第十四癖『剣士の長、謁見されたり』
そして時は経ち──冬休み前の追試をなんとか合格し、無事高校生活最後の冬休みを迎えた俺。
表上は就職という形で卒業後の進路を決定した俺は今、まさに自由の身であった。
とは言っても実際のところそこまで自由と呼べるような状態ではない。理由は言わずもなが。
『えーっと……それで、彼が【
「は、はいぃ……」
『まさかあの剣が見つかるとは。我々も長生きするものですな! はっはっは!』
『左様。先代炎熱の聖癖剣士の失踪と同時に行方不明となった代物が再び我々の前に現れた。それも闇の手にも奪われることなく。幸運という他ないだろう』
『それだけでなく、
俺は今、複数人にもおよぶ如何にもお偉いさんな雰囲気のご年輩のホログラムに囲まれて尋問……もとい面接的なアレを受けている。
どうしてこうなったかというと、前に閃理が上への報告は任せろ、みたいなことを言い、その通りにしたら相手側が食いついてきてとんとん拍子に物事が進んでいき今に至るというわけだ。……いや、まぁこうなるだろうとは薄々勘付いてはいたけどさ。
「焔衣、あまり緊張するな……といっても難しいだろう。とにかく元老院の面々から問われた内容をしっかり聞いて、返答するだけでいい」
「うう……。こういうのはどこ行っても同じなんだなぁ……」
すぐ後ろで閃理がフォローをしてくれるけど、無理なものは無理よ。だって国籍性別問わずの十名が俺をぐるりと囲って色々話してくる。緊張するなっていうのが難しいわ。
元老院……聞く話によると、世界のどこかにあるという光の聖癖剣協会本部に在籍する最高位階級集団。言わば組織のリーダー的な存在であり、この人たちの考えに基づいて組織は運用されている。
当然だが毎度新しい聖癖剣士が増えるたびにこうして面接的なやつをしているというわけではない。俺の剣【
何故……? いや、もうまったく以て分からない。
『諸君、静粛に。新たな剣士が何も言えないだろう。我々はただ彼を威圧するためだけに集まったわけではないのだからな』
するとざわざわと沸き立つ場を治める者が。
数いる元老たちの発言を一言で抑えたこのご老人。ああ、始まる前に閃理から聞いている。あの人がこの中で……というか組織全体を見て一番偉い人になる。
名前を確か“マスター・ソードマン”。二つ名みたいだが、何やらそういう感じの名前らしい。
見た目は異様に長い白髪にこれまた付け髭みたいな長髭を蓄えた如何にも仙人か神話の神様みたいな風貌で、色々とやばさが伝わってくる。これ、下手に物言ったら打ち首獄門にされそう。
内心恐々としてる俺。しかし、そんなことは構わず、そのご老公……もといマスターは粛々と話を続ける。
『それで、焔衣兼人……であったか。何故にお主は自分がその剣を持っているのか分かるかね?』
「そ、それは……えっとその……。お、俺自身もあんまり分からなくて……、昔家にあった倉庫から見つけ出して、それで身体の中に剣が入ってそれで……」
た、助けて! 俺今猛烈に吐きそう! もうあれだ、内臓が口から飛び出てしまいそうだ!
相手は非公開組織の長。他の元老院メンバーにさえそうなのに、そんな方を相手にして緊張しないわけがない。
しどろもどろになりながらも閃理に言われたことを守って質問にはしっかりと答える。
やば……上手く説明できねぇ。相手に失礼してるのでは!? そう思ってしまって上手に口が動いてくれない。
ちらっと真っ直ぐ向こう正面にいるマスターを見やると、黙って俺の方を見てきている。うん、この中で一番威厳のあるお方だ。緊張で死にそう……。
『……ふむ、まぁ詳しい話は光の聖癖剣士から聞いておる。お主が剣を体内から取り出した、というのは間違いないのだな?』
「は、はい……」
するとマスターは深く唸り始める。それに伴って、他のメンバーらも俺が
確かに閃理も普通はありえないみたいなことを言ってたし、やはりかなりイレギュラーなことなんだろう。
『なるほど。では焔衣兼人よ。我々がお主を剣士として認める前に、まずお主が本当に剣に認められているかの証明をしてみよ』
「しょ、証明……ですか?」
すると、マスターはいきなり俺へ無茶ぶりをかましてくる。
剣に認められていることの証明……。え、なんで? だって剣士として剣側から認められていることは伝わってるはずだし、やる必要性は何処へ?
