第三十四癖『焔と氷、共に戦え』

「急げ! 一刻も早くこの事態を収束させるぞ!」

「はいっ!」

「まさかこんな時に闇が襲って来るなんて……!」


 俺たちは現在、雑貨のコーナーから急いで事件発生現場へと向かっていた。一階にある食料品を取り扱うコーナーの一角……よりによって現在地から一番離れている場所で起きるとはな。


 勿論この騒ぎの原因も突き止めている。昨日の夜から俺たちを監視していたあの存在がここに来て暴れだしたんだろう。

 数十人にも及ぶ被害者を出したことにより、三階でも襲撃されたという情報が伝わったせいで大混乱。焦る客たちによる喧噪が耳をつんざく。


 一階まで行くにはどうしても時間がかかる。テロだと思っている客たちが我先に避難しようとして階段を占領。唯一残ったエレベーターにも人が波のように押し寄せているため実質使用不可。


 聖癖の力で強行突破してもいいが──如何せん人の数が多すぎる。こういう時にメルの『スク水聖癖章』があれば、このまま下階まですり抜けて降りれるんだがな……。


「閃理さん。今回の敵はどのような剣士か情報は掴めますか?」

「ああ、どうやら【兎衣剣妲徒バニーけんだっと】の使い手が来たらしい。よりによってクラウディの部下だ。目的は大方見当が付いている」


 移動中に凍原が襲撃者の正体について訪ねてきた。無論勿体ぶることはせずにそのまま剣の名前を伝えて概要を説明。


 間違いなくクラウディがこの事件の首謀者に違いない。確信が持てる。

 先日の戦いで奴は焔衣に大層な興味を抱いているのは察している。おそらく目的は拉致、と言ったところか。


「奴は現在一階をうろついている。どうやら隙を突いて逃げ出した焔衣を見失ったらしい」

「その焔衣さんはどこへ……?」

「一度店を出た後、どうやら屋上へ向かったようだ。おそらくそこで奴と勝負をするつもりだろう。焔神えんじんの権能は屋内では非常に危険だからな。賢い判断だ」


 現状についても理明わからせから得た情報を共有。焔衣の選択は正解に近いと俺も思う。

 店内では可燃性の物が多いため戦闘に向かない。だからと言って駐車場はガソリンをため込んだ車がそこいらにある。より危険だ。


 だが屋上なら炎が移るような物はほぼ無い。そう言った意味では最も戦いに適した場所だろう。もっとも、相手にも有利に働くという点を除けばだが。


「凍原、お前は屋上を目指してくれ。可能であれば焔衣の助太刀を頼む。俺と幻狼は警備員の姿に偽装してこのまま下に向かう」

「了解です!」

「は、はいっ!」


 やるべきことは二つ。一つは焔衣の加勢だ。妲徒だっとの使い手は比較的新人と呼べる剣士であるのは確かだが、仮にもクラウディ直属の部下であることに変わりはない。強さはそれなりにある。


 何よりあの相手では些か分が悪い。屋内ならばともかく、屋外で戦うともなればそれ即ち相手の制限を解除するに等しい。

 焔神えんじんの力ならそれをカバー出来るとは思うが……凍原は念のためだ。


「閃理さん、いきますよ!」

「ああ行くぞ! すいませーん、警備の者でーす! 道を開けてくださーい!」


 一人最上階へと向かった凍原を見送ることなく偽嘘いつわりの力でここにいる全ての人々に俺たちが店の警備員に見えるよう錯覚させ、下階に繋がる階段を無理矢理開かせる。


 もう一つ。それは妲徒だっとの使い手の妨害、あるいは撃退。この騒ぎを起こした者を放って置くわけにはいかないからな。出会えればすぐにでも攻撃する!


