第八十癖『明かされるは嫉妬心、剣士としての不出来』
「……私の剣【
「え、うーんと……『光』かな? 暴露撃の光も凄かったし」
「半分正解ね。一応昔は『太陽』の権能って呼ばれていたらしいわ。今は違うけど」
日向の長い沈黙を経て、ようやくその重い口が開かれる。
最初に話し始めたのは剣の権能について。どうやら俺との関係性は剣が絡んでいる模様。
にしても『太陽』って……。思えば確かに外の日差しが凄かったのは権能による影響だったってわけか。
何かある意味輝井の剣よりも壮大さを感じさせるな。今は別の名称になっているようではあるが。
「
「ん、どゆこト?」
日向が言うには自身の剣が宿す権能が原因とのこと。果たしてそれと俺にどんな因果関係があるってんだろうな。
回答の続きを待つと、日向は自分の剣を手に取る。
今は非戦闘時だからか刀身は暗くなっており、先ほどまでの輝きは感じられない。
「私は──唯一でありたかった。他の誰にも劣らない一番の特技や技能、特徴……そういうのに憧れて今まで生きてきた」
と、今度は自分語りというのか、己の持つ信条を口にし始める。
唯一、か。確かに自分こそがオンリーワンであるというのは、きっと気持ちがいいことだろう。
もしや剣士になった切っ掛けも関係するのだろうか? 話の続きを静かに望む。
「学校じゃ目立つためにわざと不良っぽく振る舞ってたし、部活はわざわざサイクリング部を創部して取り組んだ。自転車を趣味にして休みの日はどこまでも走って、それで付いた日焼けを私だけが手に入れた一番の証だと思ってまた独りでに頑張る……。それが今までの私だった」
「そっか……。でも、それと俺……というか聖癖剣士であることに関係があるのか?」
「大ありだっての! 喋ってんだからもう少し待ちなさいってのよ」
気になって理由を訊ねたら怒られた。そこまで強く言わなくてもいいじゃん……とは思ったけど、反論はあえてしない。
にしても日向はずいぶんとオンリーワンであることに拘ってるんだな。
唯一であるために不良になるどころかマイナー気味なスポーツの部活まで作るとか行動力が尋常ではない。
「そんなある時、剣に選ばれた私は心盛先輩にスカウトされてすぐに剣士になった。
ここで話に一つの点が生まれた。どうやら剣士になった日向には大きな壁となる剣士がいるらしい。
一体どんな人物なのか。まぁまぁ先が気になるな。
「一人は──閃理さん。
「えっ、そうだったの!?」
「ああ。だがすぐに
なんと! まさかの人物が話の中に現れた。
あろうことかすぐ隣にいる上位剣士までもが日向の嫌悪の対象になっていたとは。
なるほど。確かに
オンリーワンであることを目指す日向にとって権能が一つ被ってるだけでも敵意を向けるには十分な理由になったのだろう。
……ん? ということは、もしかして俺を嫌う理由ってもしかして…………?
