第六十九癖『縁を結びて、決意の戦い』
勝利を確信しつつ、意識をマッディの方に戻す。隣はともかく俺は俺の戦いを──
「──だああっ!」
「どわぁッ、やべっ……!?」
意識を戻した瞬間、マッディの全力切り払いが命中しそうになってビビる。
咄嗟に姿勢を低くして回避を試みるも──まずい、あと数ミリ分避けきれないか!?
頭への攻撃は戦闘不能どころか最悪即死に繋がりかねない! このままではまずい──
世界がスローモーションになって進んでいく中、突如として俺の顔面スレスレにチェーンソーが通り過ぎ、
それにより数センチ分俺の頭と
「焔衣、よそ見するナ!」
「ごめんって! でも助かった!」
助けを入れてくれたのはメルだ。今のミスを怒られるのもわけないこと。後で閃理にも一言言われるだろうな。
今は真剣での本番なんだし、慣れてきたからといってよそ見はしちゃダメか。反省をしつつ戦闘に戻る。
「くうっ……! 一対二とはいえ、流石にキツいわ。メタリカ、アレ使ってもいい?」
「マジでか!? ああもう、ちょっと待て! 今準備する!」
俺たちから一旦距離を取ったマッディは何やら大声で相方に相談を持ちかけた。
アレ……? もしかして切り札的なやつか。だとしたらマズいのでは?
一瞬閃理に目をやると、軽く頷くというアクション。いやどういう意味だよ。
そう心の中で突っ込んだ時、不意に頭の中に声が届いた。
【──マッディが潜在悪癖解放撃を使おうとしているよぉ】
【──メタリカもそれに合わせたサポートをしてくるはずだよっ】
「マジかよ……!? じゃあこれ止めないといけないやつじゃん!」
「全力でリードの邪魔すル! 焔衣、攻撃の手、止めるナ!」
おいおいおいおい、それ本当かよ! 相手が解放撃を狙ってるだなんて。
そうだとしたらマジでヤバい。俺以外の剣士の解放撃とかどんなもんか分からないから余計焦るわ!
メルにも
解放撃なんか使わされたら戦況がどう傾くか分からないからな。止めるに越したことはない。
とにかく攻める! 相手にリードをさせる暇を与えさせない!
俺とメルは急いでマッディの凶行を止めるために攻撃を一層激しくさせる。
──のだが、これが間違いだったのかもしれない。
「……! 焔衣、メル、止まれ!」
「何っ……? あっ」
その瞬間、何かを踏んだ俺は足に違和感を感じた。そしてバランスを崩して俺は床に転がってしまう。
何が起きたかはすぐに理解した。膝から下の関節が動かないこの感覚……まさか。
俺は自分の足を見る。すると、右の足は俺自身の顔が映り込むほどの光沢で輝く銀の足になっていた!
しくった……! 金属化の罠を踏む可能性を考慮していなかった。
まんまと敵の術中にはまってしまうというミス。今日一番の失態だ。
「焔衣、後ろ下がレ! 後はメルがやル!」
「悪ぃ! 頼んだ」
俺とは違い罠を踏まなかったメルはマッディと交戦。幻狼と同じく治療のために閃理の下へ。
「ごめん、閃理。しくった」
「気を付けろ。いくら治せるとはいえ剣士にとっては受けた段階で命取りになる。そのことを忘れるなよ」
やっぱり怒られた。当然だし反論は無い。深く反省して心に刻んでおく。
ちらっと隣を見ればすでに幻狼は復帰している。さっきより攻めに出ている感じなのを見ると、
くそー……、早く復帰して何とかしないと。回復を待つ間辺りを見渡して焦る俺。
そんな時、ある方向に目を向けた瞬間にあることに気付いてしまう。
「せ、閃理! よーく……じゃなくて縁雅さんがいないんだけど!?」
それは大部屋の入り口付近で隠れさせていた剣士候補、幼内縁雅の姿がどこにも見当たらないことだ。
まさか……逃げた? いや、それならそれで解放撃が今にも発動しそうだから正解の判断かもしれないが、だとしたらどこへ……?
