第五十一癖『戦闘、透過の聖癖剣士』
翌日、滞りなく試合の続きが再開されることとなり、俺たちは指定された場所へと向かう。
そこは運動場。うーん、移動拠点にあるのよりも広いな。流石は支部って感じ。
「ようやく来たわね。待ちくたびれちゃったわ」
「すまん。メルがまたゴネてしまってな」
「朝食、野菜ばっかりだったのが悪イ。日本支部、出るご飯野菜ばっかりなのは嫌」
まぁそういうことがあって現在時刻は昼十一時くらい。メルの我が儘のせいで予定より一時間も遅刻してしまったわけだ。
「メルぅ~、野菜はきちんと食べなさいって舞々子さんにも言われてるでしょ~? 好き嫌いをするのはどの口だ~?」
「メル、野菜と相性悪イ~……。透子、痛イ。止めテ~……」
昼間っぱらからイチャイチャ……もといメルの頬をつねる透子さん。
一方のメルも口答えはしつつも抵抗しないあたり、改めてその信用度の高さが伺える。
ところでだけど人が昨日より少ないんじゃないか? 響はともかく、輝井や真視もここにはいない。俺たち一班と透子さんだけだ。
故に舞々子さんばりの保護者ムーブをしてる透子さんに昨日の三人がいない理由を尋ねてみることにした。
「あの、響はいいとして他の二人はどこに行ったんですか?」
「輝井くんも四ツ目さんも妹の付き添いに行ったわ。一応モデルやってるわけだし、ボディーガード兼任ってとこね」
だそうだ。まぁ有名人が独りでに遊びに行ってるってのは危ないよな。その実デカい剣を振り回せるような剣士なんだけど。
じゃあ帰ってくるのは大体昼過ぎくらいになるだろう。どうせ昼食は適当にどっかで食ってくるだろうし、試合はその後か。
「それじゃあ早速やろうかしら? 私は勿論、いつでも準備出来てるから」
「マジっすか。じゃあ少し待っててください」
前置きはさておき、昨日とは打って変わって室内での試合に突入するわけだ。
それで俺たちが遅刻してきたこともあって透子さんの準備はもうすでに万端らしい。
昨日閃理が言ってたからな。純粋な実力は上位クラスだって。ならこっちも本気で行くまでのことよ。
「ふうぅぅぅ……! やっ、はっ! でぇい!」
「ははーん、それが常々噂に聞いてた焔の剣舞ってやつね。元老院の人たちも唸るわけだ」
どうやら剣舞のことは知っているみたいだな。
強い相手と戦うときは必ず剣舞を踊ってから立ち会うことと決めている。その方が相手にとっても不足はないだろうからな。
ああ、勿論昨日の輝井や響の時はいきなり試合を申し込まれたからやるのを忘れてただけ。別に勝てると高を括ってたわけじゃないからな。
「せいっ、やあっ! これで……フィニッシュ! よし、今日も良い感じだ。すいません、準備出来たんでやりましょう!」
舞を踊りきるといつも通りみなぎる力を実感しつつ、運動場の中央へと移動。
俺と透子さんの二人は数メートルほど距離を空けて向かい合った。
「ではこれより第三試合“炎熱の聖癖剣士”焔衣兼人と“透過の聖癖剣士”瑞着透子の試合を始める。準備はいいな?」
「ええ、勿論」
「俺も大丈夫! 試合、よろしくお願いします!」
審判を務める閃理からお互いに戦う用意が完了しているかを問われる。
その答えは当然OKだ。俺も透子さんも準備万端、いつでも始められる。
「では────試合始め!」
そして試合開始の合図が飛んだ。こっからは昨日と同じく目の前の相手を倒すことだけに集中する。
上位にも匹敵すると言わしめるその実力、見せてもらおうじゃんか!
「ほら、こっちに来て攻めてみなさい。大丈夫、響みたいに変なバリアは貼ってないから」
「ならお言葉に甘えて!」
ほう、そう言うか。勿論警戒はするけど言葉通りに攻めに出てみることにしよう。
俺は小走りで距離を詰め、近付きすぎない間に剣に炎を纏わせて──それを放った!