分からない。この人たち、分からない。いや、でもお偉い方の前で無礼も恥もかくわけにはいかん。ここは取りあえずやるしかない。記憶から何かしらのヒントを探ろう。
俺はすぐ側に立て掛けていた
さぁ、考えろ俺。今俺が出来て、なおかつ元老院の面々を認めさせる何かをする。やろうと思えば、きっとどうにでもなるはずだ。
思い出せ、先代の記憶。クラウディの時も俺を救ってくれた数々の記憶から、今の危機を乗り越える方法を探れ!
「……──ふぅぅ」
『……ふむ』
『まだかのぅ』
『何をするつもりなのかしら』
いや気持ちは分かるけどもう少し静かにしてくれー。あともうちょいで何か掴めそうなんだからさ。
そう、記憶を遡ってヒントを探る中、何かピンと来るものを見つけた。それの鮮明な記憶を今捜索中だ。
剣と言えば戦うための物。だけど、次第に剣は槍や弓に出番を取られ、最終的には銃や戦車などの兵器へと役目を譲った。
ではその剣はどうなったか。記憶の中にはいくつかの用途がある。一つは聖癖剣使い同士などの戦いに使うこと、そしてもう一つが──
「────はっ!」
『むっ! それは……』
俺は記憶が導く通りに舞った。剣を振り、ジャンプやターンなどを駆使してその場で踊って見せた。
そう“剣舞”だ。剣を使った踊りを再現して、俺の素質と認められていることの証明をする。
どうやら先代もこの舞をやっていたらしい。記憶が見せる限りでは戦う前に自分自身を鼓舞したり、祝いの場で披露したりと色々してたみたいだ。
『マスター、これは……!』
『ああ……あの舞だ。もう拝むことはないだろうとは思っていたが、まさかここで再び見ることになるとはな……』
なんかマスターたちは感動してるのだろうか? でも今はそんなこと気にしていられねぇ。
何せ記憶を思い出しながら身体を動かしてるんだ。しかもここから踊りは格段に難易度が上がるから、とにかく必死に食らいついていく。
そして踊ってる内に
これも剣舞の内容通り。燃える炎と剣士の剣身一体の舞いは、記憶の中の先代も美しく踊りきっていた。
俺もそれを目指して一心不乱にとにかくダンス! 目指せフルコンボ。クリアまであともうちょい──だった。
ガッ! という音が俺の足下で聞こえた。その瞬間、俺の身体は何かによって躓かされていたのだ。
「ぐぅぇっ!?」
そしてそのまま後ろ方向へ向けて一回転するように転倒。剣も手放してしまい、剣舞も強制終了。沈黙が一気にこの場を支配する。
や、ややや、やっちまったァ──!! お偉い方の前で椅子に躓いてド派手に転んでしまったァ──!
「…………ッ!?」
「…………」
キリキリと首を動かして閃理の方を向くと、両目をひん剥いて濃いめの顔を青くして今にも倒れそうな表情を浮かべてた。
あー、分かりましたわ。私分かりましたわよ。せっかく記憶の中の打開策を実行したけど、結局ぶっつけ本番したのがいけなかった。
終わりだ。────これまでか、つまらねェ。
……いや、楽しませてくれたと言うべきだろうな、この聖癖剣士という新たな人生を一瞬でも感じさせてくれたことに。
さぁ、俺の最後の使命は何だ──そう覚悟を決めた時だ。
『──くくく、ふっはっはっはっは!』
「……えっ?」
唐突に響く大きな笑い声。誰か──なんてことはない。それはマスター・ソードマンの声であることは間違いなかったからだ。
『はっはっはっ。柄にもなく笑ってしまった。これは良い物を見せて貰ったな。古い友人が考え、そして誰にも継承されないまま途絶えたと思っていた剣舞をよもや再び拝むとは思わなかったからな』
『左様。先代炎熱の聖癖剣士の舞いは我々にとって非常に縁のあるものだ。あの舞を継承しているという証拠がある以上、彼を剣士にするべきでしょう。私は認めますとも』
『懐かしかったわぁ。拙い舞でしたけど剣士だった頃の記憶が甦らせてしまうほどですもの。私も彼が次の聖癖剣士であることを承認致しますわ』
そして続々と元老院のメンバーらが俺の剣舞を見て懐かしんだという旨の言葉を口にしていく。
これには俺も、側にいる閃理も間抜けな顔して呆然とする。剣舞の失敗を咎めることはなく、ただただ褒めるのだから逆に怖くなってくんですが。
でも、これで良かった……のか? 踊りの出来はともかく元老院の面々には好感触そうだ。ちょっと一安心。
『ふふふ、老いぼれの我が儘に応えてもらってすまなかったな。ああ、マスター・ソードマンの名の下において、お主を新たな炎熱の聖癖剣士として認めよう。今後も剣士としての務めを果たすように』
「あ、ありがとうございます!」
どうやら俺のことを正式に認めてくれるらしい。あー、緊張した。
無事にこの面接を乗り越えることが出来たようだ。一瞬もうダメかと思ったが、奇跡に救われたな。
そういえば先代っていつ頃の時代の人なんだろうか。記憶の中では少なくとも二十年前よりも古いのは背景などから分かっている。
剣舞を懐かしんだ元老院の人たちも見た目は70~80代くらいにも見えるし、もしかして半世紀近く前の人なんだろうか?