だがこの非常事態にも関わらず、閃理から聞かされる答えに困惑することとなる。
「気にしないでおけ。あいつはあいつ自身の役割を果たしに行った。じきに分かる」
「は……?」
しーっ、と静かにのジェスチャーで無視を決め込むよう言ってきた。
役割を果たしに行った? それってどういうことなんだよ。
剣を所持しているとはいえ現状は一般人。この状況で出来ることはあるのか? 何も分からない。
気になるが今は敵の大技を止めるのが先決。仕方ない、よーくんのことはこの際気にしないでおこう。
だがしかし、俺が復帰に尽力する一方で無情にもそれは発動されてしまう。
【悪癖リード・『泥遊び』『泥遊び』『泥遊び』! 悪癖反復! 潜在悪癖解放撃!】
解放撃の音声! しまった、発動を防げなかった!?
それに気付いた時にはもう全て手遅れだ。マッディの
「くっ……! おい、ちょっと待てって!」
「これ以上待てない! こいつら倒しても控えに上位剣士がいるんだから、どの道こうするしか私たちが無事に帰れる方法はないの!」
でもこの発動はメタリカにも想定外……というよりもタイミング的にあんまりよろしくない模様。
軽い言い合いになりながらも発動されてしまった以上はキャンセルは不可。それほどまでに強力なのだ、解放撃は。
「食らえ! ドロドロ・グランドクライシス!」
マッディは技を叫びつつ権能を最大解放する
その瞬間大部屋が……いや、ビル全体が大きく揺れ動きだした!
ぐらぐらと揺れる建物。大地震でも起きてるのかと思いたくなるような揺れ。そして変化はもうすでに起き始めている。
「うぉ……。くっ、ああもうどうにでもなれ!」
「……ッ! 何、
「うわわわっ!? い、一体何が!?」
「まさか……部屋どころかビル全体を泥に変える気でしょうか!?」
戦場と化しているオフィス。その床や遮蔽物が徐々に形を変えて泥のような物質に変換されているのだ!
まるでこの部屋全体を
この技の全容を知っているであろうメタリカは聖癖章による能力で作り出したロープで退避していた。敵ながらずりぃぞ……!
マッディを中心に広がる泥化から逃げるように、メルたちは部屋の端へと追いやられてしまう。
「
「本当だ。あうう、この前新調したばっかりなのに……」
見ればメルたちの靴は底の部分がなくなって裸足当然になっていた。
なるほど、どうやら泥化は無機物だけに作用するらしい。金属化よりも厄介さは低いみたいだ。
「よし、足は治ったぞ。さぁ行け」
「ありがと。でも、行けって言われてもなぁ……。この状況でどう戦えって言うんだよ」
このタイミングで金属化の状態異常は解けたものの、マッディの解放撃によって大部屋は壁際の端っこを残して全部泥化。さらに床が抜け落ちて巨大な穴となっている。
一階まで吹き抜けとなってしまった廃ビル。下を覗くと大量の聖癖の泥が貯まっていて、今にも昇ってきそうで怖い。
「負けたわけではあるまい。こういった状況でも上手く立ち回り、戦うことで一人前になれる」
「またそう難題を押しつける……」
でもまぁ、確かに部屋の床を消されただけであって、別に俺たち自身に対した被害は無い。メルたちの靴は駄目にされたが。
負けが確定したわけじゃないのは事実だ。まだ大丈夫のはず。だが──
「まさかこれで終わったと思っちゃいないわよね!? 解放撃はここからなんだから!」
「何ぃ……って、嘘だろ!?」
するとどこからかマッディの叫びが。そういえば奴の姿がどこにも見られないぞ?