近距離からの炎飛ばし。王道かつ予測もされやすい牽制攻撃だが、これにどう出るのか。
対する透子さんは炎に対して怯むことなく、腰に提げる鞘に手をかけた。そして──
ドォォォン、と音を立てて命中。炎による熱が空気を歪ませる陽炎を発生させている。
無論、この程度で倒せるわけはない。炎が当たる直前に剣を抜いたのを見たからな。
「良い攻撃ね。流石は一瞬とはいえ舞々子さんを本気にさせただけのことはあるわ」
炎の奥から聞こえる透子さんの声。流石に牽制程度じゃ傷一つ付かないだろう。
すると燃え盛っていた炎は突如として強風のような見えない何かに煽られて鎮火した。
そして透子さんが姿を再び現すが、昨日同様またもそれに驚かされることになる。
「でも私だって舞々子さんだけじゃなく心盛さんや閃理さんを本気にさせてきてるわ。それも何度もね」
【
「なっ……、もしかして……!?」
かき消した炎の奥からゆっくりとした歩調でやってくる透子さん……なのだが、その姿はいつの間にか大きく変化していた。
具体的に言うと服が──カジュアルな春物の装いから藍色のぴっちりとした水着に替わっていたのだ!
同じ水着でも響はビキニだったが透子さんはというと『スク水』の模様。いやぁ、マジですかいな……!?
「スク水って……姉妹揃ってコスチュームの聖癖で水着って何の偶然ですかね」
「全くね。強いて言えば私も一応モデル経験があったからかな? もっとも響みたいに派手なのじゃなくて、学校指定水着のカタログみたいなのだけど」
へぇ、まさか聖癖だけじゃなく元モデルという点まで一致してるとはおったまげた。
それに日本支部の上位剣士たちを相手に何度も本気で戦わせてきたってスゲェな。
にしてもスク水ねぇ……。何というかこの聖癖が判明したせいで権能に少しだけ心当たりを見つけてしまった。
予想が正しければ、この試合勝てる要素が全くないんだけど。
「さぁ、今度はこっちの番! よーく見てないと大怪我するから、気をつけてね!」
すると透子さん、ダッシュで距離を詰めに来たかと思ったら一瞬にして床へと潜り込んでしまった。
やっぱり──この人の権能は『透過』、つまりメルが持つ『スク水聖癖章』の制作者か!
なるほどー、これは見事な複線回収だな。
メルが愛用してる聖癖章は元々親友である透子さんの物。道理で妹の響の聖癖章も持ってるわけだ。
「どこだ……!?」
透過能力を使い潜行した透子さん。当然だが姿なんて見えるはずもなく、気配すら床の下だ。目視での捕捉は困難を極める。
でも俺の剣には熱探知能力が付いている以上、姿を消そうが地面に潜ろうが熱さえ感じ取れる距離にいれば何ら問題はない。
集中力を高めて熱の位置を探る。初めは開示攻撃を使わないと出来なかった熱探知も今や普通に発動するくらいには練度も高まってるな。
ふむ……どうやら床下よりも深い場所まで潜って今は地面の位置にいる模様。
地中にいる影響か熱探知でも時折反応が途切れ途切れになってて知覚しづらいことこの上ないな。
このままじゃ攻撃は出来ない。そもそもこの運動場自体聖癖の力に護られてるから、床を壊して地面まで攻撃、って芸当も出来ないのが残念だ。
取りあえず意識は床下に向けつつ、いつどこからでも襲いかかられてもいいよう警戒を強めておく。さぁいつでもかかってこい!
「ふふ、もう少し視野を広く持たないと足元すくわれるわよ!」
しばらく待っていたらどこからか透子さんの声が届いた。
あれ、地面まで潜ってるはずのにどこから聞こえるんだ? 声もすり抜ける感じ?
それにしても一体どこから──って思いながら熱感知を発動させると、驚きの事実が明らかになる。
「え、反応が……消えた!?」
そう、さきほどまで感じ取っていた床下の気配は、今やどこを見ても反応を感じないのだ。
熱という概念に干渉している以上微かな熱や残滓は勿論、熱が奪われた時に発生する冷たさにも反応する。
なのに消えてなくなってしまったか、あるいはそこに元から何も無かったかのように痕跡さえ跡形も無くなっていた。
この事象に一瞬焦る俺。そしてさっきの透子さんが言った言葉にハッと気付かされる。
すぐに熱感知を他の場所に向けた時、この仕掛けのタネに気付いた。
「熱の残滓が壁に……? ってことはまさか」
運動場の壁、そこには何故か先ほどまで感じ取っていた熱の跡が残っていたのだ。
もう間もなく消えるそれをたどっていくと、上へ上へと続いていき、ついには天井にまで到達。
そして──危機を察した瞬間にそれは容赦なく襲ってくる!
