第五十癖『まだ見ぬ剣士たち、忍び寄る闇』
「痛ってぇ~……。大丈夫? 俺の胸に穴開いてない?」
「日頃の鍛錬がなければ穿っていただろうな。多少赤くはなっているが問題ない。明日になれば治る」
例のハプニングが起きてから数時間。念のためにと言うことで軽く怪我の治療を行っている。
当然だが剣の補助と非殺傷加工無しだったら致命傷になる一撃だっただけに、強化された肉体でも小さくも跡が残ったらしい。すぐ治るみたいけど。
これは響と
まぁ何であれ試合は実質俺の負けのようなもの。悔しいが認めざるを得ないな。
「それとだが試合の続きはやはり明日に行うことにした。響は水着を新調するそうだから、先に透子と試合をすることになるだろう」
「水着ねぇ……。何となく思ってたけど、さっきみたいなことが起こる可能性があるってのによく着て戦えるもんだよ」
思い出す数時間前の戦い。あんな薄布で激しく動けば必然的にそうなるであろうポロリという
そんなリスクがあるのにどうして水着なんかわざわざ着用するんだろうな?
同じコスチュームタイプの聖癖剣士であるラピットとの戦いではポロリこそ無かったが、胸揺れはわりと激しかったのをつい思い出してしまう。
うーむ、羞恥心とかは無いんだろうか。ラピットはむしろ誇りに思ってる節があったっぽいけど。
「仕方がないさ。ああいった服装を司る剣は聖癖と合致する衣服を纏わなければ真価を発揮できないようになっている。まぁ不便な面もあるが、その分強力な権能を宿した物も多いがな」
俺の疑問に閃理はそう説明をしてくれる。
とはいえ俺も何となくそうだとは思ってたよ。というかそれしか考えられない。
力の代償に服装を固定されるとはなんたる面倒臭さだ。聖癖剣、恐るべし。
「とりあえずこれを跡に塗っておけ。よく効くぞ」
「何これ……軟膏? そんな前時代的な」
剣の話もそこそこに閃理から渡される小さな容器。それを開けてみると如何にもな緑色をした半固形がギッシリと詰め込まれていた。
軟膏。今の時代じゃもはや旧世代の遺物にも等しい外用薬。まさかそんなのがまだ使われてるとは。
ま、効くのなら使うけど。薬指のひと掬い分を胸に塗りつけておく。
「す、すみません。入っても良いですか……?」
「ん? 誰だ?」
「四ツ目か。いいぞ、入るといい」
すると扉の奥に誰かがやってきた。そのか細い声からして四ツ目真視のようだ。
多分お見舞いか、あるいは様子見に来たってとこか。閃理が勝手に入室許可を出すけど、断る理由もないから気にしないでおく。
「失礼しま~……きゃっ、なんで裸なんですかぁ!?」
「ん? おっと、これは失敬」
真視は部屋に入った途端、めちゃくちゃ慌てふためいて俺たちから視線を隠すように顔を手で覆い隠してしまった。
どうやら軟膏を塗るために上着を脱いでいた俺が原因らしい。男のトップレスくらいで大げさだな。
取りあえずシャツを一枚着てこの場は何とか収めておく。それはそうと一体何用か。
「どうした。何かあったか?」
「い、いえ。べちゅに……じゃなくて別に大した理由があってここに来たわけじゃないんです。ただちょっと心配になって……」
どうやら俺の容態を心配してくれてるらしい。
出会って僅か数時間、それもほとんど話もしてないのに気にかけてくれるなんて良い奴じゃないか。
当然だがそこまで不安にさせるような怪我じゃないし、すぐに治るらしいから然したる問題ではない。変に心配をかけさせてしまったな。
「俺は大丈夫。さっき閃理からもらった軟膏を塗ったし、明日の試合の続きも問題なく出来るって」
「あ、
ん?
そりゃここは支部。様々な人がいるわけだし、知らない名前を沢山耳にしても変な話ではないが。
でもちょっと気になるな。作ったってんだから医務室の先生の名前かな?