まさか下からか? 今の声は下の方から聞こえてきたような……と思って大穴を覗き込むと、信じられないことが起き始めていた。
一階に溜まる泥の海は沸騰しているみたいにボコボコと波打ち始めていたんだ。
そして──あろうことか本当に泥はせり上がるように最上階まで昇ってくる!
「ええええ、ま、マジですかぁ~……!?」
「第二ラウンドの始まりよ! 全員ブッ倒してやるんだから!」
大穴から飛び出した泥塊はどことなく人の形をとっており、第二形態に移行したのだと思わせる。
……ってかもうそれ! 第二形態です! 嘘でしょこんなこと!
泥化する部屋と一緒に一階へ下りていたんだな、マッディは。そりゃあいつを中心に権能が発動してたんだし当然ではあるが。
今回の敵もまたスケールの大きい能力だな……。まさかの巨大戦とは全く予想していなかったぞ。
この
「閃理、これはどう攻略するといいかな」
「ふむ……。
「そうね。今かなり良いとこまで出来てるみたいだし、もう少し引きつけておきたいわよね」
これまたマジすか。
なら解放撃を使えば良いのでは? とも思ったが、どうにも
舞々子さんもそれを把握してるらしい。二人は一体裏で何をしているんだ……?
そうこう考えていると前方に大きな影。おっとこれはマズい。全員一気にその場を離脱!
そしてバコーン! とドロドロの巨大な手がたった今俺たちのいた足場を攻撃。手の形通りにコンクリが抉れて泥の中に消えた。
「ちょこまかと逃げるな! 倒せないだろ!」
まぁ相手は空気読んで待ってはくれないよな。俺も逆の立場ならチャンスと見て同じことをするだろう。
「大人しく食らう馬鹿がどこにいるってんだ! こうなったら仕方ない。凍らせるのは効果あるんだから全員で『クーデレ聖癖章』を使うってのはどうだ?」
「良いですね、それ。やってみる価値はあるかも」
「
「解放撃でもいいのですが、閃理さんや封田さんの言葉からして威力をセーブしにくい技は使用を控えるべきなのでしょう。では各自スタンバイお願いします」
簡易的な作戦会議を行い、俺たちは『クーデレ聖癖章』を使って敵を凍らせるという策を講じた。
それぞれが手持ちの聖癖章をリード。凍原は暴露撃を撃つ準備をする。そして奴から見て左右と斜め向かいに立ち、そして放つ!
【聖癖リード・『クーデレ』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】
【聖癖暴露・
「いけぇッー!」
「吹雪のファンタジア!」
四本の剣から放たれる極寒の波動。泥の怪物と化した相手にどこまで通用するか?
次第に真っ白くなっていく身体。よし、効いてそうだな。このまま全部終わらせてやる!
ガッチガチに凍ったら俺の暴露撃で焼き払っておこう。急激な温度変化には流石の剣士も耐えられまい。
そのまま発動時間が終わり、全員の攻撃が止む。
巨大な氷塊と化したマッディ。作戦通りだ。この後は俺が────
「馬鹿ね! あんたたちの敵は泥だけじゃないのよ?」
「何だと!? 耐えるのか……!」
聞こえた声は予想とは裏腹に攻撃を受けた直後のように感じられない。
そして、ピシッ……と何かがひび割れる音が響く。まさかとは思うが──凍結攻撃は効いていない?
この推測は正解っぽい。氷のコーティングを破って泥の怪物は再び姿を現す。
しかも、どういうわけかその姿は技を放つ直前とは打って変わって、土色の身体は銀色に変化している!