 しかしながらパニックになっている客たちはそう簡単には通してくれはしない。もみくちゃにされながら、どうにかして二階へ到着。まだあともう一階分の人波をかき分けなければ……。



【──ラピットが二階に来たよっ!】



「分かった。幻狼! 奴が二階に来た。このままホールに出る!」

「えっ、あ、ちょ……ああああ」

「ぐっ……まずい。人波に流されている。時間も惜しい。すまんが先に行く。頑張って耐えてくれ!」


 理明わからせが敵の移動を教えてくれたものの、幻狼は時すでに遅しと言わんばかりに人波の中へ飲まれてしまっていた。手が減るのは痛いが背に腹は代えられない。


 どうにか復帰してくれるよう願いつつ、俺は単身妲徒だっとの剣士探しへ。もっとも場所はすでに捕捉済みだがな。


「……いた。やはり闇の剣士だな!」


「ゲッ、光の聖癖剣士!? どうやって私の場所を!?」


「闇の匂いには人一倍敏感なものでな。本気を出せない俺の仲間に剣を向けただけでなく、無関係な人々を恐怖に煽り、店へ甚大な被害をもたらしたお前を粛正する!」


 先回るようにして俺は奴の進行方向へ突入。やはり妲徒だっとの継承者は全員バニーコート衣装なんだな。

 それはさておき出会い頭に宣戦布告をし、有無を言わさずに攻撃に移る。


 上位幹部級剣士の部下とはいえ、俺にとってはそれほど高い実力を持っているとは言い難い。言い方こそ悪いがディザストやクラウディと比べれば雑魚当然の相手だ。


「に、逃げ──ぶべっ!?」

「馬鹿が。妲徒だっとの能力をそう簡単に使わせるものか」


 相手は慌てて逃げようとするが、すでに俺は『触手聖癖章』を剣にリードしており、その能力を起動していた。

 脚を触手に捕らえられ、能力を行使した逃走は床へ顔面を激しくぶつけるだけの結果となってしまい、無駄な労力に変わる。


「痛ぅ~……! 敵の上位剣士相手は分が悪すぎますよクラウディ様~~!!」

「やはりクラウディの差し金か。目的はなんだ? 言わなければどうなるか分かるな?」

「うぐぐ……言いません! 例え相手が格上中の格上でも、命令は守りきります!」


 切っ先を奴の首元へ突きつけ、俺は襲撃の目的を吐くように言う。

 流石に口は堅いな。すぐに拒否されてしまった。闇でもそういった風に守秘を徹底する姿勢は賞賛にあたいする。


 だがそれは結局無駄な足掻き。このまま動きを止めているだけでも俺の勝利に揺るぎない。今に舞々子がくれば奴の剣を封印し、この事態は終幕だ。


「では質問を変えよう、妲徒だっとの剣士。クラウディは何故焔衣を付け狙う? 直属の部下なら分かるだろう?」

「ひっ……、それはその……。いいえ、これも言いません! クラウディ様の秘密を守るのが今の私の使命です! 例え命が脅かされていても……です!」


 首筋に切っ先を当てて更なる脅しをかけてみたものの、なるほど。やはり情報はほとんど引き出せそうにないか。


 こうして身体を恐怖に震わせながらも頑なに情報を漏らさないとは、あのような性格でも厚い信頼を築けるものなのだな。評価をほんの僅か改めなければなるまい。


 だがか……。おそらくクラウディは焔衣に対し強い感情を抱いている可能性がある。四ヶ月以上前の──焔衣が剣士として覚醒した日が関係しているのは確定だな。


 単なる勧誘目的だろうが──全く愚かな奴。二度、そして三度も襲撃をしておきながら、今更誘ってもなびくはずもないだろうに。


「私はあなたには勝てない。それは自分自身分かっています。でも──」

「むっ……!?」


 考えに耽っていると、ラピットは小さく何かを呟いた。そしてすぐに理明わからせが次の起きることを推測する。



【──『無知聖癖章』を使ってくるよっ!】



「私はこんなところで終わるわけにはいかないんですよぉっ!!」



【悪癖リード・『無知シチュ』! 悪癖一種! 悪癖孤高撃!】



「なっ──!?」


 だが俺が対応するよりも僅かに早く、ラピットの悪癖リードが承認されてしまう。

 まさか、一介の下級剣士がその聖癖章を持っているとは……! 完全に油断していた。


 瞬間、奴の聖癖剣から黒い輝きが放たれる。咄嗟に剣でガードをしてしまったが、その実これはほとんど意味を成さない行為だ。

 ほんの一瞬だが、理明わからせから全ての色が消失する。


「くぅっ!」


「しまっ……、くそっ!」


 光が止んだ瞬間、ラピットは妲徒だっとの固有能力を使い、あっという間にこの場から逃走してしまう。

 それをただ悪態を吐いて見送ることしか出来なかった。だがあの力を使われて俺自身を防御出来ただけでも良しとせざるを得ないだろう。


 奴が使用した聖癖章『無知聖癖章』はを司る聖癖。ああ、闇側のに該当する剣から生み出された物だからだ。

 そのお陰で理明わからせは性質や権能を忘却され、今はただの剣だ。あの声はどこにも聞こえない……事実上封印されたことになる。


 だが剣だけで済んで良かったとも心底思う。もし仮に忘却の力が剣士にまで働いてしまっていれば、俺は記憶を失うところだった。そうなれば記憶が戻るまで班から離脱することになっただろう。