こういう時に閃理の剣は便利だ。俺は
「気になるか? それを作った人物の名は
「え、支部所属って四人だけじゃないの?」
「たった四人なわけないだろう。剣士は他にもう四名ほどいる。今はいないようだがな」
案の定俺の感情を拾って閃理に伝えてくれたらしい
どうやら支部所属の剣士はあの四人だけでなく、さらにもう四名いるらしいとのこと。
はぇ~。まぁ何となく支部所属にしては少数だなぁとは薄々感じてたけど、まさか本当にいるとは。
「頼才さんは“錬金術の聖癖剣士”と呼ばれていて、その軟膏の他にも色んな物を作ることが出来るんです。今は素材集めのために支部を出てますけど」
「錬金術!? ってあの錬金術だよな? もしかして石を黄金に換えれたりするわけ?」
「技術的には可能だろう。もっとも本人はそのようなことをする気は無いがな」
うおお、マジで!? その話を聞いて内心興奮気味を隠せない。
いや勿論金を作ってもらって文字通り成金になるのを目論んでるわけじゃないぞ?
俺の中での錬金術は今言った通り無から物体を錬成したり、等価交換で様々な物を作り換えたり、賢者の石みたいなのを使って何かスゴいことするようなイメージがあった。
そんな架空の存在でしかないはずの錬金術まで聖癖の力として存在してることに驚いたのだ。なんかもう聖癖剣ってスゲーわ。
くっ、でも今は出払ってるのが何とも惜しい。その錬金術の権能を是非一度拝みたかったところだ。
「何を作るつもりなのかは分からんが、わざわざ自ら出たということは相応の物を作るつもりなんだろう。こうなれば一週間は帰らん。俺たちが滞在している間に会うのはまず無理だな」
「そっかぁ……ちょっと残念」
閃理にそう言わせるんだから俺たちがここにいる間は難しいようだ。非常に残念である。
うーん、それじゃあ他の三人はどうだろうか? 一応会って挨拶くらいするべきだとは思うけど。
「
「日向さんは今実家に帰省中らしいです。
「なんかみんな自由だな!? 物集めに行ったり実家帰ってたりプライベート充実させたりで」
他の剣士たちの行方を聞いて思わずツッコんでしまった。なんというかそんなに自由でいいものなのか?
勿論そういうのを否定してるわけではないにせよ、仮にも世界を守護する剣士。ここまでフリーダムなのもどうかと思うのだが……。
「まぁ確かに感心しないのは事実だが、だからといって支部ですることはあまりないからな。暇を持て余すのも仕方のないことだ」
「え、支部って仕事ないの? 嘘でしょ?」
「一応剣の訓練とかはありますけど、行動部隊のように仕事が沢山あるとは言い難いですね。精々闇の剣士が近場に来た時の迎撃や、行動班の補欠に入るとか、そういった内容がほとんどです」
これは……また意外な事実を知ってしまった。
支部って所は案外暇な場所らしい。なるほど、道理で自由人が多いわけだ。
じゃあ支部所属の剣士たちは普段何をしてるんだ?
訓練以外にすることってあるのだろうか。いや、無いから遊びに行ってるんだろうけど。
「……あ、すみません。お見舞いに来て早々で申し訳ないんですが、もうすぐ午後の授業が始まるのでここで失礼します」
「もうそんな時間か。遅れるなよ」
すると真視は壁の時計を見やると、何やら授業があることを理由にここから立ち去ってしまった。
引き留める理由もないからそのまま見送るけど……あれ、そういえば真視だけじゃなく響と多分輝井も学生身分だよな? なんで剣士やれてんの?
俺の時はそういうの無かったんだが。四ヶ月ものブランク……もとい卒業まで待たされたんだけど?
