど、今回は少しばかり様子が違う。具体的に言えば──
「お待ちしておりました。ようこそ、光の聖癖剣協会日本支部へ。私は支部長を務めております鍛冶田と言う者です。以後、お見知り置きを」
一班の車が来るのを待ち構えるが如く、建物に上がるエレベーターの前には複数名のSPと聖癖剣士が屯していた。
ふむ、二班の面々だけじゃなく仲良し三人組と透子さん、あと見知らぬ剣士もいるな。
そんな大勢の人たちを侍らせる中、真っ先に歓迎の言葉を言い放つ女性──そう、鍛冶田支部長である。
メイディさんが来ると知ってか、支部のトップがわざわざ出迎えてくれているようだ。
これには俺は勿論のことメルや日向も硬直。全部がメイディさんに向けられた物とはいえ、こんな仰々しい歓迎は初めてだからな。
包丁メーカーの社長も兼任している以上、県と県を往復するくらいに多忙なお方のはず。
それなのにこうして直接対面しに来るなんて……始まりの聖癖剣士ってマジで格上の存在なんだな。
「お初にお目にかかります支部長様。ご存じではありますでしょうが改めて自己紹介をと。私はメイディ・サーベリアと申します。そう畏まらずとも私は一介のメイド……普段通りに接していただいて結構ですよ」
「お言葉ですが、始まりの聖癖剣士ともあろう方にそのような失敬な真似をすることは承服いたしかねます。お気持ちだけ受け取っておきますので」
早速メイディさんは数メートルほどの距離まで近付くと、初対面となる支部長相手でも臆することなくスカートの裾をつまみ上げて華麗に挨拶。しかも態度を柔らかくするように付け足す余裕を見せつける。
だが対する支部長は相変わらずお堅い態度を崩さない。ううむ、本当に堅物なんだな。
「ここで立ち話をするわけにもいきませんので、中へご案内します。話の始終は部下から伺っておりますので」
「恐縮です」
そんな短い返答をすると、支部長はエレベーター……ではなく、横の階段の方へと利用して建物の内部へと上がっていった。
何故エレベーターを使わないんだろうか。まぁSPも大勢いるわけだし、メイディさんに窮屈な思いをさせまいとしての判断かもしれないな。
それで、置いてけぼりを食らっている俺たちはどうすればいいわけ? もしかして後をついて行けばいいのか?
でも支部長的に話があるのはメイディさんだし、今言った通りおおよその話は閃理を通じて全部教えている。俺らが行く意味はな────
「
「え、ええ──!?」
な、ななな何ですとぉ!? 俺も同席かよ!
思わぬ展開につい叫んでしまったが、よく考えてみれば話が全部伝わってる=メイディさんが俺に仕えてるってことも知ってるわけだ。
だから雇用主の俺が同席しない理由はない。くっ、そのことをすっかり失念していた……。
ふと後ろを振り返れば、うんと頷く閃理とメル。さっさと行けと言わんばかりに手で追い払うような仕草をする日向。
護衛側の剣士たちを見ると、第二班と透子さんからは苦笑して見送るように手を振ってくれており、さらに
見知らぬ剣士……おそらく
「よ、喜んで……」
とりあえず今は行かないとな。うわぁ、こんなことになるとは思いもしなかった。
お偉いさんと話をするのは精神衛生上あまり良くない。せめて早く終わることを願おう。
面倒くささと責任ある立場になったことを後悔している半々の気持ちで俺はメイディさんと共に支部剣士たちに見送られながら階段を上がる。
くっ、なんか胃が痛くなってきた。これがストレス痛ってやつなのかな……。
†
そんなこんなで連れてこられたのは五階の応接間。ここには俺とメイディさん。そして支部長の三人だけの空間になっている。
この待っている間がつらい。俺、こういう経験あんまり無い上に苦手だから、ただただ苦痛である。
そんな時間を過ごしていると、俺たちの前にお茶が差し出された。
「粗茶ですが」
「支部長様がわざわざお茶汲みなどせずとも、私が行いますのに……」
「いえ、立場上私が行わなければなりません。協力を申し込む側に失礼は出来ませんので」
そう主張するのは支部長。支部の一番偉い人がお茶汲みなどという雑務を率先して行うとはなぁ……。
メイディさん的には自分がやらなければならないことだと当たり前のように思っているが、態度も意志も堅牢な支部長の前では渋々辞退せざるを得ないでいる。
まぁつまり、お互いがお互いに謙遜し合っている状況なわけだ。居苦しいったらありゃしないぜ。
「では──本題に入りましょう」
