第五十七癖『光から伸びる、闇の力』
「へぇ、気になって来てみればやってるねぇ~。みんな楽しそうだ」
結界の近くに建つ建物の屋根に乗りつつ、私は双眼鏡を使って遠くを確認中。
複数人の剣士が戦っている光景が視界に映る。いい感じに戦場って感じだ。
ここ最近話題に上がっている炎熱の聖癖剣士もいるね。道理でクラウディが今回の件を快く承諾するわけだ。
おまけにディザストまで。彼に今回の件を頼んだ覚えはないんだけど、こっちもつられて加勢しに来たってところかな?
しかし、敵に質量の聖癖剣士までもがいるのは予想外だったなぁ。
あの人は組織の優先討伐対象者リスト入りしている危険人物だから、厄介極まりない。
ふふ、でも本来の任務を抜け出してここに来てみた甲斐があった。不安要素たちも含めてずいぶんと白熱した現場になってる。
何やら私も加勢するべき流れなんじゃないかな、これは。
正直とてつもなく面倒くさいけれど元々私の部下が撒いた種。
本人が長期の謹慎に入ってる以上、その尻を拭うのは上司である
大きくため息を吐き出しつつも、上司としての役目を果たすとしましょうか。
それに炎熱の聖癖剣士とは私も一目会ってみたかったんだ。ちょっと仕返しをしにね。
そうと決まればすぐ行動だ。周りを見回すとクラウディが開けたと思しき結界の穴を発見する。
「即座に修復しないなんて光側も甘いね。それじゃ、おじゃましまーす」
あっさり侵入に成功。こんな簡単に入れるとは正直思ってなかったけど、まぁ良しとしよう。
さぁーて、どうやって二人を手伝おうかな。正直なところ一人を除いて誰とも戦いたくないっていうのが本心なんだけど。
「ああ、そうだ。念のために光の聖癖剣士が来られるのも厄介だし、
ふと思い出した特級危険人物を警戒しておくに越したことはない。現場にいないってことは、遅かれ早かれここにくるはずだろうし。
剣を取り出してすぐさま聖癖章をリード。
聖癖の力を当てた鉄の粒をそこら辺に撒くと、たちまち人型になった剣機兵たち。
でも、どこかから電波を受信したのか、すぐに本社がある方向へと行ってしまった。
もしかして別に剣機兵が展開されてるのかな? まぁなんだっていいんだけどさ。
雑魚たちを見送りつつ考えを進める。そうだなぁ……ここはあえて敵側に付いてみるってのも面白そうじゃん?
「全員びっくりすると思うな。ま、どう反応したって別に大した興味はないんだけどもね」
良いサプライズを思いついたところで私は即座に権能を発動。
基本自分さえよければ他はどうだって良いの精神で私はそそくさと現場へ急行する。
さてさて、
そこは地味に気になるところ。ふふふ、目的ついでに成果の横取りもしちゃおうかなぁ。
†
ディザストが召喚したドラゴンの内、あたしたちを狙ってやってきたのは全身虹色に輝くドラゴンだった。
どっしーん! と大きな音を立てて降り立つ。砂埃が舞う中、翼を羽ばたかせて視界を払う。
第一印象はゲーミングドラゴンじゃん、って言おうとしたのも束の間、露わになったその顔を見てギョッとした。
「な、何あれ、めっちゃキモいんですけどッ!?」
「結構不気味ですね……。うう、なんか怖いです」
「そうですか? 愛嬌があって可愛いと思うんですが……」
その顔ってのがこれまた凄まじくキモくて、獅子舞みたいな仮面っぽい頭部なんだけど、異様に不気味な印象を持たせるの。
目も作り物のように無機質で、何というか本能的な恐怖を煽ってくる感じがする。正直キモすぎてこっち見ないでって言いたくなるくらい。
あたしは勿論男のオージもそのキモさに圧倒されてる。まみみんのセンスは相変わらず分かんないところがあるけど……。
でも、こんな奴に負けるわけにはいかない。何故ならあたしたちは剣士。闇を倒し、世界を守る者!
この程度の相手に怯えてなんかいられないんだから!
「とりま行くよ、二人とも! あたしたちの力、見せつけてやろうじゃん!」
「ハイッ! どーんと見せつけてやりましょう!」
「が、頑張りますっ!」
あたしたちはそれぞれ愛剣を持って戦闘態勢に。
仲良し三人組のコンビネーションを見せてやる!
まずあたしが先行。敵の大きさは……よく分かんないけど乗用車以上バス以下くらいかな? わりと大きいけど負けじと攻め込む。
大きく飛び上がって一回転、からの脳天地獄割りをあのキモい顔に向けて叩き付ける!