「じゃあ、俺を嫌う理由ってのはまさか……」
「あんたの剣、【
な、なるほど。そういうことかァ~……。
ここでついに日向が俺のことを毛嫌いする理由が明かされた。
自分の権能と被ってるから俺のことを嫌っていただけ。これは……本当に超個人的な理由だ。
とはいえ向こうからしてみれば俺は唯一残ったアイデンティティーを奪ってしまったことになる。
でもなんつーか理不尽だよな。そればかりはどうしようも無いっていうか、剣士になると決めた段階でアウトになる。
日本という国にたまたま
閃理がいつかの時に言っていた、同じ聖癖でも権能が違うケースがあると。それは今回の件を鑑みるに逆の場合もあるというわけだ。
「あんたの剣を調べたら、炎と熱に関する全ての事象を操れる伝説の剣って書いてあった。それを知って私は悔しかった……
ぽつりぽつりと内心の言葉を口にする日向。震える声が今にも泣きそうになっているのが分かる。
そうか……ただでさえ身近に権能被りが一人いる上で、俺と
片や格上、もう片や名高い伝説の剣、これでは
これは確かに鼻で笑われてもおかしくないことに違いはないが、同時に本人的にはとても無視出来ない大きな問題なんだろうな。
「伝説の剣の後継者で、先代が世界一強い剣士で、元老院を一発で黙らせる特技を持ってて、たった半年で
でも二回目に会ってみれば今度は始まりの聖癖剣士をメイドにして私はこの様! あんたは一体どこまで私を突き放すつもりなの!? 本当に……いい加減にしてよ!!」
叫ぶように本音を絞り出した日向は、そのままうずくまって泣き出し始める。
もはや理由の告白ではなく、俺に対する不満をぶちまけるだけの場になってしまったな……。
気持ちは察するよ。後から入ってきた後輩が自分より凄いことをしてるんだし、嫉妬して当然だ。
驕るつもりはないにせよ、我ながら出来過ぎた剣士人生を歩んでしまってるとも思ってるのは事実。
俺が今の時代に現れたのが悪いのか、はたまた日向が今の時代に生まれたのが悪いのか……それは分からないし決めて良いものではない。
とりあえず……慰めるべきか? でも全部を要約すれば俺への嫉妬ってだけの話だし、俺が慰めに行っても聞いちゃくれないよなぁ。
日向の啜り泣く声だけが聞こえる中、今の状況をどうすればいいか悩んでいたら、真っ先に沈黙を破る人がいた。
「性格に難ありだとは思っていましたが、ここまでとは思いませんでした。まさかただの嫉妬という浅はかな理由で私のご主人様に暴力を振るったなど言語道断。愚かしいことこの上ありません」
「……そんなの分かってます。今まで何度も同じ事を言われてますから。でも、今更その考えを改めたくなかった。割り切ってしまえば、今度は私が私自身を否定してしまう気がして……」
最初に声を出したのはメイディさん。数歩分進んで日向の前に立つと、慰めることなく厳しい言葉を投げかける。
心なしか表情もきつくなっているのは、きっと本気で怒っているからなんだろう。
動機が稚拙というだけでなく、剣士の格を落とす行為があったという事実。それが許せないに違いない。
日向もその点については自認していたらしい。
でも、やっぱりプライドが障害となって今までずっと引きずってきたのだという。
唯一であることに拘る日向にとって、下手な妥協は自分自身を否定するのと同じこと。
だから後輩である俺に強く当たるのを自分から止められなかったんだ。
「あなたの考えは最低なものです。恵まれている他人を羨み、嫉妬する。目先のことばかりに気を取られているばかりで剣のことなど眼中にない。それでは
「し、真の力……!? それってどういう……」
改めて落ち度について追及するメイディさん。日向のしでかしていたことは到底許せないんだろうな。
特に──剣のことも引っ張り出してきたことからして本気度が伝わってくる。
でも真の力を見せないってどういうことだ? というか聖癖の防御コーティングを剥がすほどの威力の技を出してるのに、まだ本気じゃないってのかよ。
それは日向の行動と剣に何の関係があるのか。気になる説教の行く末を俺は静かに見守っていく。
「単刀直入にお伺いします。日向様、あなたはご自身の悪口を言うお方と組んで仕事をしたいと思いますでしょうか?」
「そ、そりゃ嫌に決まって…………あっ!?」