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
ここで声を上げたのはメタリカ。ひょっこりとマッディの後ろから存在をアピールする。
いっけねー、泥の怪物が出現したせいであいつの影が薄れてたわ。
どうやら奴の能力で表面を金属化させることで凍結の被害を最小限に留めていたらしい。
「金属になったからって動けなくなったわけじゃないんだから!」
今の宣言通り本来は金属化でカチカチに固まるはずの
鋼鉄の拳が幻狼を狙う。とはいえ動きは鈍いから簡単に避けられるんだけど、それでも勢い余って壁をぶち抜いた。
なるほど。金属化してなお動けるのは、関節に該当する部分は泥のままだからか。
早い話が半人型の形を取っている泥塊が鎧を纏っているという感じだな。
お互いの権能を知り尽くしているからこそ成せるコンビネーション。敵ながら見事と言わざるを得ない合体技だぜ。
「あーもう、これどうすんだよ。パワーアップされちゃ勝ち目なくね?」
「まだ諦めるナ。最悪泥の中入って中から凍らせればまだいけル!」
おいメル、無茶言うなよ。泥の中こそ敵の領域だろ。入ったらおしまいになるわ。
こいつぁ参ったなぁ。あんな化け物作られたら流石に手も足も出ない。
どうすればこいつらに勝てる……? 考えろ、まだ攻略の手段は残ってるはず。
しかし次の手を考えている最中であっても敵は待ってくれないらしい。
「これで終わりだ光の剣士ぃ!!」
再び拳を握り、二度目の鋼鉄パンチが発射寸前に。だが背後には階段。これは避けていいものなのか!?
さっきの勢いを鑑みるに、回避すればそのまま階段をブッ壊しかねない。
仮にそれで建物が崩れたら、俺たちはともかくよーくんと孕川さんが危険な目に遭う!
てことはここはもうガードしか打つ手はない! 聖癖章でバリアを張ってこの一撃を凌ぐ!
この考えは他の三人も同じく思ったようで、それぞれが防御技となる聖癖リードなどの技を発動する手順を踏む────はずだった。
「もう良いだろう。舞々子」
「そうみたいね。それじゃあ、この戦いはここまでにしましょうか」
その瞬間、今にも放たれそうになった敵のパンチは刹那に通り抜けた一閃により、強制的に中断させられる。
人で例えれば拳の真ん中から肩までを一刀両断。迫り来る拳は枝分かれして攻撃を無意味な物とした。
ワンテンポ遅れてそれの持ち主は何事か、と声を漏らす。
「なっ──!?」
一瞬のこと過ぎてよく分からなかったけど、でも確かに紫色の斬撃波が飛んで行ったのは見えている。
切り落とされたのは巨大化したマッディの腕。
斬撃波が通った場所から封印されたことで泥は瓦礫に還元され、崩れ落ちたのだ。
まさか……と思い振り返ってみれば、そこには案の定
「みんな~、もう下がっていいわよ。こっちの勝ちだから~」
「勝ち……ってどういうことだ? まだ敵は──」
「いいや、俺たちの勝利だ。見てみろ」
いつも通りのふわふわな口調で撤退の言葉を言う舞々子さん。流石に意味が分からず、俺は勿論他の三人も同じきょとん顔だ。
しかし閃理の言葉で俺たちは勝利の意味を知ることになる。
指し示す先には部屋の面に接した足場。ギリギリ解放撃の影響を逃れ、形状を保ったままの遮蔽物だ。
今にも穴の下へ落っこちそうなそれの陰から現れたのは──
「……くっ。大丈夫か、みーちゃん」
「な、なんとか……。一瞬死ぬかと思ったけど」
「あっ、孕川さん!? どうして縁雅さんが……!?」
出てきたのはなんとよーくん! しかも金属化されて動けなくなっていたはずの孕川さんまで連れてここに来ているだと!?
俺たちだって知らぬ間にこんなことになってて驚いてるんだから、敵も予想外の人質奪還に衝撃を隠せない様子である。
「そんな、どうして!? 一体いつの間に……!?」
「戦いが始まる直前、俺は
そうだったのか……! まだ剣士じゃないよーくんに難題を押しつけてるような気もしなくもないが、結果は成功してるしセーフだ!
