第四十八癖『戦闘、星の聖癖剣士』

 そういうわけで事前準備を終えて、場所を移動した俺たちは近くの広場に来た。


 さっきまでいた建物から出てほんの数分程度しか離れてない文字通りの近場。ぶっちゃけすぐそこだ。


 ふむ、こうして本拠点の外観を見ると……五階建てだから相応の大きさはあるものの、何というかあんまり派手さのないコンクリートの建造物である。


 剣士の剣士による世界のための組織の支部には到底見えないこじんまりさ。良くも悪くも普通って感じで何か拍子抜けだわ。


 少し遠くを見るとビルっぽい背の高い建物もあるけど、普通ああいう所を本拠点にするべきなのでは?


 あそこだって組織の敷地内のはず。一体何目的の建物なんだろうか?


「ではこれより、第一試合“炎熱の聖癖剣士”焔衣兼人と“星の聖癖剣士”輝井星皇てるい ほしのおうじとの試合を始める。両者位置につけ」


 おっと、そうこう考えてたら審判から試合の合図が。言われた通り広場の中央へと向かう。


 ま、外がどうなっていようと今は試合に集中するべきだろう。いつまでも明後日の方を向いたままなのは相手にも失礼だしな。


 そして俺と同じく戦場と化す広場の中央にはもう一人の剣士。先ほどジャンケンで一番最初に戦う権利を得た輝井星皇だ。


 相変わらず眩しいくらいに目が光ってる。どういう原理なんだそれは。剣の副作用なんだろうけどさ。


 それにあいつの権能……『星』って何だ? あの空に浮かぶ星ってことなのか?

 如何せんこれから分かることだが、油断は禁物だ。未知の力、試させてもらうぜ。


「焔衣さん、手加減は無しでお願いします! 『星』の権能の力、見ればきっと驚くと思います!」

「ああ、楽しみにしてる。勝つのは俺だけどな!」


 ふっ、輝井もそうだが俺も結構言うじゃん。聖癖剣の能力は多種多様だ。驚かない自信はないが、負ける自信も無いぜ!


「では…………始め!」



「行きますよ! これが自分の聖癖剣──綺羅きらです!」



炯眼剣綺羅けいがんけんきら!】



 試合開始の合図と共に輝井は鞘から剣を抜く。

 全体的に薄黄色をした片刃の剣で、何故か全長の半分ほどもあろうスコープ状の謎パーツが峰に取り付けられている。


 何だろう……まるで剣と望遠鏡を足して2で割った感じの見た目だ。ちょっと銃っぽくも感じるぞ。


 異形が多い聖癖剣らしいといえばそうだが、ここまで大きなパーツが付いてるのは初めて見る。警戒はしておくに越したことはないな。


 とにかく試合に戻ろう。俺も焔神えんじんを出して構えると、輝井は笑顔を浮かべながら剣を操作した。


スコープ部分ここ、気になりませんか? 実は僕の剣は変形するんですよ。ここから驚き桃の木山椒の木!」

「むっ……!」


 宣言通り輝井は綺羅きらのスコープ部分をリロードするかのように前へとズラすと、グリップ部分がくの字に折れてあっという間に銃形態へのモードチェンジを完了した!


