ぎん の だんがん

ウグイス

ぎん の だんがん

ひどく寒い日でした。雪も降っていて、おひさまもぜんぜん見えない日でした。

この寒さの中、一人のあわれな少女が道を歩いておりました。頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。家を出るときには靴を履いていました。確かに履いていたのです。

でも、靴は何の役にも立ちませんでした。それはとても大きな靴で、これまで少女のお母さんが履いていたものでした。真っ赤でとてもキレイな靴でお母さんのお気に入りでした。

かわいそうに、道を大急ぎで渡ったとき、少女はその靴をなくしてしまいました。二台の車が猛スピードで走ってきたからです。


片方の靴はどこにも見つかりませんでした。もう片方は浮浪児が見つけ、走ってそれを持っていきました。とってもキレイだったのでお金になると思ったのでしょう。

それで少女はちいさな裸の足で歩いていきました。両足は寒さのためとても赤く、また青くなっておりました。

少女は街のかどで声をかけます。

「ぎん の だんがん は ぎん の だんがん は いりませんか」

「おおかみおとこ や きゅうけつき だけ じゃない」

「なんでも たちまち かいけつ して しまう ぎん の だんがん です」

この銀の弾丸はおばあちゃんの宝物でした。

それは、今日と同じくらい寒い日でした。お家の暖炉の火が消えてしまったのです。薪ももうありませんでした。

段々と冷えてきてこのまま凍えてしまうのかと思ったとき、おばあちゃんが銀の弾丸を持ってきました。

そのとき、わたしに教えてくれたのです。

「この銀の弾丸は魔法の弾丸。これを撃つとなんでもたちまち解決してしまうのよ」

おばあちゃんはそう言うと、銀の弾丸を暖炉に撃ちこみました。

すると、どうでしょう。暖炉から暖かい火があがったのです。その火は朝まで消えることはありませんでした。

それからしばらく経ったある日のことです。

「これで全部だから大切に使うんだよ」

おばあちゃんがその銀の弾丸を6つくれました。その日からおばあちゃんに会うことはありませんでした。


少女はおばあちゃんのことを思い出しながら、街を行く人に声をかけます。

ですが、少女の声に耳を傾ける人は誰もいませんでした。それでも、少女はめげずに声をかけ続けます。

本当は自分が撃てれば良いのですが、少女も少女のお父さんも銃を持っていませんでした。

食べるものがなかったある日、お父さんは銀の弾丸を売ってこいと言いました。

でも、銀の弾丸はおばあちゃんからもらった宝物です。本当は売りたくなんてなかったけれど、でもお父さんは怖いので、仕方なく売りに街へ出ました。

その日は結局売れなくて、そのまま家に帰ったらお父さんにいっぱい怒られました。痛いこともされました。

それをなんていうのか少女にはわかりませんでしたが、とっても痛くてベトベトして、それがとっても嫌でした。

少女は街を行く人に声をかけます。やっぱり、足を止める人は誰もいませんでした。


もうすぐ日が沈みます。少女はお家に帰るのが嫌だったので、ふらふらと街を歩きます。

川沿いを歩いていくと、小さな湖がありました。裏手は森になっていて、とてもキレイで静かな場所でした。

少女はお家に帰るのが嫌でそこでじっとうずくまっていました。でも、寒くてそうしているのも嫌になってしまいました。

なので少女は立ち上がって、銀の弾丸を夕日に向かって投げました。別に理由はありませんでした。ただ、嫌なことが多すぎたのです。

しばらくしてから、投げた先の森のほうで、ばん!と大きな音がしました。さっき投げた銀の弾丸かもしれません。

少女は自分のせいで森の動物さんが傷ついていないか心配で森の中へ入っていってしまいました。


森の中は暗くて、怖くて、不気味でした。少女は深くまで入ってしまって森の中で迷ってしまいました。

少女は怖くて泣きながら歩いていると、ようやく明かりを見つけてそっちの方へ歩いていきました。

森を抜けると、そこはオレンジにキラキラかがやく海でした。ふゆなのに暖かくて、お母さんを思い出しました。

少女は海の中へ入っていきます。海の中は暖かい風が吹いていました。

少女は海の中を進みます。くんくん、くんくん、どこからかいい匂いがしてきます。

少女はこの匂いを知っています。おにくが焼けるにおいです。聞けばどこかでパチパチと音が鳴っています。

きっとこれはお祭りです。にぎやかでたのしいお祭りです。でも、なぜか悲しくて、ずっと泣いているのに涙は乾いたままでした。

悲しくて下を向いたら、真っ黒いなにかが落ちていました。それがなにかはわかりませんでしたが、そのとなりに真っ赤な靴がありました。

それは少女が無くした靴でした。少女は靴を拾って、もう無くさないように大事に抱えて歩きました。

少女が歩いていると、何かを蹴っ飛ばしました。

蹴っ飛ばしたものを見るとそれは拳銃でした。拳銃です!本物です!少女はそれを拾って、銀の弾丸を込めました。

もうここにはいたくなかったので、別に場所に行きたいと思いながら、目をつむって引き金を引きました。


少女が目を開けると、そこは知らない街でした。

夜なのにキラキラしていてまるでゆうえんちみたいでした。

少女ははしゃいで走り出しました。銀の弾丸が使えたこと、街がキレイなこと、もう熱くないこと、それらがなんだか嬉しかったのです。

少女は高い建物の間を走ります。ぐるぐると回ります。少女にとっては見るもの全てが新鮮でした。

走っている途中、少女は大人をたくさん見かけました。帰るお家がないのでしょうか、それともとってもだらしがないのでしょうか。大人たちはみんな道の真ん中で眠っていました。

少女はもっといろんなものが見たくなって、また目をつむって引き金を引きました。

そうして少女は息も聞こえないほど静かな街を後にしました。


少女は砂の上に立っていました。ざざーん、ざざーんと波の音が聞こえます。

少女の目の前にはどこまでも広がる湖がありました。

いいえ、いいえ。これはきっと海です。だって絵本に描いてありました。

少女の目の前には一面の海が広がっていました。

でも、夜の海はちょっと怖いです。黒くて、深くて、吸い込まれてしまいそうです。

海を見るのが怖かったので、少女は砂浜を見ることにしました。少女は足元の貝殻を拾い上げます。

それはキラキラしてとてもキレイでした。お月さまにかざすと虹色に光りました。

夜の虹はそれはたいそうキレイでした。

少女は貝殻をかざしたまま、お月さまをみつめました。お星さまの海の中に、まんまるなお月さまが浮かんでいます。

少女と同じで、ひとりぼっちで浮かんでいます。

少女はさびしくなって、もう一度目をつむって引き金を引きました。


引き金を引きました。


どこにも誰もいませんでした。


少女は、さびしくて、こわくて、かなしくて泣き出してしまいました。

それでようやく思い出しました。少女はお母さんにもう一度抱っこして欲しかったのです。

だから、最後の一発を空に向かって撃ちました。


そこは暗い場所でした。

そこは冷たい場所でした。

そこは確かにお母さんの腕の中でした。

だって銀の弾丸は魔法の弾丸なのですから。

少女はそこで眠ることにしました。ここならきっといい夢が見られます。

今日はいっぱい遊んで疲れました。足がとっても痛いです。もう声も出ないくらい疲れています。

少女はもう、満足です。

少女は心の中でおやすみなさいと言って眠りました。




ああ、さいごにひとつだけ。

銀の弾丸を投げなければよかったと思いました。

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