第四十九癖『戦闘、音の聖癖剣士』
数十分間の休息を経てから第二試合が始まる。
ちなみに相手はすでに広場で五分くらい前からスタンバっていた。随分と気が早いな。
「これより第二試合、“炎熱の聖癖剣士”焔衣兼人と“音の聖癖剣士”瑞着響の試合を始める。両者位置につけ」
「ふっふ~ん! ようやく出番ね。待ちくたびれたっての。改めましてお相手よろしくね、ケンティー!」
「こっちこそよろしく。……ああ、それとさ、さっきから思ってたけど何でケンティー呼び?」
「あ、このニックネーム嫌だった? “けん”って名前に付く人は大抵『ケンティー』か『ケンケン』のどっちかで呼ばれるんだけど、やっぱり『ケンケン』の方が良かったかな?」
いやそういう
何故にニックネームを付けたのかって話なんだけど……って、まぁそれは何でもいいか。
今は試合開始前だ。自分から振った話とはいえ、相手に惑わされちゃいけねぇ。
さぁ、相手は輝井に比べちゃある程度権能の内容は察することは出来る。
『音』だもんな。まず間違いなく音は出しまくるだろうよ。対策自体は簡単なはず。
後は
空間をねじ曲げて宇宙と繋げたり、目からビームを出したりする
響も俺が予想だにもしない技を使う可能性も十分以上にあるから、そこは気を付けてかないとな。
「それでは…………始め!」
よし、戦いのゴングが鳴った。いや本当は閃理の声だけなんだけどさ。
それはそうと相手はどう出るのだろうか?
さっきと同じく攻めて行く戦法を取るのもいいが、接近したら耳元で大音量とかになるのは勘弁したい。まだ様子見で済ませておくぞ。
「さて、突然だけどここで問題! あたしの聖癖は何でしょーか?」
「え、いきなり何? 何の聖癖か……だって?」
すると響は唐突に謎のクイズを出題してくる。
内容は響本人の聖癖を当てろとのことだが……いや何も分からんぞ。
「聖癖剣士にとって地味に大事なのは仲間の性癖が何なのかを知ることじゃん? あたしはケンティーの性癖を知ってるけど、逆にケンティーはあたしの性癖が何なのか知らないでしょ? 普通に教えるのもアレだし当ててみてよ。ちなみにヒントはもう出してるからガンバね」
「なるほど。いいぜ、受けて立ってやる」
ふむ、確かに権能の詳細の次くらいには興味はあったから、せっかくだしちょっと考えてみるか。
閃理も性癖を広げることは強さに直結することだって言ってたし、知ることは大事だよな。
これまでの会話にヒントがあるらしいが、やはり第一印象である『ギャル』が安牌か?
陽の気の強さからして可能性は最も高い。おまけに現役女子高生だから、カテゴリとしては十分圏内だ。
第二候補……『妹』かな。性癖としては上に次いで鉄板だし、俺も口にはしないがツンデレ妹という文化はそれなりに分かると思ってるつもりだ。
どちらが正解か悩むが考えるばかりに時間も割けられない。うーむ……ここはそうだな。
着崩した制服に染めた髪の毛。ピアスや化粧からして第一候補『ギャル』にするぜ!
「あんたの性癖は……『ギャル』だ! 好きじゃなきゃそんな格好はしないだろうし、そもそも現役女子高生ってところもそれっぽい」
「ふぅ~ん。ファイナルアンサー?」
「ああ、ファイナルアンサーだ」
そんな昔のクイズ番組みたいな最終確認をしなくてもいいだろうに。それに乗る俺も俺だけど。
俺たちの間に流れる緊張? を纏った空気。さぁ、響はこれにどういう回答を出してくる……?
「……ぷぷぷ、アーッハッハッハ! ケンティー、もしかしてギャル好きなのぉ? そんな願望をあたしに期待するなんて結構欲深いじゃん?」
「なっ……!? 自分の性癖当ててみろって言ったのそっちだろ! 勝手に人の趣味を変えるなよ!」
解答したらあろうことかそれをネタに煽られた。
おいおい、それは反則だろう? わざわざ試合の時間を割いてまでクイズに付き合ってやったのに、まるで俺を翻弄するかのような言い草をするとは……!