 おおマジか。あのスコープ部分のせいで何となく銃っぽいイメージもあったけど、あながち間違いではなかったな。まるでスナイパーライフルだ。


 銃ってことは遠距離攻撃が出来るってことだろう? 剣士としてはこの上なく相性悪いな。


 さて、銃とどう戦うべきか──そう対策法を頭の中で練ってる最中、異変というか何というか、輝井はあることに気付いた様子を見せる。


「…………あれ? あんまり驚いてない、ですか……?」

「あ、えっと……。前に戦った闇の剣士も剣を銃に変形させてたから、そういう変形する剣があることは知ってたけど」

「しょ、しょんにゃぁ……!? 剣から銃になるのを見たら絶対驚いてくれると思ってたのにぃ……」


 ああー……こいつぁやっちまったわ。

 今言った通り前回の敵も二形態持ちだったから、実はそこまで驚いてないんだよ。


 確かに普通は驚くだろう。俺だってキャンドルの時も顔にこそ出さなかったが心の中では驚いてたくらいだし。


 しかしタイミングが悪かった。こればっかりは仕方なかったってやつだよな。

 なんか悪いことした気分。そんな地面に這いつくばるほどショックを受けなくても……。


「アーッハッハッハ! オージウケる~! さっそく失敗してやんの!」

Don't mindドンマイ、輝井」


「うう、笑わないでくださいよぉ……」


 外野の響、仲間の失態に容赦なく爆笑。ついでにメルも笑ってる。


 おいおい、一番手になれなかったからって人の失敗は笑うもんじゃないぞ。メルも後輩を笑うなっての。


 うーん、俺もせめて知らないふりくらいはしておくべきだったかな。ちょっと申し訳ないことをしてしまったかも。


 思わぬところで恥を晒してしまった輝井。だがしょげながらも改めて戦闘の姿勢を取り直す。


「情けないところを見せてしまいましたが、ここからは大丈夫です。自分の戦い方を見て、即座に対応出来るとは思いませんから!」


 そう高らかに宣言すると、綺羅きらを俺に──ではなく空へ向けて銃口を向けた!

 何をするつもりだ? あれか? ロフテッド軌道だかなんだかで攻撃するつもりか?



【聖癖開示・『キラキラ目』! 輝く聖癖!】



「行きますよ! 六等星の光・アストロゲート!」


 聖癖開示を発動すると上空に向けて弾丸を複数発砲。放たれた石のような弾丸は空中へと留まっていき、徐々に円環を形作っていく。


 空に浮かぶ石のサークル。まるでネックレスの宝石みたくキラキラと輝く石で構成されたそれは、次第に回転数を早めていくと更なる変化を起こす。


「何だ、アレ……!?」


 なんと円環の内側が黒く染まり、そこだけが切り取られたかのように漆黒の空間となってしまったのだ。


 それだけじゃない。よく見るとあの奥に夜空を見上げると見える星のような煌めきが確認出来る。


 あの穴は……いや、ひょっとしてそうなのでは?


「もしかしてアレって、宇宙空間か!?」

「ご名答です! 綺羅きらは『星』の聖癖剣。大地と宇宙そらを繋げることも造作もありません!」


 やっぱりか! これは銃に変形するなんかよりも全然驚かされたぜ!

 常々疑問に思ってた『星』の権能とやら。それはどうやらほぼ直喩だったらしい。


 こうして目の前に宇宙の一部を召喚されたんだ。ここから何をされるかも何となく分かる。

 本当に大丈夫か? 手加減無しとはいえ色んな意味で問題ありじゃない?


「さらに、綺羅きらはこんなことも出来ちゃいますよ!」


 さらに剣を振るうと、アストロゲートにも更なる変化が発生。

 黒い空間の奥からキラッと何かが輝く。そして数秒もしない間にそれは


「おあッ! あ、危ねぇ!?」


 咄嗟にその場から退避すると、ゲートから人の頭ほどもあろうでかい石が俺のいた場所に向かって落ちてきたのだ!


 うおお、これってまさかの隕石!? 現物まで操れるのか! 綺羅きら、これもヤベェ剣じゃん!


「どうですか! 流石に驚きましたよね!?」

「ああ、こればっかりは本気でビックリしたぜ。まさか宇宙どころか星そのものにまで干渉するとはな。スケールが今までとは比べものにならないぞ」


 今日まで俺が戦ってきた剣士はどれも強い者たちではあったが、どうしても地球という惑星の中にある概念なり属性なりでしかなかった。


 でも輝井の剣は違う。よもや地球外の物質や概念に干渉する剣を持っているとはな。

 これちょっと最初に戦っていい相手なのか疑問に思うくらいだ。


 ……これ勝てる? 多分だけど隕石に当たったらひとたまりも無いと思うんだけども。


「どんどん行きますよー! ちゃんと避けてくださいね。そうじゃないといくら剣士とはいえ骨が砕けますから!」

「さらっと怖いこと言うな! ああもう、なんて能力だってのよ。回避するので手一杯だぞ」


 侮ってるつもりはないにしろ、これは想像以上の相手だ。綺羅きらの力は中々に厄介だ。


 この間も次々と降ってくる小隕石。幸いクレーターが出来るほどではないが、それでも地面に埋まるレベルの威力。輝井本人も認める危険性である。


 何とか避けてく間に地面は隕石によってデコボコだらけだ。これ後できちんと舗装しておかなくてもいいのだろうか?