けど堅い! 本気でやったのに弾き返されるなんて……ここは一旦距離を離しつつ作戦を考えるか。
まるで鋼鉄の盾か何かみたい。ここまで堅いと心配になるくらいだけど、どんな物体も壊せない物はない!
【聖癖開示・『ビキニ』! 響く聖癖!】
「あたしの音を聴けええぇぇ!」
聖癖開示。それと同時に柄頭のベルを敵に向けて音を放つ!
この世に完全な剛体は存在しない。時間をかけてでも、あのめちゃくちゃに堅い顔を破壊してやる!
目論み通り、流石のドラゴンも身体の固有振動数を合わせられることによって起きるダメージに苦しむ様子が見られる。
うん、これなら行けるかも!
「オージ、まみみん、今がチャンス! やっちゃえ!」
「真視さん!」
「はいっ!」
ここで残りの二人が攻撃に参加。
まみみんの聖癖剣【
だからこうして二人が揃えば、あたしの攻撃で対象の動きを抑え込みつつ銃撃による遠距離攻撃っていう芸当も可能!
卑怯臭いとか思うのはナンセンスだっての! こういう作戦なんだからさぁ!
もう少し……。あともうちょいであの堅い顔を壊せるかも。
開示攻撃の効果時間もギリギリ。どうにか間に合えってのぉ~……!
そう念じながら攻撃の手を止めずに音を出し続けていくと、ビシッ……って音が聞こえた。
見れば顔にヒビが走ってる! これなら叩き壊せるかも!
「今だ! 勝負決めにいくよっ!」
良いタイミングで開示攻撃の効果時間が切れたから、あたしは敵に向かって走った。
オージとまみみんの射撃も攻撃しに行ったことに気付いて止まる。この瞬間だけ奴は自由になったけど、そんな暇は与えない!
こいつをさっさと倒して心盛さんたちに加勢するために、一撃で仕留める!
現役JKモデルの本気の攻撃……食らえぇ!
でもその時、一番奴に近かったあたしは気付く。
ドラゴンの目はあたしではなく、その後ろを見ていたことを。そして、今にも飛びかかろうとした瞬間──それは起きてしまう。
「あっ……! あ、ああ……うわ────ッ!?」
「えっ、何!? ──しまっ、ぎゃっ!?」
突然、オージの悲鳴が聞こえてきた!
それに驚いたあたしは一瞬足を止めて後ろを振り向いてしまって、そのまま敵の腕に振り払いを食らって吹っ飛ばされる。
何とかガードは間に合ったけど一体何事!? どうしていきなり叫ぶなんて……。
「うああ、止めて、止めてぇ……。昔のこと、思い出させないで……」
「輝井さん!? どうかしたんですか!? しっかりしてください!」
見ればオージの様子が明らかにおかしい。大粒の汗をかいて、光る目を大きく見開かせている。
一体どうしたっての? 何かされているわけ……?
とにかく気になる。あたしも急いでオージのところに戻った。
「オージ!? どうしたの?」
「あの龍が……僕の昔の記憶を思い出させてくるんです……。虐められてた嫌な思い出が……うぅ」
嘘っ!? まさか、そんな能力を使ってくるの!?
両膝を突いて、頭を押さえながら身体を震わせているその姿、どうみても異常。
まるで初めて会った時みたい……。オージの過去を全部知ってるわけじゃないけど、剣士になるまでに壮絶な体験をしていることは知ってる。
人のトラウマを強制的に思い出させて戦意を消失させようだなんて……なんたる外道!
許せない! こればっかりはあたしでもブチギレ案件だわ!
「あの野郎ぉ……! オージにこれ以上つらい記憶を思い出させてたまるかっ! まみみん!」
「はいっ! これを!」
精神攻撃なんて卑怯なことをしてくる輩に容赦は出来ない!
まみみんから聖癖章を受け取って、自前のも合わせてリード! 仲間の分の怒りも食らいやがれ!
【聖癖リード・『ギョロ目』『ビキニ』『タトゥー』! 聖癖三種・解釈一致! 聖癖調和撃!】
三つの聖癖は何も剣技に作用するだけじゃない。使い手のイメージに技の形を左右されるから、解釈次第ではどんなことでも実現出来る。
「うぐうぅぅぅ……! くっ、やるぞ! 背中押さえてて!」
あたしの
それだけじゃない。聖癖の力が込められたこの瞳に黒いオーラが宿る!