 そんな危険極まりない力をただの剣士が持っているともなれば、焔衣はあまりにも無謀な戦いを挑むことになる。この事実を一刻も早く伝えなければならないが、肝心の手段がたった今封じられた。


 不覚……。心の中で自らを叱咤する。

 俺としたことが相手を雑魚と侮ったのが敗因。愚かなのは俺自身だったとはな……。


「……ん? これは……」


 己の甘さに悔やんでいる中、足下にある物が転がっていることにふと気付く。

 散らばる破片を回収して組み合わせると、それは聖癖章だった。正確にはだが。


 描かれているエンブレムは『無知聖癖章』のようだ。なるほど、真実が見えてきたな。


「あれが最後の一回分だったというわけか……。大事な切り札だったろうに、あそこで迷わず切れたのは勇気があるな」


 聖癖章とて無限に使えるわけではない。使えば使うほどその練度は上がるが同時に聖癖章自体の寿命を削る。ブーストを掛ければさらに寿命を縮める消耗品だ。


 その十聖剣産版ともなれば、特に下級の剣士にとって宝と同等の価値がある。強力な能力を秘めた聖癖章を俺から逃れるために使うとは……素晴らしい判断力と即決力と言えよう。


 このようなことを思うのも何だが、あの剣士は将来立派な剣士になれるだろう。敵ながらそのポテンシャルに目を見張るものがあるな。


「だがこれで、奴が持つ技に脅威となる物は無くなった。凍原が加勢するとはいえ、無事に勝てればいいのだがな……」


 何はともあれ俺はここまでだ。理明わからせが機能を停止した以上は何も出来ない。俺の一番の取り柄が消えたからな。

 ここからは焔衣の戦いに勝利がもたらされることを祈るばかり。頼む、勝ってくれよ……!











「せいっ、やぁッ! ……っと。よし、何とか一通り舞うことが出来たな」


 俺は剣舞を1パート分を舞いきることに成功し、決戦の準備を進める。いつも通り身体は軽くて熱い。うん、きちんとバフは付いている。


 ラピットはいずれここに気付いて突撃してくるはず。それが後どれくらいなのかは分からないけど、でもこの広い場所でならさっきよりもっと戦える。


 本気の焔神えんじんから俺の実力を差し引いても勝算は十分だ。さぁ来い、跳躍の聖癖剣士。見事返り討ちにしてやる。


 すると、すぐ近くの店内へ繋がるドアが突然ガチャガチャと鳴り始めた。うおお、流石にびっくりするわ。

 ついに来たか……? こんな状況、普通の人が屋上に来るはずない。間違いなく奴だろう。


 先手必勝だよな、出てきたらこのままたたき切ってやるぜ!