「あら、一手早かったと思ったんだけど、中々対応力もあるのね!」
「天井から降ってくるなんて、そんなことが出来んのかよ……!?」
突如として天井から出現した透子さんによる落下切り。それに咄嗟のガードは出来たものの、何メートルもある高さからの落下に加え、剣士と
どうやら透子さんは壁を泳いで地面から俺の死角となる真上に移動していたらしい。
ただ物体をすり抜けれるだけじゃなく、壁や天井も泳いで移動も出来るとは何たる権能か!
もし剣舞をしていなければ間違いなく力負けして切られていただろう。これが実践だったらなおぞっとする。
「くっ、なんて重さだ……! 流石は上位剣士クラスなだけは──」
「あら、女性に“重い”だなんて言葉を使っちゃいけないって学ばなかったかしら!?」
と、俺の一言に強く反応する透子さん。ちょ、何か怖いんですけど……。
そして徐々に剣の重さもさらに増していく。
やべぇ、墓穴掘ったかな……だなんて思っていたその矢先、信じられないことが起きる。
──ズバァッ、と俺の身体を
な、に……? どうして、刃が俺の身体を……!?
「え……き、切られ……た……!?」
正直それに気付いた瞬間、俺は何が起きたのか一瞬分からなくなった。
確かに攻撃のガードには成功した。かなりスレスレだったが剣と剣がぶつかる衝撃だってこの腕で感じたんだぞ?
でも俺の服には剣で切られた跡と思われる異様に伸びたしわと身体に走る鈍い痛みがある。
それなのにどうして……
「な、何で……?」
「
防御無視攻撃……!? おいおい、そんなのゲームでしか見たことも聞いたことも無いぞ!
そして今更かもしれないが、俺は間近にある透子さんの剣を改めてこの目で拝む。
どこか波を彷彿とさせる湾曲した刀身はクリアパーツのように透明で、ガラスの彫刻品のような造形をしている。
響の
だが、そんな剣が途端に恐ろしくなってきた。
普通のガードは貫通するってことは、防御技が現状一つもない俺は何やってもダメージを受けてしまうってことだ。
これが透子さんの聖癖剣【
「ぐっ……ぬぅ、まだだっ。俺はまだ戦えるっての……!」
一瞬ぐらっと倒れそうにはなったが、俺は踏ん張ってそれを耐える。
ただでさえ昨日の二戦は俺の負けなんだ。例え勝てない相手であっても、せめて一太刀入れてやらなきゃ気が済まねぇって!
正直今の一撃で大分体力を消費したが、俺はまだまだやれる。
開示攻撃でもないただの一撃なんかで倒れたらディザストになんて一生勝てないからな!
「いい心構えね。そういうのは結構好きよ。じゃあここからルールを変えましょう」
「ルール……?」
俺の根性の踏ん張りを見てか、透子さんは何やらルールの変更を提案してくる。
ちらっと閃理の方向を向いてアイコンタクトをすると、当人から了承の意味合いなのか頭を縦に振る仕草を見せた。
「その根気に免じて今からこの試合が終わるまでに全部の攻撃を避けることが出来たら、この『スク水聖癖章』を特別にプレゼントするわ。頑張ってみなさいな」
「うぉ、マジでですか!?」
すると透子さん、自前の『スク水聖癖章』をチラつかせて俺に挑戦を突きつけてきた。
その内容に俺は身体の痛みなんかどこか遠くへ吹っ飛んでしまう。
試合終了まで攻撃を全回避するのは難易度ハードだが、それに見合った報酬じゃないだろうか!?
あの聖癖章の利便性は非常に優れているのは普段のメルを見て分かっている。
鍵かけて隠した菓子やおかずを何度つまみ食いされてることか……いや、それは関係ないか。
入手出来たところでメルの素行は直らないとは思うけど、それでも戦いを有利に運ぶことが出来る。絶対に手に入れなければ!
「剣士に二言はないわ。その代わり、もう少しだけ本気で行かせてもらうからね!」
【聖癖開示・『スク水』! すり抜ける聖癖!】
透子さんへの挑戦は
再び床下へ潜り込むと、今度はイルカさながら水面を跳び跳ねるような攻撃を仕掛けてきた。
よぉし、回避を意識に寄せろ。相手の動きを見て避けるのはもう何度も訓練でやったはず!
アーチを描くように飛び跳ねるだけなら、慣れれば大したことはない!