不本意ながらも確かにギャル自体はツンデレとも相性が良いし性癖としても嫌いではないが、ここで変な誤解を招かれても困る。
普通にからかわれて恥ずかしいわ。輝井と違って少し人に対して向ける配慮が足りないな。この恨み、試合に勝って晴らすべきか。
「ごめんごめん。それじゃあ答え合わせね。あたしの聖癖は『ギャル』か否か。その答えは────」
からかったことを軽く謝った響はそのままクイズの回答へ移ると、右手をそっと自身の左肩へと延ばして制服を掴む仕草をする。
ん? 何だ今のは。今の行為に何の意味があるのかも分からないけど、ちょっと気になるな。
それはそれとして、長い溜めを経てから響の聖癖が明らかになる……のだが、またしても予想だにしないことが起きる。
「……残念、はずれ! あたしの聖癖はコレだぁ!」
掴んでいた右肩の服を思いっきり引っ張った響。
その瞬間服の構造からは想像もつかない脱げ方をすると、脱がれた服によって身体が隠れてしまう。
ほんの一瞬の出来事。脱ぎ捨てた制服に身を隠し、本当の聖癖と共にその姿を現した!
脇と肩に掛かる細い紐。ほぼ鼠径部丸出しの際どいショートパンツ。モデル業に相応しい大きな胸……を支え隠す小さな布地。
そう、もうお分かりだろう。この服装は──
「み、水着!?」
「ほぼ当たりだけど惜しい~。正解は『ビキニ』でした~。これが本当の聖癖。そしてこっちが──あたしの聖癖剣!」
響の聖癖とはまさかのコスチューム系。しかもそれはビキニと来たもんだ。
さらに腰に提げる専用の鞘から愛剣を取り出す!
本人の軽さとは裏腹にズッ……っと重く抜かれる聖癖剣。ベルの付いた柄頭を覗かせると、そこから長く波打った刀身が現れ始めた。
時間をかけて抜刀しきった翠色の刃はまるでエメラルドのようで美しいが、その大きさは剣士本人を優に越えてるぞ!? なんてデカさだ……!
【
「これがあたしの剣、
まずい、俺はデカブツの剣と戦った経験は皆無だぞ!?
メルの剣もわりと大型だが流石にここまではない。これほどまでのは初めてだぞ!
「デカ過ぎだろ……! 何センチあるんだ、それ」
「なんと驚異の186cm! そこの閃理と同じくらいあるんだから!」
「俺の方がもう少し高いがな」
だそうだ。比較対象にするのがアレな気もするけど、とにかく閃理の背丈にも匹敵するくらいの大きさらしい。
それをこれから振り回してくるんだろ? えぇ……なんか怖いんだけど……。
「いっくよー! 上手く避けないとズタボロになるから気ィつけてね!」
「ちょいちょいちょい! 何で輝井も響もそんな怖いこと言ってくるんだよ!」
そして大剣を構え、バッターさながら振り回すと、剣から斬撃波が飛んできた。
勿論かわせない攻撃じゃない。俺はジャンプをして難なく回避する。
ふむ、だが流石にあの大きさじゃ攻撃後の隙が大きいな。これなら多少強く攻め込んでも良いかも。
とはいえあの大きさじゃ鍔迫り合いになったら俺が完全に不利になるのは明白。ならこっちも……!
「俺の攻撃、受けてみやがれってのよ!」
相手が斬撃波を飛ばしたなら、攻め入る前に俺も小手調べ。同じように俺も炎を飛ばした。
真っ直ぐ向かっていく炎の塊。勢い、威力、速度全て及第点ってとこか? 俺も上手くなったもんだ。
さぁ、響よ。その重い剣でどう衝撃波を返す?
「ふぅ~ん、結構良い攻撃じゃん? でも甘いなぁ」
「何っ!?」
【聖癖開示・『ビキニ』! 響く聖癖!】
すると響は聖癖開示を発動……するのだが、あろうことかそれ以上の行動を起こすことは無かった。剣すら真面目に構えてないのである。
なのに俺の攻撃は本人の目の前で一瞬にして霧散してしまう。これは一体どういうことだ!?
開示攻撃で相殺しにかかると思ってたら、まさかノーハンドで消しただなんて……。
勿論俺の射程が短かったのが原因じゃない。一体どういう仕掛けだ?
