第五十五癖『君を魔の手から、護りに来たんだ』

 高速道路を運転中、それは突然携帯をけたたましく鳴り響かせて教えてくれた。


「何!? 日本支部に闇の襲撃!? 正気かよ、あいつら──うぉっとぉ!?」


 うおおっと!? この報に驚いたあまり車線を脱線しかけて隣の車にぶつかるところだったじゃねぇか。危ねぇ危ねぇ。


 それにしても、敵がまさかそんな大胆な行動に出るとは思わなかった。はっ、先代炎熱の聖癖剣士じゃあるまいし。


 元々その支部に向けての移動だったが、これで急ぐ理由が出来ちまったな。

 本当はパーキングエリアに寄って食い物をつまみながらのんびり行くつもりでいたんだが、闇が来たんじゃあ仕方がねぇ。


 急ぐに越したことはない。全速全開で走るぞ!

 車のギアを上げ、この高速道路を走るどの車よりもスピードを上げて走る!


 もう何年も乗ってる車だが、あたしの走りにこれまでずっと付いてきてくれてんだ。今回も信頼してるからな!


 凄まじい爆音を上げて一気に支部への道のりを進む。この調子なら何十分ともしない間に到着だ。

 閃理や他のやつらがいるとは思うが……仲間は多くて損はねぇ。


 待ってろよ日本支部。この日本一の聖癖剣士が今、加勢に行くからな────











 突如として現れた龍の聖癖剣士、ディザスト。

 全身で感じる殺意のオーラに思わず気圧されそうだ。もしかして絶賛ブチギレ中……?


「思っていたよりも早い到着じゃないか。でもさっきの登場の仕方は危ないと思うんだけど?」

「暢気にそんなことを言う暇があるのなら、今すぐ炎熱の聖癖剣士を解放してください。さもなければ……切ります」


 奴が来ること自体は知っていた様子のクラウディだが、対するディザストの反応はかなり冷ややかだ。仲間に切るって言ったぞこいつ。


 余談だが咄嗟の回避をしたせいで、さり気なく密着されて俺を抱きしめるような形となっていた。

 右腕は捕まれたままだが左腕は背中に回され、身体と身体の間に隙間を空けることが出来ずにいる。


 おまけに身長に差があるせいでクラウディの胸が顔に当たって……いや、あっちから当てに来ている。むしろ押しつけてるレベルだ。


 うう……、服越しでも意外と大きいサイズだと知ったけど全然素直に喜べねぇ。そのくせお日様の良い香りがするのが余計複雑だわ……。


「どうしてだい? 仲間が増えることはいいことじゃないか? 君にとっても彼には特別な因縁があるんだろう?」

「それとこれとは話は別です。何度も言ってますが、僕は彼を闇に入れることには大反対です」


 すると仲間内同士での言い争いが始まった。

 俺を闇に招き入れたいクラウディ、逆にそれを拒むディザスト。やはりどっちの意見も相反するもので、矛盾を極めている。


 一体どっちが闇側の真意なんだ? 両方とも本当ということはあるまい。どちらかが勝手に言っていることに違いないだろう。


「あなたの身勝手さには困らされるばかりです。大人として、元教師でありながら未成年に手を出すのはどうかと思いますが」

「知らないのかい? 今の日本は十八歳から成人なんだよ? 海外基準でも学校を出た十八歳は大人だ。教育者の観点から見てもセーフだよ」


 いやマジで何を言い争ってんだこいつら……。俺を中心に民法の話を持ち込むな!

 にしてもクラウディって元々教師だったんだ。これは意外や意外。闇の剣士も副業出来るのかな?


 ……いやいや、そんなことはどうでもいいって!

 とにかくディザストに意識が向いている今、どうにかしてこの拘束から抜け出さないと……!


「んむぐぐ……」

「いやんっ、焔衣くんこんな状況でも大胆だねっ。積極的なのは嫌いじゃないよ」


 ほんと何言ってんだあんた! ただでさえ胸に顔を押さえつけられて息が苦しいのに、そんなやましいことする気はねぇ!


 ああ、なんか向こうから感じる殺気が一段階くらい増したような気がするんだが!?