「ダークライト・レーザー!」
片目を手で押さえて全部の力を左目に集め、黒いオーラを一極集中して光線のように前方へと解き放つ。
これはオージの技をイメージしてる。黒い光とも呼べる異様な光線はドラゴンに見事命中。
堅い顔面へ真っ正面からぶつかる光線。でも当たった場所から弧を描くように明後日の方向に光線は拡散してダメージが通ってる感じはしない!
でも──問題はないっての! むしろこっからが本命だ!
あたしの光線に当てられた箇所は徐々にタトゥーが侵食を始めてる。あのゲーミングカラーな身体を真っ黒に覆い尽くした時が戦闘終了の合図!
あのタトゥーには音の力を増幅させる特殊な能力がある。もしレーザーを耐え切ったとしても次に
だからこの勝負、あたしたちの勝ち! それは違いないんだけど────
「あっ……!? ああ、あ……」
「まみみん!? まさかそっちも!?」
必殺技の反動を抑える役に徹していたまみみんも、急に何かに怯えるように尻餅をついた。
まさかレーザーを食らってる最中にも精神攻撃をしてくるんなんて……! 卑怯でしょそんなの!
「やばっ……、技が途切れる……ッ!?」
それと同じタイミングでダークライト・レーザーの発動時間が迫ってきた。まだ身体の半分しかタトゥーは侵食しきってないのに……。
元々細い光線は途切れ途切れになって消滅。あたしの目も元の大きな虹彩に戻る。
次がまみみんってことは、その次はあたしってことか……。
……ふっ、上等じゃん。どのみち勝てる戦いだし、精神攻撃を受ける前に倒せばいいだけのこと。
「まみみん、そこで休んでて。今、あたしが全部片付けてくるからっ!」
「ごめんなさい、お願いします……」
よし、任された! 友情パワーは百万倍、大事な友達を守るために響は本気を見せる!
キッ、とドラゴンの方を睨んで
いざ──尋常に勝負! ……と思ったその時、明後日の方向から声が。
「うおおおおおおッ!! 響ィ~~!!」
「えっ、何!? ケンティー!?」
何事ぉ~!? 何故か別のところで二匹のドラゴンと戦ってたケンティーがこっちにやってきたァ!?
それももう一匹をこっちに連れてきて! 敵を増やすなアアアァァ!
「さっきの悲鳴、輝井のだな!? どうしたんだ!?」
「そんなこと暢気に聞いてる場合!? なんでこっち来んのよ!」
「実は今戦ってる龍、俺の剣と相性が悪すぎるんだよ! だから戦う相手交換してくれ!」
「ハァ~~!? なにそれ?」
マジで何言ってんのよケンティーは! 相性が悪いから交換って……そういうのアリなの?
見ればケンティーを追って来るドラゴンは中華風って感じの姿をしてて、めっちゃ笑顔で炎を吐いてきてる。
なーるほど、炎の属性だから
色々変な感じだけど、こっちのゲーミングドラゴンは能力が厄介だし……。
一瞬だけ考えて、あたしは結論を出す。
「分かった。相手交換ね! そのドラゴン、どーやら精神攻撃してくるっぽい。オージとまみみんがそれにやられたから、守ってあげて!」
「精神攻撃!? マジか。ディザストの奴、そんなのを輝井たちに仕向けたのかよ」
あたしは相手を譲ることにした。別にゲーミングドラゴンが怖いからとかじゃないから!
こういうのは少しでも相性の良い剣士が相手にするべきだと思う。
炎が効かない相手にはあたしの音でかき消して、あたしの攻撃を耐える防御力を持つ相手を伝説の剣が討ち取る──それが良いって思っただけ。
そしてすれ違い様にあたしはケンティーに聖癖章を受け渡した。
「これは──」
「今のあいつ、音の攻撃が効くようになってるから、それ使って!」
「なるほど。じゃあ、俺からもこいつを貸すぜ!」
するとぽいっと同じように物を渡された。これ、あたしの知らない聖癖章だ。
どこでこんな物を手に入れたかは分かんないけど……今はそんなのどうでもいいか!
使える物はなんでも使うべきじゃん? どんな権能かはこれから実際に使って確かめる!
【聖癖リード・『バニー』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】
早速リードして発動。すると一瞬足に違和感が……見た目の変化はないけど。
と、ここで相手を変更したのに順応してか、中華っぽいドラゴンがあたしに向かって攻撃をする。
吐き出される炎のような高熱のブレス。よけるつもりでジャンプしたら──予想よりも高くまで跳んだんですけど!?
ジャンプ強化の権能を宿してるんだ。それだけじゃない、空気を蹴ってさらに追いジャンプも出来るみたい。
へぇ……便利な聖癖章じゃん。誰の剣から作られたか気になるけど、それを訊くのは後回し!