ここで日向は全てを理解してしまう。会話に入っていない俺も同じく気付く。
「先ほど『事実上の下位互換』だと仰いましたが、その発言は
「そんな……!? ど、どうしよう、私、
淡々と告げられるのは聖癖剣へ言ってはならない禁忌の言葉の教授。
これには日向も表情を凍りつかせたように固くなった。恐怖の色を顔に浮かばせざるを得ない。
発端は自身のプライドの高さ故に俺と
唯一に拘り続けた結果、まさか自分の剣に嫌われてしまうなどとは考えもしなかったのだろう。
聖癖剣は
人の言葉を理解していてもおかしくはない存在に対し、日向は失念して最大の侮辱となる言葉を発してしまっていたようだ。
実の親に産まなきゃ良かったと言われるように、親友から絶交の言葉を言い渡されるみたいに、聞くことさえも堪える心を傷付ける発言。剣の場合が個性や存在の否定だったんだ。
これは剣士であり剣でもある始まりの聖癖剣士だからこそ言える。
俺や閃理、もしかすれば支部長だって同じ事を言っても言葉の重みは天と地ほど違うだろう。
「さらに言えば
そして駄目出すような最後の言葉。やはり
それが何なのかまでは分からないけど……口振りからすると、メイディさんは一度見ているのだろう。
「
全てを教えられた日向はすぐさま震える両手で自分の剣を持ち直してまじまじと見やる。
今までは既存の剣の下位互換だと思いこんでいたそれが、日向が求める唯一性を宿しているのだと。
始まりの聖癖剣士が高らかにそう宣言したんだ。信じないわけはない。
「少し失礼します」
「へ……、何を……?」
すると、突然メイディさんは
いきなりのことで分からなかったが、剣がうっすら発光したのを見るに何かをしているのだけはすぐに分かった。
「……なるほど。やはり
「嘘っ、剣の気持ちが分かるんですか!?」
「はい。とは言っても言葉として伝わるわけではありませんが」
えっ、このタイミングでメイディさんの新たな特技が判明!?
剣の気持ちを読み取れるだなんて……。流石は剣人一体の始まりの聖癖剣士。やれることが人外だ。
それはそれとして
剣に認められなくなったら、日向は遅かれ早かれ剣士ではないられなくなるかもしれない。
もし仮にそうなってしまったら、今後どうなるかの予想は簡単につくな。
じゃあ、どうすれば日向は剣士のままでいられるんだろうな。具体的な解決策はあるのだろうか?
「メイディさん、私はどうすればいいんですか!?」
「聖癖剣の機嫌を損ねてしまった場合の対処法は勿論ありますが、申し訳ありませんがお教えしかねます」
「そ、そんなっ……!? そこをなんとかお願いします! 私、まだ剣士を辞めたくない……」
が、ここでまたもや意外な展開に。あろうことかメイディさんは聖癖剣の機嫌の直し方を教えないという暴挙に出た。
おいおい、いくらなんでもそれは厳し過ぎるんじゃないか? だってほら、日向の顔がヤバいくらい青くなってるもん。
剣に秘められた力があると判明したのに、いつ剣から見限られてもおかしくないという情報まで教えられたんだから、ここで諦めるわけにもいかないだろう。
剣士人生の
「お断りします。一人の才能が潰えてしまうのは実に惜しいことですが、私には関係の無いことですので」
「どうしてそんな酷いことを言うのよぉ……? いくら何でもあんまり過ぎよぉ……」
「泣いちゃった……」
改めて拒否の意向を示されたことで、日向は再び泣き出し始めてしまった。
うわぁ……メイディさんもメイディさんだ。方法があるなら教えてやればいいのに。
そんな癪に障るようなことをしたのだろうか?
確かに他人のことばかり気にして自分の剣を蔑ろにしたのは悪いとは思うけど、今はこうして反省の意を見せてるわけだしなぁ……。
ちょっと意地悪が過ぎるぜ。見てて居たたまれなくなってきたんだけど。
「メイディさん、流石に悪趣味な気もするんですけど、そんなに日向のことが気に入らないんですか?」
「いいえ、特定の個人を忌み嫌うような浅ましいことはメイドとして決して致しません。ただ日向様には実行していただかなくてはいけないことが一つあります。それに気付くのを待っているのです」
気になって訊ねてみれば、何やらこの意地悪にはきちんとした理由があるのだという。
日向自身が気付かなくてはいけないこと……か。ふむ、一体それは何なんだ?
