第四十七癖『集う剣士、新たな剣』

 支部の剣士たちが待つのは今いる建物の一階とのこと。だから現在地の五階からだと何分とも経たない間に到着する。


 たどり着いた部屋の前。この扉の向こうに剣士たちがいる……らしいけど、やっぱり人の気配というか物音の一つも聞こえない。


 静かに俺らのことを待っているのか、それとも単に防音機能のついた壁だからなのかは分からないが、とにかく無音でなんか怖いぜ。


「ねぇ、閃理。本当にこの部屋にいるの?」

「いるぞ。理明わからせもそう言っている。どうやら扉を開けるのは俺ではなくお前か朝鳥のどちらかが適任のようだがな」

「私たちがですか?」


 理明わからせがそう言うのなら否定はしないけど、一体どういった理由があっての判断なんだそれは。

 俺か朝鳥さんか……。ふむ、ならばここは俺が行くべきじゃなかろうか? 俺はそう思うぜ。


「じゃあ俺が開ける。流石に入って早々殴られるなんてことにはならないだろうし、大丈夫でしょ」

「何を警戒してるんだお前は……」


 いやぁ、俺に嫉妬している人の犯行とか怖いし、備えておくに越したことはないかなって。

 とにかく開けるぞ! もしものことがあったらフォローよろしく!


 大きく息を吸ってー吐いてー、よし。じゃあ、いざ行かん!

 まずはノックを数回。これ基本。そしてドアノブを捻って扉を開ける。


「失礼しま────」


「いぇ──い! 鳴らせ鳴らせぇ~!」


 開けた瞬間、パァン! という音が部屋と鼓膜に鳴り響く。一瞬驚いたけど、これが敵意の無いものであることはすぐに分かった。


 この音の正体は俺を迎えてくれた大量のパーティークラッカーによる祝砲みたい。

 そして火薬の臭いと僅かな香水の香りに紛れて感じる甘い匂いは──ケーキの類いか?


「うわぁ、何これ!? パーティ会場みたい」

Cakeケーキ! お菓子あル!」

「こ、これは……」


 改めて部屋の中を見渡す。元々はこじんまりとした部屋なんだろうけど、今は飾り付けを行っているためか賑やかな内装になっている。


 食べ物もあるし、確かに朝鳥さんの言った通りパーティーでも行われているような──そんな感じだ。


 そして、このサプライズを仕組んでくれたであろう見知らぬ四名……おそらくこの人たちが支部の剣士たちだな? ド派手にやってくれるじゃねぇか。


「ふっ、かなり派手に歓迎してくれたな。片付けは怠るなよ?」

「ダイジョーブ! みんなでやれば怖くない!」


 遅れて部屋に入る閃理。やっぱりこうなることを予測してたんだろう。だから俺か朝鳥さんのどちらかを先行させたってわけだ。


 んで、改めて支部の剣士たちとのご対面になる。俺たちを歓迎してくれたのはこの人たちの模様。

 それぞれが個性的な容姿をしている。聖癖剣士らしいとも言うのだが。


 第一班おれたちが全員中へ入ると、支部の剣士たちは目の前で全員一斉に横並びになる。

 どうやら今から自己紹介タイムに突入するみたいだ。聞き逃すまい。



「はーい、じゃあトップバッター行きまーす! あたしは瑞着響みずき ひびき。“音の聖癖剣士”っていう名前で剣士やってんの。よろしく~!」


 最初に名乗り出てくれたのは、俺が部屋に入った時に大声を出して歓迎してくれた人だな。

 服装も学生服のくせに胸元は大っぴらに開いてるし、ピアスだって付けてるけど、女子高生なのか?


 うむ……とはいえ一言で言うとギャル。陽キャのオーラがスゴすぎて気圧されるぜ。

 しかし、この人に何となく見たことがあるような無いような……?