空中ジャンプを繰り返してドラゴンに接近。すれ違い様に首を一閃!
ダメージを受けたことに苦しんで暴れるドラゴンはそのまま高度を若干落としていく。
おっ、これなら行けるかな? いい加減トドメ行こうか!
「うぐっ……!? うぉ……、これがさっき言ってた精神攻撃か……!?」
でも少し横から低い悲鳴が聞こえた。チラッと見ればゲーミングドラゴンの前で立ち止まっているケンティーの姿が。
もしかしてケンティーもやられた!? そんな……そうだとしたら、今の状況は不味いって!
次にあたしが狙われたら、もう誰もこのドラゴンらを倒す人はいなくなる。強敵過ぎるって……!
一人で二体を相手する──そんな一抹の不安があたしの脳裏に過ぎったけど、どうにもほんの一瞬だけの心配だった。
「……くっ、ふざけんなよ。ディザストの時もそうだったけど、お前如きが俺の過去に土足で踏み込めると思うなッ!」
ケンティー、そう叫ぶと剣に炎を纏わせて戦う姿勢を維持してる! 全然恐慌状態になってない!
むしろ過去を掘り起こされて怒ったっぽい! 精神力強くね?
でもこれなら──安心してこっちに集中出来る! さぁ、あたしも本気出すから!
【聖癖暴露・
「バニシング・ノイズ!」
【聖癖リード・『ツンデレ』『ビキニ』! 聖癖二種・解釈一致! 聖癖接続撃!】
「
ほぼ同時にあたしとケンティーの暴露撃と接続撃が発動した。
まずあたしから。ドラゴンよりも高い位置から急降下して音の壁を展開しつつ
途中炎を吐いて迎え撃とうとされたけど、音の防壁の前じゃかき消されて効かないっての!
ドラゴンの頭から
次にケンティー。あたしの聖癖章と同時に使ったら、どうにも解釈が一致したみたい。やっぱり男の子なんだなって。
振り払った剣はゲーミングドラゴンを炎の膜みたいな物に包み込むと、直後に無数の爆発音が内部から轟く。
音の力が乗った爆発音なんて、それはもう実質爆弾みたいなもの。音の力を増幅させるタトゥーの効力もあってか膜の隙間からゲーミングドラゴンが爆散するのが見えた。
散り散りになって消えるドラゴンたち。その散り際が少し綺麗なのは意外だった。
とにもかくにも────これであたしたちの勝ちってことね!
「オージ、まみみん!」
「うぅ、自分はもう大丈夫です。すみません、役立たずに終わってしまって……」
「ごめんなさい。また任せっきりにしてしまうなんて……」
「いいのいいの! むしろ頼られて嬉しいくらいっだっての!」
恐慌状態に陥っていた二人の下に急ぐと、案の定ゲーミングドラゴンの影響は消え去ったっぽい。
それを聞いてほっと一安心。一撃で倒してくれたケンティーにも感謝しなくちゃね。
そう思ってケンティーのいる方へ顔を向けた時────もう一つのドラゴンと戦う相手の方から激しい音が聞こえた!
【乳盛倍加! 二倍・三倍・四倍! 五倍! 聖癖特盛・五重倍撃!】
「──伍倍斬!!」
割れ鐘のような──って表現が一番ぴったしな大きな怒声。それと同時に凄まじい風圧があたしたちの所まで飛んでくる!
「うわあっ!?」
「何事ぉ!?」
激しい一振りで放たれた衝撃の余波でものの見事に吹き飛ばされる。あたしは一瞬だけ見れた向こうの光景に驚かされた。
心盛さんに迫る五体のドラゴンが
結構強かったのに同時に全部ってヤバくね!?
跡形もなく消え去ったドラゴンの群。本当に元日本一なのかを疑いたくなるくらいの強さだわ……。
「こんなもんかァ? もっと出してこいよ、あたしはまだ足りねぇぞ」
「…………」
そして敵におかわりを要求する心盛さん。
戦闘意欲も他の剣士よりも並外れて高いとはいえ、まさかここまでとは思わなかったわ……。
でもこれで形成は逆転! あたしたち五人に対しディザスト一人なら、流石に数差で勝るはず。
悪名轟く闇側の伝説の剣【
「……僕はあなた方に負けることはありません。何故なら、もうこの戦いは終わりましたから。僕らの勝ちです」
「何……?」
するとディザスト、謎の勝利宣言をした。
はぁー? どんな精神でそんなこと言えるんだってのよ。こっちには元日本一と伝説の剣が相手にいるのに、自信ありすぎじゃね?