 どうにかこうにか首の向きを変え、顔の半分だけをディザスト側に向けることに成功する。


「ぶはっ! ディザスト、そっちも何しに来た!? この人と同じ剣が目当てか?」

「君の心配するようなことはしないよ。この人を止めるために来たんだ」


 俺の問いにディザストは冷静に答えた。

 剣が目的じゃない……? クラウディを止めるのが目的ってことは、つまり今は味方なのか?


 いや、流石にそれは早計ではないだろうか?

 だって一度剣士を辞めさせられかけたんだし、クラウディをどうにかした後で俺に襲いかかってくるかもしれない。まだ様子を見ておくに越したことはないな。


「それは聞き捨てならないね。ラピットからウィスプの代理依頼だと聞いているだろう? 私を妨害するということは、即ち組織へ反逆になる。君の身のためにも、ここは退いてくれないか?」

「では炎熱の聖癖剣士の拉致は組織による命令なんですか? 僕はそうだとは到底思えません。あなたの実力であればもうすでに剣を奪還していてもおかしくないにも関わらず、こうして剣ではなく拉致を優先しているのも罰するに十分な理由です」

「言うようになったねぇ……!」


 二人の熱い口論はより過熱していく。

 仕事を盾に妨害を牽制したり、独断での行動が処罰対象行為だとして咎めたりと、レベルが一つ上の口喧嘩がそこで繰り広げられている。


 とはいえ正直もううんざりだけどな。いい加減拘束から脱したいし、この煩い言い争いから一刻も早く距離を置きたいところ。


 この口論を聞いた上での結論、どうやらディザストは俺の味方だと思っても良いかも知れない。

 後が怖いことに変わりはないけど、今だけは信じてみる。光の剣士として今は恥を忍んでやるさ。


「ディザスト、俺に──俺に闇の剣士になってほしくなかったら助けてくれ!」

「────!」


 俺は叫べる限りの声で助けを求めた。すぐそこにいる、本来は敵である剣士に。

 すると一瞬躊躇いを見せるかのように鎧の身体をかちゃりと鳴らした瞬間、ディザストは行動する。


 一瞬にしてクラウディの眼前にまで距離を詰めた途端、災害さいがいで切りかかろうとした。

 ──ただし、俺に向かってだが。


「おっと、危ないなぁ。大事な次期悪癖円卓マリス・サークル候補に傷を付けようとするなんて」

「彼を闇の剣士にはさせない。僕が止めてみせる」


 剣の一振りをまるで社交ダンスでもするかのように回避するクラウディ。


 ぬぅ、助けを求めたのに俺を攻撃してくるなんて、やっぱり味方をしてるわけじゃないのか?

 解せない気持ちになりながらも、ディザストによる俺への攻撃は続く。


 どれもを華麗にかわし続ける中で、俺は少しだけある違和感に気付く。

 それはディザストの攻撃はどれも本気で俺を狙ってはいないということだ。


 どういうことかと言えば、様々な切り方をしてくるにも関わらず、どれもスレスレの攻撃で当てようとしている気が全くしないというのが正確か。


 クラウディが攻撃を全回避しているというのもあるが、それを踏まえても本気で殺しにかかっているとは思えないんだ。


「うーん、呪いがあるから私を切れない。だから焔衣くんを切るしかない。でもその焔衣くんは切りたくない、剣からそう伝わってくるよ。難儀な身体だねぇ」

「黙っててください。彼には関係のないことです」


 何……、呪いだって? そんなものにディザストの身体は縛られているのか?

 概念を権能として扱える聖癖剣だ。もう怪物や幽霊を操れる剣が存在しても大げさには驚かない。


 だから人に呪いをかけられる剣があったとしても不思議じゃないけど、まさかそんな権能にディザストは……。


 もしかしてあいつ……結構不憫な人間なのでは?

 クラウディ曰く俺のことを本気で切ろうともしてないみたいだし、ちょっと変だよなぁ。


 でもこのままじゃジリ貧だ。何か行動しないと!

 そういえば剣は掴んだままだった。この短時間で色んなことが立て続けに起きたせいで少し頭から抜け落ちてたけど、剣そのものは全然問題ない!


 だから俺は剣に炎を纏わせた。これでクラウディを炙って別離を促す!