と、ここでついに支部長は話を切りだした。俺も姿勢を改めて正しつつ、話を聞く。
「我々──光の聖癖剣協会としては、闇の聖癖剣使いに対抗すべくより高位の実力を持った剣士を引き入れたいと考えております。その辺りのご理解はよろしでしょうか?」
「はい、勿論です。別支部とはいえ私も組織に在籍していた過去がございますので、ある程度の事情は把握しているつもりです」
「やはり愚問でしたね。失礼しました」
まず組織概要から説明をし始めようとするが、元所属であるメイディさんには全てお見通しのようだ。
もう何度も思っていることだが、聖癖剣協会の目標の一つには『始まりの聖癖剣士の捜索と勧誘』というのがある。
読んで字の如く、始まりの聖癖剣士を仲間にするというもの。これは後で知ったんだが、行動部隊以外にも全剣士全職員に任命されているらしい。
一人一人が上位剣士の数百倍もの実力を持つんだから、上層部の皆様方も仲間にしたいと思って当然だ。
だが、そうは問屋は卸さない。俺はもう聞いているからな。メイディさん……ひいては始まりの聖癖剣士の考えを。
「単刀直入に申し上げます。もう一度、我々光の聖癖剣協会の傘下に入るつもりはありませんか?」
やはり支部長の考えは思った通りのものだった。いや、むしろそれ以外に考えられる話はないか。
奇跡的に遭遇出来ただけでなく、あろうことか
支部長という立場上、必ず勧誘に成功させなければならないというプレッシャーがあるんだろう。そうでなければ自分から歓迎したり、お茶汲みなどするはずもない。
何せ相手は500年もの歴史を歩んだ存在。下手な偉人より長生きで知識の深い人物に粗相をするわけにいかないだろうからな。
「勿論闇の聖癖剣使いを殲滅するまでの間で構いません。組織の立場としても私……いえ、元老院と同等以上の権限が約束されます。マスターや賢神も快く受け入れるはずです」
続けざまに今度は仲間になった際のメリットを明記していく。元老院と同じレベルの権力が与えられるとかすげぇ……。
マスターはあの人のことだろうからいいとして、賢神って初めて聞くワードだ。まだ知らない役職も組織にはありそうだ。
個人的な疑問はさておいて、この好条件にメイディさんはどう否定をするのか。支部長には悪いけど結果は分かりきっているからな。
「大変申し訳ありませんが、権力を誇示する趣味を私は持ち合わせておりません。いくら元老院と同等以上の権限と言えども、一介のメイドである私には必要のない物です」
「……っ」
鋭く否定を返すメイディさん。元老院レベルの権限を不必要と言い切るあたり本気で組織に協力しないつもりでいるのがよく分かる。
これには支部長も脂汗をかいて反論に困っている様子。きっと勧誘自体を無謀なことだと思っていたんだろうな。
「私は先代炎熱の聖癖剣士である焔巫女様から直々に
それに、始まりの聖癖剣士は基本的に光と闇の戦いに不干渉の姿勢であると支部長という立場のあなたが知らないはずはありません。マスターはともかく、賢神様もそれを尊守しているはずですが?」
「そ、それは……」
うわぁ、反論がキレッキレすぎて論破しちゃった。支部長の口が初めて噤まされたぞ。
これで支部長が無謀に挑もうとしていることは確定的になった。どうしてそんな無茶を……。
っていうか今の話から察するに、マスターと賢神って始まりの聖癖剣士なの?
確かに話に聞く組織に協力的な姿勢の剣士と数は合ってるけど……マジで?
何かこの話し合いで新たに判明することが山ほどありそうな予感……。覚えきれないほどの情報なんて出てくるわけないよな?
「し、しかし、現在の雇用主である
ここで支部長はしぶとく理由を見つけて懐柔にかかる。主である俺のことについてだ。
うむ……確かにそれは紛れもない事実。それで怪我したし、死にかけたし、何なら一瞬貞操も危うかったこともある。
特にクラウディとディザスト。この二人は特に俺への因縁が深いと言うか強いと言うか……。思えば襲撃の半分近くはこいつらが首謀者だしなぁ。
また次に襲撃があるとすれば、どちらかの剣士が来るのは間違いない。
そう考えるとメイディさんが俺を守るために闇と戦う理由はある気がする。支部長、考えたな。
「勿論把握しておりますが、それは私が仕える前の話ですのでこの件とは関係ありません」
「酷っ!?」
な、なんとォ!? 衝撃の返事をメイディさんはしてきたぞ!?
仕える前だから関係ないって……これは流石にあんまりな理由過ぎない!?