「あ、もしかしてあなたってモデルやってなかったっけ? 何か見覚えがあるような……」

「おっ、分かる人いるじゃ~ん! そうそう、あたし現役女子高生モデルやってんの。写真集も最近出したばっかりだから、良かったら買ってね~」

「なるほど、道理でなぁ」


 ああ~、やっぱり。うっすらと見覚えがあると思ったらそういうことね。


 マンガとかの雑誌で掲載されてるグラビアのページで見かけたことがあったわ。ただ俺はそういうのあんまり興味無かったからほとんど見流してたけど。


 というか剣士とモデルって兼業出来るのか? まぁそんな無粋な疑問は口に出さないに限るから何も言わないでおくけど。


 初っぱなから芸能人とは濃い人物が出てきたな。後の三人もどんな感じなのか気になるところだ。



「ハイッ! 次は自分に行かせてください」

「うぃー、オッケー! バトンターッチ!」


 妙に甲高い声で自己紹介の二番手に名乗り出る少年。俺と同じか少し下くらいなのか、幻狼ほどではないがやや若く見える。


 ……ってか目! こいつの瞳、異様なまでにキラキラと輝いてるんだけど!? 何かもう物理的に眩しいくらいってヤバすぎじゃないか?


 うおお、その目で俺を見るな! いや、そういう意味じゃないけど、とにかく眩しい!


「お二方、初めまして。自分は“星の聖癖剣士”という名で剣士をやらせてもらってます、輝井星皇てるい ほしのおうじと言います! どうぞよろしくお願いします!」

「あぁ、よろしく──って、星皇ほしのおうじ!? どんな名前!?」


 元気に挨拶するのは感心出来る……が、その名前を聞いて驚かされたわ!

 ほし王子おうじ! おいおい、名前に助詞が入ってんぞ! それが本名で良いのかよ!


「す、すごい名前だね……?」

「あはは、驚かれるのも当然ですよね。俗に言うキラキラネームですから。この名前で苦労したこともありますが、聖癖剣士となった今では誇れる名前です! 普通に呼ぶにはちょっと長いので、苗字か『オージ』などと呼んでください!」


 あー、やっぱり名前で苦労はしたことあるんだな。

 まぁ明らかに名前の由来は星の王子様からだろうしなぁ……からかうには丁度良い奇抜さだ。


 でもその名前を今は誇りに思えてるなんて良いことじゃん。嫌な出来事を招く原因になったそれを受け入れるのはそう簡単なことじゃない。


 そーいえば龍美も少し女っぽい名前と見た目でイジメられてたこともあったっけ。俺とあいつが友達になる切っ掛けの一つだったなぁ。



「じゃあ次は、お姉ちゃんね!」

「え、?」


 ふと昔のことを思い出して懐かしさに耽っていたら、進行を務め始めた瑞着が次のメンバーを呼ぶ。

 ん? お姉ちゃん……ってことは姉妹? 残りの未紹介メンバーは二人だけど、どっちがそれなんだ?


「はいはい。じゃあ私の番ね。今紹介に預かった通り、私は響の姉の瑞着透子みずき とうこよ。剣士としての名前は“透過の聖癖剣士”。よろしくね」


 瑞着……いや、姉妹だし分かりづらくなるから下の名前で呼ぶか。

 響からの指名で名乗り出たのは、残り二名の内の明るい色合いをした髪の女性だ。


 妹の方と比べ体型はスマートだが背は高い。もしかして成人はしてるのかな? 他の三人と比べてやや大人ぽっさがある。


 それに剣の権能の『透過』って何だ? 『音』や『星』……いや『星』も大概だけど、権能の内容がよく分からないぞ?