 まぁそれはそれとしてだ。悪いが俺も伊達に閃理の下で日々修行負け越しちゃいないんだぜ?

 こういうのは大抵お決まりのパターンってものがあるもんよ。


 基本的にそこを突くことが出来ればどんな攻撃や作戦も突破が可能となる。当然それはもう看破済みだ。


 輝井の隕石攻撃アストロゲートだが、どうにも召喚する石の大きさにバラつきがある。


 デカい物ほど命中精度は高くて次射が遅く、小さいほど次が早く適当にばら撒いてる──そんな感じ。


 それを二~三回ずつ交互に発射している模様。

 つまり、俺が狙うべきは小さい隕石攻撃から大きい隕石攻撃に切り替わる瞬間だ。


「だけど、同じ手でいつまでも足止め出来ると思うなよ! そのパターンは見切ったぜ!」


 攻撃の法則性を見極めた俺は攻めに出る!

 地面に足を捕らわれないよう慎重かつ大胆に移動し、接近を試みた。


「んなっ、もう攻撃パターンを読んだんですか!?」


 これには輝井も咄嗟に綺羅きらを剣形態に戻してガードの姿勢に。

 見事作戦は成功。アストロゲートの広範囲攻撃から抜け出すと同時に接近戦へと持ち込むことが出来た。


 最接近からの鍔迫り合い。よし、ここでようやく剣士らしい構図になれたな。


「むおおお……なんて重い剣。これが焔神えんじんですか……!」

「手加減は無しって話だからな。俺も遠慮なく行かせてもらうぜ!」


 ふっふっふ、この鍔迫り合いで優勢なのは俺だ。この剣の力を前に輝井は徐々に押されていっている。


 先代の名にかけてこれ以上負け越すわけにはいかないからな。今度こそ白星をいただくぜ。


 焔神えんじんの剣身にはこれまでよりも強力な炎を宿させて輝井の前で燃え盛らせる!

 いいぞ。俺たちの炎は宇宙のパワーにも負けやしないって見せつけてやれ!


「どわーっ! あつつつつ!」

「隙ありだぜ!」


 突如として増した炎の勢いにやられた輝井。俺との距離を離そうと後退した瞬間も見逃さない。

 日々の訓練はただ単に剣技を磨いてるだけじゃない。敵との距離の詰め方だって学んでる。


 輝井が半歩退がった時、俺もほぼ同時に一歩を踏み出す。相手との距離を縮めず、むしろ退避の瞬間をチャンスとして捉える攻撃的な詰め方だ。


 それを駆使することで隙だらけになった輝井へ向けて、俺は剣を振るう。

 切り上げ攻撃で狙うは綺羅きら


 剣さえ無効化出来れば俺の勝利に揺るぎはない。この勝負、もらった!


「──あっ!?」


 ガキィン! と金属の衝突する音が聞こえると、狙い通り綺羅きらは空高く舞っていた。


 よし、これで初白星のゲット────と一瞬思ってしまったのは、もしかしたら俺がまだ甘ちゃんだという逃れられない証拠なのかもしれねぇ……。



【聖癖暴露・炯眼剣綺羅けいがんけんきら! 聖なる星々が放つ不変の煌めき!】



「でもタダではやられませんよ! 食らえ、必殺暴露撃──」

「何っ!?」


 上から聞こえたのは暴露撃の発動を承認する音声! そして目の前の剣士がその言葉を口にした。


 ど、どういうことだ? 俺は確かに輝井の剣を空に飛ばした。なのにタダではやられないだと? これはまずいんじゃ────?


 おまけに俺は剣を弾き飛ばすために切り上げをした隙だらけの体勢に加え、若干前のめり気味になっている。


 それ即ち、この一瞬じゃ逃げられないってことだ。そして今の長考は一瞬の出来事である。


「一等星の光・スターライトレーザー!」


 放たれる輝井の必殺暴露撃。あの物理的にキラッキラな両目がさらに輝きを増した。


 まさか……なんて思うのも束の間。嫌な予感が全身を襲う中でも、その攻撃は容赦なく俺に向けられる。


「んん────っ、むんっ!!」


 キラッキラからギランギランへ──。輝井の目の光量が増大したことで生まれる十字型のひかりが一回転した瞬間、その双眸から光線ビームが放たれた。


 おいおい、今の時代に目からビームって……。剣士なのに目からビームって……そんなのありィ!?