顔を上げて半泣き状態の日向に加え、俺とついでにメルもハテナマークを頭に浮かべて考えている。
う~ん、メイディさんとの試合には負けたし、代わりのお仕置きにもきちんと答えを出した。
他に何があるんだろうな? 何も分からない。
「日向。この一件がそもそも何を発端として始まったのかを考えれば容易に想像がつく。思い出せるか?」
「事の始まり…………あ」
後からやって来たにも関わらず閃理はそれを理解している模様。
発端か……。そのワードを聞き入れて数秒後、日向は思い当たる記憶を思い出したっぽい。
その瞬間、半泣きの表情は一転して苦い顔になる。そんな顔をさせるようなことなのか……。
「思い出せましたね。では、どうぞ」
「うっ、分かってますよ……やれば教えてくれるんですよね?」
「勿論です。誠心誠意、気持ちと心を込めれば……の話ですけどね」
メイディさんにそう言われ、剣のためにも大人しく従うしかない日向は渋々行動に出始めた。
愚痴を溢しながら俺の目の前に立つと、苦虫を噛み潰したかのような表情のまま視線を向けてくる。
一体何をするつもりだ? まさか改めて俺との試合を申し込むわけじゃないよな……?
「──……はぁ、焔衣兼人。えっと、その……い、いきなり理不尽な理由であんたのことを嫌ったり当たったりとかして悪かったわ。……ごめんなさい」
「え……」
だが俺の予想に反して行われたのは、今回の件を素直に謝罪をするということだった。
これには俺も呆然とせざるを得ない。あの日向がこんな素直に謝れるだなんて思わなかったからだ。
返答に困りながら深々と頭を下げる姿を見ていると、突然拍手の音が鳴る。一名だけによる小さく些細な賞賛が日向に向けられた。
「よく出来ました。謝罪をするということにすぐ気付けたことは評価出来ます」
「うぅ……こんなことするなら最初からしなければよかったわ……」
そうか、俺に対する謝罪──それこそが自分で気付いて欲しかったことなのか。
思えば確かに感謝こそされども謝罪はされていない。本当なら一番最初にされるべきことを日向はしていなかったんだ。
そのことがすっかり頭から抜け落ちていた。試合が始まる前にあんなに激しく言い争ってたにも関わらず、今の今までほとんど忘れていた。
なるほどなぁ。喧嘩っていう物事を平和に解決するために大事なことは、きちんと誠意を持って謝罪することだからな。
それを自分からやって欲しかったんだ、メイディさんは。仮にも味方同士、共に戦うべき剣士間にわだかまりを作るべきではないのだと。
「はぁ……それで、どうなのよ?」
「え、何が?」
「だから、私のこと許すのかどうかって話よ。許せるわけ? あんたに意地悪したこの私を」
そう問い直され、俺は一瞬考える。
正直言うと日向のしでかしたことは許せない……なんてことはない。要は嫉妬が生み出した可愛い見栄みたいなもんだからな。
おまけに日向はもう十分罰を受けている。それを目にしたことで俺の中の怒りはとっくに冷め切って──というか記憶の彼方に追いやられていた。
それにあっちが自身のプライドを振り切って素直に謝ってくれた以上、俺が天の邪鬼になる理由はない。言うべき答えは当然────
「うん、勿論許す。でも一つ条件がある」
「な、何よ……。変な事じゃないでしょうね?」
日向の謝罪は当然受け入れるつもりだけど、それだけじゃつまらないだろ?