素朴な疑問だが、妙に気になるので閃理に訊ねてみることにする。
「閃理。学生身分だと剣士になれないんじゃなかったのか? 何で真視や響は現役なのに剣士に?」
「それはお前が卒業を間近に控えていたタイミングで剣士に選ばれたからだ。転校してたった数ヶ月で卒業なんて嫌だろう? だから卒業まで待った。それだけのことだ」
ああ、そういうことね。言われてみれば確かにその通りで、俺だって何の思い入れのない学校に越して即卒業とか嫌だわ。
そうなってしまうことを考慮して四ヶ月も待ってたってことか。なるほど、きちんと俺のことを考えての選択だったんだな。
「それに響はともかく四ツ目と輝井は通信教育で勉強している。なんなら幻狼もそうだしな」
「へぇ、そうだったんだ。まぁ流石に剣士の訓練を積みながら学校通うのを両立させるのは難しいだろうし、そういう勉強のやり方になるのは当然か」
確かに輝井の名前はいじめの対象になりやすい奇抜な名前だし、真視と幻狼はそもそも対人が苦手な部類の人間であるのは明白。
俺や響みたいにコミュ力がある方じゃないだろうから、剣士としての勉強も踏まえれば通信教育という手段を使う他ないだろう。
にしても響は学生と剣士を両立させるどころか芸能の仕事も加えた三つの生活をこなしてるとかスゲェな。モデル業だけでも大変だろうに、流石だぜ。
まぁなんであれ明日は響との再試合&透子さんとの試合だ。今の内に英気を養っておこう。
「ああ、それとだが透子はかなり強いぞ。純粋な実力なら上位クラスだからな」
「うへぇ、マジでぇ……?」
むむ……ありがたい情報だけどあんまり嬉しくないな。流石はメルの親友なだけはあるか。
それにしてもどうして俺の周りの人々は俺を怖がらせるようなことを口にするんだろうか。
俺何か前世で悪いことでもしたのかな……。ちょっと解せないんだが。
†
「んー……え~っと、ここがここで……これかな」
五月某日。クラウディ様の大好きな季節になるまで残るは二週間ちょっととなったこの頃。
私ラピットは先月請け負った任務に失敗してしまったことの罰として謹慎を命じられたために、何もやることがない暇な毎日を過ごしています。
特段することも無い今、やることと言えば適当に買ったパズルを解いたりですかね。
いい暇つぶしにはなるものの、如何せん暇を持て余していることに変わりはないのですが。
「……よし、と。これで完成。もうすぐ謹慎も終わりとはいえ流石に三十枚もジグソーパズルを作るのはやりすぎたかな」
こうしてる間にも進めていたパズルは完成です。
クラウディ様が見たらきっといい顔はしないでしょうけど、雲一つ無い青い空と大草原の風景画が描かれた2000ピース。うん、やりがいがありました。
そんな感じで三十枚分を一ヶ月間の間に作り上げた私はまさにパズル名人!
これならいけるんじゃないでしょうか、10000ピース以上の領域へ……!
もはや新しい趣味となりつつある謹慎中の暇つぶし。勿論こういう時こそ剣の訓練をするべきだと思いますけど、謹慎中は自主練禁止なんですよね。
何でも罰だからという理由でその間に強くなるのも自粛しろ、とのこと。
文句ではないんですが、別に良いんじゃないかなぁとは思うんですけどね。私個人としては。
「ふぅ……、それよりもクラウディ様は大丈夫かなぁ。いくら敵の支部拠点とはいえ、やっぱり送り届けるべきでしたでしょうか……」
ふとそのことを思い出した私は完成したパズルを机の上に静かに置きます。
つい先日──ウィスプ様からの代行任務として
ご本人は快く了承したとはいえ、部下としては心配なことばかり。
何が一番不安かというと、クラウディ様の方向音痴ぶりです。あればかりはお金を積まれても信用出来ませんって。
あの方は地図は勿論のことカーナビやアプリを駆使してもたどり着けないことはしばしばですし、最悪反対方向に行くこともありますもん!
この前だって有料道路に入った挙げ句遠回りをして、拠点に戻ってこれたのはなんと夜中の11時! 本人には申し訳ないんですが正直に言って最悪です!
クラウディ様の土地勘はあまりにも信用出来ません。それで方向音痴じゃないって自称してるんですからヤバいのなんの。
「いくら車でも半日はかかる距離とはいえ、もう一日以上経ってるわけですし、普通なら到着していてもおかしくはないんですが……」
あまり不安に思うのも本人に失礼なのですが、世紀の方向音痴であるクラウディ様が無事に敵支部へ到着している可能性は限りなく低いかと。
なのにどうして一人で行くだなんて言ったんでしょうか。せめて別の部下を引き連れていけば私としても安心するのに……。
「今更になって心配になってきたなぁ。他の誰かに付き添いを頼むべきかな……」
う──ん、もしそうするとしたら一体誰に頼むべきでしょうか。
“機械の聖癖剣士”……はきっと今も研究に没頭して気付かないだろうし、“
というか現在地がどこなのか分からないのに今更案内を送ったところで意味がないじゃないですか!
ならばここは思い切って電話をしてみるべきでしょうか?
