第3話 終わりの1日目

 電話が鳴った。父からだ。

「大和はもう葬儀場にいるから、お前も準備したら来てあげてくれ。」

僕は犬のためにクーラーをつけて、カーテンを閉め、電気をあらかじめつけた。今日も遅くなるだろうな。家を出る前にヤマトの部屋を覗いた。いないって分かっている。でも、ちょっと前までいた場所だ。当たり前と言う概念さえないくらい当たり前だった。それがなくなった。不思議な気持ちだ。悲しくはない。涙も出ない。ただ、よくわからない気持ちだ。

 家から車で10分ほどの1番近い葬儀場だ。僕が着くのと同時にタクシーで父方の祖父母も葬儀場に着いた。涙目でタクシーから降りてきた。さすがに人生の大先輩だ。取り乱すことなく、僕たちの心配をしてくれた。

「翔太よ、お前は大丈夫か?」

「うん、なんとか。」

「いつでもなんでも頼ってね。こんな時こそみんなに頼るもんや。」

 葬儀場に入ると、ロビーで母が放心状態になっていた。父は葬儀場に来てくれた身内の世話をしていた。

「父さん、荷物多めに持ってきたよ。歯ブラシとか着替えも。」

「おう、ありがとう。大和はそこの部屋にいるよ。」

僕は祖父母とその部屋に入った。

さっきまで涙目ながら平然を保っていた祖父母も流石に死んでいる孫を目の当たりにし、膝から崩れ落ちていた。

 葬儀場のスタッフから話があった。予定的には今日通夜を行い、明日告別式との事だ。淡々と話すスタッフ。返事をする涙声の父。ただ呆然とする僕。別れまでが早すぎる。こんなにあっけないものなのか。残酷さが心にしみた。僕は弟の携帯を使い、最近弟が連絡を取っていた友達にメールを入れた。通夜と告別式に参加してほしい。よかったら仲の良い友達も誘ってやってくれと。大和は昔から友達想いの祭り男だった。だから最後は大和を大和の友達に囲ませてやりたかった。

 通夜も無事終わった。でも葬儀場のスタッフさんに謝りたかった。通夜に300人ほどの大和の友達が駆けつけてくれた。明日の告別式に参加してくれる人は400人を超える。僕はとても嬉しかった。あいつはこんなにも沢山の人たちに見送られることになるなんて。自慢の弟だ。

 その夜、犬の世話もあるので僕は一度家に帰ることになっている。

「大和、兄ちゃん一回帰るよ。また明日来るからな。」

大和に一声かけて後にした。

 家に着いたが、何も知らない犬はやっぱり僕に飛びついてきた。ご飯を食べさせ、僕は風呂に入った。さっぱりして後は寝るだけだが、何か違う。何故かとても怖い気持ちだ。なんだこれ。何か襲ってきそうな気持ち。そう、後に診断されるがパニック障害になっていた。自分の部屋には怖くて行けずにいた。トイレにも怖くて行けない。電気も怖くて消せない。一体なんなんだよ。犬だけがよりどころだ。テレビもつけっぱなしで、頑張って寝ようとした。気付けば夜中2時。寝れない。もう流石に疲れた。怖い。僕も死んだらそっち側に行けるかな。大和と同じ場所でまた一緒に笑えるかな。あと5分ぐらいしたら大和が自殺した場所へ行こう。同じ場所から大和の所に行こう。腹をくくった時に電話が鳴った。また心臓が止まるかと思った。

「もしもし?ショウちゃん?」

ハルからだ。なぜ?もう夜中だよ?

でも安心した。怖い気持ちが吹っ飛んだ。荷が降りたのかな。声が聞こえただけでなにか救われた気がした。

「おーい、ショウちゃーん?聞こえてるー?」

「…」

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