「あたし、そういう攻撃はあんまり効かないんだよね。倒したいなら近付いて攻めて来なよ。そうすれば今やったやつのタネも分かるしさ」
「なるほど──どうやらその通りみたいだな。それじゃあ今度こそ遠慮なく行かせて貰うぜ!」
挑発か? 強気な姿勢でいられるのは剣士として大事な要素だが、それを伝説の剣の前で言うとはあいつかなり自信家だな?
なら、お言葉に甘えさせて貰う! 色々と警戒すべきところではあるが、スポーツマンシップに──もといソードマンシップ則って俺も強気に行くぞ!
十メートル近くも離れていた距離を一気に詰め、そして最小限の振りかぶりで剣を構えた──その瞬間、予想だにもしない変異が起きてしまう。
「うぐっ……!? な、頭が……!?」
本当に突然だった。猛烈な頭痛が襲ってきたのだ。
うおお、これ……きついぞ。剣の補助がなきゃぶっ倒れてるかも分からねぇくらいに酷い痛みだ。
これには攻めの体勢を強制的に崩され、その場に膝を突いてしまう。
すぐに離れないとマジで危険だ。そう本能的に撤退の判断を下し、俺は急いで退避をする。
バタバタと四つ這い気味に手足を動かしてその場から離脱。少し離れると頭痛はだいぶ楽になる。
「はぁ、はぁ……何だよ今のは……?」
「そりゃ勿論『音』に決まってるじゃん。高校卒業してるんでしょ? なら科学の授業で習わなかった? 振動数ってやつ」
振動数? って、確か……えっと、何だったけ?
音や周波数とかに関連することなのは分かるけど、具体的にどういう物なのかは覚えてない。う、だって科学や物理は苦手分野だし……。
「じゃあネタばらしね。今あたしの半径三メートル内の空間には人には聞こえない周波数の音が大音量で流れてるの。
ちんぷんかんぷんな説明だけど、次に起きた現象によって俺はぞくりと背筋を凍らせるような体験をしていたことを悟る。
響はどこに忍ばせてたのかクッキーを一枚取り出すと、それをすぐ目の前に放り投げた。
するとどうだろう。クッキーはぶるぶると震え始め、そのままパァーンと弾けてしまった。
「ヒェッ……!」
「それ、良い反応♪ さぁ~て、どうやって攻略すればいいでしょ~か?」
これには俺もドン引きするレベルでビビらざるを得ない。音で物体壊せるなんて初耳なんだけど。
いやもうマジでヤバいとしか言えないわ。俺、さっきまでガチで危険な状況に陥ってたみてぇだ。
もしあのまま我慢して特攻かましてたら今のクッキーみたく爆散して死んでたのでは?
そう考えたら怖くなってきた。ちょっと審判? 降参していいすか?
「降参したいと思ってるな? だがそれを認めるわけにはいかない。ああいった防御をする相手にどう立ち向かって行くか自分で考えて戦うんだ。それで駄目だった場合に降参を認めてやろう」
「そりゃそうか……」
まさか降参が認められないとは。当然の結果ではあるけどこいつぁ困ったな。
ぶっちゃけ今の俺が響に勝てるビジョンが思い付かない。俺の炎を音でかき消してくる相手にどう挑めと言うのだろう?
とりあえず攻略法を考えるだけ考えてみる。まず正面から攻める正攻法は無謀そのものだ。
上から響を攻撃する手もあるけど、半径ってことは響を中心に上下左右も音の壁で守護られていると見ていい。
まさに難攻不落。これ突破不可能じゃね?
しかし、こういう場合は大抵ゴリ押しで攻めればなんとかなると相場は決まっているもの。
最悪剣にブーストをかけて強行突破も視野にいれておくが、でもこれはあくまでも交流試合だ。
これのためだけに聖癖章の寿命を削るのも考え物だし、もし加減を間違えてしまって怪我をさせるわけにもいかないからなぁ。
さて、ここまでうだうだ考えてはいるものの、やはりゴリ押しが一番だと思う。問題はどうやって音の壁を突破するかになる。
「響、その音の壁に弱点ってのはあるのか?」
「あるよー。でもそれを教えるわけにはいかないからさー、そこは自分で考えてよねー」
ダメ元で聞いてみたらノリの良い返事が。どうやら攻略自体は可能らしい。
ふーむ、考えろ。科学の授業を思い出せ。
音ってのは確か振動が空気中を伝わってくる現象で、それが鼓膜に届くと音として認識するわけだ。
そしてその振動は相殺することが出来るらしい。
昔何かのドラマでそれぞれの別の角度から同じ音量の音を流して、音の交差点にある場所の音を消す、というトリックがあった気がするな。
つまりそれがエセ科学でなければ俺も音を出すことで響の音を相殺すれば攻略が可能になるってわけ。
だがここで一つ大きな問題が発生している。
それは音に関する権能を宿した聖癖章を俺は何一つとして持ってないということだ。
流石の
ってなると別の誰かから音の聖癖章を借りないといけないわけだ。
う~ん……誰かが持ってたような気がするんだよなぁ。わりと始め辺りにそんな記憶が──……!?