「透子、久しぶリ。元気してタ?」

「ええ勿論。そっちこそ毎日インスタント食品だけ食べる生活してて大丈夫?」

No problem問題ない。焔衣、料理上手。もうインスタント生活してなイ」

「え、メル。この人と仲良いの?」


 なんと、俺らが返事をするよりも早くメルが透子……さんに向かって気さくに話しかけた。


 そりゃ所属先は違えど同じ日本支部の仲間だから知り合いであることは分かってたけど、それでもここまで親しげだとは思わなかったわ。


「メルの日本の親友シンユー。強さもメルくらいあル」

「まぁ、そういうことね。同じ班だと我が儘放題で大変でしょ? 私から改めて彼女のことをよろしくね」

「あ、はい。にしても親友か。メルにもそういうのいたんだなぁ……」


 へぇ~、何かまた意外な一面を見れた気がする。

 メルって普段ダウナーな雰囲気してるから、こういうのには積極的じゃないイメージだったけど、実際はそうでもないみたい。


 おまけに以前までの食生活も知ってるみたいだし、親友と呼ぶだけあって結構長い付き合いのようだ。

 それはそれとして他の人たちのもそうだけど、剣の権能も気になるところ。後で訊いてみようか。



 ふむふむ、これで四分の三人目の自己紹介は終えたな。残りは一人……なんだけど、ちらっと最後の一人の様子を見る。


「あわ……あわわわわ……!」


 うん……身体ごと視線を向こうの方へ向けてガタガタと震えてる。大丈夫かな、この人。

 多分あがり症なんだろうけど……見てて心配になってくるわ。


「そいじゃーラスト! ほら、ビシッと決めて!」

「ひゃっ、は、はいぃ……!」


 当然のように震えてることなど構わず、響は出番であることを伝えて半ば強引に引っ張り出した。


 剣士であることを疑うレベルに細い手足、今時珍しいセーラー服は響の学生服ブレザーと違う。前髪ぱっつんな黒い長髪も相まって全身黒づくめのイメージ。


 そして顔なんだけど──うつむき気味で分かりづらかったが、それを見た瞬間失礼だと分かっていてもギョッとしてしまった。


「え、えと……その、わ、私は四ツ目真視よつめ まみと言いまひゅ……。不束者ですが、よろしくお願いします……!」


 ガタガタと震えを一層強めて自己紹介を完遂する真視。その泳ぎまくっている目が……めちゃくちゃギョロッとしたホラーな目つきをしているのだ。


 確かこういうのってギョロ目ってやつだよな……いや、あるいは四白眼とも言うべきか。

 良くも悪くも印象に残る顔だ。ひきつった笑顔がより効果を促進させている。


「まみみん! 剣士の称号言い忘れてる!」

「あっ、は、はい! すみません! 私は“魔眼の聖癖剣士”です! ……まだそう名乗れるほど強くはないですけど」

「ま、『魔眼』!? って……え、何それカッコ良すぎじゃない!?」


 それはそれとして響からの指摘で自身の剣士としての称号を言い忘れてたことに気付かされている。緊張し過ぎだろ、まみみんとやら。


 でも直後に口にしたワードに驚かされるばかりだ。『魔眼』ってヤバくね!? そんな中二な心をくすぐる権能ってどんなものなんだ!?


 もう文面からして強いのが分かる。一体どんな能力なんだろうか……?


「あああ、でもそうカッコいいものじゃなくて、えっと……私まだその魔眼に目覚めてなくて本当は名乗るのもおこがましいというか、そのぉ……」


 するとまみみんは何か急にあたふたし始めて自身の称号を否定をしてきたぞ。


 魔眼に目覚めてない? いや剣士になってるんだから剣には認められてはいるはず。まさか仮契約中というわけじゃあるまいし、一体どういうことなんだ?


「俺から補足しよう。彼女の聖癖剣は特殊な剣でな。『魔眼』の権能というのは所有者によってそれぞれ異なる能力を発現させる。だが真視はまだその能力を発現出来ていない中途半端な状態の剣士なんだ」