……いや、それを考えるのはまた今度にしよう。今はとにかく目の前のことに集中しなければ。
『閃理よ。所属については書類に記載されている通りで良いのだな』
「はい。日本支部の行動部隊第一班への帰属となります。新人教育などは全て私が担当し、剣士としての育成を行います」
『うむ、ではそういうことだ。焔衣兼人よ、お主は高校卒業後、彼の部下として一人前の剣士になる修行も兼ねた聖癖剣の回収や闇の聖癖剣使いの撃退等の任務を受けてもらう。もう一人の所属剣士や別行動中の第二、第三班とも仲良くするように』
やはり俺の所属先は閃理のところらしい。それは俺としても大歓迎だ。見ず知らずの班に就くより全然良い。
これから俺の新しい人生が始まる。内心少し興奮している俺は、ついマスターに向かって意気込みを口にしていた。
「はい! 俺、剣士としてこれから頑張ります。まだ本格的に剣士になったわけじゃないですけど……でも俺は先代から受け継いだこの剣に誓って、組織に誇れる剣士になってみせます!」
そしてマスターはフッと笑みを浮かべると他の元老院メンバー共々ホログラムを消失。これで面接は終了した模様。
ああー、緊張した。興奮から無礼なことを言ってないよな……? そこはかとなく心配だが今はこれで良しとする。
「ふぅ、冷や冷やさせてくれるな、お前は」
「ごめんごめん。俺も一瞬どうなるかと思ったけど、結果的には何とかなったしセーフセーフ。閃理だって俺が転ぶこと分かってたなら椅子くらい引いても良かったんじゃないの?」
お偉い方が退席してホログラムを投影する機材だけが置かれた運動場。そこで閃理と緊張の時を過ごしたことの安堵の会話をする。
流石の光の聖癖剣士もマスターの前で転けたのは肝を冷やす出来事だったらしい。
でも
「それがだな、マスターの前では
「そうなんだ。ホログラムであっても剣はマスターの前じゃ何も出来なくなるんだなぁ」
意外な事実を聞き、また一つ仲間のことを知れたな。誰に対しても小生意気に色んな物事を教えてくれる
やはり光の聖癖剣協会の長なだけある。その威厳で聖癖剣でさえも容赦なく黙らせるとは恐れ入った。
「閃理ー。面接終わっタ?」
「メルか、今丁度終えたところだ。何かあったか?」
そして俺の面接が終わったのを見計らってか、メルが運動場にやってくる。片手にスマホを持って、誰かと通話中のようである。
「舞々子から電話。閃理の携帯繋がらなかったからっテ」
「そうか。電源落としてたからな。すまん、借りるぞ」
「舞々子……?」
はて、どこかで聞いたことのあるような無いような名前。その人物から閃理への着信だという。
うーん、なんか思い出せそうだ。ええと、先月辺りに聞いたことのあるような……。
「俺だ。ああ、すまない。今マスターと新人の面接をしていてな。……ああ、やはり
なんか話が弾んでるみたいだなぁ。怪しいワードが多々見受けられるが、それはそうと閃理も笑みを浮かべて楽しそうに話してる。
舞々子……あ、そうだ思い出した! 前にメルが言ってた、確かその人は──
「焔衣。舞々子がお前と話してみたいそうだ。代わってやってくれ」
「え、俺に!?」
その人がどんな人物か思い出した時、閃理が俺に携帯を渡してきた。どうやら通話先の相手が俺との会話を望んでいるらしい。
マジで? いやぁ緊張するな。マスターから第二第三班とも仲良くするようにって言われてるし、他に反発する理由も無いので電話に出てみる。
「も、もしもし……?」
『あら~、あなたが新しい剣士? 初めまして、私は
「あ、はぁ……。よろしくお願いします」