「ぎりぎりまで引き寄せてから──避ける!」
そして俺は向かってくる透子さんから右斜め前方に向かって前転回避を成功させる。
ただ虚空を切っただけに終わった透子さん。再び床へ沈んでから、そこがまるで水面であるかのように肩から上だけを浮上させる。
「今のは良い回避ね! それじゃあ小手調べはもうお終いにしましょうか!」
【聖癖リード・『マーメイド』『フェアリー』『シャボン』! 聖癖三種・解釈一致! 聖癖調和撃!】
「んぎっ!? 調和撃!?」
「さぁ、この攻撃を全部かわしてみなさい! もしこれを全回避できたら次に一回当たってもノーカンにしてあげる!」
いやでもそれはやりすぎじゃねぇのかな!?
小手調べが終わってからの二手目が高相性三連コンボだなんて……! ギアを一つ上げるどころかフルスロットルじゃないか!?
「行くわよ──人魚の妖しき泡沫!」
そして三つの聖癖が合わさった調和撃が俺に向けて放たれた!
その技はとても幻想的で、うっすら青緑色をした泡の中に妖精を彷彿とさせる光が閉じこめられているというもの。
それが数百個はくだらない数がこの運動場に解き放たれたのだ。
当たったらアウト……でもその聖癖は選択ミスだな! 確かに数は多いがその動きは鈍い。
これなら簡単に避けられる……だなんて、こんな甘い考えがまかり通る相手じゃないか。
「ほら、もっと速く動かないとアウトになっちゃうわよ!」
「何っ!?」
するといきなり背後から透子さんの声が! まずい、死角を取られたかッ……!
でも俺だって負けたくねぇ! 身体の痛みなどこの際無視して無理のある方向転換を駆使して背後に迫る剣をかわす。
そして次に透子さんに起きてる変化に驚いてしまうわけだが。
「えっ、何それ下半身が変わってるゥ!?」
「どう? これすごいでしょ。さぁ人魚になった私に追いつかれないよう、そして妖精の泡にも触れないよう逃げ回ってみなさい!」
振り向きざまに見えた今の透子さん。あのスク水姿に下半身が人魚然とした形になっており、まさにマーメイドと化していたのだ。
ふむ、ということは何だ。この運動場全体に拡散されている妖精の泡を避けながら透子さんから逃げるってことか。
これ……逃げきれる? いくら泡の移動速度はゆっくりとはいえ、後ろばかりに意識を集中していればいつかは泡に当たってしまう。
逆に前ばかりでは後ろを疎かにした時点でアウト。難易度めちゃくちゃ上がってるんだが?
「うおおお! でもやってやらぁ!」
でも俺はめげない、しょげない、負けは絶対認めない! この無限泡沫の追いかけっこに勝利してみせるってのよ!
燃えさかる炎の前では調和撃によって作られた泡も簡単に蒸発した。
よし、これならいける! 前に進みながら泡を消し、進路を切り開く!
「隙ありよ!」
「うぉっと、危ねぇ! くそぉ、人魚の透子さんめちゃくちゃ速いじゃんかよ!」
しかし泡を破壊して進んでいく作戦だが、確かに有効であるものの剣を振る際に背後が一瞬疎かになってしまうな。
そこの隙を突かれて透子さんが攻めに出てくる。意識こそしてるから気配には気付けるが、如何せんこのままではジリ貧間違いなし。
おまけに余裕を見せるくらいに泳ぐスピードは速い。きっと手加減してるんだろうなぁ。
「こうなったらやるしかないか!? ただの交流試合では使うべきではないだろうけど……背に腹は代えられないよな!」
ここで俺は奥の手を使うことを決意。響の時では一瞬使用を渋ったが使わなかった最終手段である。
上位クラスの透子さん相手なら使っても不足はないし、最悪泡だけでも潰せれば儲け物だ。
じゃあやるぜ! 上手くいってくれよな!
【聖癖リード・『ツンデレ』『ツンデレ』『ツンデレ』! 聖癖重複! 潜在聖癖解放撃!】
「なっ──あなた本気!? 交流試合に解放撃だなんて……!」
「交流試合に調和撃使ってる人には言われたくないですって!」
これは俺なりの反論である。そもそもとして潜在聖癖解放撃が禁止されてるわけじゃないし、レギュ違ではないからセーフだ。
というわけで使うぜ超奥義! キャンドル戦以来だしあまり慣れていないけど、このまま世界をぶった切るつもりで放つ!