「つまり剣士だけど権能は使えない状態ってこと?」


 頭を悩ましてると閃理はこのことについての真相を教えてくれた。俺の解釈に頷いてくれたから、それで合ってるんだろう。


 はぇ~、正式な剣士であっても権能を自由に扱えないケースもあるんだな。例外は何にでもあるもんだ。

 本人から感じる自信のなさもそれ故なんだろう。


 まみみん……もとい真視、いつか剣の力を引き出せるようになれればいいな。




 ……さて、これで全員の挨拶は終わったな。改めて復習してみよう。


 モデルでギャルの“音の聖癖剣士”瑞着響みずき ひびき


 能力名前共にキラキラな“星の聖癖剣士”輝井星皇てるい ほしのおうじ


 メルの親友の“透過の聖癖剣士”瑞着透子みずき とうこ


 そしてギョロ目が特徴の“魔眼の聖癖剣士”四ツ目真視よつめ まみ──……。


 ……うん、四分の三が女性だ。おいおい、これで俺の知る日本支部の剣士が十二人中四人しか男が居ないんだけど。


 いや勿論フェミニズム的なことを批判してるわけじゃないぞ? でもここまで男女比に差が出てるのも何というか妙と言うか……。


「ねぇ、閃理。心なしか女の人が多い気がするんだけど、これって気のせい?」

「いや気のせいではないぞ。実際割合としては僅かに女性が剣士に選ばれやすい傾向がある。その理由は未だに分からんがな」

「えっ、そうなの!? マジで女の人が多いのか……」


 ついそんなことを閃理に訊ねると、驚愕の事実が判明してしまった。

 聖癖剣士って本当に女性比率が高いのか!? この違和感は気のせいなんかじゃなかったってことか。


 思うと敵も現状遭遇してる男の剣士はディザストだけだな。あ、遮霧との仮契約組キノコ頭と犯人はノーカンで。

 そういえば先代炎熱の聖癖剣士も女性だし、こりゃマジっぽいな。


 変わってる……と言うと各方面から怒られそうだから口にはしないけど、知れば知るほど分からない存在だ。聖癖剣ってやつは。


「まぁ、何であれここにいる者たちはお前たちのことを歓迎していることに変わりはない。なに、お前の功績を恨むような奴らではないさ」

「そ、そっか……まぁ、そうだよな。うん、俺ちょっと緊張し過ぎてたかも。こんなサプライズしてくれる奴らが俺に嫉妬してるはずないもんな」


 そう閃理に言われて、俺はやっぱり考えすぎてたんだなって気付かされた。


 人に恨まれる恐怖を知ってるからこそ生まれた不安だったけど、結局それは自意識過剰な被害妄想ってやつでしかない。


 そう思うと一気にアホくさく感じてきた。考えるだけ無駄だったわ。

 あーあ、余計な心配しちまった。なんつーか、俺らしくもない。


「さぁ、今度はお前たちの番だ。元気良くな」


 ああ、分かってる。俺のことについてはみんな知ってるとは思うけど、この場において自分で自分のことを紹介しないのはマナー違反だ。


 無言で頷くと、俺は軽く咳払いをして喉の調子を確認。そして支部のみんなに向けて自己紹介をする。


「んじゃ、今度は俺らの番だな。ご存じの通り、俺は“炎熱の聖癖剣士”焔衣兼人。今は第一班で新人剣士として活動してる。短い間だと思うけど、よろしくな」

「私は朝鳥強香と言います! つい先月“覚醒の聖癖剣士”になりました。焔衣くんよりも未熟な剣士ですが、よろしくお願いします!」


「ヒューッ! 期待の新戦力、日本支部の未来も安泰! ほらオージ、クラッカー鳴らして!」

「はいはーい! いよっ、新剣士!」


 俺たち二人の自己紹介が終わると、支部の四人からの拍手が鳴る。響と輝井に至っては余りのクラッカーでもう一回祝砲をやかましく鳴らしてくれる。


 ちょっと大げさに反応し過ぎでは……とも思ったけど、まぁいいさ。こうして持てはやされてる気分はそう悪いものでもないからな。