な、なんか随分とおっとりとしていて優しそうな口調だ……。この人が本当に日本で一番強い聖癖剣士なのか? なんというかビシッとした厳しい人だと思ってたんだけど、実際はイメージとかなり違う。
いや、人を口調で判断してはいけない。生活がずぼらな閃理とメルだって強いんだから、そんな考えに至るのは早計だ。
しかし第二班の
『噂は聞いてるわ。初めて剣を取ってクラウディを瀕死にまで追いつめたって。閃理くんも隅に置けない子を探し出すものね。少し妬いちゃうわ~』
「い、いえ。俺が勝てたのは
『ふふふ、謙遜なんかしちゃって。才能の有無なんて自分自身じゃそうそう自覚出来ないものよ。例え剣の力に頼った結果であったとしても、その力を引き出したのは紛れもなくあなた自身。もっと胸を張って良いわ』
やばい、別の意味で泣きそう。こんな俺のことをめちゃくちゃ肯定してくれる人が閃理らの他にもいるだなんて、世の中捨てたもんじゃないな。
封田舞々子……いや、ここは舞々子さんと呼ばせていただきたく存じ上げます。ありがとうございます……!
思わず涙ぐんでしまいつつ会話はそこそこに続く。そして、最後に舞々子はある提案をしてきた。
『そうだわ。焔衣君が剣士になったら今度皆で歓迎会も兼ねた親睦会をしましょう! 第三班も呼んでパーティーをするっていうのはどうかしら?』
「パーティーですか……あっ」
「焔衣、ちょっとすまん。おい舞々子、横から聞いていればお前また勝手にそんなことを……」
舞々子さんが俺のためにパーティーを開きたいと考えを口にした途端、閃理が通話途中にも関わらず俺からスマホを奪って話を代わる。
パーティーか……。別に良いんじゃないの? 俺自身もそういうのはかなり久しいし、俺のためにってんなら断る理由もないが。
何か懸念していることでもあるのか、あまり親睦会に関して良い顔をしない閃理。
まぁ、俺が剣士に正式に登録されるのは来年の四月からだし、四ヶ月弱も期間がある以上はすぐにレッツパーリィは出来ない。その間に計画がおじゃんになる可能性だってあるだろうしな。
「
『あらあら、それもそうねぇ。うーん、あの時は私もお手上げだったから、二の舞を踏むわけにはいかないわよね。本当は私の手料理を食べさせたかったんだけど、仕方ないのかしら』
──いや心配してることってそっち!? ってか心盛さんって誰!?
話の途中に知らない人の話を持ってくるんじゃないよ、俺がついていけないだろうが!
とまぁ、なんであれ閃理も親睦会自体を否定しているわけじゃなさそうなのは何より。やったぁ、食べ放題の店で美味い飯が食えるぞー……四ヶ月後の話だけどな!
そんなこんなで第二班のリーダーとの通話は終わり、さっさと機材を片付けて俺は自室として与えられた部屋へ行く。
うん、改めて見回すと結構広い部屋だ。俺の家にある自室より一回り以上も広く感じられる。流石古くからある組織が所有するだけはある。
そして、インテリアに飾られている剣置きに
「
そっと
先代が凄腕の剣士だったというのは過去の記憶とマスターら元老院の面々が証明している。そんなすごい人物の剣を引き継いだことは正直プレッシャーなんだけど、それでも手放すなんて考えられない。
親友のことを忘れず、でも過去を後悔し続けて自分の人生を損するような真似もしない。ただでさえ俺は高校の修学旅行をキャンセルしてるんだから、これ以上の損失は真っ平ごめんだぜ。
「
その言葉に心なしか
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