「おっと、そうはさせないよ!」



【悪癖顕現『悲しませ』! 降りしきる悪天!】



 俺の動きに当然反応するクラウディは、ディザストの攻撃を回避しながら八天はってんを起動。


 今度は剣を翳さずに設定されていたままだった『悲しませ』の聖癖を発動すると、何秒と経たずに雨が降り始めた。


 その雨により燃え始めた焔神えんじんの炎は急激に勢いを衰わせ、そのまま鎮火してしまう。

 おいおい、八天はってん単体で使えるだけじゃなく聖癖自体の力もめちゃ強いぞ! 焔神えんじんの炎がこんな簡単に消されるなんて……。


「そう不安がらなくていいよ。私だって第三剣士、それなりに組織の中じゃ権限は強い方でね。事後承諾にはなるけどボスに頼めば何とかしてくれる。君のこともきっと気に入ると思うよ」

「誰が不安になってるんだよ! その強引なところ、俺は嫌いだぞ!」

「ふふっ、嫌よ嫌よも好きの内ってね!」


 またまたあらぬ話を捏造されているが、直ちに訂正。それに対する返しまで用意してあるとは、ほんとどこまでも諦めが悪い人だ。


 しかしマジで強ぇ……! 本当に格上中の格上だったとは、改めて実感したわ。


 こうして攻撃をかわし続けているのにバテる様子は見られないし、何より現在進行形で抵抗しても抜け出せないほど腕力をキープしている。


 おまけに聖癖使いもレベルが違う。これでまだ悪癖リードや暴露撃が残っていると思うと正直勝てるどころか戦況の維持も不可能に思えてくるな。


 ただ、クラウディが俺のことを好きでいてくれているおかげで時間は稼げているけど。

 このまま閃理たちが来るのを信じて待つぜ……!


「はぁっ!」

「……ふぅ~ん。君もしつこい……ねっ、と!」

「ぐあっ……!?」


 本気を出せないだけじゃなく俺に当ててしまわないよう気を使っているせいか、体力の消耗も激しいのだろう。


 隙を突いた足払いを食らい、鎧の剣士が転ばされた。ここまで疲れ切った姿、始めて見るぞ……。


「もうこれ以上戦うフリをして焔衣くんを助け出す機会を狙うのにも疲れただろう? いい加減諦めて仲間にさせてしまおうよ。そっちの方が楽だよ?」

「うるさい……! 絶対にそんなことにさせない。させるわけにはいかないんだ!」


 ディザスト……。あいつ、どうしてそこまで俺に拘るんだ?

 そんなに俺を自らの手で倒したいのか? 仮にそうだとしたら、何で本気で殺しに来ない?


 あの仮面の下は今、どんな表情をしているんだろうか。敵である俺を助けようとするなんて……。

 起き上がって再び攻めに出るディザスト。ああ、くそっ。どうしてこんなに胸が痛むんだよ!


 敵なのに……一度俺を襲った相手なのに、無様にあしらわれている姿をこれ以上見ていられない。

 心がやけに苦しい。最早黙って見てなんかいられなかった。


「もういい、俺に気を使うな! 最強の聖癖剣士なんだろ? だったらちょっと格上程度の相手なんかに負けんな、ディザストッ!」

「…………ッ!」


 俺は思わずディザストにエールを送ってしまっていた。

 敵を応援するなんてどうかしてるとは自覚しているが、どうも身体が勝手に動いたんだ。


 どうしてか────今のあいつを見てると昔の出来事を思い出す。






 小学校の頃の話。運動会のクラス対抗リレーで俺は最終走者として走者からバトンを託されるのを待っていた。


 その走者というのが龍美である。運動が苦手なあいつはビリで、他クラスと大きく引き離されて誰もが逆転は不可能だと疑わなかった。


 でも、俺は信じて待った。周囲から目を逸らされるくらいの運動音痴でも、龍美は最後まで諦めなかったのを知ってるからだ。



『──ちょっと足が遅いくらいで諦めるな! 負けんな、龍美っ!』



 そう叫んだ記憶があるような、ないような……でもそれっぽいことは確かに言ったはず。


 相当遅れた末にバトンを受け取った俺は、当時としてはかなり運動が出来る方だったから一気に形成逆転し、優勝を勝ち取ったわけである。


 あの時、あいつが走るのを諦めて止まっていたら、勝利は当然無かっただろう。


 実際はどうだったのかはさておいて、親友である俺の応援であいつは諦めなかったんだ。






 それと同じだ。俺は負けてほしくないって思っているんだ……敵であるはずのディザストに。

 これを閃理たちが見たらどう思うかな……良い目はされないだろうけど、今はそれでもいいや。


 この際だ。もう吹っ切れてやるぜ、俺は。

 ──勝てッ、勝ってくれディザスト! 多少切られたって恨みはしねぇよ! だからやれぇッ!