これにはイケると思って口にした支部長も唖然。そりゃそういう顔もするわ……。
「それに闇の襲撃を五度も乗り越えた実績があるのならば、焔巫女様もお喜びになるでしょう。優秀な後継者が現れた、と」
「全然嬉しくない話なんですけどそれは……」
おいおい、誰のせいでこうなってると思ってるんだよ。いくらメイディさんの想像の中とはいえ、ばあちゃんはさぁ……。
闇が襲撃をしてくるのは、俺の名前が優先討伐対象者に載っているからだと閃理は言う。
何故なら大昔に
つまり俺が襲撃されているのは半分くらい焔巫女改めばあちゃんのせいだってことだ。うーん、なんて物を残しやがる。
「指南役も任されている以上、私はご主人様から片時も離れるつもりはございません。ですので組織への協力は致しかねます」
「……! なるほど、そうでしたか。それは失礼しました」
最後に改めて拒否の意志を見せると、どういう心境なのか支部長はあっさりと引き下がった。
まさか先代の言葉が効いたのか? いやでもそんな感心するような内容だったかなぁ……。一体どういう変化なんだ。
何にせよこれで諦めてくれたってことでいいのかな? 真意はともかくとして、ようやくこの居苦しい空間から出られる。
安心した俺は恐れ多くも今の今まで手をつけていなかったお茶に手を伸ばして飲もうとした時である。
「では
「ぶふ──ッ!?」
な、何ですとォ!? 俺、第一班から抜けるの!?
これには驚きのあまり口に含んでいたお茶を隣に向けて吹き出してしまう。メイディさんが咄嗟の次元収納を発動させてお茶を全部格納されたけど。
「げほっ、ごほっ……。い、いきなり何を言い出すんですか!?」
「可能な限り始まりの聖癖剣士の力は支部に留めておきたいと私は考えています。君から離れないと彼女が明言した以上、君を行動部隊に置いておくわけにはいかない。これは支部長命令、異論は認めません」
「そ、そんなっ……!?」
お、横暴だ……ッ! いくらメイディさんを手元に置いておきたいからってそんな勝手に判断をされるのは困る。
第一俺が居なくなったらあそこの家事は誰がやるんだよ。
流石にそれは閃理たちも抗議するぞ。最悪またゴミ屋敷状態に逆戻りだ。
俺という存在を得た第一班から俺を抜いたらもうそこは終わり。一度上げた生活水準は二度と下げることは出来ないんだって知らないわけはないだろ?
「考えましたね。確かにそれならば私も支部にいなければなりません。ご主人様の居場所が私の居場所ですから」
「ちょ……メイディさん、本気なんですか?」
この作戦は効果抜群だ。支部へ留まらない姿勢を見せていたメイディさんも俺が支部直属になるとすれば一緒に留まることを認めた。
してやったりの顔をうっすらと浮かべる支部長。なるほど、さっきの唐突な心境の変化はこれを思いついたからか。
「ではこれで決定で構いませんね。
「少々お待ちください。この話はまだ終わっておりませんよ?」
完全勝利の面もちでこの話し合いにピリオドを打とうとした支部長。だが、ここでメイディさんから待ったの声がかかる。
話はまだ終わっていない……とは? 確かに内容は不服ではあるけど俺は支部長に逆らえない。
そしてメイディさんは俺の指示に従う──つまり、俺を介して支部長の命令を聞くことに変わりはない。
ここにいる中で一番の権力者は支部長だ。それこそボイコットでもしない限りはこの命令を覆すことは不可能なはず……。
「私はご主人様になら喜んで使われても構わないと考えておりますが、ただ一つだけ例外がございます。それはご主人様を介して他者の命令を聞くこと……。今回はそのケースに該当すると判断致しました。ので、こちらも相応の対応と反論をさせていただきます」
……気のせいかな。もしかしてメイディさん、今ちょっと怒ってる? 俺以外の人に使われるのが嫌なのかな。
それに相応の対応と反論ってなんだ? また日向の時みたく外道なやり方をするわけではあるまい。
「えっ……、何するつもりなんですか?」
「申し訳ありませんが少々お時間をいただきます。ここへお連れしたいお方がおりますので」
と言うと、メイディさんは空間跳躍によりどこかへワープしてしまった。一体どこへ行ったんだ?
っていうか、今この部屋は俺と支部長だけの息苦しい空間になっている。いやこれキッツいわ。
本当に何をしに行ったんだ……? 誰かを連れてくるって言ったけど、それは誰なんだよ。
待つこと数分。思いの外早く次元の穴が開くと、中からメイディさんが戻ってくる。
「お待たせいたしました。では、お入りください」
そう次元の穴へ向けて催促すると、白い空間から何者かが出現。
しっかりとした高い背丈。白いローブのような服を着た白く長い髭を蓄えた……老人。
この人が視界に入ってきた瞬間、俺は萎縮してしまう。それは支部長も同じことだった。
「十数年ぶりにメイディが訪ねに来たと思えば……まさか日本支部に来るとはな」
「お忙しい中来ていただき感謝します、マスター・ソードマン。少々説得に協力していただきたく思いまして」
「ま、マスター!?」
そう、次元の穴から現れたのは──あろうことか、光の聖癖剣協会のナンバーワン。マスター・ソードマンご本人だったのだ。
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