直接居場所を聞くのが一番手っ取り早いものの、たまに圏外の場所にいることもあるので絶対電話に出るとも限らないのが怖いところ。
ううー……一体どうすればいいんでしょう。
現在行方不明(推測)のクラウディ様を無事に敵支部へ送り届ける方法はあるのでしょうか。
もっとこう……高速で移動できて、なおかつ戦いになったらすぐに手助けが出来るような都合のいい移動手段兼助っ人的な何かが────
「うむぅ、無いことも無いですけど……でも勝手にやっちゃっていいのかなぁ。とはいえ背に腹は代えられませんし、一応頼んでみるべきでしょうね」
実は思い当たるのが一つだけあったりします。
しかし、この手段を使うということは、それ即ちクラウディ様との約束を違えてしまうも同然。
なのでなるべく頼みたくはないというのが本心ですが、今回は致し方ありません。
これも全て任務を達成させるためのお手伝い! 聞き分けの悪い部下をお許しください!
「よし、思い立ったが吉日。ダメ元ですが協力を得られるよう相談をしなくては。ついでに居場所も推測しておかないと」
そうと決まれば早速行動へ。まずあのお方に頼む前に愛用の地図アプリを使ってクラウディ様が迷って行き着きそうな場所の候補も考えておきます。
もし断られたらその時はその時。私が迎えに行って送り届けるまでのこと!
候補地を紙に記して準備が出来たらいざ行かん! その頼るべき人物はこの建物の中にいるはず。
私にとっても目上の人物である以上、粗相は出来ません。その人物とは『
しばらく歩いてたどり着いたこの場所は、
私のような雑兵や一般職員が利用することは許されないスイートルーム。私の憧れの一つですね。
いえ、個人的な理想は横に置いておきまして、まずはご挨拶です。
ディザスト様がご利用されている部屋の前に立ち、ノックを数回。うう、緊張の瞬間。
「突然のご訪問をお許しください! 私はラピットという者です。今回お尋ねしたのには理由がございまして、もしよろしければお話をお聞きいただけないかと思い、やってまいりました!」
懇切丁寧な挨拶。これは会心の一言でしょう!
ディザスト様は
敵の剣士にも因縁があるともお聞きしているので、今回の件を正直にお話しすれば快くご協力をしていただけるはず!
……のですがいつまで経っても返答は来ず。
まさか何かしら粗相をしたわけではないはず。ただ単に不在なのかも。
もしかして無視、とかじゃないですよね……? 虚空に話しかけてただなんて、そんな恥ずかしいことになっていなければ──
「何か用ですか」
「ぎょわ──ッ! な、ディザスト様!? いつの間に後ろへ!?」
おろおろとしてたら突然背後から声が!
本当にいきなり現れたことに驚いてしまい、つい大声を上げてしまいました。心臓が口から飛び出たかと思いましたよ。
しかしいつも通り鎧を全身に着込んでいるのに物音一つ出さずに忍ぶだなんて、流石第十剣士です。
でも良かった、きちんと拠点内にいらしていたのは幸運に他なりません。早速用件をお伝えしなくては。
「はい! クラウディ様が拠点を離れたことはお聞きですよね。不躾な話ではありますが、ディザスト様に今回の件にご協力を仰ぎたく思い、やって参りました!」
「……そうですか、また単独行動を。それで、クラウディさんはどこに?」
お、これは好感触では? このまま状況を全て説明すればいけるはず。
「クラウディ様は現在、ウィスプ様からの代理依頼遂行のため
先ほど割り出したクラウディ様が行き着きそうな場所を記した紙を渡しつつ、深々とお辞儀。
本当はこのようなことを頼み込む立場ではないのですが、事態が事態なので致し方ありません。
ああ、でももし機嫌を損ねて怒らせてしまったらどうしましょう。土下座をして謝れば許してくれるでしょうか……?
長い黙考が怖い……。うぅ、緊張で吐きそうです。早く、早くお考えをぉ……!
「支部には第一班もいるということですよね?」
「え、あ、はい。
「そうですか、分かりました。では今すぐにあの人の下へ行きます」
と、少し妙な問いに答えたら、ディザスト様はそのまま用紙を受け取って先ほど来たであろう道へと戻り始めました。
了承してくれた……ってことですよね? というかそう言いましたよね? よ、良かったぁ~……!
もし断られたら覚悟を決めるつもりでしたが、これでなんとか違反をせずにクラウディ様を助けられます。
「ディザスト様、ありがとうございます!」
私はそのまま去っていくディザスト様に向かってもう一度深々としたお辞儀をします。
いくら補佐に付いている方の手助けとはいえ、時間を割いていただいた上でこのようなことを了承して貰ったんですから、例え聞かれずとも見られなくともやらなければ気が済みません!