 そして、今更だが俺は支部のみんなに対して失礼なことを考えていたのを反省する。


 こうして俺たちのことを歓迎する準備をしてくれてたんだ。これで恨まれてるなんて思わないし、逆にもしこれで歓迎されてなかったら人間不信になるわ。


 やっぱり考えすぎだったらしい。悪い話は変に目立つから、変に支部長の言葉を意識し過ぎてたんだ。


「よーし! それじゃあ初めましての挨拶も終わったことだし、みんなでケーキ食べよー!」

Cakeケーキ! 一番大きいのPleaseちょうだい!」

「メルはちょっと落ち着きなさいって。不公平な切り分けは厳禁よ」


 自己紹介をし終えると、この歓迎会は次のステップに移行。まぁ用意されてる食べ物に手をつけ始めたわけだ。


 案の定メルが暴走を始めるのを透子さんが羽交い締めしてストップをかけてる間に、他の支部の剣士たちから早速というか質問が飛んでくる。


「ねぇねぇ! ケンティーは今何歳? どこ高出身? 焔神えんじんってどうやって手に入れた? 初めて悪癖円卓マリス・サークル倒した時ってどんな感じだった? ぶっちゃけ第一班の拠点の中ってまだ汚い?」

「えっと、響……さんだっけ? ちょっといきなり質問責めし過ぎじゃない? てかケンティーって……」


 ずいっと近付いてはまくし立てるように質問責めをしてくる響。

 いきなりあだ名まで付けられたし、距離感が近すぎててビビるわ。


 あと読者モデルをしてるだけあって顔が良い。血色の良い綺麗な肌にうっすらピンクのメッシュが入った艶やかな金髪と来たもんだ。


 この容姿で誰に対してでも分け隔て無くフレンドリーとかもうこれ空想上の生物級なのでは?

 そりゃ写真集も出るくらい人気だわな……。これ以上近付かれると質問の量以前に落ち着かねぇって。


「あはは、ごめんごめん。ちょっと一回に質問し過ぎちゃったかな? 元老院のおじいちゃんたちの推しピみたいだし、どんなものか気になってさぁ。あ、あたしのことは普通に呼び捨てで良いから~」

「推しピ!? いや気に入られたのは何となく気付いてたけど、そこまでとは知らなかった……」


 おお、元老院の面々をおじいちゃん呼ばわりするとは何と恐れ知らずな。俺には無理だぜ、そんなこと。

 でもまさかとは思ってたけど、やっぱり凍原やメルが言うとおり俺はわりと有名人らしい。


 そりゃ何十年も前に行方を眩ませていた剣に選ばれるだけじゃなく、元老院の人たちにとっても縁のあるっぽい剣舞も復活させたわけだしそうもなるか。


 響曰く元老院が俺のことを推してるって話もあながち間違いじゃないんだろう。

 嬉しいような、妙に責任がのし掛かってくるような……微妙な気分だ。


「んー、知りたいことは沢山あるけど今は程々にしとこっか。あ、そうだ。良かったら今からあたしと試合してみない? 剣士同士、剣を交えることが最大のコミュニケーションみたいだし?」

「あっ、抜け駆けはズルいですよ! 自分も試合相手に立候補させてください!」

「試合? 別に良いけど……え、本気?」


 すると響は質問ラッシュを切り上げると、その代わりにと言わんばかりに試合を申し込んできた。便乗して輝井も話に乗っかってくる。


 まぁ剣士だもんな。拳で語り合うって言葉もあるし、剣を打ち合うことでしか分からないこともあるかもしれない。些か脳筋っぽい考え方だけど。


 でもいいのかな? 支部とはいえ勝手にそんなことをしたら怒られるとかない?


「はい! 以前から常々お手合わせしたいとは思っていましたから。それに焔神えんじんと戦ってみたいって人は結構多いと思います。なんせ何十年にも渡って失われていた伝説の剣なんですし!」

「お、おう。そこまで言うのな……」


 相変わらず物理的にキラッキラな目で熱弁する輝井。もう少し光量を抑えらたり出来ないの? てかどうなってんだ、その目は。


 でも流石は闇の聖癖剣使いを一度全滅寸前にまで追い込んだ剣だ。先代の実力あってこその偉業だが、ここまで憧れを抱かせるとはな。


 多分手合わせしたい相手ってのは海外の剣士も含めてるんだろうなぁ……。

 全員ではないにしろ、膨大な人数の剣士が俺との戦いを望んでるなんて考えただけでも疲れる。


 まぁ、かく言う俺も第二班に一度練習試合を申し込んでる身だし、それと似たようなものか。きっと逆バージョン的な感じなんだろう。


「交流試合か。もしするのであれば俺が審判を務めるが……どうする?」

「うーん。するのは構わないけど、どこ辺りでやるの? まさかここでするとか言わないよね?」


 横から俺らの話を聞いていた閃理が前回同様審判役に名乗りを上げてくれた。


 そこは別に良いんだけどさ、俺が妙に乗り気ではないのは他に理由がある。

 それは場所だ。まさか今この場所で戦いをおっぱじめるわけじゃあるまい。


 戦うならせめてやりやすい場所がいいんだけど、そもそもな話、そういう試合とか勝手にやってもいいものなのだろうか?


 支部長は怖そうな人だったし、これがもしメンバーの独断で行われるものだったら絶対こっぴどく怒られると思うんだけど。


「場所なら大丈夫です! 特訓等が目的かつ非戦闘区域でなければ支部内のどこでも自由な戦闘訓練が認められているので全然問題ありませんよ!」

「それに敷地全域を覆ってる聖癖の結界があるから流れ弾の心配も無いからさ、遠慮なく戦えるってワケ」

「あ、そうなの? すげぇな支部」


 へぇ~、訓練目的ならどこでも戦うことが出来るなんてルールが支部にはあるのか。

 つまりより自由度の高い屋内外の戦闘が可能ってことだろ? 何かすげぇわ……支部、侮れない。


「決まりだな。ではすぐそこの広場で始めるとしよう。戦う相手は誰にする?」


 なんかもう始める前提で試合相手の選出をしてやがる。いや、やるけどさ。

 さて、支部の剣士は四人だが……誰が相手になってくれるのやら。まさか全員ってのはないよな?


「あたし最初ー!」

「いやいや、次は自分ですって! 自分としましょう! ね!?」

「なんか面白そうなことになってるわね。メルのお気に入りの彼がどんな剣士なのかは私も気になるわ」


 そしてどういうわけかメルにヘッドロックをかけてる透子さんも俺との戦い立候補してきた。

 これで三人な。これでも十分多いと思うけど、最後の一人はどうなんだろうな。


「四ツ目。お前はやらないのか?」

「あ、わ、私は自信無いので……。今回はパスさせてください……。ごめんなさい……」


 あ、でも全員が俺に挑むわけじゃなさそうだ。自信が無いからという理由で真視が非参加となった。


 そりゃ能力を発動出来ないんじゃ俺との戦いを避ける判断をするのも分からないでもない。ちょっと残念だが仕方ないだろう。


「えっと、じゃあ朝鳥さんとはやる人はいないの?」

「悪いが朝鳥はまだ権能をコントロール出来ていない。最低限それが出来るまでは対人戦闘は極力控える予定だ。すまんが全員の相手をしてやってくれ」

「ご、ごめんね? 応援してるから頑張ってね!」


 ええー……それもマジですか。まさか一人で立候補者全員とやることになるとは思わなんだ。


 まぁ確かに俺でも未だ一度も一本取ったことのない閃理を一撃で吹っ飛ばしたくらいだし、もしものことになったら危険だ。この判断は正しいのだろう。


 さて、これで合計三名の候補者が集まった。だが案の定順番争いが始まっているため、ジャンケンによる公平な手段を用いて順番を決定する。

 その結果が────これだ。


「ふっふん! 自分が一番です!」

「ちぇー、二番目かぁ……。最後よりかはマシか」

「私は何番目でも良いけれどもね」


 一番手は輝井、二番手が響、そして最後が透子さんになった。ふむふむ、とにかくこれで文句はないな。


 ひょんな提案から始まった交流試合。支部の剣士たちがどんな能力を使ってくるのか楽しみだ。

 勿論負けてやるつもりはねぇけど! 全員に勝って俺がどこまでの強さなのかを思い知らせてやるぜ。

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