「焔衣さん、ご無事で──」


「どぉりゃああああッ!! ──って、ヤベッ!?」


「きゃッ!? な、何をするんですか!?」


 ドアが開かれた瞬間、俺は入ってきた奴に向けて炎の一撃をたたき込もうとする……のだが、その人物が誰なのか全く見ていなかった。

 剣が当たる直前になって入ってきたのがラピットではなく凍原だと気付き、焦った俺は剣の軌道を直下に無理矢理方向転換させていた。


 地面に僅かな割れと焦げ後を作る結果に抑えられたが、正直危ないところだった。もう少し反射神経が悪かったら凍原に一発攻撃をぶち込むところだったろう。


「ご、ごめん! てっきり敵が来たのかと思って……」

「いいえ、こんな状況です。焔衣さんの考えは正しいと思いますが……。でも流石に今のは肝が冷えました……気を付けてください」


 そうだよな、何だってフレンドリーファイアに巻き込まれなければならないのか。きっと凍原は俺の手助けに来たんだろう。ありがたい。

 ぺこぺこと頭を何度も下げつつ許しをもらえたところで、俺は現在の情報を整理し、それを伝えることにした。


「多分閃理から大体は聞いてるかもだけど、俺はラピット……闇の剣士と戦うためにここにいる。凍原は俺の助太刀でいいんだよな?」

「はい。クラウディの部下とあれば一人では心配なので。私たちで倒しましょう」


 頼もしいったらありゃしないな。流石は先輩だぜ。

 氷の聖癖剣士を味方に招き入れたことで俺らの勝率はぐっと上昇。残る不安要素は奴の本気はどれくらいなのか、になる。


 一階で剣を交わした時に感じたのは奴はまだ本気では無かったということだ。いくら周囲の損害を気にしないでいたとはいえ、あれが全力とは思えない。


 実力は凍原以上と推測してるから、間違いなくここからの戦いは本気同士のぶつかり合いになる。正直怖いけど……この程度のことで怯えてなんかいられない。

 俺の命も掛かってるんだ、容赦も手加減だってくれてやるつもりはない!


「ところで妲徒だっとってどういう剣か知ってる?」

「私も実際に手合わせするのは初めてですが、情報はすでにあります。バニーコートの聖癖と跳躍の権能を司っていて、脚力の上昇は勿論のこと最大の特徴は空気を蹴ってジャンプすることが可能という点です」

「えっ、それだけ? 確かに空中でもジャンプ出来るのはスゴいと思うけど、なんか地味っつーかショボくね?」


 ふと思い立って妲徒だっとについての情報を訪ねてみる。

 司る聖癖はバニーガールじゃないのか。バニーコートって初めて聞く言葉だけど、まぁおそらくガールと然したる違いはないのだろう。


 でも気になるのは権能の方。まさかジャンプだけ? もっと特殊な能力とかはないの? だとしたら本当は余裕で勝てるのでは……?


「油断は禁物です。屋外での戦闘は相手にとって非常に有利。なにせ私たちのいる場所は実質無数の足場に囲まれているわけですから、上下左右遠近と立体的な攻撃を可能にします。トリッキーな動きで翻弄してくるでしょう」


 何それ!? 全然ショボくないじゃん! 跳躍の権能……やっぱり聖癖剣は侮っちゃいけない物だな。もう二度と軽視しないって今決めた。



 ……待て、空中を蹴れるってのは、まさか一回だけとは限らないのでは? 無限空中ジャンプが出来るのであれば、事実上の飛行が可能だろうし。

 それを踏まえて考える。奴は……ラピットは本当に屋上へ向かう出入り口からやってくるのだろうか?


 屋内にいれば階段やエレベーターを使ってここまで来ると思いこんでいたが、敵の権能を知った今、それは浅はかな考えだと実感する。

 俺だって壁登りショートカットしてここに来たんだ。それを簡単に可能とする聖癖を持っているのなら──敵が使わないはずがない。



「──見つけましたよっ、炎熱の剣士!」



「やっぱり……! あいつ空跳んで来やがった!」


 突然耳に届いた声。それは間違いなく闇の剣士のもの!

 俺の現在地を突き止めたラピットは予想通り空中ジャンプを無数に繰り返して店の屋上までやってきやがった。


 凍原の言った通り、見えない足場を使ってステップを刻むが如き軽快な動き。そして大きく跳ね飛んだ時──必殺の先制開示攻撃が炸裂する!


「ぴょんぴょん烈脚撃れっきゃくげきぃー!」


 空気の足場を上向きに踏みつけ、自らの身体を押し出して蹴りを入れる俗に言うライダーキックが俺たちを狙う。

 相変わらず珍妙なネーミングセンスだが、その攻撃を一度食らった者としてこの攻撃に当たるわけにはいかない。


「私に任せてください!」


 すると凍原、俺の前に立って剣を構え──こっちも開示攻撃に出るつもりだ。



【聖癖開示・『クーデレ』! 凍てつく聖癖!】



「結晶のトロイメライ!」


 技名を叫ぶと、突き出す剣先から巨大で様々な形状をした雪の結晶が五枚一列になって生成される。これ防御技か!


 ラピットの蹴りが勝つのか、それとも凍原の氷の盾か勝るか。俺は凍原の背中に隠れ……そして押し負けないよう支える体勢に。

 そして激突! 敵の蹴りが雪の結晶にぶつかり、拮抗する!


