九月馬鹿
——ジトジトジト目。
——あれ?
——なんだか、思った反応と違うなぁ……
——僕が想像していたのは、もっとこう、恥ずかしそうな表情でモジモジする感じだったんだけど……
——でもまあ、これはこれでアリだね!!むしろ、こっちの方がグッジョブだよ!! ——そんな事を思いながら、僕は目の前の女の子を改めて見つめる。
——背丈は僕の胸くらいまでしかなくて、その小さな体には少し大きめな制服に身を包んでいる。
——髪の色は透き通る様な白色で、瞳の色もそれに負けないくらいに綺麗な青色をしている。
——まるでお人形さんの様な見た目をしたその子は、今にも泣き出してしまいそうな雰囲気を漂わせていた。
——うん!!可愛いっ!!てかか、天使みたいで可愛すぎるよ!!
——この子は絶対に将来美人になるぞぉ!!こんな子が彼女になってくれたら、僕は幸せすぎて死んじゃうかもしれない。
「……で、何ですか?この怪文書」
現実に戻された。怪文書とは何だ!?怪文書とは!!
「だぁかぁらぁ……僕に養子が出来たんだよ!!」
「へぇ……で、この怪文書を私に見せた理由は?」
相変わらず冷たい後輩ちゃんである。せっかく人が喜んでるんだからさ、もうちょっと優しくしてくれてもバチは当たらないと思うよ?
まあ、そんな事を言ったところで素直に聞いてくれる娘じゃないけど。
「……もしかして新手のセクハラ、パワハラですか?」
え?これもダメなの? 最近の若者ってみんなこうなのかしら……
まあ僕も二十代後半だから、世間一般的には十分に若者に分類されるわけだけどね。
「信濃、それエグめのセクハラだよ。」
先輩が横槍を入れてきた。どうやら僕が書いた文章は一般的に見てかなりヤバイものだったらしい。ちなみに信濃というのは僕の苗字だ。別に長野も岐阜も出身ではない。
さて、何となく気まずい空気になってしまったし、頑張って場を和ませようかな。
「最近、忙しいですね……」
僕がポツリと呟くと、それに呼応するかの様に先輩が口を開く。
「しゃあない……この時期が一番忙しいんやから……」
僕達の仕事は所謂"何でも屋"というやつだ。
依頼があればペット探しだろうが何だろうがやるので、仕事自体はそれなりに多い方だと思う。
夏場になれば、長期休暇に入る学生やら旅行客が増えるせいで依頼の量が増えてくる。その分、金銭が動く機会も増えるという訳なのだけれど……
「……暑い。」
後輩ちゃんが恨めしげに窓の外を見ながら言う。強烈な陽射しが照りつけている外の様子を見て、僕も心の中で同意した。それが容赦無く、このオフィスにも降り注ぐのだ。正直言ってしんどい。
一応、空調設備はあるにはあるのだが、古い型なのであまり効かない上に修理業者を呼ぶ暇も無い。
早く帰りたい……
そんな思いを抱きながらキーボードを打つ手を早める。
カタカタと無機質な音が響く室内には、僕と後輩ちゃん、そして先輩の三人だけしか居なかった。
嗚呼……新しいエアコン欲しいなぁ……
巴瑞季 端孤みゃみゃ式 @tatibanayuuki
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