「あ、思い出した。メル! 確か音の聖癖章持ってなかったか? ほら、初めて会った日に閃理から逃げる時、俺の声打ち消してたやつ!」
それは思いの外すぐに思い出す。そう、俺が閃理たちと初めて出会った日のことだ。
俺が走って助けを呼んだら、何故か声が響かなかった不思議体験。いやぁ、懐かしいなぁ。
閃理が言ってた台詞からして所持者はメルに違いない。なりふり構ってられないからすぐ行動に移る。
「うん、あるヨー」
「頼む、貸してくれ! 今度買い物行ったら好きなお菓子を五個まで買ってやるから!」
「
やっぱりメルが持ってたみたいだ。今回ばかりは仕方ないから、お菓子を買わせてやる権利を交換条件に借り受けるぜ!
ぽいっと投げ渡される聖癖章。こいつが音の能力を持つそれだな。早速使う……その前に。
「閃理! 外野から聖癖章借りるのってルール的にアリ? ナシ?」
「正式に定められている規定では違反だが今回に限り許す。響の防御を正攻法で突破出来るのはそれだけだからな」
へぇ~、この交流試合に正式なルールとかあるんだ。知らなかった。
試合中に外野から聖癖章を借りるのは本来駄目らしいが、今回は大目に見てもらえてラッキー。
じゃあ許可も下りたことだし改めてこの力を使わせてもらうぜ。
【聖癖リード・『ビキニ』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】
リードをすると音声は
丁度良い。
音の権能を宿した
一直線に飛んでいったそれは、音の壁にぶつかるやいなや見えない何かにぶつかって何とも形容し難い怪音を鳴らした。
「これなら……!」
今の音が相殺に成功した証だと睨んだ俺は再び接近戦に移る。
同じ手は二度も踏まねぇ。今度こそはと思い、切りかかろうと範囲内に侵入する────のだが。
「いだだだだだ!? えぇ何? 全然相殺されてないじゃん!」
「あっはっは、バッカでー。ミスってやんのー」
音の聖癖の力を込めた一撃を叩き込んだはずなのに、何故か音の壁は何事も無いようにそこに存在していた。俺、結局同じ轍を踏む。
頭痛から逃れるためにまた情けなく後退。響にも笑われるしツイてねぇ……。
しかしどういうことだ? まさか音の聖癖章でも突破出来ないとかか?
でも閃理の発言からしてこれを使うのは正解の選択肢なはず……もしかして別の何かと組み合わせる必要があるとか?
ううむ……、やっぱり分からん。誰かヒント! ヒントをくれ!
「焔衣くん、“逆位相”よ! 響が放つ音とは正反対の音を出すイメージを浮かべながらぶつけなさい!」
「あっ! お姉ちゃん、ヒント出すのはズルいよ!」
すると外野の一人が本当に俺へヒントをくれた。
発言者はどうやら透子さんらしい。流石は姉妹、弱点や攻略法は熟知してるな。
当の妹本人からは批判が飛んでるけど気にしない素振りでだんまりを決め込む透子さん。
でも助かったぜ、俺は当人のいる方向に向けて感謝の意を込めて手を振ると、早速攻略に移る。
逆位相……言葉の意味はよく分からんが、逆の音を出すイメージってことはそういうことなんだろう。
俺はもう一度聖癖章をリード。ああ、今度はただ単に音の塊をぶつけるだけじゃなく、きちんと反対の音のイメージを込めるさ!
一閃!
今だ──この瞬間が最後にして最大のチャンス! 俺は三度目の正直に出た!
まだちょっと痛む頭のことは無視だ無視。とにかく相手の懐に潜り込んで行くことに集中しろ。俺!