今回のようなことに金輪際ならないよう、俺なりに対策を講じるんだ。どういうことかと言うと──
スッ……と右手を差し出す。これに加え、一言。
「許す代わりに俺の友達になってくれ。友達同士なら喧嘩だってして当たり前だろ? 俺はあんたの目の敵になるよりも、歳の近い友達でいたい。駄目か?」
「…………!!」
俺の十八番、友達作り。俺は日向を友として認めて、これから関わっていきたいと考えている。
それに同じ仲間内で忌み嫌い合う間柄でいるなんて真っ平ごめんだからな。そんなんだったら素直な気持ちでいられる関係でありたいと願う。
さぁ、俺からの条件は言った。これにどう答えてくれるんだ、ひねくれ者の日向は。
「……ば、バッカじゃないの!? そんな恥ずかしいこと、その歳でよく言えるわね。どんだけ神経図太いのよ」
「恥ずかしいも何も友達作るのに歳って関係あるのか? 俺はそうは思わないけど」
「くっ……想像以上に清い考えしてるじゃない」
これは褒められたのか? 俺にとっては友達を作ること自体が特別でも何でもない当たり前のことだから、いまいち分からないな。
ともかく、早めに考えを固めてもらいたい。友達になるのかならないのか──決めるのは自分自身。
ずい、と差し出す手を強調しつつ答えを催促する。こういうのに慣れてないのか日向はたじたじだ。
「本当に馬鹿じゃないの? そもそも私のことを許すこと自体信じらんないのに、友達だなんて……」
「そっか、やっぱり嫌か……。それは残念だけども、本人が嫌がるなら無理強いは──」
「ちょっと! 勝手に拒否したことにしないで! まだ何にも言ってないんだけど!?」
あまりにも煮え切らない態度に俺は手応えなしと判断して差し出す手を引いた。
それをしたらしたで考えの撤回を日向は要求。なんだよ、言いたいことがあるならきちんとしてくれってのよ。
答えをはっきり出してくれるまでいくらでも待つつもりだけど、早いとこ決めてほしいんだがな。
「……っ、ああもう、分かったわよ! あんたと友達になればいいんでしょ? それで満足なんでしょ」
「ああ。これで俺とのいざこざは終わりだ。それじゃ、これからよろしくな、日向」
「はぁー……。聖癖剣士って変な奴しかいないのね。改めて理解したわ、本当に」
散々渋った後、ようやく日向は友達になる決意を固めてくれた。ふぅ、結構待たせやがって。
ぶつくさと文句を言いながらだが、俺の手を握り返してくれる。
ま、何であれこの話はこれにて一件落着だろう。これでもう余計な心労を溜め込まずに済むな。
「お許しをいただけて良かったですね、日向様。ご主人様が寛容なお方であることに感謝してくださいね」
「そんなことよりも
そんなことって……まぁいいか。俺との仲直りをした日向は逸る気持ちを抑えきれないのか、すぐさま本題に移ろうとする。
元々それを知るために自分から事を起こしたんだ。それを失礼だと指摘するつもりは無いぜ。
それに本人ほどではないが、剣の機嫌云々が気になってるのは俺も同じ。
特に俺は一回無茶な使い方をしてるから、剣の機嫌を損ねてないと言い切れる自信があんまりない。
機嫌を直す方法とやらが俺にも真似出来るのなら、覚えておいて損ないからな。しかとこの耳に聞き入れようじゃないか。
「では約束通りお教えしましょう。聖癖剣というのは剣士と同じか近しい性癖を宿している存在。そのため、それぞれの剣に合った性癖を剣に向ける……あるいは共に体験するというのが大事なのです」
「えっと……つ、つまり?」
「はい。
…………え、マジ? 何それ、ちょっとよく分かんなかったですね。
えーっと要するに日向は裸で剣を抱きしめてやれば良いってこと?
えぇ……そんな変態じみたことをしなければならないのかよ。
あくまでもそれは日向の場合とはいえ、何というか色んな意味で大変だな。
「じょ、冗談ですよね? いくらなんでも裸って……」
「冗談ではありません。メラニー様も分かっていらっしゃいますよね」
「うン。メルも時々、剣抱いて寝てル。メルの性癖、『褐色肌』。肌系の性癖の剣、肌に当てれば調子良くなるって先生言ってタ」
「そうなの!? 何もかも初耳なんだけど……」
「それほど日向様は目先のことばかり見て剣に関心を持たなかった証ですよ」
最後のメイディさんの鋭い言葉に日向は呻く。
しかし実際にやってるってことも驚きだけど、メルも剣の機嫌を回復させる方法を知ってたのかよ。
おまけにそれを教えたのはちょいちょいメルの話に出て来てる先生って人……剣のことも知ってるとか一体何者だ?
それはそれとして聖癖剣、本当に奇っ怪な存在だ。
いくら人と同じ性癖を宿すインテリジェンスソードとはいえ、そういう所も似通ってるとは思わなんだ。
「では早速取りかかりましょう。お召し物はこちらにお渡しください」
「えっ、ここでやるの!?」
「躊躇ってしまうと剣の期待を裏切ることにも繋がります。思い立ったが吉日、好機逸すべからず──なるべく早い方が良いのです」
渋る日向に有無も言わさず、着用中のスポーツウェアを脱ぐように言うメイディさん。おいおい、まだ俺いるんだが!?
人の目も気にせず容赦のない脱衣補助。目の毒な光景を前に、思わず目を隠す……ちゃんと隠してるよ?
「……と、その前に。ご主人様、お言葉ですが少々席を外していただいてもよろしいでしょうか? いくらご主人様でも異性のお着替えをまじまじと見物させるわけにはいきませんので」
「そ、そーよ! 何ボケッと突っ立ってんの? 早くあっち行きなさいよ変態!」
「
……と、女性陣から当然のように猛烈な批判を食らうのであった。そりゃそうだよなぁ。
メルに言われてから気付いたが、本当に閃理はすでに運動場から姿を消していた。
一体いつの間に……っていうか出るなら俺も同じタイミングで呼んでくれよ。絶対わざとだろ。
まぁだからと言って反発する理由はないから、大人しく出て行くけど。
出て行った先では閃理が壁にもたれながらスマホをいじっていた。あのさぁ……。
「来たか。今回のことはまぁ……災難だったな」
「ああなるって気付いてるなら先に言ってよ。いらない説教されたんだけど」
「すまん。途中で支部からのメールが届いたものでな。それの確認をしていたら今の状況になって声をかけようにも出来なかったんだ」
そういうことらしい。わざとではないようで良かったけど……それはそれとして気になるワードが。
支部からのメール。それってつまり新しく任務が発令されたってことか?
「んで、次はどこの町? 何の剣か判明してんの?」
「いや、今回は回収任務ではない。メイディさんの件とも別なようでな、珍しく海外から剣士が移籍するそうだ」
海外から……剣士? そんなことがあるもんなのか?
当の閃理はそれに無言で首を縦に振る。どうやらそういうことのようだ。
海外からの使者──タイミングを考えれば、おそらく俺たちと鉢合う可能性は大だろう。
うおお、思うとこれって貴重な体験になるのでは?
だって外国人の剣士ってアメリカ人のメルとロシア系ハーフの閃理、そしてメイディさんと敵側に推定ハーフっぽいクラウディ以来の…………いや、結構身近にいるな。てか俺の周りだけ妙に多くないか!?
と、とはいえ真っ当な意味で海外からやってきた剣士はこれが初になるわけだ。本当に会えるかどうかは分からないけど、なんだか楽しみである。
「まぁ……誰が来るかは後で教える。今はまず、運動場の修復を優先したいからな」
「あー、そっか。壁が……」
誰が来るのかについては今はお預けにされてしまったが、それも当然。
何故なら運動場には日向が解放撃で付けた痕が残ったまま。一班の主としてそれを放っておくわけにもいかないからな。
全く……面倒なことをしてくれる。今頃運動場の中で服を引っ剥がされているであろう日向に向かって小さく悪態をついた。
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