しかし何で敵にバレなかったんだ? いくらフィールドの中央にいたとはいえ、人質の存在は意識していてもおかしくはないのに。
もしかして戦う前に使った聖癖リードのおかげか?
敵には悪縁……つまり良くないことを起こすわけだから、つい人質への意識を疎かにさせてしまっていたんだな。
対する孕川さんには良縁、要はラッキーなことが起こるようにしたから、無事に怪我無く助けられたんだ。『縁』の権能、想像以上に働いてくれてるぞ!
「二人とも、早くこっちへ。すぐに逃げるわよ!」
「はい! みーちゃん、離れるなよ」
「うん!」
縁作りという権能に感服している最中、ビル脱出のために急いで俺たちのいる場所へと向かう二人。
だが闇の剣士らはそれを見逃さない。
「まずい、逃げられたらこの一ヶ月間が台無しになるぞ! マッディ!」
「うおおぉ、絶対に逃がすかァ!」
残ったもう片方の腕を伸ばして獲物を奪い返さんとばかりに迫る……が。
「聞き分けの悪い子はお仕置きですよ!」
【聖癖暴露・
ここで
それだけじゃない。舞々子さんは小走りで接近すると、そのまま高々とジャンプ。
マッディの顔にあたる泥塊に迫りながら剣を構え、そして──
「
必殺の一撃が放たれる。こっちが本命の技!
あらゆる権能を封じ込める濃い紫色の波動を纏った
「そんなっ……! 私の泥が、メタリカの金属化が、消えていく……!?」
泥の怪物も抵抗虚しく封印の権能の前には無力。
衝撃波に触れた瞬間、金属化部分は勿論泥さえも本来のコンクリートや鉄筋などの無機物に再変換されていく。
瞬く間に泥の怪物の姿は消え去り、中から操っていた剣士が剥き出しの状態に。
そして迫り来る
「ぐおおぉッ! させるかぁッ!」
が、一足早く後方へ降りていたメタリカが先ほどの聖癖で作り出したロープを使い、逃げ遅れかけているマッディを引き寄せた。
間一髪封印の権能から逃れられた二人。しかし、引っ張った勢いを殺しきれずに剥き出しの支柱へ強くぶつかってしまう。
それが思いの外強い衝撃だったのか、あるいは単にこの建物が限界だったのか……今ので再び建物が大きく揺れ始めた。
「おいおいおいおい、これ絶対ヤバい揺れだって絶対! マジで崩れるだろ!」
「ああ。予測だと一分以内には倒壊が始まる。近隣住民や企業には申し訳ないことをしてしまうな」
「暢気に余所の心配してる場合!?」
やっぱりこのビル崩れるのかよ! 急いで逃げないと巻き込まれて大怪我するって!
