第三十癖『乱入、封印の聖癖剣士(後編)』

「ふっ、はぁっ! せいっ!」

「あのー、焔衣くん? ああ、どうしましょう……」


 ヘイ! まだまだ踊れるぜ俺は! 何せ四ヶ月弱にも及ぶ長いイメトレ期間と一週間夜練でみっちり踊り続けてきたおかげで焔の剣舞は一通りマスターしている。もっとも完璧ではないけどもさ。


 困惑を隠せない舞々子さんに構わず俺は踊り続けて気持ちを高めていく。痛快ツーカイに踊りきるぜ!

 さて、どうして俺が幻狼を犠牲にしておきながら暢気に踊っているのかというと、数日前からこの剣舞について気になっていることがあるからだ。


 どういうことかと言うと、つまり『この舞は戦いに転用出来るかもしれない』という話になる。



 俺とて今日まで焔神えんじんや先代のことについて何も調べなかったわけじゃない。訓練や家事の合間にある程度の調べはついている。

 マスター曰く先代炎熱の聖癖剣士が考案したらしいこの剣舞。組織が記録している情報によれば、先代は大層素晴らしい剣士だったそうだ。


 闇の聖癖剣使いを壊滅寸前にまで追い込むだけでなく、世界各地で様々な活動をし、そして突如として剣ごと行方を眩ませた伝説の剣士。

 当時の渾名あだなは『焔巫女ひみこ』、本名は何故か無記載。現在も生きていれば御年82歳のご高齢。所在は今も行方知れずだ。



 話は逸れたが、そんな当時最強とまで呼ばれた剣士が考えた剣舞がただの踊りではないことは常々気付いていた。だがそれを証明出来る舞台が来なかった。


 だが舞々子さん相手なら──閃理のように行動を先読みして潰しにかからないし、メルほどの速さで隙を与えないこともしない。そして実力は格上の中の格上。相手にとって不足はない!


「はぁッ! ……よし、これならいける。舞々子さん、いきなり踊っててすみませんでした。今戻ります」


 一度剣舞を踊りきったらなんか良い感じの感覚を掴むことに成功する。

 何だか自信があふれ出るぜぇ……! 先代の鼓舞バフの底力を見せてやろう。


「よく分かりませんけど……戦う気になれたのなら結構です。さぁ、今度こそ終わりにさせてあげますからね」


 相変わらず言う言葉は厳しいが、気持ちがノってる今ならそんなに怖くは感じない。気圧されずに立ち向かうぜ。

 小さくゆっくり歩んでくる舞々子さんに対して、俺も同じように歩いて向かっていく。


 大丈夫、踊りのモーションを相手の動きに合わせて部分的にやるだけだ。そう難しいことではないはず……多分。


「行きますよ」

「っ……、来い!」


 そして、舞々子さんが攻めに出る。刃封ばぶうの一撃が俺を切る……はずだったそれを焔神えんじんで受け止めることに成功。今度は何メートルも押し返されたりはしねぇ!


 踏ん張って勢いに耐えた俺。至近距離で見える舞々子さんの顔には若干だが驚きの表情が見て取れる。


「さっきと感触が違う……!? 一体何が……」

「へへへ、鍔迫り合いしただけで気付けてもらって何よりです。俺も本気の本気、出させてもらいますよッ!」


 焔の剣舞で自らを鼓舞したのが直接の原因なのかは分からないけど、舞々子さんも驚くくらいの急激な変化が俺に起きている模様。


 あの舞いを全部通して踊りきると、どうしてか身体が軽く感じるんだ。あと熱くもなる。まるで骨の一本一本の歪みが矯正されて戦いに赴くに最適な身体にしてくれる……気分的にはそんな感じ。


 そんな風になったらば、あとは戦うだけ。鍔迫り合いから一転、刃封ばぶうを弾き返して俺が戦況を支配する気で攻めていく。

 何だか頭が妙にすっきりしてるんだ。相手の動きがちゃんと見えるし、かなりスムーズに行動予測が出来る。


 不思議だ。まるで初めて剣を握った時のようにやるべきことが分かる。これなら──行けるかもしれない!

 いつの間にか俺は舞々子さんを運動場の中心にまで追い込み返すことに成功していた。


 ああ、封印攻撃を使われなければここまで攻められる! これも剣舞のおかげだな。

 そして再び鍔迫り合いとなって力の押し合いに。剣と剣が交差して鳴る音が俺たちの間に鳴り響く。


「私をここまで追い詰めるなんて……すごいわ焔衣くん! もう少し長く戦いたいくらいよ!」

「ぐっ……本気で押し込んでるのにそんな笑顔でいられるのすごいな……」


 若干優勢とはいえ全身全霊の全力全開でぶつかってることに変わりはない。対する舞々子さんは俺の攻め方を賞賛する余裕がまだ残っている。

 ははぁ、流石は上位剣士だ。きっとまだ全然本気とは言えないんだろうな。



【聖癖暴露・魔抹剣刃封ままけんばぶう! 聖なる抱擁は万物をも封じ込めゆく!】



「でも名残惜しいけど時間が近いの。練習とはいえそう簡単に勝ち星を与えるわけにはいかないわ。一気に決めることにします!」



 そしてまた一瞬で俺との距離を取ると、聖癖暴露の体勢になる。

 どうやら制限時間の十五分はもう限界らしい。あの一撃で俺の剣を封印して勝負を決めに来るつもりだ。


 ところがぎっちょん、俺だって勝ち星は欲しいんだ。最初の勝利が上位剣士ならこの上無く嬉しい称号になりえる!


「負けない! 舞々子さんに──勝ってみせる!」



【聖癖暴露・対陽剣焔神ツンデレけんえんじん! 聖なる焔が全ての邪悪を焼き払う!】



 俺も同じく聖癖暴露を発動。これでお互いが必殺技の姿勢となった。

 旧十聖剣が一つ対陽剣焔神、現十聖剣が一つ魔抹剣刃封。この二つの剣から放たれる暴露撃はどのような結末を招くのか。


 そんなもの撃ってみれば分かることよ! 剣舞ブーストの乗った今の俺が放てる最大級の火力で迎え撃つ!



母なる激怒マザー・オブ・インフェルノ


焔魔天変えんまてんぺん!」



 ほぼ同タイミングで放たれる必殺技。俺のは十八番になりつつある赤と青の焔による攻撃を放出。

 一方の舞々子さんは剣からにじみ出る黒っぽい紫とピンクの靄の塊を撃ち放ってきた。


 衝突する二つの力。どちらかが押し負けた時点で試合は即終了。故に負けられない……頑張れ焔神えんじん


「ぬうおおおぉぉッ!」

「はああああああっ!」


 刃封ばぶうから放たれた衝撃波に触れる焔は鎮火させられるが、それを上回る勢いで焔は燃え盛り、より激しさを増していく。

 タイムアップまで残り五十秒! このまま行っけえええぇぇぇぇ! 


「……本当にすごいわ。これは焔神えんじんだけの力だとは思えない。きっとあなたは剣に愛されてるのね。でも──」


 ふとそんな呟きが聞こえた。この攻撃に対する最上の賞賛。だがその続きも一つ遅れて耳に届いてしまう。


「ごめんなさい、焔衣くん。やっぱり加減出来そうにないみたい。この試合、やっぱり私が勝つわ!」

「にっ……!?」


 この時、刃封ばぶうが放つ衝撃波が一瞬で数倍に大きく膨れ上がると、あっという間に俺と焔魔天変の焔を飲み込んでしまう。

 その瞬間、確かに焔神えんじんが封印された感覚……誰かに俺もろとも優しく抱かれるようなイメージが脳裏によぎった。



 それだけだったなら試合終了で済むんだが、俺自身にも異変が起きている。あの紫とピンクの衝撃波に巻き込まれた俺は、気が付くと白い空間の中で舞々子さんらしき影に膝枕されていた。



 多分これは幻想というか夢というか、上手い例えが見つからないが、とにかく現実ではない。それはすぐに分かった。

 なにせ異様に心地が良い。安らぎさえも感じてしまうこの空間、意識もとろけて薄れていくもの感じるくらいだ。



 こんな世界があるんだなぁ……。嫌なことがあったらここに逃げ出したいくらいだけど、これはそこまで長く続いてくれなさそうだ。



『焔衣くん、そろそろ起きる時間ですよぉ』



 優しい声色で舞々子さんらしき影は俺を起こそうとしてくれる。

 うーん、あと五分だけ……なんてありきたりな台詞が真っ先に浮かんでしまったが、そう我が儘言ってられない。



 現実リアルの世界ではみんなが待っている。多分、今の俺は封印の属性にやられて意識を向こうここに持っていかれたんだ。あっちの俺は眠るように気を失ってるはず。何となくだが、そうだと分かる。



 今の声も本物の舞々子さんがどっかから呼びかけてるのかもしれない。だとすればこの安らぎの世界からおさらばしなければ。

 まぶたさえも重く感じる中で頑張って両目を見開いて、それと同じくらいのタイミングで膝枕から離れる。



 すると、意識は急激に鮮明になっていくのを感じた。白い空間も消え、真っ黒な世界になったと思った矢先、視界に光が灯る──












「────ん……」



 閉じてる目にうっすらと照明が当たってるのを感じる。なんかまだ頭がぼーっとするけど、なんとか目覚めることは出来たみたいだ。


 復活して早々に思うのもなんだが、どうやら現実の俺も誰かに膝枕されてるらしい。

 ふむ、この柔らかさの中に感じるしっかりとした筋肉の気配……封印の世界(仮称)にいた舞々子さんの影と似ている気がする。ってことは多分舞々子さん本人か。


「うん……ああ、すみません。今起きま──んぶっ……!?」

「あらら? もう、そういうハプニングは本当は許しませんけど……今回は多めに見てあげますねぇ」


 身体を起こした瞬間、ひじょ~~~~~に柔らかくて大きい何かが俺の目から上を全部圧してそれ以上進めなくさせてしまう。

 こ、この感触……! 案の定聞こえる舞々子さんの声から察するにアレだ。その……おっぱい、ですね。


 どうやら俺の顔をのぞき込むように身体を前のめりにしてたせいで起きた事故の模様。寝顔(?)も見られてたの恥ずいな……。


「す、すみません! 今退きますんで……」

「別に気にしなくても良いのよぉ。むしろ謝るのはこっちの方。さっきの試合、ちょっと本気出し過ぎちゃって、焔衣くんの意識まで封印してしまったのはやりすぎたわ。ごめんなさいね?」


 でかい胸部を避けつつ急いで起き上がろうとするけど、それを止めて再度俺に膝枕を続けることを強要ゆるしてくれる舞々子さん。なんかイヤな予感もするんだけど気のせいだよな……?


 にしても俺、意識を封印されてたってヤバいな。初めて舞々子さんと戦った時も一瞬意識を封印されかけたけど、もしあのままだったら最終的にああなるんだろうか。閃理が危険視する力なのがよく分かったぜ。


 取りあえず大人しく言うことには従いつつ、体重を舞々子さんに預ける。ひしひしと感じる暴走状態の兆候を心配しつつも、何だかんだで居心地は悪くない。ちょっと恥ずかしいけど。


「あの後閃理くんにたっぷり怒られちゃって……私もが欲しいからもう少しこのままでいて欲しいな」

「い、……? 膝枕されることがですか?」

「ええ。私は人のお世話をしたり甘やかしたりすることが大好きなの。人に甘えられることが私にとっての最高の癒し……。だからわたしにもっと身体を預けて……」


 やばい。この人やばい。いつにもましてヤバさが数十段くらい違う。その言い方はどう見てもいかがわしい店とかで言うような台詞じゃん!?

 理性をぶち壊すような誘いをするのは反則だぞ! やっぱりこの人今暴走してるよォ!


 最悪な事態になる前に逃げなきゃ……。今はまだ尊厳陵辱モードではなさそうだけど、その内スイッチが入ってしまえばもうどうなるかは分からない。


 でも! それなのにどうして、俺の中でもう少しだけこのままでいたいという気持ちがあるのはどういうことだ!

 まさかこの俺がバブみを感じてオギャりたいと願っているとでも言うのか!? いや、まずは冷静になれ俺。とにかく今は平常心だッ。


「舞々子さん……さっきの試合、俺ってどういう感じに見えました? 踊る前と踊った後、違うって言ってましたよね」


 煩悩を紛らわすつもりでさっきの試合について訊ねることにした。

 焔の剣舞後の俺は、確かに動きが変わったのを実感している。身体の軽さと熱さ、そして剣技の微かな変化。それらについて実際に剣を交えた舞々子さんからの客観的視点からの意見が欲しいところ。


「そうねぇ、別人……とまではいかないけど、間違いなく大きな変化をしていたと思うわ。あれって閃理くんが前に言ってた先代炎熱の聖癖剣士の剣舞でしょう? まさかあんな効果があるなんて思わなかったわ」


 ふーん……。やっぱり前と後じゃそこまで言わせるくらいに違うみたいだな。これは次に生かせるだろう。

 やはりあの剣舞は戦うための踊りだったんだ。それが今はっきりと分かった以上、これからの訓練の方針も大方決まったようなもの。


 真の意味で焔の剣舞をマスターし、俺の物にする。具体的には常に踊った後の状態でいられるようにすることだ。

 これがディザストに少しでも早く追いつくための絶対必要条件にして今後の課題だろう。今日にでもやるべきことは決まったな。


「ありがとうございます、舞々子さん。さっきの試合で俺、ちょっと自分のやるべきことが分かった気がします。凍原と幻狼にも感謝しないと」

「そう、それなら練習試合はやって良かったわね。私も楽しかったわ」


 ちらりと視線を向けた先にあった時計。時刻は八時を示していた。

 嘘でしょ……。昼食明けて試合再開したのが一時だったから七時間くらい封印ねむらされてたってことか。


 ……ってことは、やべぇ! 今日の家事やってねぇじゃん!?

 晩飯とか風呂の準備、明日の料理の仕込みも今すぐしないと夜練する時間が取れない! うおお、マジかよ。寝過ごしたわ!


「……! すみません、舞々子さん。今日の家事とか全然やってなくて、急いで戻らないと──」

「そんなこと心配しなくても、大体の家事は私がもう全部やってありますから、あなたはここでゆっくりして良いんですよぉ」


 急いで起きあがろうとしたら、また止められて膝枕させられてしまった。もうやった? 俺が眠っている間に? マジですかいな……。


 聞けば舞々子さんは俺が組織に加入する前からちょいちょい第一班に来ては家事を行っていたらしい。道理で家事出来ない人たち閃理とメルの班なのに料理道具や調味料が一通りあるだけじゃなく、洗濯機や掃除用具の全てが揃ってるわけだ。全部舞々子さんのおかげなのだそう。


 じゃあ閃理らの食事とかに関しては安心出来るな。でも家事についてはもう良いが、懸念はまだ続いている。


「あの、そろそろ起きたいんですけど……」

「あら~、別に遠慮はしなくても良いんですよぉ~? おねむする時は一緒に添い寝してあげますし、子守歌も歌ってあげちゃいますよぉ~? ほらほら、遠慮しないで~」


 するとぐいっと身体を動かされて、俺はあっという間に膝枕から寝そべりの体勢にされてしまう。

 あ、あ……なんてことだ……! 今の俺、もしかして蜘蛛の巣に引っかかった蝶的な状況!? 嘘だそんなこと!


「ほ~ら、こうすればあったかい」


 ああっ、密着!? 柔らかくて大きなモノが当たるんだけど!?

 さらに顔も近い! 舞々子さんの大人で母性的な表情と汗の匂いすら感じない芳香が俺を狂わそうとしてくる!


 良い意味10%、悪い意味90%のドキドキが俺を襲う!

 でも嫌だ──ッ、人生初の異性と寝る体験が赤ちゃんプレイにされるのだけはイ゛ヤ゛ァ゛────ッッ!


 悲痛な心の叫びも空しく、舞々子さんは俺の顔をゆっくり撫で回しながら、子守歌を歌い始めていくゥ……。


「いい子いい子ぉ~。ね~んね~んころぉ~りぃよぉ~……」


 うぐぅ、なんたる母性的美声。これで眠らない子供はこの世に存在しないだろう……俺18歳だけどな! 未成年だが子供じゃねぇ!

 ああもうどうしようこれ。眠ったフリでもしてやり過ごしてみるか? でもすぐバレそうだし、その後が怖い。


 誰か助けてくれ~……そう心の中で救いを求めた時──それは起きる。

 ぽすっ、と今度は俺に身体を預けるように寄りかかってくる舞々子さん。今度は何だ……?


「おこ~ろぉりぃ……よぉ…………、すぅ……」

「ん、え? ま、舞々子さん? 自分が寝るのか……」


 そのままとろんとした顔で子守歌の続きを口ずさむが、それもそんなに長く持たず、眠りについてしまった。

 えぇ……どういうことなの。俺じゃなく自分を眠らせてどうするんだよ。これじゃどっちが子供か分からんぞ。


「……ほ、焔衣さーん……」

「その声は……幻狼か?」


 すると、どこからか聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。どうやら幻狼が近くにいるらしい。

 程なくしてスゥーっと透明化を解除して現れる幻影の聖癖剣士。手に持つ偽嘘いつわりを察するに、何かしらの聖癖章を使ったのか?


「舞々子さんがいくら経っても戻って来なかったので、様子を見に来たんですが案の定でしたね……。その、大丈夫でしたか……?」

「赤ちゃんプレイ寸前まで行くところだったけどギリセーフだ。悪いけど抜け出すの手伝ってもらえないか?」


 どうやらそういうことらしい。いやはや、助かったぜ幻狼! あともう少し遅れていればどうなっていたことか。

 がっちり足と腕を絡めてくる舞々子さんの寝相こうそくを引っ剥がして、俺はようやく自由の身になることが出来た。


 ふぃー、なんか良くも悪くも心に残る体験をしてしまったものだ。まだ心臓がドキドキしてる……。


 いや……正直言っておっぱいは柔らかかったし良い匂いもするし無防備な寝顔のエロさたるや、一緒にいるといつ理性と性癖をぶち壊されるかも分からないくらい凄まじいものだった。心の安寧が危ぶまれるから二度目はご遠慮願いたいところ。


「あの人はいつもあんなんなのか?」

「え、はい」

「即答かよ」


 流石上位剣士、期待を裏切らない部下からの評価だ。本当にやべー人なんだな。幻狼らはよく耐えられるもんだぜ。

 それはそうと俺が監禁かんびょうされてるのに使っていた部屋から出て、アジトのホールへと向かう。そこには普通に閃理らがいた。


「調子はどうだ。身体に不調は出ていないか? 脚とか動かせるか?」

「そんな心配はしなくても……」

「封印の権能は剣や意識の封印だけにとどまらず、身体の一部や感覚までも封じることが出来る。だがまぁ……その様子なら大丈夫そうだな」

「え、何それ怖」


 早々に閃理が俺のところまで来て体調を心配してくれる。あとさらりと刃封ばぶうの恐ろしい性質も明らかになったが、幸運にもそれらに該当する症状は出ていない。


 なるほどな。危険視する理由を完全に理解した。そうなるリスクを舞々子さんが知らないわけないだろうし、それを承知の上でガチの封印攻撃をしてきた天然だってことも分かったぜ。


 とにもかくにも、波乱の三戦目を何とか乗り越えることは出来たな。この状況じゃ幻狼との試合の残りは明日ってところか。

 家事もしなくて済んだし、そこはラッキーということで。まぁ、取りあえず一足早い夜練をして俺も休みますかな。


「ああ、そうだ。今日も自主トレーニングをするつもりなんだろう。悪いが運動場は明日まで使えない」

「え゛。ど、どういうこと……?」

「舞々子の暴露撃の余波で施していた聖癖の力が剥がれたんだ。明日はその修復をしなければいけない。すまんが今日は休んでおけ」


 舞々子さんェ……。そりゃ性癖が暴走するくらいこっぴどく怒られるわな。せっかくやるべきことが決まったのに、早々に妨害が入るとは予想出来なかったぜ……。

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