第十八癖『俺の聖癖、闇の魔手』
「……はい、では改めまして──焔衣くん組織加入おめでとう&ようこその親睦兼歓迎会の開催を宣言しま~す!」
「いえーイ!」
かんぱーい! 俺のためにみんなありがと~……はい。色々あったけど親睦会は予定通り開催されることとなった。
いやはや、一時はどうなるかと思ったけど何とかなって本当によかったわ。赤ちゃんプレイされたままだったら悪い意味で忘れられない親睦会になるところだった。
まぁ、今の段階でも十分忘れられない思い出にはなったわけだけども。
「さっきは本当にごめんなさいね。改めまして、私が光の聖癖剣協会日本支部行動部隊第二班の班長を務めている封田舞々子よ。人呼んで“封印の聖癖剣士”なんて言われているけど、普通に“ママ”とか“お母さん”って呼んでいいですからね?」
「あ、はぁ……。閃理、本当に舞々子さんの暴走止まってるの?」
「彼女は昔から甲斐甲斐しく世話を焼く
うへぇ、マジか……。ってか聖癖剣って使い手本人にも影響を及ぼすのは初耳なんだけど。
とにもかくにも舞々子さんはこれで正常らしい。暴走時もヤバいが普段も少なからず危なそうなんですけど。
「それじゃあ──二人もご挨拶をしなくちゃね?」
優しい人から危な優しい人へのイメージアップをしたところで、舞々子さんはテーブルを囲っている内の二人に声をかける。
第二班のメンバーだ。初めに顔を合わせた時は色々あって話せなかったから、改めての紹介だな。
「では私から。“氷の聖癖剣士”こと
「お、おう。よろしく……」
まず一人。赤ちゃんプレイ中は青いおしゃぶりを付けられて無言を貫いていた方の剣士はスッと席を立って手早く挨拶をすると、そのまま座り直して食事に戻った。
歳は俺と同じくらいか? 口調こそ丁寧だがムスッとした表情と冷たさを彷彿とさせる態度のせいで好印象を抱きにくい。あまり仲良く出来るイメージが思い浮かばないな。
「もう、青音ちゃんは素っ気ないんだから……。こんなでもあなたのことはきちんと歓迎してるつもりだから、あんまり気にしないであげてね?」
分かってますよって。氷の聖癖剣士の異名通り、さっき舞々子さんの動きを止めるために冷気を放ったのは凍原だってのは分かっている。剣も心も冷め切った人間じゃないのは確かだろう。
「ほーら、
舞々子さんが傍らの幼い剣士に挨拶を促したと思ったら、一瞬にしてそれはイスの姿に変貌……いや、正体を現した。
そういえばさっきの布巾もモモンガの姿になっていたな……。これも聖癖剣の能力か?
「ごめんなさいね。幻狼くんは人見知りであんまりお話が出来ないの。いつも剣の能力で
「幻……?」
二人目はそもそもコミュニケーションを拒否するというある意味凍原より酷いものだが、あいつが布巾を投げつけなければ
んで、当の本人はというと凍原の後ろでコソコソと隠れながら俺をちらちらと見てきている。
いや、一目見た時から何となく思ってたけど、もしかして俺よりも年下ってか子供? それくらい幼い印象を受けるんだが……。
「
「あっ、なるほど……」
当人のことが何も分からないままの俺に閃理が説明をしてくれる。ははぁ、どうやらあんな性格なのはそういうことが絡んでるかららしい。
俺とて空気の読めない人間じゃない。聞いちゃマズい話の一つや二つくらい見極めは出来るから、言われた通り無闇なコンタクトは控えておくことにする。でもまぁ、とりあえず……。
「えっと、幻狼。よろしくな。あとさっきは助けてくれてありがとうな」
「…………うん」
挨拶したら小さく頷いてくれた。なんだよ、きちんと返事を言えるじゃねぇか……。凍原よりかは仲良く出来そうだ。多分。
ふむ、これで第二班のメンバーは全員だな。舞々子さんを筆頭に凍原と幻狼の三人で構成された少数編成。
第二班は俺たち第一班と目的は大体同じらしい。剣の回収、人員のスカウト、そして闇の剣士との戦い。マスターからも仲良くするよう言われてるから、末永い付き合いになることを願ってる。