「ぐぅ……! うおおッ!」

「うーん、性懲りもないねぇ。そろそろ怒られないと気が済まな────っ!?」


 まだ余裕を見せるクラウディだが、次の瞬間にその飄々とした顔が固く変化する。

 災害さいがいの一撃。それは俺を狙った攻撃に見せかけた、これまでの物とは一線を画するものだ。


 回避されるよりもほんの僅かだが速く、浅い斬撃がクラウディの腕を切りつけたんだ。

 攻撃が通った! これにより予想外の一撃をもらったことで俺を拘束する力が弱まる。


「今だッ!」

「しまっ……!?」


 このチャンス、絶対に逃せない。俺はクラウディを押し倒して距離を取った。


 しかし、拘束されてた間もずっと抵抗をして、その上回避する度にも体力を削られていたから力があんまり入らない。


 このまま地面に倒れるのか──と思った、その瞬間である。


「兼人っ!」


 誰かが俺の名前を呼んだ……? そしてすかさず誰かが俺を支える。

 堅い腕、でも乱暴とはほど遠い優しい力加減。見やればそこにいたのはディザストだった。


「あんた、どうして俺を……ッ?」

「それは……ぐふっ!? ……ああ、その答えは後でね……」


 どうして助けたのかを訊ねた時、ディザストは突然苦しみ始める。

 返答をはぐらかされながら、その仮面の隙間から血が流れたのを俺は目撃した。


 もしかして……呪いってやつのせいなのか?

 最強の称号を持つような剣士ただ動いただけ吐血するとは思えない。


 推測だけど、仲間──悪癖円卓マリス・サークルへ攻撃すると発動するのか。

 それなら俺に狙いを定めていたのも、クラウディの言葉の道理もつく。


 それを承知の上で攻撃を当てただなんて……なおさら分からない。

 どうして敵である俺をかばうような行為をした?


 ハイリスクな上にローリターン、むしろ仲間に引き入れる手伝いをするほうがよっぽど利益がある。

 ディザスト、こいつは……一体何者なんだ……?


「……つぅ、ディザストくん。これはやってしまったねぇ……! 私から焔衣くんを奪うだけじゃなく、攻撃まで当てるなんて。ふふっ、呪いの枷も対して意味が無いじゃないか」


 一方でクラウディ。浅い切り傷程度の怪我を負った腕を大げさに押さえつつ、この事態に嫌みっぽく笑っている。


 やっぱりディザストの吐血は呪いによる物か。

 仲間であるにも関わらずにこんなことをするなんて、信じられないぞ……。


 闇の聖癖剣使い……。はっ、とんだクソ組織だな。なおさら入る気が無くなったわ。


「炎熱の聖癖剣士は……絶対に闇の剣士にさせない……! まだ諦めないと言うのなら、今ここで僕の命と引き替えにあなたを道連れにする!」

「ディザスト……」


 俺を後ろに置いて護るように、呪いのせいで覚束無い足取りのまま立ち向かうディザスト。

 意外だった。もうそんな言葉しか言えないが、何もかもがあり得ないことばかりをしてきやがる。


 敵のくせに俺を助けてくれた。あいつにとっては味方であるはずの剣士に剣を向けている。

 何があいつをそこまで突き動かすんだ? 呪いに抗ってまでして、俺に何の因縁が……。


「…………はぁー、分かったよ。元教え子の頼みだ、今回は諦めることにするよ。これ以上は流石にボスも怒るだろうしね」


 すると、クラウディは一際大きなため息を吐き出して、ようやく諦めるという言葉を口にした。

 ようやく終わる……。透子さんはいなくなるし、拉致はされかけるしで散々な戦いだった。


 どれもこれもディザストのおかげだ。これほどまで敵に感謝することもないな。


 がくっと膝を突いて安堵しているのか、大きなため息も吐くディザスト。

 この様子じゃ相当キツかったんだな……。


「──でも、遮霧さえぎり奪還の目的は達成させてもらうよ! ここからは君とディザストくんは敵同士。彼のことを見ていておくれよ」

「はっ! し、しまった……!」


 だが突如としてクラウディはもう一つの目的を達成させにこの場を離れた。

 気付けば現在地が保管庫前から離れている。一体いつの間に、ってそういえば……!