「烈脚撃の直撃を耐えるなんてやりますね! でも負けませんよ!」


 ラピットは氷の盾で自分の攻撃を防いだことに驚きつつ賞賛の言葉を投げかけるけど、それを気に出来ないほどの事態がすぐに発生した。


 最初に激突した盾は次第にひび割れていき、そして砕かれた! 二枚目、三枚目も次々と割れていき、あっという間に残り二枚に。

 これ、耐えきれるか……!?


「なんて威力……! 焔衣さん、私のベルトに『亀甲聖癖章』があります。緑色のです。それをリードして盾に向かって使ってください!」

「亀甲て……。でも分かった! ちょっと失礼……」


 敵の強さに苦戦する凍原は、俺に自分の聖癖章を使って補助に出るよう指示。にしても亀甲か……亀甲縛りの聖癖なんだろうな、これ……。

 いいや、そんなこと気にしてる場合じゃない。とにかくベルトだな、そこにある緑色……こいつか!


「ひゃぁっ……!?」


 あ、やべ。不可抗力とはいえ少し動いた瞬間に少しだけチラ見えしてるわき腹に触っちまった。

 これのせいで一瞬力が抜けた凍原は、盾へ送る集中力を途切れさせて四枚目を割られてしまう。これで残る盾はたった一枚に。やべー、やっちった。


「ラスト! いっけぇぇぇぇ──!!」


「焔衣さん早く! わき腹はいいですから!」

「わざとじゃねぇって! 誤解は後で解くけど、本当に違うからな!」



【聖癖リード・『亀甲縛り』! 聖癖一種! 聖癖唯一撃!】



 あーだこーだ言いながらもリードして発動! 最後の一枚に切っ先を向けて放つ!

 緑色の光が盾に飛ぶと、薄水色だった色は緑色に変化。それだけでなく綺麗な幾何学模様はたちまち亀甲と同じ六角形になる。


 まるでデカい亀の甲羅だな……。そんなことを頭の隅っこに思いながら、この戦いの結末を見届ける。


「……っ!? か、堅い! だめ、もうキックの威力も落ちる……!」


 そしてラピットだが、雪の結晶から亀の甲羅へ進化(?)した盾の前に自慢のキックは勢いを落としつつあった。

 なるほど、やはり『亀甲聖癖章』は防御アップが能力らしい。こいつは良いや。


「ここまで威力が落ちれば──後は押し返すだけっ!」


「──ぐふぇぇぇっ!」


 敵の技が弱体化したことで凍原は姿勢を一転して攻撃に移行。剣の操作で甲羅を突き出して、そのままラピットに直撃させる!

 当たった瞬間メキョッと痛々しい音が。聖癖剣の加護があるから死ぬようなことはないとは思うけど、あんまり聞きたくないタイプの音だわ。


 ラピットはそのまま屋上から突き落とされる形で吹っ飛ばされる。しかし、やはり意識は保ってたようで、空中ジャンプを駆使してそのまま復帰。


「いぃ────…………ったぁい! 顎外れてないですよね!?」

「外れていれば良かったものを」

「敵とはいえそれは酷いです! ていうか一対二なんてズルすぎですよ!」


 着地後、長ぁ──い溜を経てから大げさにダメージに悶え始めた。なんつーか喧しいなぁ。


 あと薄々気付いてたけど、こいつ常に元気百倍っていうかとにかく声の大きさとテンションが常人の二、三倍はある。多分味方だったら一緒に居ると楽しいけどめちゃくちゃ疲れるタイプの人間だな。


「私の目的は炎熱の聖癖剣士ただ一人! そこのあなたに用事はありません! 聖癖剣士のようですし、これ以上邪魔をするなら容赦しませんよ!」

「望むところです。久しぶりの実践なので腕が鳴ります」


 やる気を見せる凍原。頼もしいことこの上無しだ。これなら闇の剣士に勝てるかもな。

 改めまして第二回戦だ。舞台をショッピングモール屋上に変え、光の聖癖剣協会所属剣士二名と闇の聖癖剣使い所属剣士一名の戦いが始まる。


 勝利の女神はどちらに微笑むのか──その結果は神のみぞ知る……だな。女神だけに。

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