「むっ! させるかぁ!」
するとここでようやく響が動きを見せた。
動いたってことは、つまり音の壁の無力化に成功したってことか。よし、このまま突っ込むぞ!
音の壁があった場所を越えて、
しかし流石に閃理くらいデカい剣なだけあって両腕での押し込みじゃびくともしないぜ。
「ズルぅ~……! 自分で考えて攻略しないなんて恥ずかしくないワケ?」
「そうは言うけどいきなり初見殺しの技を使ってきたのは人のこと言えないぜ、先輩。ここは一つお互い様ってことで」
相手のことをズルいって思ってるのは何も響だけじゃねぇ。俺も響に対し同じことを思ってるからな。
ごく限られた方法でしか突破出来ない音の壁を展開して接近戦を封じるなんて、そんなの初見で分かるわけが無いだろ?
だから俺は外部からの支援を二度も貰った。そう言った意味ではどっこいどっこいだ。
「ふ~ん、まぁいいケド。剣が大きいからって動きが鈍いだなんて思わないでよね!」
その言葉に偽り無し。簡単に俺の剣を弾き返した響は
速い……! さっきの遠距離攻撃ではもう少し遅かったのに、接近戦だとこんなにも違うのか。
「よっ……と! そうだな、元々ナメてかかっちゃいないけれどな!」
咄嗟に上体を反らすことで剣を腹の上スレスレでかわし、後ろに倒れすぎないよう
だが──いくらさっきより動きが速いとはいえ、それでもメルや閃理と比べれば圧倒的に遅い!
相手の振り向きざまの一瞬に隙を見出す!
響の左側面へ移動からの、わき腹近くに浅いながらも一撃を入れることに成功する。
「くぬっ……!? やるじゃんね!」
「お褒めに預かり光栄だぜ!」
正直モデル業やってるわけだし、いくら剣に保護加工を施してるとはいえ当てて良いのだろうかとも思ったが、この反応を見る限りもう少し加減を強めてもいいかもしれないな。
うん、ようやく剣士っぽい感じの戦いになってきたな! こういうので良いんだよ、こういうので。
さぁ、時間もそろそろ近付いてきた頃合いだ。決着をつけるとしようか!
そんな心躍る戦いの最中、俺がもう一度響の方向へと向き直した瞬間──それは起きてしまう。
何がだって? おいおい、相手はビキニ姿なんだぞ? そんなに決まってるだろ。
はらり……と水着の脇の紐が切れ、その布地の下に広がる世界を────
「……まずい!」
【聖癖リード・『目隠れ』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】
「えっ!? ななな、何事!?」
……拝むこと自体は叶わなかった。
突如として俺の視界は真っ暗になり、何も見えなくなってしまったのだ。そしてさらに……。
「ギャ────ッ!! ちょ、見るなバカッ!」
「え…………ぐへぇっ!?」
何も分からない状況の中で、いきなり謎の衝撃が俺の胸を貫く。
いや貫通はしてないけど、もし剣の加工がなかったら間違いなく串刺しにされてるであろう突きの一撃。
勿論防御なんてものは一切していない。突き刺すような痛みと共に俺の体は真っ直ぐ後方へと押し出されてしまう。
受け身も取れないままに地面へ叩きつけられるまでの間に、俺は今起こったことを刹那に理解していた。
一瞬だけ見えた水着の紐が切れた光景。閃理の声と聖癖リードをする音。直後の視界暗転と不意打ちの一撃…………。
そういうことか……。なんてツいてないんだろうかな。どっちの意味でも。
「この前買い換えたばっかなのにぃ! タイムタイム……ってか試合中断! オージもこっち見んな!」
「じ、自分は何も見てませんよぉ~……!?」
「透子、早急にタオルを用意してくれ。この試合は一旦中止にする」
「はいはい。だから言ってるじゃない。変にオシャレをして戦いに向かないのを着てくるんだから」
まぁ、そういうことである。俺はどうやらハプニングに遭遇して、肝心のポロリだけを先んじて閃理に目隠しされたわけだ。
見てから一撃貰うのならともかく、何も拝んですらいないのに攻撃を食らうなんて損してない?
当然信頼を損なうような真似をするつもりはないけど、ここまでの痛みを受けるのなら見てから食らいたかったぜ……。
無論、この試合は中止となった。
実践なら致命打の一撃を貰った俺もしばらく動けなくなったため、第三試合は時間を置いてから改めて行われることに決まったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます