第3話

水槽のライトがしっとりと2人の頬を濡らした。

他にもベタは何種類かいたが、青色のそれが一際僕には美しく見えた。値段もほかよりも少し高かった。


「あの、そっちは学校どう?」


覚悟はもうし終わったので焦ることはなかったが、やはりドキリとはした。




「結構楽しいよ、遠いけど」



「どんくらいかかるの?」



「電車使って片道1時間半。マジで乗り遅れたら死ぬやつ。」



「全然来ないもんね、大変じゃない?」



「大変だけど、環境いいし、友達も沢山いるから。」



「楽しそうじゃん。」



「楽しいよ。」



とても不思議な感覚だった。

壊れた自転車を一生懸命漕ぐような、から回ったような感覚だった。

それでも僕の尊厳は一応形に残っていた。


浅山の顔を見るのがとても怖い。


バレるはずがないとわかっていても、心の内を見透かされている気がした。




「よかった」


いつも違う声色に顔を上げた

嬉しそうだった。

チラと見た彼の顔は心底嬉しそうだった。

クシャッと目元が笑っていた。



とんでもないことをした。

どんな嘘をついてもこの罪悪感は消えないと思った。


悪意、のあ、もないような人懐っこい顔が僕を見ていた。


悪意を持っていた方が嬉しかった。

浅山のそれを糾弾して、めちゃくちゃにしたいような、訳の分からない気持ちだった。

良い奴だから苦しかった。悪いのは僕だ。


相変わらず響くモーター音がうるさかった。

金魚屋の中は客がおらずひっそりとしている。



窒息しそうな空気を変えるためにアニメの話題を振った。

いつも通り、いつも通り。

肺胞の中に鉛が詰まったように息苦しい事以外はいつも通りだった。

苦しかったが、こうするよりなかった。


友達と言える友達は浅山以外にはいなかった。

金魚屋の中は、僕のやるせない感情以外、中学時代に戻ったようだった。

いくつかの話題をやり過ごした。



「今度釣りいかない?」


釣りの誘いだった。

これまで何度も朝早くに集合して朝釣りに出かけることがあった。

よく釣りをする港はここからほど近く、早朝といえど先客がちらほらいた。


「いいよ、行こう。」


二つ返事で答えた。

何も無い今、行かない理由を探すのが難しかった。

次の約束も決まったことで浅山の家でのお喋りも自然と終わり、僕は帰路を辿った。

この日はここ最近で一番疲れた。




























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僕ら水槽の中で 古屋 裕貴 @furuya3

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