 だ。あれをしながら俺を防衛に間に合わない位置にまで移動させていたんだ……!

 これも考えの内か? まずい、間に合え……ッ!


「くっ……駄目だ。君も今は諦めてくれ。そんな疲労しきった身体じゃクラウディさんに勝つことは出来ない!」

「ディザスト! さっきまでの態度はどこいったんだよ。俺に味方してただろ……!」


 急いで防衛に向かおうとしたら、案の定ディザストに服の裾を掴まれて止められてしまった。


 ここでまさかの裏切り……いや、元の関係に戻ってしまうとは……。

 俺が心配するようなことはしないんじゃなかったのかよ!


「僕がここに来たのは君を守るためである前に、剣の奪還任務の手伝いをするように頼まれたからなんだ。それにあの人はまだ君のことを諦めてない。今度は確実に捕まってしまう! 呪いのダメージがある今、そうなったらもう次は助けられない!」


 確かにこいつの言うとおり、今俺が行ったとしても勝てないし、むしろ逆に拉致されるかもな。


 でもそう簡単に諦めるわけにはいかないんだよ!

 俺は光の剣士、ここの防衛役を閃理たちに信じて任されたんだ。


 分かっていても、やらなきゃいけないことがある。さっきのと同じようにな!


「どけ……! 呪いでまともに動けないのなら好都合……! 行かないといけないんだよ俺は!」

「頼む、お願いだ。行かないでくれ……! 君が闇の剣士になったら、きっと僕と同じ呪いで拘束されることになる! これは君のためでもあるんだ。だからぁ……!」


 お互いに疲労困憊な状態で抵抗し合ってる泥沼のちっさい戦い。

 まるで子供がする意地の張り合いだ。半分冷静じゃない今の俺でも状況の醜さはよく分かる。


 奴が口にする話は所詮可能性。その程度で止まっちゃいられねぇ!

 仲間の信頼を裏切れない、何としてでも俺は行くんだ!


 でも流石に鎧を着込んでるだけあって、重さのせいか全然前に進めない。ちょっとズルくね!?

 そう思ってる間にも遠くに見える保管庫へクラウディは近付いている。


 くそぉ……ここまでか? 結局閃理たちは剣機兵と戦ってるみたいだし、透子さんはまだ地面の中。

 唯一残った俺はディザストに進行を食い止められている。



 頼む、誰か────誰かこの危機を何とかしてくれえええッ!



 そう願った瞬間、またも奇跡は起こってしまう。



 どこからか車の走行音。徐々に大きくなるそれは、薄霧の向こうからやって来る。

 猛スピードで駆け抜けてくるのは一台のキャンピングカー! どうしてこんなものがここに……?


「くぉっ……!? なんだ、暴走車か!?」


 あの車はまっすぐ保管庫に向かおうとしたクラウディに容赦のない追突をかまそうとしてくる。あっさりかわされたけど。


 車はそのまま横滑り移動をしながら奥で停車。運転席から誰かが降りてくる。

 その高い背に太ましい体つき……。俺の知る限りでその体型に一致する知り合いはいない。


「おうおうおうおう、緊急事態だって聞いて飛ばして来てみりゃあ驚いた。まさか悪癖円卓マリス・サークルが二人も……それも第三と第十が来てるとはな。こいつぁ暴れ甲斐があるじゃないか……!」


 そこそこ距離が離れているのにも関わらず聞こえるその大声は、とても豪快な印象を持たせる。

 荒っぽい男口調だがその声はハスキーな高音。


 霧の輪郭から感じるそのオーラ、まさに剛の者。

 ゆっくりと、そして歩く度に地面を揺らしそうなイメージを感じさせる……でかい女の人!


「うっ、まさかあなたが来るとは……。正直会いたくない人物の一人だよ」

「はっはっは、ツレないこと言うなよクラウディ。あたし的にはあんたほどの強い剣士と出会えるのが楽しみでしょうがないんだ! だからこの勝負、逃げてくれるなよ?」


 まさか噂に聞いていたなのか?

 第三班のリーダーにして先代日本一の聖癖剣士、その人の名前は……。


「そいじゃあ行くぞ? “質量の聖癖剣士”、心盛増魅むねもり ますみ……いざ尋常に勝負!」

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