ただの負け惜しみだとは思うけど、とりあえず警戒はしておくけど。相手は龍の聖癖剣士だかんね。
「始めから僕らの目的はただ一つ。
「──ッ! まさか!」
「そのまさかだよ。はい、これなーんだ?」
次に聞こえた声は、間違いなくさっき保管庫に行ったクラウディの声だ!
見れば霧の奥から歩いてやってくる一人の女の人。暢気に日傘を差しながら余裕でやってくる。
その手に
「てか取ってくるの早くね!? 保管庫はしっかり中まで施錠してた上に何分も経ってないのに!」
「侮ってもらっちゃ困るよ。施錠やロック程度の障害で止まるほど弱い女じゃないよ、私はね」
な、なんつー奴なの……! 中だって当然聖癖の力で防護してたってのに。
それをほんの数分で突破して回収するなんてどうかしてる。
というか今の状況はかなり不味い! このまま持って行かれれば任務失敗。敵に剣が渡っちゃう!
「お前ら! 今ならまだ間に合う。クラウディから剣を取り返すぞ!」
「はいっ!」
当然! 初めての迎撃任務を失敗で終わらせたくないっしょ!
心盛さんの指示であたしたち五人は一斉に動く。絶対に剣を奪われちゃいけないんだから!
この突撃に対しクラウディの表情は変わらない。余裕かましているのも今の内だってのよ!
「乱暴だなぁ。本当は他の剣も盗ってこれたのを
「
ケンティーの言うとおり! 盗まれた物を取り返したら、どうしてまた逆に奪われ返さなきゃならないのよ!
身勝手な理由で盗んでいい理由を付けるな! それ、絶対に返してもらうから!
でも──相手は
どう攻撃しても回避されたり盾を使われて防御されたりで全然効いてない。
かろうじて心盛さんの攻撃で逃げ出すのを抑えられているけどそれも時間の問題。
このままじゃジリ貧……。というか混戦になっててワケ分かんなくなってきた!
「甘いよ!」
【八天選択! ……『吹雪』! 悪癖顕現・『困らせ』! 吹雪く悪癖!】
するとクラウディ、あの盾に込められた聖癖の力を発動させた!
それ、聖癖剣なのぉ!? 少なくともあたしは初めて見るそれに惑わされながら、冷たい風が辺り一帯を支配した。
寒ぅ!? 天気を操れる相手だって知ってたけど、まさか青音っちと同じ吹雪が使えるなんて!
あまりの強風に吹き飛ばされるあたしたち。心盛さんを除いた全員が遠く距離を離されてしまう。
「ナメんなッ!」
「流石にあなたは負けないか。ディザストくん!」
そして反撃──かと思ったら、横からディザストの剣が
嘘ぉ!? あの何十キロもある重さの剣の一振りを動かせるなんて……!
「ぐっ……!?」
「僕が抑えます。今の内に」
「恩に着るよ。それじゃあ逃げろー」
そのまま心盛さんを封じつつ、クラウディを逃がすディザスト。
すたこらさっさと横を通って逃げる敵。だから逃がさないってぇのぉッ!
【聖癖開示・『ツンデレ』! 熱する聖癖!】
【聖癖開示・『ビキニ』! 響く聖癖!】
【聖癖開示・『キラキラ目』! 輝く聖癖!】
【聖癖リード・『緊縛』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】
あたしたち四人は一斉に聖癖開示と聖癖リードとかを色々発動!
炎の塊、音の波動、小隕石の弾丸、そして鎖の矢がクラウディに向けて放たれた。
でも、どの攻撃も完全にかわされて何の成果も生み出せずに終わる。
オージとまみみんの射撃も背中に目でも付いてるのかってくらいに当たらないし。
これが……
ダメ、もう間に合わない。このままじゃ逃げられちゃう……。
────本当にごめんなさい。
誰に向けるでもなく、あたしは思わず謝罪を心の中で呟いていた。
半ば諦めかけていたこの現状。もうすでに数メートル以上も距離を離して逃げ切ろうとしているクラウディの前に、それは現れる。
「クラウディ! ここから先は通さんぞ!」
「……っ!? どうして君がここに……!?」
その声は聞き覚えがあった。いや、むしろ知らない人は味方は勿論敵ですら存在しない超有名人!
薄霧の向こうからやってくるのは一人の男。
そう、光の聖癖剣協会が誇る最強の一人────
「閃理ぃ!」
「閃理さん! やっと来てくれた!」
「……待たせたな! 今助太刀する!」
この瞬間、あたしたちは全員同じことを思ったに違いない。
閃理は剣士の中で最も安心出来る──それくらいに強い人物だと。
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