「
燃え盛る──否、燃えたぎる炎の剣による大振りの一撃。
これを放とうとした瞬間、透子さんは床下に潜り込んだのが見えた。
そして全力の一撃で剣を振ると、運動場に拡散される泡は一瞬にしてほぼ全て蒸発。余波で僅かに残った物も全滅してしまう。
おお、あれだけあった泡の群は跡形もなく消え去ってしまった。おまけに室内の温度がかなり上昇するという事象まで引き起こす。
ふっ、これが伝説の剣である
「あつつ……。まったく、なんて力なのよ
「褒め言葉として受け取っておきますよ。さぁ逃げろー!」
攻撃を回避した透子さんは頭を覗かせつつ、一瞬にして空間の支配権を奪われたことにムッとしている様子。
当然俺だって多少卑怯な手を使ったという自覚はある。本当は泡をかき分けて逃げるのが透子さんの思惑だったろうし。
これも勝つための致し方のない手段なんだ。許して、透子さん。
「でも、泡を全部片付けたからって調子に乗らないことね! 試合は、そして挑戦はまだ終わってないんだから!」
すると透子さん。逃げ回ってる俺の側へとあっという間に追いつく好泳を見せつけてくれる。オリンピック選手もびっくりな速さだな!
そして照明の光を反射して輝く半透明の刃を見せつけながら、再び聖癖リードへ。
【聖癖リード・『褐色』『ギザ歯』『スク水』! 聖癖三種! 聖癖融合撃!】
なっ、そのコンボはまさか──! 嫌な予感。これは何かヤバいって!
心の中の警鐘がけたたましく鳴る中、多分本気の一片を出したであろう透子さんの攻撃が始まってしまう。
床へとダイブし、すぐに勢いよく飛び上がった透子さんは稲妻のパーティクルが迸る巨大なサメのオーラを纏っていた!
流石はメルの親友──あいつに自分の聖癖章を渡してるんだから、メルの聖癖章を持ってても何らおかしくはないよな!
「
本家の真似……いや、完全コピーの必殺奥義が俺を襲う!
むしろ透過の能力が本家によるものである以上、その力はある種メルを越えている!
猛烈な勢いで迫り来る透子さん。そのスピードは今までの比ではない。よけれるか、これ……!?
「うおおお!? あぶねぇ!」
「まだ攻撃は終わってないわ! よそ見は厳禁!」
正面から迫る初撃は何とかかわしたものの、本物の魚類かあるいは水泳選手ばりの綺麗なターンで再び迫って来た。
おまけに雷のせいで通ったところに電気が走ってやがる。回避する退路まで奪うとはなんて厄介な技だ!
隙を見て壁に掛けられている時計を見れば、残り時間はあと一分くらい。
接戦だ。この長~い一分間を逃げ切ってやる……!
「流石
え、何その発言。まるで俺との試合が遊びであることを突きつけるみたいな言い方は。
またも深く床下へ沈み込んだ透子さん。だが、次の一瞬で勝負が決着してしまう。
刹那に熱感知を使ったら真下に迫っていたことを察知。
そして回避する間もなく飛び上がられてその大口に捕らわれてしまったからだ。
この時点で聖癖章チャレンジは終了。でもそんなことを一瞬忘れてしまうくらいの衝撃が俺の全身を駆け巡った。
「あばばばばばば!?」
アホ丸出しの悲鳴を上げながら電撃を食らい、本家同様そのまま床に投げ飛ばされた俺は、当然の如く戦闘不能に陥る。
試合終了。閃理の判断を聞くまでもなくそれは分かっていた。
シュー……、とうっすら白煙を上げて倒れる俺。意識はあるが、痺れがヤバい。動けない。
「勝者、“透過の聖癖剣士”瑞着透子!」
「ふぅー……、久しぶりに良い試合が出来たわ。大丈夫? 立てる?」
「む、無理っす……」
改めて審判による勝者決定の判断を聞き入れ、第三試合は透子さんの勝利で幕を閉じる。
ぶっちゃけ悔しいです! 結果こそ案の定だけど、あともう少しで逃げ切れそうだっただけに尚更悔しい!
流石は上位剣士クラスなだけはあった。権能もさることながら、人の技を完全再現する技術まであるとは思いもしなかったぜ。
この学びは今後に生かせる。俺も他の剣士の技を再現する訓練を始めてみようかな。
取りあえずこれで試合は終了だ。時間も良い頃合いだし、これから昼食である
まぁ、みんなが食堂に向かう中、身体が痺れて上手く動けない俺は二日連続で医務室にお世話になりに行くんだけどな。
しかし、午後に行われるであろう響との試合、大丈夫かな……?
小さくそんな心配をしながら、俺は閃理に連れて行かれるのであった。
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