第4話 終わりの2日目

8月4日

 家の掃除、犬の世話など一通り終え、葬儀場へ向かう準備も終わった。あ、やばい、昨日ハルと電話してたんだっけ。そういえば寝落ちしたんだっけな。怒ってるかな。

「ごめん、ハル。せっかく電話くれたのに寝落ちしてた。怒ってる?」

「もうショウちゃん!どうしたのよ!一体何があったのよ!」

ん?そんなに怒ることか?ハルはあまり怒らない性格だが、結構な圧と共に話を続けた。

「ショウちゃん、泣きながらハル、ハル、ってハルの事を呼び続けてたのよ?ハルが何言ってもずっとよ?」

「え?」

何も覚えてない。まあ、それもそうか、僕も自殺に対して腹をくくってたところだもんな。ハルには正直に打ち明けようかな。

「ごめん。実はね、昨日弟が死んだんだ。バーベキューから帰った後、夜中にさ。」

「それほんと?」

「うん。昨日が通夜で今日また葬儀場に行って告別式なんだ。色々あって疲れてたんだと思う。」

自然と涙が出てきた。誰かに話せただけでも少し楽になった。それから少し話した後、電話を切ろうとしたがハルが話した。

「今日1日の中でショウちゃんは色々な後悔をすると思う。ショウちゃんがしっかりしないと大和くんは悲しむと思う。そんな時だからこそ、何か一つだけでもいいから幸せな気持ちになる写真を撮ってハルに送ること!」

ハルらしいな。思わず微笑んでしまった。

「行ってきます。」

 相変わらず人が多い。葬儀場のスタッフさんがかなりテンパっている。ハルからの電話で何か変わったのかな。簡単に涙が出てくる。大和の顔をみただけで、止まらない。触れるとかなり冷たくなっている。人はこんなにも冷たくなるもんなんだな。告別式も終わり次は火葬場へと移動する。大和、こんなにも人が来て疲れてないかな。久しぶりに会った友達もいるだろうに、照れていなかったかな。なんて考えたら間も無くもうすぐ骨だけになるんだな。もう本当のお別れだ。涙がいつまでも止まらない。沢山の思い出が頭をよぎる。ふざけ合って、笑い合って、喧嘩して、どんな時でも話が合うのは大和だけだった。最後に話したのはなんだっけな。晩御飯を食べている時に言ったことだったかな。野菜をちゃんと食え。これだ。少し喧嘩しかけたな。もし、最後って分かってたなら、何を話してたんだろう。もし、ご飯を一緒に食べるのをこれが最後って分かってたなら、味音痴の僕が何か作ってあげてたかな。笑った顔を見るのが最後ってわかってたなら、僕はそれを写真に収めるはずだ。もう何を思ってもどうにもならない。だめだ。こんなのおかしい。たった1人の弟だよ。

「ごめんね、何もできなくて。ごめん…。」

 火葬中、僕はずっと扉の前に立っていた。熱くて痛いだろうな。早く終わってくれ。心の中でずっとがんばれと言い続けた。意外と早く終わったが、僕の知っている大和はいなかった。変わり果てた姿に僕は初めて膝から崩れ落ちた。焼く前、もっと触れていれば良かった。僕はスタッフさんに冷めた骨を選んでもらい食べた。人の骨ってこんなにパサパサしてるんだ。僕の咀嚼音が静かなホールに響いた。大和、ずっと一緒だよ。

 帰り道に気づいた。ポツンと浮かぶ一つの雲。なんだろうか。大和を思い浮かんだ。さっき別れたばかりなのにもう会いに来てくれたのか?

「大和、そっちはどうだ?」

僕はなんだか嬉しくなった。

 家につき庭でタバコを吸っていると、父も庭に出てきた。

「大和に彼女がいただろう。」

「うん。」

「子供ができたらしくてな、でもあいつまだ学生だろう。彼女さん側は中絶すると言っていたそうだ。」

あ、なんだか予想がつく。大和のことだ。昔から何かと命についてシビアな考え方を持っていた。

「天国でその中絶した自分の子供を育てたいから自殺を選んだんだろ?」

「なんだお前、知ってたのか。誰から聞いたんだ?」

やっぱりか。気が晴れた。

「いや、そこまで聞いたら予想つくよ。弟なんだから」

おい大和、みんなを悲しませたのは許さない。だけどお前、カッコ良すぎる。なんでだろう。何故か納得している自分がいる。けど悲しみだけは消えるはずない。弟が大好きだった僕からしたらこれとなく悲しい。何百個の考えが頭を駆け巡るが、僕もそっちに行きたいという気持ちがなかなか消えないんだ。やっぱり少し考えよう。大和と同じ場所、同じ時間、同じ方法で。

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