あ、敵もヤバいんじゃ……いや、でも遅いか。
そもそも相手は大穴を挟んだ真向かいの足場にいる。今から戻って助けても手遅れになるのは確実だ。
「くっ……くそおおおっ!」
「覚えてろ光の剣士! 次会ったときは絶対に負かしてやるんだからぁ!」
負け惜しみと言わんばかりに倒壊の進むオフィス内で叫ぶ闇の剣士の二人。
敵とはいえ見捨てるのには心が痛むが……出来ないことを無理してやるわけにはいかない。
そっちはそっちでどうにか脱出してくれよな。仮に死んでも恨むなよ。
そうして俺たち一班と二班、そして剣士候補の二人を連れてビルを脱出。
具体的な脱出経路を説明すると、六階と七階の間にある踊り場の壁を破壊し、そこから飛び降りたのだ。
こんな緊急事態だしビビっちゃいられない。
飛び降りる前に全員の剣に『バニー聖癖章』をリードさせたおかげで垂直落下からのビル倒壊に巻き込まれずに済んだから良しとしよう。
中空をジャンプするように駆けて行き、近場の建物の屋上へ着地。そこから廃ビルの最後を見届けた。
膨大な粉塵をまき散らして沈むように溶けていくように倒れるのを拝みながら、やっぱり少しだけ心配を覚える。
マッディとメタリカ、ちゃんと逃げれたかな……? まぁ何であれ戦いは終わりを告げたんだ。実に喜ばしいことである。
「みーちゃん、大丈夫か?」
「うん、平気……。絶対来るって信じてた。よーくん、ありがとう」
「お……、おう。でもここまで出来たのは全部この人たちのおかげだ。その言葉はそっちに言ってくれ」
完全に落ち着ける状態となってから、孕川さんの安否を訪ねるよーくん。
救出してくれたことに対する感謝の言葉を貰うも、恥ずかしがっている。お熱いじゃんかよぉ~。
これには剣士全員温かい目で見守る。俺は別にリア充爆発しろ、だなんて前々時代的な冷やかしを言うつもりはないぜ。
「すみません。本当にありがとうございました。まさかこんな形でみなさんにご迷惑をかけるとは……」
「気にしないでいいのよ。むしろ謝らなければならないのはこっち。
改めて今回の件について孕川さんは謝罪をする。勿論この人が謝る理由はどこにもないけど。
そもそも一度見失ったくせに第二班の後を追っかけてきた闇の剣士が悪い! 舞々子さんらも謝る理由は微塵も無いぜ。
それにしても、まさかよーくんがこの戦いにおいて鍵を握る存在になるとはな……。
「幼内、俺からも礼を言わせてくれ。君の協力のお陰で縁が我々を導いてくれた。感謝する」
「俺はただ言われたことをやっただけです。誰がやっても同じ……こうなるようになってたはずですよ」
閃理からも感謝の言葉が今回の功労者に与えられるけど、何やらかなり謙遜しているご様子。
何を言うかと思えば安定の捻くれ加減。よーくんがいなければ最悪孕川さんは瓦礫の下だったろうに。
謙虚さは傲慢と表裏一体ってメイドさんも言ってたくらいだし、あんまり良い返答とは言えないな。
「いや、君がいたから今の結果に繋がっている。事実、二度の決断の内片方が無ければ結果は大きく変わっていた。君がいなければここまで上手く行かなかっただろう。誇っても良い。よくやってくれた」
対する閃理は謙遜を否定し、この件が全部よーくんのお陰であることを証明する。
それに俺も同意見だ。
未来を予測する
肩をポン、と叩かれたMVPを讃えるべく自然と拍手がわき起こる。
閃理の無茶ぶりに応えただけでもすげぇよ。今日はあんたがナンバーワンだ。
「……くっ」
「あれ? どうしたんですか、泣いてるんですか?」
すると突然よーくんはボロボロと泣き始めたではないか。よもやそこまで自分の功績だと認めたくないのか?
「馬鹿言うな。これはただの嬉し泣きだ」
まぁそんなわけないよな。この状況で感極まってしまうのもわけないこと。
それに、もうよーくんには天の邪鬼になる理由もないだろう。
あんたの過去がどんなものであれ、今回の件で一歩前進出来たんだからな。
認めるよう。あんたは剣士にふさわしい人だ。もし聖癖剣士をやってくれるなら歓迎するぜ。
こうして俺たちの戦いは終わりを告げた。
偶然の発見から始まった一連の出来事も、きっと
ちなみに倒壊した廃ビルは翌日には全国ニュースとなって取り上げられていた。
曰く死者、怪我人共にいなかったという。メタリカとマッディは無事に脱出に成功したんだろうな。
何はともあれ最後に残された仕事はたった一つ。
これを達成出来なければこれまでの戦いの意味は無くなってしまうからな。
だから俺たちは待つぜ、よーくん。あんたは聖癖剣士になってくれるのか否かをな。
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