紹介し合いっこはここまでにして、気を取り直して食事に戻る。
いやぁ~、とにかく料理が美味い! 本当に美味い。これだけのために舞々子さんの暴走を止めた甲斐があったってもんよ。
「メルちゃん、お肉ばっかりは駄目ですよ。お肌に悪いし、ただでさえあなたと閃理くんは不摂生な食事になりがちなんだから。好き嫌いしちゃいけませんよ」
「メル、野菜嫌イ。料理なら焔衣、出来ル。焔衣が栄養あるの作ってくれル。
「俺を話に巻き込むなって……」
肉料理にがっつくメル。それをたしなめつつサラダを食べることを促す舞々子さん。そして都合の良い言い訳にされる俺。こっちもこっちで賑やかだな。
そして、テーブルに並べられている数々の料理も少なくなってきたところで、舞々子さんは一度ダイニングルームへ移動。そして、ある物を持ってくる。
「は~い、みんなお待たせ~。食事の後は私特製のケーキを食べましょう~」
「やっタ──!」
この報にはメルも大興奮。いよいよお楽しみのデザートの登場だ。そう、先ほど悲劇的な目に遭ってしまったあのケーキの再来である。
しかーし、まさか舞々子さんともあろう人物が一度床に落とした物を人にお出しするような人だと思うか? その答えは否だ。
なんとあの後再びケーキを焼いて可能な限り最初のと同じ飾り付けを再現してくれたのだ。なんてフィジカルさ……これが上位剣士たる者の実力か。
「舞々子。別にそうわざわざ作り直さなくても聖癖章の力で修復は可能だったんだぞ? 何故そうしなかったんだ?」
「もう、閃理くんは分かってないわね。お料理っていうのは愛情と手間を込めれば込めるほど美味しさに繋がるのよ? それに聖癖の力で直した物でも一度床に落ちちゃった物を人に出すわけにはいかないわ。私がそれを許せないのよ」
曰く、また一から作り直したのは舞々子さんのプライドというかポリシーというか、彼女の信条が聖癖による修復を好まなかったからだそう。
ほんと、すげぇ人。日本一の称号を持ってることも頷ける。
「あ! そうだわ。聖癖章で思い出したのだけれど、焔衣くんにプレゼントがあるの。青音ちゃん、持ってきてくれないかしら?」
「分かりました。では少し席を外しますので」
「俺にですか?」
ケーキを切り分けてる途中に舞々子さんはあることを思い出したようだ。
それは俺へのプレゼント。いや、歓迎会も含めた親睦会だからもしかして何かくれたりするんじゃないかなーとは思ってたけどさ。
「ふむ、そういうことか。では俺らからも一つ送ろう。メル」
「はいはーイ」
凍原がプレゼントを取りにどっかへ行った間に、閃理らも便乗して俺に何かをくれるみたいだ。剣士になった初日にスマホを貰ってるが、それとはまた別の物をいただけるんですか!?
するとおもむろにメルは自身の服の袖に付いていた聖癖章の内一つを取ると、そのまま俺の方へと投げ渡してきた。
黄色と褐色のカラーリング。これはメルの聖癖剣と同じ聖癖と属性を持つ『褐色聖癖章』だ。
「え、これメルの聖癖章……いいの?」
「いイ。どうせ同じの作れル。でも、大事に使っテ」
マジかぁ。そういえば俺聖癖章一個も持って無かったわ。お下がりとは言えこれはありがたいし素直に嬉しい。
俺もいつぞやの戦いみたいにコンボを駆使して敵と戦えるようになるのかなぁ……。ちょっとわくわくしてきたぞ。
「お待たせしました。では焔衣さん、これが私たちからの餞別となります。どうぞ受け取ってください」
思いの外早く戻ってくる凍原。小箱を持って俺の側に来ると、それを渡してくれた。
中にあるのは案の定聖癖章。ふむ……黒灰色で獣の姿のエンブレムが描かれた物と、透き通った青色をした氷を思わせるエンブレムの二つ。はて、これらは何の聖癖と属性を兼ね備えるのか。
「これは私の聖癖剣【
「クーデレに擬獣化……これはこれでまたスゴい性癖だな……」
てってれー、俺は新しい聖癖章を二つ追加で手に入れた!
どうやら第二班の剣士が持つ剣から作った聖癖章がプレゼントの模様。これで俺の聖癖章は三つとなった。
うん、初期装備として十分な数なんじゃないか? 使いこなせるかどうかは今はまた別の問題として。
「皆ありがとう。俺今スッゲー嬉しい気分だ。これ全部大事に使わせてもらうから」
「やっぱり聖癖剣士たる者、聖癖章は持って置かなくちゃね」
「ああ。焔衣、次からは聖癖章を使った訓練も追加しよう。こればかりは手加減はしないからな」
「うへぇ、マジですかいな……」
ここにいる全員に俺からの感謝の言葉を伝え終え、閃理からあんまり嬉しくないお知らせを聞いたところで二代目のケーキを皆で頬張る。
作り直しとはいえめちゃくちゃに美味いんだが!? これが舞々子さんが信条とする愛情の味ってやつか。う~ん、これはパクパクですわ!
と、ケーキをあらかた食べ終え、会もそろそろお開きかといったところで俺はふと思う。
聖癖剣から聖癖章が作られるのなら、もしかして俺の
…………ちょっと気になる。やり方とかわかんないけど──あ、先代の記憶にやり方あったわ。こっそりやってみるか。
側に立てかけておいた
ま、なんでもいいや。うん……その二つをイメージをしながら一つの塊を頭の中で想像する。おお、なんか持ち手が熱くなってきた。
「む! 焔衣、お前まさかここで聖癖章作るつもりか!?」
「まぁ、それは大変。青音ちゃん、幻狼くん、急いでテーブルを移動させて! メルちゃんは結界を貼れる聖癖章を使って!」
「えっ、駄目だった? ……って、あれ!? と、止まんない!?」
案の定
これそんなヤバい感じのやつだったん? あ、生成を中断しようとしても全然剣が治まりそうもないや。むしろ熱がどんどん増して行って炎まで出始めてる!
オイオイオイオイ、どうしよう!? これどうしようか!?
「くっ、焔衣! やってしまった以上は仕方ない。失敗だけはしてくれるな。特にエレメント系の権能は失敗した時のリスクが大きいからな!」
「なにそれ!? 失敗ったって……ああもう、どうにでもなれッ!」
これもしかして生成に失敗すると大爆発するタイプのアレって認識でいいのかもしれない。あー、もう俺って本当バカ。しっかり記憶を遡って危険性を熟知した上でやりゃあよかった。
だがやっちまった以上はとにかく全集中。わざわざテーブルをどかしてもらってるんだから、失敗も出来ねぇ。
イメージイメージ……
「はあああァァァッ……!」
低く唸るように集中力を高めつつイメージを込めていくと、輝く剣にも変化が。
エンブレムから炎のような物質が放出されると、それは次第に固形となって形を作り上げていくのが見えた。
なんだか剣士になった日の時を思い起こされるな。身体から引き抜いた直後は鍔とグリップだけだった剣が、周囲の炎や熱を吸って刃を生み出す光景は今も脳裏に焼き付いている。
しばらく集中し続けていると、炎の塊だったモノは艶を持ち始め、真の意味で一つの実体となる。もしかして成功か?
宙に浮かぶそれに触れてみると、めっちゃ熱いけどギリギリ触れなくもない程度の熱さだ。ってかデカいな!? 実際に持つと掌からはみ出るくらい大きいぞ!?
「……えっと、これ成功ってことでいいの?」
「驚いたな……。初見で生成に成功させるとは思わなかったぞ」
おそるおそる訊ねてみると、閃理が成功したことを教えてくれた。ほっ、良かった~。
一瞬どうなるかと思ったが、最悪な事態に陥ることもなく済んで安堵しておく。
「焔衣くん! 一発で生成に成功したのはすごいことだけど、誰にも言わずいきなり生成に挑戦するのはいけません! 失敗すれば周りに被害が出るんです。気をつけてくださいね」
「は、はい……。すみませんでした……」
しかし、やはり聖癖章の生成というのは相応に危険を孕む行為だったようで、普通に舞々子さんに叱られてしまった。
聞くと生成に失敗すると剣に宿す属性が暴発してしまうとのこと。
いやはや、でも成功して良かったわ~。第二班の基地を吹っ飛ばすようなことにならなくて何より。完璧なやり方を残してくれた先代の記憶にも感謝しなきゃ。
今回のことについてはしっかり反省しつつ、出来立てホヤホヤの聖癖章を改めて見る。
掌にギリ収まりきらない程の大きさに燃えるような赤色。そして
俺が作った最初の聖癖章。出来映えは良い方じゃないか?
「にしてもなんで俺の剣から作った聖癖章はこんなにデカいんだ? メルらがくれた物の二倍はあるんだけど」
「当然だ。
スッと懐から取り出される閃理の『メスガキ聖癖章』、そして同じく舞々子さんも『バブみ聖癖章』を見せてくれると、確かにその大きさはツンデレ聖癖章と同じくらいだった。
なるほどねぇ。十聖剣……まさか
「ま、なんであれ
そりゃそうだ。闇の聖癖剣使いの剣士だって使ってるのは
ちょっとしたトラブルこそいくつか発生してしまったが、無事に親睦会は閉幕。片付けを終えた後、俺たちは今日を終えるために第一班のキャンピングカーへと戻る。
そんな日の夜……、俺はトイレしに部屋を出たら、ダイニングルームに明かりが点いていることに気付く。
誰だ? まさかメルが夜中に間食をしてるのではあるまいな? 俺は第一班の家事担当を任されている身、無視は出来ない。
そーっと気付かれないようにドアを僅かに開けて中を確認。いたのはメルではなく、閃理と舞々子さんだった。
閃理はともかく何故ここに舞々子さんが? ……まさかとは思うが、いい歳の男女が二人……何も起きないはずが無くってやつ?
「……それは本当なんだな。“龍の聖癖剣士”と遭遇したというのは」
「ええ。それだけじゃなく、挙動も少しだけ不自然に感じたわ。どうやらある人を探してるみたいで──」
「……龍の聖癖剣士?」
な、なんかすげぇこと話してる。龍ってあの
そんな明らかにヤバそうな剣士と舞々子さんらが遭遇したって話らしい。多分じゃなくても、そいつは絶対強敵なんだろうな……。
「焔衣。盗み聞きは良くないな。こっちに来たらどうだ?」
「そりゃバレるよな。ごめん、またメルが盗み食いしてるかと思って……」
「まぁ、メルちゃんったらまだその癖直してなかったのね。いけない子ねぇ」
案の定存在を勘付かれていたため、俺は素直に投降。盗み食いの監視ってのもあながち間違いじゃないから許してほしいな。
にしても二人の話も気になるところ。よければ俺にも話してほしいんだけど。
「閃理、今の話ってどういうこと? 龍の聖癖剣士って……そんなにヤバい奴なの?」
盗み聞きしてる時、俺は閃理の声にかすかな変化が起きていることを理解していた。普段よりも僅かに低い声での会話────真面目な話をする時の閃理のしゃべり方だ。
相応に真面目な風を装って俺も話に混じる。剣士である以上、いずれ耳にする話なんだから今聞いたっていいかもしれない。
これに対し閃理は、短い沈黙をしてから話の続きを聞かせてくれた。
「……ああ、
語られる内容。俺はそれを固唾を飲んで聞き入る。
俺らが敵対する組織が誇る最強の称号を持つ剣士──十聖剣を持つ者にそこまで弱気を言わせるような強大な敵の話を。
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