完全に姿が見えなくなったのを確認してから、私は念のためにクラウディ様へ電話をします。
いくら迷い着いた場所を予想した紙があるとはいえ、本人が常に移動していたら無意味ですからね。
ダイヤル短縮からのクラウディ様へ通話です!
どこで録音してきたのか雨の降りしきる音が着信音として設定されているのを聞きながら待つこと数秒──
『おや、ラピット? いきなり電話を寄越してくるなんて、一体どうしたんだい』
「あ、クラウディ様! 良かった、今回はきちんと繋がりました!」
『繋がったって……そんな私がいつも着信無視をしてるか圏外にいるみたいな言い方じゃないか』
珍しくスムーズに通話が繋がりほっと一安心。
突っ込まれたのは置いておくとして、私は謝罪も込めて今回の件をご報告します。
「申し訳ありませんクラウディ様。どうしてもきちんと行き着いてるか心配でディザスト様にクラウディ様の送迎を頼んでしまいました」
『ええー!? ディザストくんにこのこと言っちゃったのかい!? いくら私を心配してのこととはいえ、それはないよラピット~』
「本当に申し訳ありません……。このラピット、どんな処罰でもお受けしますので、どうかお許しを……」
そりゃあそうですよね。そもそもウィスプ様の依頼を引き受けたのにはもう一つの理由があって、それが炎熱の聖癖剣士を連れてきてディザスト様を驚かす、というものなのですから。
それを根本から駄目にしてしまったんです。こう言われるのも当然のこと。
私のお節介で起こしてしまった物事なのですから、勿論相応の罰は受けるつもりです。
『う~ん……まぁいいや。つまりディザストくんが支部に着くまでの間に事を済ませないといけなくなったわけだ。それなら問題ないね』
「……というと?」
『ふっふっふっ、ラピット。
「なっ────!?」
なんですとぉ!? クラウディ様、もう支部の周辺にいらしてるんですか!?
これは驚きです。なんでって、そりゃそうとしか言いようがありませんから!
「も、もしかして他に誰か同行者をお連れになられているとか……?」
『今日は妙に失礼だね。ちゃんと一人さ。確かに普通よりも時間はかかったけど自力でたどり着いたよ』
まさか……そんなことが起こるなんて、明日は槍でも降るのではないでしょうか!?
これは奇跡かは凶兆か──とにかく信じられないことが起きてしまっています!
『まぁそういうわけだからさ、心配はしなくてもいいよ。今日は適当なホテルに泊まって、明日に奪還作戦に移るからさ』
「分かりました。どうかお気をつけて。突然のお電話失礼致しました……!」
この会話を最後に通話は終了。よもやクラウディ様がお一人でなおかつ自力で目的地に到着しただなんて……。失礼は承知ですが未だに信じられません。
以前の剣の回収任務でさえ私や他の剣士たちと一緒に切符を買ってあげたり道を教えたりしたくらいなのに……。
本当に──成長なされているんですね。私、少しばかり感服いたしました!
だとすれば後はもう心配するようなことはありませんね!
きっと炎熱の剣士や他の強力な敵剣士たちと戦うことにはなるでしょうけども、今度ばかりは本気で行くのことは目に見えています。
これに加えディザスト様も加勢に加われば剣の奪還だけでなく炎熱の聖癖剣士の拉致だって夢ではありません。これは勝ちましたね!
「ってディザスト様? あ……ま、まずいです!」
と、ここで私はあることに気付いてしまいます。
慌てて拠点を出て行き、外の扉を大雑把に開くと──
「あ、ああー……! 遅かった……」
空の向こうに見える大きな影。はい、それはディザスト様が召喚した龍と本人ですね。
クラウディ様が奇跡的に目的地へたどり着いたということは、複数もある迷い着いた予想地点通りに行くであろうディザスト様に余計な手間をかけさせてしまったということに他なりません。
ああ、ごめんなさいディザスト様。私が確認を怠ったばかりに遠回りをさせてしまいました……。
声は勿論剣を使ってもすぐには追いつけない距離。そもそも剣は本部に預けてますけども。
私としたことが
これ、クビが飛んだりしませんよね……? 大丈夫ですよね……?
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