「んぶぉっ!?」


 そしてスターライトレーザーの直撃を食らってしまった俺は、そのまま何メートルも後ろへとぶっ飛ばされてしまう。


 いやもう……そりゃ当たって痛いけどさ、光線なのに物理的にぶっ飛ばされたことも気にならないわけじゃないけどさ、こう……何で目からビーム!?


 でも負けは負けだ。不意を狙ったと思ったら、逆に不意を突かれて暴露撃を食らってしまった。


 地面に背中から落ちた俺はもう動けない。光線のせいかちょっと痺れてるんだわ。


「勝者“星の聖癖剣士”輝井星皇!」


「ふ、ふぅ~……! 危なかったぁ~」

「負け、た……」


 試合終了の合図。誰がどう見てもこの試合の勝者は輝井だろう。


 完全に沈黙せざるを得ない俺はこの判定に文句は言わない。間違いなく大敗だと思う。

 勝てると思って油断した。まさか剣を弾き飛ばされる直前に暴露撃を発動していたとは。


 おまけに奥の手がビームだなんて普通誰も思わないだろ。なるほど、これが支部の剣士の実力か……。


「だ、大丈夫!? 痛くなかった?」

「大丈夫です……。くそ、完全に油断してた」


 心配して駆け寄ってくれる朝鳥さん。

 そりゃ至近距離でビーム食らったんだ。もし逆の立場であったとしても同じことを俺もする自信がある。


 それはそれとして、朝鳥さんの手を取ってゆっくりと起き上がる。ありがてぇ。

 第一試合は俺の負けか。うむぅ、幸先悪いスタートになっちまったかもな。


「焔衣さん! 自分がやったこととはいえ直撃を受けて大丈夫でしたか!?」

「ああ、大丈夫だ。にしてもスゴい技だったな、今のやつ。目からビームって。そんな攻撃も出来るなんてすげぇや」


 輝井も同じく俺の側にまで来て試合後の体調を心配してくれる。


 ふっ、自分の勝利に喜ぶでもなく、真っ先に心配をしてくれるとは大した奴だ。人格者である鱗片が感じ取れるな。


「ハイッ、ありがとうございます! 焔衣さんも攻めの姿勢がお上手だったと思います! 自分も見習わないといけませんね! 良い経験になりました!」

「俺もだ。また今度も一緒にやろうな」


 お互いに健闘を称え合いながら第一試合は無事に終了を迎える。


 にしても強かった。権能の特異性もさることながら、まさかあのキラキラと物理的に光る目にあんな秘密が隠されていたとは。


 輝井自身も自己紹介の時だけじゃ分からなかった人の良さも知れたし、悪くない試合だったと思う。


 さて、それじゃあ次だけど、やっぱりここは休憩を──


「次はあたしね! さぁほら早く早く!」

「え、ちょっと待って。ペース早くない? もう少し休んでからじゃなきゃ駄目?」

「そうだ。次の試合まで十五分ほど休みを挟む。あまりせかすなよ」

「えぇー……? もー、早くしてよぉ」


 と、ここで響が次は自分の番だとして早々に俺の前へとやって来やがった。勿論閃理に止められたけど、今のまま連戦はきついって。


 ちぇー、と口をすぼめて大人しく引き下がる響。

 そりゃそうだろ。もうほぼ一人で立ててるけどまだ疲れと痛みは若干残っている。もう少し猶予をくれってのよ。


 そう、次の試合はせっかちな瑞着響との対戦だ。

 輝井と妙に親しい感じの現役女子高生グラビアアイドルの剣とはどんな物なのか。権能の内容も気になるところ。


 だから相手にとって不足の無いようきちんと休憩を取ってから俺は試合に臨むぜ。


 今度こそ負けないように相手の動きや技とかをイメトレしておく。予想外の攻撃にも対応出来るよう考えとかなきゃな。

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